鏡田京香の親愛度イベント   作:五月車

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親愛度 第7話

「いやいやいやいや、正解を作るってなら今までのは何だったんですか。散々、正解はないだとか言ってたくせに、結局結論が正解を作ろうって、今までの話全部、あたしの才能の無さを羅列しただけじゃないですか」

 

 鏡田さんは、今まで見たこともないような形相を浮かべてこちらに食って掛かる

 

「失礼しました、少し言葉が足りませんでしたね。正確には鏡田さんだけの正解を作ろうということです」

「どういう意味ですか?」

「あなたの理想は、そういった正解に囚われずに自由に歌を披露する事ですが、それは難しい。むしろ正解に囚われないよう意識することに必死になって今まで出来ていた事すら出来なくなるでしょう。まともにアイドルとして活動できるようになるには数年は掛かると思います。それでも、その道を目指しますか?」

 

 自分で言っておきながら嫌な質問だなと思いつつも、答えの分かり切っている質問を鏡田さんに投げかける。

 

「……それは選べません。私には、時間がないから」

「ええ、ですので、こちらの選択を取ることにしたわけです」

 

 時間がない、それはアイドル全員に取って付いて回る問題だ。

 多くの場合において、アイドルというのは期限付きである。だからこそ、今の鏡田さんにとって時間はどんな宝石よりも価値がある。

 数年、まともにアイドルとして活動が出来ないと言われれば、そっちの選択を取る事なんてできやしない。ただでさえ、彼女は来年にはこの初星学園を卒業しないといけないというのにだ。

 

「それで、その正解っていうのは?」

「単純な話です、何時もの鏡田さんでいることを意識してください。あなたは演技、得意ですよね?」

「……はあ。やっぱり気づいてますよね、何時からです?」

 

 以前と同じ問いではあるが、今回は観念したように鏡田さんは白状した。

 人は大なり小なり、他人の前では演技をする。素の自分というのを見せれる相手というのは殆どいないだろう。

 ただ彼女はそれが、他の人よりも少しだけ過剰だった。

 

「始めからです。あなたと出会った時から、あなたの表情は自然じゃなかった」

 

 彼女の顔に張り付いている笑みは余りに自然すぎて、それが不自然に感じてしまう程のものだった。

 あんな表情、一朝一夕で作れるようなものではないし、努力して付けれるものでもない。

 それが日常であるかのように、常日頃仮面のように身に着けているものにしか浮かべることの出来ない微笑。一度、その事実に気づけば、顔の無いのっぺらぼうの方が幾分かましに思えてしまうような笑みを彼女は浮かべていた。

 

 それが自分が鏡田さんに感じた異常性だった。

 そんな表情を浮かべてまでレッスンを続け、アイドルになりたいという彼女の情熱に胸打たれ、自分は彼女をスカウトしたのだ。

 

「……やっぱりプロデューサーさんってすごいんですね、今まで誰もあたしのこと気づいてなかったのに」

 

 どこか遠い目をしながら、鏡田さんはそう呟いた。

 

「おや、知らなかったんですか? プロデューサーというのは人のまだ見ぬ才能を見抜くことが出来る程、観察眼に優れているんですよ」

 

 その姿が今にも消えてしまいそうに見えて、反射的に以前の鏡田さんの発言を使って冗談を口にする。

 その言葉に一瞬、何を言っているか分からないというっようにポカンとした表情を浮かべるが、すぐにどういう意味なのか思い出したのか、小さく声に出して笑う。

 

 それは自分が初めて見た、おそらく彼女の心からの笑みだった。

 

「そういえば、そうでしたね。それで私の正解を見つけるっていうのはどういう事なんです?」

 

 いつも通りの人当たりの良い笑みを浮かべて、鏡田さんは尋ねる。

 少しは、気が紛れてくれたらしい。

 

「そうですね。今のあなたは一つ一つの、行動において正しさを求めています。そのせいで表現が固くなり、結果としてつまらないパフォーマンスになっているわけです。ですので、アイドルとして舞台に立つことはただ鏡田京香を演じること、ただそれだけを意識してください。あなたはただ鏡田京香としてあろうとするだけでいい」

「それで変わるんですか?」

「ええ、変わります。あなたの最初の演技の稽古の時を思い出してください。何を考えていましたか?」

 

 鏡田さんは、少し考え込むような素振りを見せる。

 

「演じる人物ならどう行動するか、どんな風に話すかだけを考えていたと思います」

「それと同じです。あなたがアイドルであるときは鏡田京香を演じること。それを正解だとして、それ以外の物を不正解にしてしまいましょう」

「……プロデューサー信じていいんですよね? そうすれば本当にアイドルになれるんですよね」

 

 今にも泣き入りそうな、その言葉に自分はどう答えるべきか、悩んだ。

 プロデューサーとしてはここで、無責任な事は言うべきではないことぐらい理解している、理解しているつもりだった。

 

「はい、もちろんです」

 

 だというのに、次の瞬間にはそんな無責任な言葉を口にしてしまっていた。

 

「……分かりました、プロデューサーのこと信じます!」

 

 鏡田さんらしい笑みを浮かべながら、彼女はそう言った。

 

「では、次のレッスンの話なんですが……」

 

 その後レッスンの段階から注意してもらいたいこと、それと舞台で気を付けることなどの打ち合わせをしてから、その日は解散となった。

 

 その間中、雨は止まることを知らず、ザーザーと音を立てながら降り続けていた。

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