悪食クソ女の暴食日記   作:リィン教官対ゴミカス蛆虫宮沢鬼龍

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バルバトスを食ったわ

 クソ女に足を喰われてから、俺はハイポーションをがぶ飲みしたがそれでも足は治らなかった。

 

 なので適当な太い枝を自身の足に突き刺し、ハイポーションで足を治癒させつつ強引に枝と肉を接合させ、即席義足を作った。

 

 村の思い出を思い出す。

 

 グレてた時に迷惑をかけてたのにも関わらず、俺を温かく迎えてくれたこの村を守りたい。俺の幼少期は幸せだった。それは父さん母さん、そしてこの、温かい村のおかげ。しかし思春期特有の病気で温かく刺激のない村に飽き飽きして、村のみんなに不快な思いをさせてしまった。謝るだけでなくちゃんと行動で示して奪ってしまった幸せを返したい。そして今がその時だ。簡易義足から狂いそうな激痛が走るがそんな事言ってられない。村人から犠牲者が出た後に死んでお詫びだの虫の良いことは言ってられねえ。走れ! 走れジロー! 

 ■■■

 

 村の入り口で見たのは【光膜結界】。

 

 入ることは可能だが出ることは許さない光の膜をドーム状の形で張る上位魔術! クソ女は魔術についての知識がない以上、張ったのはもう1体の襲撃者! 入れば最後その襲撃者を殺すまで出られない。が、構わない。突入する。

 

自分以外の生物を全て餌と思い込んでいるクソ女と襲撃者は確実に交戦するだろう。できれば共倒れになっていてくれと俺は祈りながら、クソ女と襲撃者を探した。そいつらはすぐに見つかった。

 

クソ女が、あの暴食暴力悪意の権化たるクソ女が、戦闘力だけは一丁前のクソ女が、ボロ雑巾の様に蹂躙されている。四肢はもがれ、片目は潰され、マウントポジションを取られ殴られている。その状況でも目には毒々しい食欲を浮かべているクソ女も流石だが、今の脅威はクソ女に馬乗りになって殴っているコイツだ。

 

 いや、こいつの素性は分かっている。人類種の生活圏を脅かす魔王、その直下の7人の魔人

「【七大魔将、憤怒のバルバトス】……」

 

 こいつの特徴を表すのならやはり【龍人種(ドラゴニド)】であることだろう。亜人種としては最強種に位置するこの種族は、他者への共感性が強いので温厚ではあるが怒らせたら手のつけられない種族として有名だ。

 

 奴らの亜人種最強である点は無数にあるが、まずは核熱吐息(ブラストロア)が挙げられる。

 

 ごく一部の例外を除き、万物を焼き滅し治癒不可な傷を負わせる、【龍種】の切り札。いや違うな、切札はもう一つの龍人種固有スキル。もう一つあるそれは【龍化】あらゆる能力を紛い物ではない、本物の龍のものに近づける切札。最低でもあらゆる能力を10倍にするというめちゃくちゃな強化系特殊技術(スキル)だ。

 

 一応は弱点として【逆鱗】なる、砕かれたら死ぬ逆向きの鱗が、要は急所が喉にあるが、あまりの硬度故に破壊はほぼ不可能だ。

 

 そして【憤怒の魔将】のそれ以上にやばい点は、その精神構造。簡単に言うと、変な所で合理的なのが一番やばい。バルバトスは龍人種としては落ちこぼれの部類であったが、龍人の里では、特に差別されることもなく、愛情を注がれ育っていたそうだ。この頃のバルバトスは、言動こそ粗暴ながらも、蚊やゴキブリを潰すことすら嫌がるような、あらゆる生き物の命を慈しむ子供だったようだ。そして今とは違い龍人種や人間といった人類種に大しても愛を注いでいた。龍人種の里で拾われた、人間の【アーサー】という子供と親友であり、人間の事も、愛していた。

 

 親友の紳士さに憧れこうなりたいと粗暴な口調はなりを潜め、親友の口調を真似するようになった。そして人を強く愛するようになった。

 

 成人したバルバトスは自然を守るため、そして愛する人間種にもう少し自然への敬意を払ってほしいと思い自然保護官になったようだ。それも人間の世界の。しかしそれが良くなかった。自然保護活動の中で密猟者の蛆虫どもの蛆虫行為を見てどんどん人間に絶望していった。

 

 これだけならよくある話だが、こいつは人間の事も、深く愛していた上に、自然を破壊する人間も、自然の一部だと捉えていたのが最悪だった。

 

 人間の事も愛している上、自然をめちゃくちゃにするのも極一部である事も密猟者にも家族や子供がいるのも知っている。しかしそれでゴミの様に殺され敬意もなく、喰われもせずに放置される生き物を見て怒らずにいられない。

 

 自然保護と人間への愛への板挟みになったこいつは壊れかけていたが、それだけなら、まだ苦しみながら一生を終えるだけで済んでただろう。問題はコイツがメンタルをやってる時に最悪の部類の巨大密猟団兼宗教団体【682】と対峙してしまった事にある。

 

 簡単に【682】の教義をいえば、『神が作ったのは人間のみでその他の生物は人間の糧にするために神が与え給うたもの、それ故にその命に敬意を払う必要などない』だ。魔物どころか亜人種も自然を面白半分で殺すのが日課になっているような、自然を傷つける事も命を奪うこともその亡骸を辱めることも神の眷属たる人間には当然の権利だと思っている連中の上、特に人間に敬意を払うことも無く、気に入らない人間に対しては魔物の疑惑をかけ迫害するような連中だった。

 

 そいつらに大しても、殺さず傷つけず、バルバトスは向き合って説得していたようだが案の定無駄であった。それどころか龍人種と言うだけで、【龍王】の転生体なのではないかと言う噂を流されたようだ。

 

 それでもバルバトスは親友に相談するなどしつつ懸命に自然保護をしていたようだがある日嫌がらせで買っていたペット32匹を【682】の構成員にここではとてもいえないような、俺でさえドン引きするような方法で惨殺された。

 

 その構成員をそれ以上に残虐な方法で怒りに任せ始末した時バルバトスは気づいてしまった。自分が今までやっていたように、倫理と愛情と正当性によって人間を害さないことより、それらを割り切って暴れた方が気が晴れるということに。

 

 倫理と【682】によって怒りが極限まで溜まっていたバルバトスは【682】の全構成員を恐ろしく残虐な方法で殺害し、魔王軍に下った。

 

 しかしそこからも人を殺す事で気は晴れ、憤怒は収まったものの、元々は善良で倫理的な奴だった上、完全には狂いきれず、罪の無い人間を殺害し続けた事は檻のようにバルバトスの正気の部分に溜まり、凄まじい自己嫌悪を生み出しているそうだ。心の奥底で死を願うほどに。

 

 長々と話したいまの情報は、魔族領でスパイをしていた商人を痛めつけて聞き出したもののため、真実かどうかは知らないが、俺のやる事は同じだ。

 

 クソ女もバルバトスも人を……この村の人を傷つけないと生きていけない以上、どっちも殺す。

 

 四肢をもがれたクソ女は後でどうとでも料理できるので後回しだ。

 

【隠密】で隠れ【暗殺者の短剣】、そして不意打ち時に相手の硬度をある程度無視する【暗殺者の手袋】をつけ相手の肉体の脆いところを表示する【暗殺者の片眼鏡】で鱗の隙間を探知した。

 

 この一撃で仕留められなければ父さんも母さんも村人も俺もクソ女も死ぬ。最後の奴の死だけは大歓迎だが絶対に失敗できない。

 

 この角度で良いかこの向きで良いか、狙うのは逆鱗じゃなくて心臓で良いか【隠密】解除のリスクを負ってでも助走をつけるべきか。

 

 そう考えに考え突き刺した俺の一撃は“あの”バルバトス、最強種の一角たる魔人に痛みを与え動きを僅かに止めた。

 

 

それだけだった。

 

 

 

それだけでクソ女には十分だった。

 

「いっただっきまあああああああああす!」その声と共にクソ女は飛んだ。生やした羽を使って。

 

 そしてバルバトスの喉笛に齧り付いたかと思うと噛み砕いた。逆鱗もろとも。

 龍人種の逆鱗は砕かれた場合持ち主は即死するが、その強靭な肉体の中でも最高硬度を誇る。その硬度は魔法合金でも再現不可能で、神台の魔法金属を抜けば鉱物でドラゴニドの逆鱗を凌ぐ硬度のものは存在しない。絶対不可侵の盾。

 

その逆鱗がクソ女の歯によって薄氷のように噛み砕かれ【逆鱗】が砕け散った。それと同時にバルバトスは絶命した。何故かその顔は晴れやかだったがどうでもいい。次はクソ女を殺さなければ。

 

「ううううううまっあああああああああい」とブォリブォリ音を立てながら噛みちぎった喉笛を喰らってるクソ女を殺す。今の食事でまたパワーが上がったのが分かる。さっさと仕留めなければ……そう思った俺の目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。バルバトスの肉を嚥下した途端四肢を失ったクソ女の身体からものすごいスピードで四肢が再生していく。

 

「ふっかーつ! 栄養たっぷりのお肉なら一口でここまで癒えるのね、うふふ」

「あら、非常食。私に食べられるためここまで追いかけてきてくれたのね」

 

 最悪だ。クソ女が復活しちまった。

 

「ちょーっと待っててね。先にあなたより美味しいご飯を食べちゃうから。別に邪魔してもいいけど片足のあなたと五体満足の私、どうなるか分かるわね」

 

そして食事が始まった。龍の肉は不味いというのが定説だ。物理法則を半ば無視する密度で敷き詰められた筋肉による、魔法合金並の強度と食われないために血が高熱を持つ性質により、硬い上に毒(みたいなの)がある最悪の肉である為だ。それが定説のはずだ。しかしクソ女はバリリバリリとアダマンタイトに匹敵する硬度の鱗もろとも噛み砕き胃袋に収めていく。爪牙も少し歯応えのある食べ物としか思っていないかのように噛み砕く。

 

目の前のクソ女の頭より大きいバルバトスの頭が十秒と持たず胃袋にねじ込まれ消化される。この女はいつも食事は嬉々として行っているが今回の食事はそれに和をかけて、信じられないほど幸せそうだ。俺は生肉なんて喰えないし龍種を噛み砕ける歯と顎も無い。その上こんな状況だったがクソ女のあまりに幸せそうな食べっぷりを見てると涎が出そうになった。

 

 俺も喰えば喰うほど強くなるクソ女の食事を妨害しようとするが。殺気を飛ばされ牽制されできない。瞬く間にバルバトスの上半身が消失し、下半身の肉もガツガツ頬張られる。

 

「古代龍人バルバトス完食! 全能力↑✕50 【炎無効】【龍化】【核熱吐息】」

 

「ごちそうさま! すごくすごく、すっごく美味しかったわ! あなたは今まで私が食べてきたものの中で一番美味しいわ! 誇りにおもっていいわよ!」

 

 単純な身体能力でも二周りは強化されたのが本能的に分かる。そして【龍種】の二つのやばい能力を得たことも。毒々しい色気をばらまきながら奴は言った。

 

「さあて」「待て……待って……」「ねえ、非常食、私、とってもお腹が空いてるの。村人達とも会ったけどみんなみんな美味しそうだったわ。涎が出ちゃいそうなほどに」「クソが! 黙れ!」「あなたのパパとママにも会ったわよ、あなた含め3人まとめてぶっ殺して親子丼にするのも考えたけど、あなた達は三人がお互いを愛し合ってるのね。感動したわ!だからあなたにも食べられる順番くらい選ばせて上げるわよ」「き……さ……ま……」短剣を振るうが空を切る。【隠密】抜きで勝てるはずが無い。あっという間に地面に押し倒される。クソ女はあの時よりも遥かに強化された上、俺は片足だ。勝てるはずが無い。「あーあとね、最高に美味しい肉食べちゃったせいで舌が肥えちゃったから貴方を美味しく食べられないかも知れないけど許して欲しいの」「黙れ……殺す」「それじゃいっただっきまああ」

 

 

 その直後声がした

「ジロー! お嬢ちゃん! 無事だったか!」

「あらジローちゃん! 大丈夫だった!? 私達を助けてくれた子と知り合い?」

「というかジローお前嬢ちゃんに何で押し倒されてるんだ」

 

 それを聞いてクソ女の顔が嗜虐的に歪んだ。

 

「言ってみなさいよ、私をあなた達を食べようとしている敵だって。バルバトスの脅威から逃れた所で私が全て台無しにするって」

 

 ニヤニヤ笑いながらクソ女が言ってくる。

 

 どうする。何をやれば、こいつの暴食から家族を守れる? まともに思いつくような方法じゃクソ女に喰われてバットエンドだ。なにかこいつの想像を超すような一手が俺は、やけになって叫んだ。

 

「母さん。父さんこの人は……」

 

 そして言った。 

 

「俺の結婚相手です!」 「「「……は?」」」クソ女と父さんと母さんの声が被った

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