悪食クソ女の暴食日記   作:リィン教官対ゴミカス蛆虫宮沢鬼龍

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クソ女と戦ってやる

その日。俺の魂が死んだ日。俺は村から少し離れた崖へ来ていた。

 

 すぐ近くに恐怖の森……要はクソ女がいた森が広がっているが、ここはクソ女から逃げた地点からから程遠い位置にある。俺が飼い殺しにされている時、クソ女は「早く料理屋でご飯が食べたいわ!そのためには街へ行く必要があるわね!」とか言っていたのでこちらとは逆方向に、街があると嘘をついておいた。そのためあの3日間でクソ女はこの村とは正反対の方へ向かって移動していたし、今もそちらを目指しているだろう。その先で何が起こるのかはおれは関知しないが。。さらに、この周辺の森には動物が少ないので、クソ女の生態から考えてもまず寄り付かないであろう場所だ。

 

 クソ女もこれを見れば「餌がないわ…お腹が空いたわ…」とか言って引き返すに決まっている。だから俺も安心してトラウマ克服も兼ねた薬草取りにこれた。

 

これは俺が仕事を始めたばかりで新鮮な経験をできているからだろうが、意外なことに作業は楽しかった。盗賊という、怠惰な愚図がなる職業に就いていたが、俺は勤勉なカタギの生活の方が性にあっていたのかも知れない。体から吹き出すのは恐怖で滲み出るドロドロの汗でなく、清涼という言葉が似合うサラサラの汗だ。

 あまりの楽しさに、仕事を終えた達成感についうっかり【隠密】を解除してしまった。

 

 そして薬草の確認をしている時に、奴は来た。

 

 大体災害は、くると思ってる時に、ガチガチに警戒している時は来ないくせに、気を抜いた一瞬の隙を突き襲いかかってくる。今回も例にもれずそのパターンだった。

 

「お腹が空いたわ……」恐怖の声が響き渡った。穏やかだった心に焼けたナイフが突っ込まれてずたずたに引き裂かれる様な恐怖が襲う。下半身の無くなった、元は1メートル近かったであろう大蜘蛛にかぶりつきながら、血塗れの、ガリガリに痩せこけたクソ女が出てきた。

 

「むぐ……ごくん、で非常食。あなたここに逃げてたのね。」

「ご…ご主人様…何でここに…」

 

むしゃむしゃと蜘蛛をかじりながら、クソ女は

 自らの着ている血塗れの男物の服の懐を漁った。

 

「じゃーん!これなんだと思う?」

 

 それには見覚えがあった。我らが【風の爪】が大暴れできた二つの要因の一つ。リーダーであるエリオットが持っていたマジックアイテム

 

「生体感知のマジックアイテム…」

「へえ、そんな変な名前してるのねこれ。私はごちそう時計って呼んでたわ。で、これを見ると、周りのお肉の位置が見える訳!で、こっちの方に人間サイズのお肉がいっぱい……というか多分村があるのが見えたから食べにきたの!」

 

 そういえばこいつ、初めて会った日、俺の仲間達を食い殺した日に、俺が魚を獲っている間ゴソゴソ俺の仲間の身ぐるみを漁っていたが、その時獲っていたのかよ!

 

「で、非常食。あなたも見つけられるとか運が良かったわ。とりあえず今からあなたをすっごーく苦しい痛めつけ方で嬲り殺して美味しくいただくつもりだけど、村人狩りに協力してくれたら比較的楽に殺してあげるわ。もちろん協力してくれるわよね。」

 

 ふざけるな。そう思うのと同時に心に炎が宿った。

 

 頭は極端に冷静になるが心臓は真っ赤に燃えたぎり全身に血を運ぶ。俗に言うトランス状態におれはなっていた。

 

勇気と言うものがあるのなら、それは今俺の心に生えてきたこれだ。

 

「おれは野盗だ。天に唾吐く真似ばっかしてきた。正直、自分以外の人間がどうなろうと知ったこっちゃない。それでもここの人達は大切なんだよ!大切なもの何だ。お前になんか奪わせねえよ化け物!絶対に、お前を殺す!」

 

「私みたいな普通の女の子へ化け物とか失礼じゃないかしら。うふ。」

 

 男には、人生において3度戦わないといけない時があると言う。俺にとって、それは今。

 

 【風の爪】が総勢四人で名を轟かせる盗賊団になった理由は二つ、一つは生体感知のマジックアイテム。もう一つの理由は俺の、暗殺能力だ。

 

 だから、俺は戦える。怯んでさえいなければ、クソ女相手だろうと!

 

「あ!」クソ女が俺の後方を指差した。これは俺もよくやる不意打ちの手だ。なのに、クソ女が本能で動く馬鹿では無く狡猾で悪意に満ち満ちた怪物であると言うことを知っていたのに、俺はクソ女がいきなり人間の様な動作をしたのに驚いて、振り向いてしまった。

 

 その瞬間クソ女が食べていた蜘蛛を投げつけてきた。自分の失敗に気づいたがもう遅い、躱した次の瞬間にはクソ女が目の前に来ていた。そして目に人差し指を突っ込まれる。

「ばぁん!」

 爆発するかのような激痛が走る。そしてデロリと俺の左目が眼窩から漏れ出した。毒が注入されたかのような反応に俺は悲鳴を上げた。

「いぎぎゃあああああああああ!」

 

「へえ【毒牙】って言っても爪からも毒出せるのね、驚きだわ。」

 そして俺の頭をキャッチしガバリと大きく口を開ける。

「いっただきまあああああああす!」

「させるか!」 

 護身用に持っていた【雷Ⅲの巻物(スクロール)】を強引に起動させてクソ女に叩き込んだ。

B級冒険者の魔術に匹敵する雷がクソ女の頭上から、クソ女の体を貫き、地上に降り注いだ。

 

「ぐがっ…何で雷が!?運が悪いわね」

 

 雷を警戒し上を見たクソ女。こいつは何故かこの世界の常識に詳しくない。魔物も知らない、魔術も知らない、スキルも知らない、マジックアイテムも知らない。

 

 だから、魔術の雷を自然現象の雷と勘違いし絶対に大きな隙を作るだろう。その目論見は当たった。

 

 そして距離が取れた、意識が逸れた、なら勝てる!【隠密】発動。

 

「ああ……また消えた。非常食、私、とってもお腹が空いてるの。……最後通牒よ、出てこい。肉。」

 

 誰が出るか、お前は、絶対、ここで殺す。

 

 【暗殺】の特攻×手に持ったこの短剣型マジックアイテム、急所攻撃時に特攻効果が発生する【暗殺者の短剣】。この組み合わせなら、心臓を貫けば殺せるだろう。

 ひたすら隠密に徹して殺す。

 

「それがお前の答えね……じゃあ良いわ」

 

そしてクソ女の口角が上がった。

 

「私はとってもお腹が空いています!ペコペコです!でもここにきて前よりもずっとお腹が空くようになったけど、村一つ食べ尽くせば、流石に腹の足しにはなるとは思います!では問題です。」

 

 クソ女が歪んだ笑みを浮かべながら村の方を見た。

 

「私は今から何をするでしょうか!」

 

 こいつ、村を人質にとった!

「村が大事なら…うふふ、言わなくても分かるわね。」

 クソ女の方が俺より足が速い以上、絶対にここで食い止め無ければならない。

 

「クソがああああああ!」

 

隠れていた岩から飛び出し心臓を貫こうとするがかわされる。姿を現した後も短剣を振り回すがクソ女は涼しい顔でそれを避ける。

 

「あなたの()()厄介ね。まるで魔法みたい。でもね、視線も殺気も漏れてるわ。もっとフェイントをかけてやらないとダメダメなのよ。」

 

 ぬらりとヘビのようにクソ女の腕が俺の手に絡みつき絡め取る。爪が頬に突き刺さる。その瞬間俺の足はがくんと曲がった。動きが鈍る…麻痺毒か!

 

「でも、まあ、約束するわ。大切な村と絶対にお腹の中で再会させて上げると。消化されてドロドロなのは勘弁ね。」

 

 その時村の方から爆音が鳴った。 

「あら?」

 クソ女の意識が逸れたその瞬間、俺の顔を掴むその手へ、短剣を叩き込んだ。

 一瞬の隙、その隙をついて意識から外れたその一発に、【暗殺】が乗った。

()っ」

 僅かに顔をしかめたクソ女へ追撃を仕掛けた。狙いは心臓。【暗殺者の短剣】なら、まだこの段階なら殺せるはず。できなきゃ殺される。

クソ女が地面に寝転がった。いや、体勢を極端に低くした。これ熊相手にやっていた蹴りの体勢だ!

 

「肉の分際で調子に乗りすぎだわ。はい、ぼっかーん」

 

 蹴りが顔面へぶち込まれ脳が揺れる。世界が回る。10メートル以上吹っ飛ぶ

 

ああ、死んだ。俺はそう思った。母さん、父さん。村のみんな、ごめん。俺には無理だった。化け物を殺せなかった。今から化け物によってあなたたちが虐殺されるのは俺のせいだ。ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 回る世界にもぐもぐぶちぃ、くちゃくちゃぶちぃごくんという音が響いた。こいつ、戦闘中に食事してやがる……

 [ヒュージスパイダー完食!【蜘蛛糸】習得]

「ああ……なる程、そういう使い方…えい」

 クソ女の指先から蜘蛛糸が射出された。

 おれは蜘蛛糸でぐるぐる巻にされた。

「これで逃げられないわね」

 

 元から限界だ、蜘蛛糸でそう大きく変わんねえよ。

 

 そう思っているまた爆音が鳴った。というか違う?この匂いは村が焼けている匂いだ!

必死で顔を動かして見ると村はずれに、異様な光景が広がっていた。焼け焦げた家々。そして、空には、不気味な黒煙が立ち込めている。 何かが、この村を襲ったのだ。

 

「村焼き?なんで?いやどうでもいいわね。問題はそれやるとお肉が結構な確率で散り散りになって逃げちゃうのよね……せっかくのお肉達に逃げられる前に仕留めないと…。あなたを食べるのは後回しにして先に村行くわ。命拾いしたわね、非常食。それもそう長くは続かないだろうけど。」

「お…俺の村へ……手を出すな…」

「おっと、前みたいに逃げられると厄介ね……ねえあなた、結局前は足の腱切られてるのにどうやって逃げたのかしら」

「村に……手を出したら殺…」

「ど」殴られる「う」殴られる「逃」殴られる「げ」殴られる「た」殴られる「か」殴られる「聞」殴られる「い」殴られる「て」殴られる「ん」殴られる「の」殴られる。

意識がほぼ飛んでしまう。

 

「はあ…新鮮なのは良いけど生意気すぎるわこの肉。本当は逃げられないようさっさと殺すべきなんでしょうけど、 美味しいお肉なら、食べる直前まで生かしておいて、新鮮なまま美味しくいただくべきよね。そう思わない?非常食さん。」

「……」

「だからね、今回はこうする事にしたの!」

 足を根元からねじ切られた。

「いっだあああああああああああ!」

「いっただっきまああああああす!旨っ旨っ!んっんっんっんっんっ!ぎゅむぎゅむごっくん!むしゃあ!ばくうっ!ごっくん!う、うまぁ!むしゃり!ごくん!」

 [ジロー(右足)完食!隠密↑]

「じゃあね。村の様子を見に行って、それから……ウフフ」

ペロリと舌舐めずりをしてクソ女は出ていった。

 

 お……俺も村に戻らないと、村を、守らないと。隠し持っていた最後のハイポーションを俺は飲んだ

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