鏡田京香の親愛度イベント   作:五月車

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親愛度 第6話

 舞台の本番が迫り、舞台の練習が佳境になっていた時の事だった。

 

「ちょっと、時間いい?」

 

 稽古場に訪れた時、監督に声を掛けられた。

 

「はい、もちろんですけど。どうかしましたか?」

「いや、鏡田ちゃんの演技なんだけどね、なんか最近不調なんだよね。レッスンとか詰め込みすぎてるんじゃない?」

「すみません、少し積め込過ぎたかもしれません」

「全く、気を付けてよね。今回の舞台は、こっちも色々賭けてんだから」

 

 ああ、ついにこの時が来てしまったか。

 予定通りとはいっても、気が重いのは間違いない。

 

 

 

 

「うわー、凄い雨ですね。今日、稽古無くて良かったです」

 

 次の日稽古も休みということで、鏡田さんと話をすることにした。

 外は酷い土砂降りな上に、風まで吹いている。傘をさした程度では、濡れることは免れないだろう。

 

「それで、プロデューサーさん、話ってなんですか?」

「少し見てもらいたいものがあります」

「それは良いんですけど……、何を見るんです?」

 

 映像を付ける。

 それは、鏡田さんが舞台の稽古をしている映像だ。

 

「うわー、これ最初の頃の奴ですよね。発声とか無茶苦茶だなやっぱり、姿勢も悪いし、色々反省点ばっかりですね」

「そうかもしれませんね」

 

 監督に言って、演技の練習用にと撮らせてもらったものだ。

 

「反省の為に取ってたんですか? けど、今はもっと成長してますよ?」

「そうですか。でしたら、こっちの方を見てください」

 

 こちらの意図が読めなかったのか、キョトンとした様子だったが、自分が次の映像を流すとそちらの方に目を向けた。

 

「……え、なんで」

 

 その映像を見て、彼女はそんな声を漏らす。

 

「なんで、私こんなに下手になってるんですか?」

 

 その映像を見て、彼女は叫ぶように言った。

 

 今見せたのは、先日行った稽古での彼女の演技だった。

 

「これが鏡田さんの弱点です」

「……どういうことです?」

「あなたは正解ばかりを追いすぎるという事です」

「えっと、どういう意味です?」

「ではまずこれを聞いてもらいましょうか」

 

 中間試験でパフォーマンスを録画したものを鏡田さんに見せる。

 

「まずは、鏡田さんの映像です」

 

 鏡田さんが実際に中間試験で披露した歌の映像を流す。

 これより前にその映像を見ていたのか、それともこの映像を見たくないのか、冷めた目でそれを彼女は見る。

 どこか退屈そうで、時おり時計に目をやったり、彼女が踊っているところ以外の画面に目がいっているのが見て取れた。

 

 その間、お互いどちらも声を発することはない。ただ彼女の歌声と歌の伴奏、それと外の雨音が部屋の中に響き渡る。

 

「どう思いました?」

 

 映像が終わり、鏡田さんに感想を求める。

 

「……練習不足もあって、正直あんまりよくないと思います。それで?」

「では次です。他のアイドルの物を見ましょうか、これはアイドル科の一年生、倉本千奈さんのものです」

 

 映像が始まると彼女の表情が少し緩んだのが感じられた。

 映像の中のアイドルの歌に合わせて鏡田さんの体が自然に揺れる。

 先ほどの時とは違い、その目は踊っている倉本さんの元に向けられ、それは映像の最後倉本さんが一礼するまで外されることはなかった。

 

「どう思いました?」

「……可愛らしい子ですね」

 

 鏡田さんは言葉に詰まった。

 映像を見ていた時と今の反応だけで、彼女がどう思ったのかを推し量るには十分だった。

 

「なるほど、大体分かりました」

「それで、この映像を見ることに何の意味があったんですか?」

「もう一つ質問です。どちらのライブの方が良かったと思いますか?」

「それは……」

 

 再び言葉に詰まった。

 おそらく、彼女もも分かってはいるのだろう。ただ、それを口に出したくない気持ちもよくわかる。

 

「ええ、そういうことです。確かに技術的に見れば、倉本さんは鏡田さんの足元にも及ばないでしょう。ですが、彼女と……いえ、言葉を濁すのは辞めましょう。今の段階では鏡田さんよりも倉本さんの方が観客の心を引き付ける」

 

 だからこそ、今自分がやらないといけないのはその事実を鏡田さんに突き付ける事だ。

 

「……私に才能が無いって言いたいんですか? こんな歌もダンスも下手なアイドル相手に、見劣りするほどのアイドルだと、そう言いたいんですか」

 

 部屋の温度が一気に下がったのではないかと錯覚するほど冷たい目線が突き刺さる。

 

「そうは言ってません。ですが今の段階では、彼女に負けているのもまた事実です」

「だったら、何が言いたいわけ! レッスンも禁止して、訳の分かんない、舞台に出させて! こうして、こんな一年生の子にも負けるような歌しか出来ないあたしに対して!」

「ですから、先ほど言った通りです。あなたは正解を追いすぎている」

「それの何が駄目だって言うの!」

「もちろん、正解を求めるのは間違いではありません。正しい発声方法、正しい音程、正しいステップ。そういったものを学ぶことは表現力をあげる、あるいは自身の魅力をあげるのに一役を買うでしょう」

「だったら!」

「ですから、あなたは正解を求めすぎて、頭で考えすぎるんですよ。そのせいか歌もダンスも固くなる」

 

 彼女の言葉を遮るようにその意見を否定する。

 

「正しい発声方法、正しい音程、正しいステップ。そんなもの達を正しくすることを意識しすぎるがあまり、本来するべき観客へのアピール、あるいは自分の表現がおろそかになっているんです。おそらくあの過度な自主練もそのようになった一環でしょう、練習で上手くいったものだから練習通りやる事ばかり意識してしまう。それがあなたの弱点です」

「そんなこと……」

「ないとは言い切れないはずです。先程見た舞台稽古の映像でよくわかっているはずです、あなたは最初よりも明らかに演技が下手になっていた、それはあなたが最初の頃か監督からの演技指導、あるいは共演者から演技の知識を仕入れ、その知識に忠実に従おうとしているから、違いますか?」

 

 思い当たる節があったのか、鏡田さんは考え込むような仕草を見せた。

 良かった、ようやくこれで話のスタートラインに立てる。

 

 きっと、最初からこんなことを説明したところで先ほどの様子と同じように、こちらの言い分を聞こうとしない事は目に見えていた。

 だからこそ彼女が専門的な知識がないだろう分野であり、彼女の得意分野でもある演技という分野での失敗を踏まえることで、ようやくこちらのいう事に聞き耳を持ってもらえるわけだ。

 オーディションの際に、演技について勉強しないで欲しいと最初から告げていたのはこれが理由だ。

 

「なら、どうしろっていうんですか。今更覚えていたことを忘れることなんてできませんよ」

「はい、ですので、正解を作ってしまいましょう」

「ええええええ!」

 

 その時、今日一番の驚きの声が鏡田さんから放たれたのであった。

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