悪食クソ女の暴食日記 作:リィン教官対ゴミカス蛆虫宮沢鬼龍
戦闘音がやんだ。俺は恐怖を憎しみと怒りで誤魔化しながらクソ女とアストラの戦闘地点まで戻った。
そこにいたのは片腕を失い口から下を真っ赤に染め上げながら自身よりデカい肉、というかアストラををずるりずるりと飲み込むクソ女さんだった。その姿は正気の沙汰ではない。クソが、クソ女を殺しきれねえとは使えねえなアストラもよお。でも片腕を奪った事は評価してやっても良い。さて、今襲うか?強い強いとは言っても人間の強者は耐久力が高くない。今なら胸を貫けば殺せる可能性は存在する。こいつは喰えば喰うほど強くなるため放っておけば心臓を潰しても当然の如く復活するような化け物に成長するだろう。だからこいつを殺せるのは今だけだ。
ただ、盗賊の勘が告げている。今は無理だと。だから俺は夜まで待つことにした。
そうこう思っているうちにクソ女はアストラの巨体を胃袋に納め、狼の群れ及びに食事中に乱入してきた熊の群れを追加でその小さな体へ納めはじめた。
むしゃむしゃだのバクバクだのそんな生温い擬音が似合う勢いの食事では無かった。
まるで飲み物の様に自身より遥かに大きな質量を体内に次々に納めていく。
狼の背骨を引き抜いたかと思えばそれを飲むように胃袋に納め、肉を鷲掴みにし喉笛を食いちぎり、足をまとめて引きちぎって喉へ押し込んで、狼の腹を食い破り飲み込み、腸をすすり肝臓を一呑みにし、残りの臓器をガシッと口に運んだかと思えば頭からバリバリと別の狼を喰らう。んっんっんっと嚥下音をならしながら熊の上半身を消失させ足を豪快に食いちぎったつぎの瞬間には足は胃袋に収まりつぎの熊の頭に頭蓋骨も脳もかみ砕いて喰らいついている。俺は最初こいつの事をグールか何かだと思っていた。でも今となってはそんな訳は無いと思っている。大喰らいの代名詞たるグールやドラゴンでも自重の十倍も喰えば満腹になるのだ。こいつに並ぶ程の食欲を持つ魔物は見当たらない。……いや、一匹だけいた。龍王という、かつてこの世を食害によって壊滅させかけた魔物の王。そいつはこの世から消えたはずだが、クソ女の喰らったものの力を得る能力は龍王と同じだ。そのためこいつは龍王なのでは無いかと思った。賢明な皆様方はクソ女は人間型だ。ドラゴンは関係ないだろうと思っただろう。
しかし龍王は基本的に人間の姿をして活動していた。
龍王は人間を恐れていた。腐っても最強の社会的生物である人類を。怪物に何度も脅かされながらも世界の主権を渡さなかった王たる種族である人類を。しかし最強の社会的生物が敵なのであれば不和をばらまき社会性を機能停止させてしまえば良い。龍王は喰らったドッペルゲンガーの能力、【変身】で人間に化けての工作による人類の分断が得意技だった。扇動と洗脳によって世界を荒らし尽くすのが特に。また龍王、言い換えれば変身する人類の敵を討つため次々に魔女狩りが引き起こされた。その魔女狩り……というか龍狩りに乗じて龍王は大虐殺を何度も引き起こした。それ故奴についたあざなは人類の宿敵。そしてクソ女は龍王が化けているのでは無いだろうかと思……ボリボリ、クチャクチャ、んっんっんっごくん。……うるせえな。俺が考えている間もクソ女は暴食の限りを尽くしていた。大量の肉塊を胃に収める悍ましい作業は日が暮れるまで続いた。
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「あー! 幸せ! 美味しかったぁ」
アストラのみならず30近い熊と狼を平らげた後、クソ女は血塗れの地面に寝転がった。空腹の限界に達していた俺すら見てるだけでお腹がいっぱいになる程の食事をとって流石に満腹になっただろう。
そう思うと聞き慣れた轟音がした
ぐぅぅうぐっっゆうぎゅるるる……ぐぅ……
「……ちょっと足りなかったわね」
……化け物かよ
ぐぅぅうぐっっぎゅぐるるるぐううううううぐゆうぎゅるるる……ぐぅ……ぐぎゅるるる
「いや、全く足りなかったわ」
ええ……化け物って次元じゃねえぞ。
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「はぁ……もう1時間も何も食べれてない…ひもじい……」
あれからも1時間餌探しをしていたようだが結局見つからずクソ女は自分の親指を噛みながら寝転がり寝ようとしていた。
俺は、茂みから身を潜め、クソ女を観察し続ける。俺女の行動、そして何より彼女の思考回路を理解しようと試みる。これまで、クソ女には恐怖しか感じなかったが、その行動原理には、ある種の単純さと一貫性がある。
クソ女は、常に空腹だ。それは、単なる生理的な欲求を超えた、彼女を突き動かす原動力となっている。生きるために食べるんやない。食べる為に生きるんやと言わんばかりの生態。そのシンプルな命題が、彼女の全ての行動を支配している。
俺は、クソ女が人間を殺して食べることに何の躊躇もないことに、恐怖を感じながらも、ある種の理解を示している。それは、彼女が、倫理観や道徳観といった概念を全く持っていないからではないかと考えたからだ。
愛情、友情、嫉妬、性欲……そういった、人間関係を複雑にさせる感情は、クソ女には存在しない。彼女の世界には、ただ、食べること、そして、空腹を満たすことしかない。まるで、生まれたときから、その本能だけがプログラムされた、高度な捕食機械のようなのだ。
いや、人間らしい感情も一応無くは無い。でもあるのは加虐性とか性格の悪さと言った悪意のみだ。悪意は元々狩りの為に、食事を取るために発達したというのが起源だ。それ故捕食者であるクソ女に悪意があるのはおかしくないがそれにしたって性格が悪すぎる。仕留め損なえば間違いなく信じられない程残虐な拷問拷問拷問の末俺は喰い殺されるだろう。
俺は、クソ女が食事の後、深い眠りに落ちているであろう時間帯を見計らった。森の影に身を潜め、慎重に、そして極限まで気配を殺して、クソ女のいる場所へと近づいていく。 心臓が高鳴り、汗が冷たく背筋を伝う。少しでも音がすれば、あの狂いきった女に発見される。恐怖と、わずかな期待が、俺の胸の中でせめぎ合う。 クソ女は、巨大な木の根元に、倒れたまま眠っていた。彼女の服には、食べ散らかされた動物の血痕が散乱し、空には満月が照りつけている。 俺は、短剣を握り締める。これは、生きるか死ぬかの戦いだ。 俺の命運は、この闇討ちの成功にかかっている。成功すれば、自由と勝利を得られる。しかし、失敗すれば……俺は想像するのも恐ろしい目にあう。 俺は、息を殺し、静かに、そして確実に、クソ女へと忍び寄っていく。 闇夜に紛れて、俺の姿はほとんど見えない。まるで、幽霊のように。 しかし、クソ女の感覚は、並外れて鋭い。果たして、俺の企みは成功するのだろうか。 森の静寂の中に、緊張感が張り詰めていた。