コボルト飯から始まる私の商売道 作:コボルトの餌
「桜庭 夢です! 今日からお世話になります! よろしくお願いします!」
入社にあたり、超太っ腹な社長から昨日譲り受けたケルちゃんを抱っこして、私は元気よく挨拶した。
商売人になりたかった私は、ペットフードの営業マンとしてペットフード会社に就職していた。いずれはお金を貯めて、総合販売会社を設立する予定だ。その為に、私は犬畜生にも媚を売るつもりだ。お祈りメールの嵐で凹んでいた所で、社長の犬を車から助けた事で雇ってもらえた私は、これを足がかりに頑張るつもりだった。何より、ペットフードというのは都合がいい。
「よろしくね、貴女には早速、私たちの仕事を知ってもらうわ!」
「はい!? はい!」
「それは! 弊社の幹部様を唸らせるペットフードを作る事よ! 貴女はチワワのケルちゃんを買っているし、四天王ヨークシャーテリアのリップちゃん様の第5班ね! 理子主任につきなさい」
「四天王!?」
「そう! 弊社を支配する美食キングルルちゃん様と四天王ちゃん様はね。美味しいものしか食べた事がないから、凄くグルメで、まずいものは絶対に食べてくれないの」
「弊社を支配する!?」
「そう、私達はお犬様、お猫様の下僕! おーけぃ?」
「わ、わかりました!」
「今日の仕事は見学してて! それで、プレミアムな売り方を考えていて!」
そして、ペットフードを真剣に作る様を見学する。
「リップちゃんの本日の体調、花丸! 若干ダイエットが必要なので、カロリーは控えめです!」
「栄養テスト、OKです!」
「カロリーOKです!」
「苦手な食べ物チェック、OKです!」
「近場の公園でのワンちゃんテスト、良好反応7/9。上々です!」
「いざ!」
そうして、お昼。1班から5班までがドックフードを提出する。
「クゥン」
リップちゃんは順に嗅いだ後、二班、五班のペットフードを丁寧にぶちまけてから背を向けた。
「ああ!」
「二日連続拒否!」
「うわああああああああ!!」
半狂乱になる先輩たち。
なるほど。これが私の職場!
「ふざけんなお前ら! それでも高級おやつ部門の精鋭か!! 明日、リップちゃんが食事をしなかったら減給だ!! 特に五班! 満場一致でOKなものもってこいやぁ! 2匹もダメ出ししてきたものをリップちゃん様にお出しするとか舐めとんのか!」
「わあああああああああああああ!!!」
大変な職場に入っちまった……。私はそれを実感した。
先輩達は職場に残って研究をするらしい。
「仕方ないんだよ。ペットは喋れないから……。その面では人間相手の料理よりも難易度は高いかな。どんな風に美味しいとか、何が美味しいとか、ペットは言えないからね。だからこそ、ペット達に素敵な食生活を与えられるよう、心を砕かなきゃなんだ。私の夢、それは犬にとってのニャールを生み出すこと……!」
主任の津田 理子先輩はそう言った。
なるほど。
私はビビッときた。
「先輩、私に任せて下さい! スペシャルゲストをお呼びできると思います! 先輩達は、とにかくいろんな種類のペットフードをお願いします!」
異世界でお店をオープンする。
私の前世がとても頑張って、商売の神様から頂いた、とてもすげー能力だ。翻訳もクリアという親切設計。前世の私は、商業の優れた平和な国への転生を願ったのだ。後、私の前世はとてもすげー商人だった。でも、記憶は受け継がなかった。心機一転、1から頑張りたいと言ったそうなのだ。
残念ながら、生まれ変わった私は賢くないしオタクだが、商売の神への信仰心と野望は持っていた。
私の野望は三つある。
一つは、前世の私への義理立てである。
立派な商人に私はなる! そうすれば、前世の私が用意したご褒美も貰えるらしい。今世でも頑張れば、来世にも繋げられるかもしれない。となれば、頑張るしかないよね。
一つは、歴史に名を残すこと。
私は、バカだバカだと言われて育って来たし実際バカだ。
そんな私だが、誰かに必要とされたい。傷跡を残したい。
最後の一つは、お金持ちになる事である。
お金持ちになれば、きっと幸せになれる。私はそう確信している。
神様から頂いた課題は、飢饉に苦しむ獣人村を、Win-Winの関係で発展させること。施しではいけない。搾取ではいけない。ともに富まなければならないという難しい条件だった。
だが、おあつらえ向きの状況。
社長の犬、ルルちゃん様を助けた事といい、私はチャンスの女神様の前髪を無事掴めたのだ。
「お店オープン!!」
私が唱えると、おままごとのお店を大きくしたようなセットが私の前に現れた。
前面だけのお店のセット。その窓の中に、ワン太君がいた。
『わん太くん!』
『ウルフだ、毒女……』
ふ、と、諦めたようにわんた君は笑った。
『このままじゃ、みんな飢え死にだ。毒でもいい。最後に、カレーとやらを食べたい』
「ななな、何これ!?」
「ザ・喋れる犬のわん太君です。彼に味見をして貰えばいいと思います!」
「は? 人にペットフード食べさせようっての?」
「カレーご馳走したら死にかけちゃったので、体質的には犬みたいなんですよね」
「犬にカレー!? 玉ねぎたっぷり入ってる以前にやばいってわかるでしょ! 耳だけタイプの獣人じゃなくて、コボルトみたいにほとんど犬だし、考えなくても犬に刺激物たっぷりなのは良くないかなって思うでしょ、馬鹿!!」
「小説では獣人も食べてたんですよ!」
「せめてテストくらいはしなさいよ! っていうか、ガリガリじゃない」
「彼の村、飢饉だそうで」
「食糧支援しろってこと? ちょっと許可なしには……」
「いえ。これ、神様の起こした奇跡なので、厳密なルールがあるんです。一方的な支援は出来ません。対価が必要なんです」
「対価?」
「感想と毒味が一口分の対価と釣り合ってました」
「なるほど……。見た感じ犬種的には小型犬っぽいわね。メンバーを呼んで説明と準備をさせるわ! 一時間だけ時間を頂戴! その間にそちらもメンバーを集めてもらって。村人全部ね。後人数も知りたいわ」
理子先輩は直ぐに1班〜4班のメンバーも呼び出した。
村は72人だった。
理子先輩が音頭を取ることになり、通訳は私が引き受けた。
営業からも人が来て、動画を取る体制。
「一口ずつ、食べて感想を言って貰います。一口の対価が感想です。良いですね?」
「人族が、何故我らを助けようとする? 同情か?」
「いいえ? 私達は料理人なのですが、上司の舌が肥えすぎてて食事を食べてもらえなくて困っているの。明日、上司が食事を拒否したら大変な事になるのよ。だから、協力してほしいの」
「上司?」
私は宝物を掲げるように、リップちゃんを掲げた。
「はぁ!?」
「犬の味覚を持ち、人語を喋れるあなた達にしか頼れない! どうかお願い!」
「この、この、うおおおおおおおおおおおおお!!! 王侯貴族がぁぁぁぁ!!!」
「落ち着け、ガウル! じ、事情は分かった。お前ら、王侯貴族のペットの世話係か? ペットに料理人がついているのか? 人間の世界も大変なのだな……。分かった。協力してやろうではないか」
色々誤解はあったようだが、とにかく試食会は始まった。
一口ずつでも、試食品は大量にある。お腹いっぱい食べられるはずだ。
先輩達は、もちろん体調なども考慮し、感想を聞きながら一口ずつご馳走していった。動画なども撮らせてもらった所、搾取と判定されたので、慌てて大量のペットフードの試供品をプレゼントしたのだった。加減が難しいのである。
そして、翌日の夕方。
そこには、ガツガツとドックフードを食らうリップちゃん様が!!
「おお! リップちゃんがこんなに食いつくとは!! 1から五班で一つしか出してこなかった時はびっくりしたが、これを商品化しよう!」
「やったー!」
「やりましたね!」
「やってやりましたよ!」
1ヶ月後。
コボルトご飯シリーズの発売と共に、動画が公開された。