悪食クソ女の暴食日記   作:リィン教官対ゴミカス蛆虫宮沢鬼龍

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トカゲを殺すわ

 結論だけ言えば、目の前のトカゲ人間はアストラよりも、遥かに強かった。

 

 

「肉! にく! ニク!」

「さっきの様子から人間だと思いましたが、あなた本当に人間ですか? 餓死寸前のグールでもそこまで意地汚くはなりませんよ」

「どっからどう見ても人間でしょう。私、そんな、人外に見えるかしら」

 

 不思議だわ。なんでいつもいつもどこいっても人間扱いされないのかしら。どっからどう見ても人間だっての。

 

 まあどうでもいいわ。今大事なのは目の前の美味しそうなお肉にかぶりつくことだけだわ。

 

 そして戦闘が始まった

 

 

 

「ほう……これはこれは、なかなかいい筋をしていらっしゃる。賞賛に値します」

「賞賛なんかじゃお腹は膨れないしいらないわ」

 

 私の蹴りが尻尾で迎撃される。私の突きが受け流される。私の牙がかわされ、私の放出した蜘蛛糸は空を舞い、私の振るう毒爪は鱗に弾かれる。

 

 それとは対照的トカゲの蹴りは私の鼻をへし折る。トカゲの突きは私をボロ切れのように吹き飛ばし、トカゲの牙はせっかく治った私の肩に突き刺さり、トカゲの放出した炎は私の右腕を焼肉に変え、トカゲの尻尾は私の顎をへし折った。

 

 

 顎がへし折れた私にトカゲは追撃を仕掛けてくるがなんとか回避し距離を取る。

 

 

 

「あー……べッ」

 

 目線は離さないようにしつつ喉に手を突っ込んで喉の奥に溜まった血を吐き出す。

 

 するといつの間にか非常食もどきがトカゲの後ろに回り込んでいた。

 

「死ねええええ!」

 

 空気をビリビリと震わせる程の気合を込めて非常食2号の剣が振るわれるが、トカゲはそれを一睨すると右手で受け止め、面倒くさそうな声でこういった

 

「せっかく良いところなのに邪魔しないで下さいよ。あなたの出番はもう終わったのです」

 

 そういいながらトカゲは、私の目でも捉えきれない速度の尻尾の一撃と共に非常食もどきを戦闘不能に追い込んだ。

 

「ううあぁっ!」

 

 非常食2号倒れ込む。ううっと呻くその姿はとっても美味し……痛々しい。

 

「やれやれ、彼の様に、罪のない人間を逆恨みで痛めつけるのは私としても心が痛む。あ、これ本音ですよ。私、自然を痛めつけ、見下す人間共をぶん殴らないと怒りで精神がどうにかなりそうになるのですが、それはそれとして私の人間への憎悪は逆恨みだとも分かっているので、それなりに心が痛むんですよ。

 その点貴女は素晴らしい! その濁った目を見るだけで分かるゴミみたいな人格! 他者を自身の欲望の為に踏みつけにしようと殺そうと全くもって気にしないであろうその精神性! 食欲と飢餓と悪意以外そのちっぽけな脳には詰まっていないと分かる狂気! 

 100%、自然の敵だ。そして人間の、魔族の、世界の敵だ! 一切心を痛めること無く殴れる、本物の屑だ! ありがとう。私に気持ちよく殴り殺される為に産まれてきてくれて」

 

 べらべらクソみたいな長文で喋りながらも隙を一切見せ無いその姿は確かな圧倒的な武威を感じさせる

 

 それにしても酷い言い草じゃない? 女神みたいに優しく、常識人である私を性根の腐った怪物扱いとか脳みそ腐ってるんじゃないかしら。あーあやっぱ所詮畜生ね。馬鹿だわ。

 

「食料不足と飢餓と貧困に喘ぎながらも健気に生きていた優しい優しい私をゴミとかクズとか意味わかんないわ。この目を見てみなさいよほら、とっても純粋で善良な目でしょ。心が洗われてきたでしょ! 間違っている事を言ったって罪悪感が湧いてきたでしょ!! あなたのやった事は本来なら絶対に許されない事だわ。でもたったひとつ、そう、たったひとつだけその罪を清める方法があるの。それは化け物のレッテルを貼られてしまった私に誠心誠意謝罪し誠意を見せることだわ。でも誠意と言っても言葉じゃ駄目よ。言葉では何とでも言えるわ。大事なのは誠意。文字通り身を切る思いをして、自分が奪ってしまった相手の幸せを、別の形で相手に対して返すの。それが誠意だわ。具体的に言うとお金かご飯が相手に返して喜ばれるものだけど私の場合は直接ご飯を貰えるほうが嬉しいわね。でもまあそもそも畜生如きがお金を持ってるわけ無いから食べ物一択だわ。私があなたの、心無い発言でおった傷を考えるとお山みたいなサイズのケーキが賠償として妥当だけど、聖女の様な私はとっても優しいから、あなたを食べるだけでゆるして上げるわ。あなたの全身を美味しく頂くことでその罪を清めてあげるわ。じゅるるるっ!」

 

「テメエほんっとイカれてんなクソ人間がよぉ!」

 

 怒号と共にトカゲが地を蹴り、消えた。次の瞬間空が落ちてくる。目にも留まらぬ速度で接近してきたトカゲによって、アッパーカットの軌道で殴られたと気付いたのは三回転して地面に叩きつけられた後だった。かろうじて受け身を取ったけど全身が笑っちゃうほど痛いわね。骨も二三本イカれたかしら。

 

「そんなに喰いたいなら喰わせてやるよお! 痺れる拳をたらふくなあ!」

 

 立ち上がった所を殴られる。殴り返すが拳は空を切る。殴られる。殴り返すが拳は空を切る。殴られる。殴り返すが拳は空を切る。

 

 

 速度自体はそう変わらないのに一方的にしばかれるわね、経験値による予測かしら。ていうかこいつ……遊んでいるわね。本気を出せばいつでも私を殺せる力があるのは経験上何となく分かる。でも速度も膂力も私と同程度まで落として、圧倒的な戦闘技術だけで私を弄んでいる。クソがっ。腹がたつわね。

 

 しかし本格的にやばいわね。今の私とこいつの間には大人と子供レベルの戦力差がある。やれやれ、日本にいた時の武装警察を思い出すわ。初めて交戦した時のあいつらと私の戦力差も凄まじかったけれど流石にここまでじゃなかった。格上相手には一旦逃げてそっから喰って喰って喰いまくる事でそいつより強くなってそいつも喰ってまた強くなると言う私の基本戦法でアイツラの大半はどうにかなったけど、残念ながらこいつ相手に逃げたら死ぬと勘がいってるのよね。まあ、勝ち筋もあるし絶対に勝てないという訳でも無いんだろうけど、それでも勝利は絶望的。あまりの絶望に口からは涙が。お腹からは悲鳴が止まらない。やばいわね。特に空腹が。こいつを殺すまで耐えられるかしら……

 

 しかも武器も無い。ここにきて会った餌は大して強く無かったから素手でも物言わぬお肉に変えてやれたけど、ここまで強い餌を相手するのなら短剣か棍棒が欲しいわね。ああ! もう! アストラの牙なり持っておけば多少はマシだったのに食べちゃったのは失敗だったわ。

 

「その上これ……ほんとに厄介ね」

 

 一番面倒なのは鱗。口に運んだらポリポリとした歯ごたえがして美味しそうなそれは、爪も毒も通さない鎧として機能している。

 

 硬いがジューシーで噛めば噛むほど旨味が出てきそうな筋肉による異常な膂力も厄介。

 

 歯ごたえがありそうでボキボキ音を立てながら噛み砕ければ楽しそうな骨も体幹の補強に一役買ってる。

 

 いつの間にかぼたぼたと垂れていた涎を舌舐めずりでなんとかお掃除する。

 

 

 躍動する美味そうなトカゲの肉体に気を取られた隙にまたもやかなり良い攻撃が入ってしまった

 

「ガハッ!」

「はぁ……失礼。取り乱しました。ちょっとしたことでチンピラの地金が出るのはわたしの悪い所だ。クールに冷静に、紳士の薄皮を纏うことすら満足にできない私自身にも腹が立つ」

 

 

 やばいわ。こいつ、相当強い。

 

 このタイプのESP持ちやらミュータントといった変わり種の肉共は日本でよく見たわね。もっともそういう連中は味が濃くてなかなかに美味しかったから嫌いじゃ無かったけど、こいつはそれ以上に、強くて、味が美味しくて、濃厚そうだわ。

 

「貴女のちんけな突きや蹴りではこのアダマンタイト級の硬度の鱗には傷一つつけられない……ただ、貴方をこのまま縊り殺して、簡単に楽にさせてはつまらない。圧倒的な実力差を見せつけ嬲り殺しにして差し上げます」

 

 蹴りがお腹に突き刺さる。空きっ腹に衝撃が響いて、お腹が空きすぎて狂いそう。

「ガ……」

「ああ! 正しい事をしてストレスを発散できるのが! これほどまで快感だとは! 今私は正義だ! 世界の敵を嬲ることができているのだから!」

 思いっきり鳩尾に入った蹴りが私の呼吸を止める。

 

「問題は私は良心が痛んでも怒りの発散をそれ以上に優先することです。そうそうあの村を焼いた時もそうでした。ここの北東にあった村です。確かフォアグラが名産でしてね。フォアグラは鴨さんを病的に太らせて作るんで自然保護団体から結構叩かれて居るんですよね。私も頭では怒る事は筋違いだと思っても心ではそんな尊厳を奪うような事鴨さんにするのは許せないと考えてしまうんですよ。それ故に、私はあの村を滅ぼしました。魔王様にそこら辺の村を適当に滅ぼせと言われていたのもありますがクソみたいな私情による私刑のつもりでやっている部分が大きかったですね。ああもちろん鴨さんも馬さんも私はちゃんと魔族領に連れて帰りましたよ。助けた人間と魔族以外の生物さん達をそこら辺にほっぽりだすわけにも行かないのでしっかり責任をとって死ぬまでお世話させていただきます。ちなみに私がここを襲ったのもここの名産である馬の風穴焼きとか言うのをいつものクソみたいな思考で残酷だと決めつけたからです。……いやでも、私の思考がおかしいのを考慮しても風穴焼きって意味が分からないんですけど。話がそれましたがあの焼いた村のお馬さん達や豚さん達はしっかりとお世話されてました。こんな自然に敬意を払える人達であってもクソみたいな癇癪で殺してしまう辺り私もだいぶ救えませんね」

 

 トカゲが焼いた村の情報をベラベラと喋る。それを効くうちに私の頭の中でパズルのピースが埋まっていった。

 夢にまで見た店での食事、たっぷりの村人()そのどちらも焼き払われ、奪われ、ネズミしか喰えなかったあの廃村。それを作った犯人がこいつなのは今聞いた情報で確信した。

 

 頭が燃え盛るような怒りがこみ上げてくる。

 

「お前様はぁぁぁあ私のぉぉおご飯様に何やっちゃってくれやがってんですかあぁぁぁぁああああああ」

 

 私には絶対に許せない事がある。そのうちの一つが、私のご飯を奪う事。

 

 あの空飛ぶ巨大トカゲも近い内に絶対に丸焼きにして喰ってやると誓っている。それと同様に、こいつも絶対に殺して、美味しくいただいてやる。

 

 

 

 




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