悪食クソ女の暴食日記   作:リィン教官対ゴミカス蛆虫宮沢鬼龍

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主人公の制服姿(擬態)


JK()の制服姿だぞ!良かったな!

 野盗たちが文字通り「骨の髄まで」しゃぶり尽くされた凄惨な宴の後。拙者たちは、野盗が残していった馬を二頭拝借し、再びエランテルへの道を進んでいた。

 

「うふふ、いい子ねぇ、よしよし。お肉がいっぱいついてて、とっても走りごたえがありそうよぉ」

 

 隣を駆けるクロエ氏が、馬の首筋を愛おしそうに撫で回している。はたから見れば、動物好きの少女が愛馬と戯れている微笑ましい光景だ。……その手が、頸動脈の位置を正確に探るように這い回り、口元から垂れた涎が馬のたてがみを濡らしているという事実さえなければ。

 

 拙者は自分の跨る不憫な馬(馬刺し1号)の首をポンポンと叩いて慰めた。

 

 こいつも本能で悟っているのか、先ほどからクロエ氏の方を見るたびにブルルッと怯えたように鼻を鳴らしている。それにしても驚くべきは、クソ女の乗馬技術だ。

 

 彼女は「馬なんて乗ったことないけど、要は落ちなきゃいいんでしょ?」と言い放ち、鞍に跨った瞬間から完璧に乗りこなしていた。背筋を伸ばし、馬の揺れに合わせて柔軟に体勢を変えるその姿は、

 

 まるで熟練の騎手のよう。天性のバランス感覚というか、野生の勘というか。あるいは「食材を逃がさないために追いかける技術」として、DNAレベルで最適化された動作なのかもしれない。彼女の身体能力と学習速度は、まさに生存(と捕食)のために特化している。

 

 ぐぅうううううううううううううううううううううううううううはい、また鳴った。本日何度目かの腹の虫。さっき野盗五人分を完食したばかりだというのに、彼女の腹時計は常に飢餓状態を指し示しているらしい。

 

「あぁ……お腹空いたぁ。ねぇ、馬って足が4本もあるのよね?」

 

 クロエ氏が、とろんとした目で桜肉1号の前足を見つめた。その視線は、ショーウィンドウのケーキを眺める子供のそれではなく、肉屋が枝肉の部位を選定する時の目だ。

 

「……4本あるのが標準仕様でござるよ。それがどうしたでござるか」

 

 嫌な予感がして、俺様は努めて冷静に問い返す。

 

「4本もあるなら、1本くらいなくても大丈夫よね? ちょっとくらいバランス悪くなっても、私が支えてあげれば走れると思うの」彼女は事も無げに、とんでもないことを口走った。

 

「えっ」「だから、右前足の太もものところ、ちょっとだけいただき・ますしちゃダメかなぁ? 走るエネルギー補給ってことで! ほら、3本になっても走れるじゃない! 減るもんじゃ……あ、食べたら減るか。うふ、うふふふ!」

 

 剣を取り出し、走りながら器用に馬の足へ狙いを定めるクロエ氏。ブラックジョークで済ませるには、その構えが本気すぎる。

 

「ダメに決まってるでござろうがァ!!」

 

 拙者は慌てて馬を寄せ、彼女の凶行を制止する。

 

「移動手段を食ってどうする! エランテルまで歩くつもりでござるか!? しかも3本足の馬なんて、走れるわけないでござるよ! 物理法則と生物学を舐めないでほしいでござる!」「えぇー? ケチねぇ。再生するまで待てないの? ……あ、そっか。こいつらは私じゃないから、食べられたら生えてこないんだったわ。不便ねぇ、普通の生き物って」ちぇっ、と舌打ちをして包丁を収めるクロエ氏。彼女にとっての「普通」が、我々の「異常」であることを再確認させられる。彼女は自分が食べた分だけ強くなり、傷も癒える。だからこそ、他者も同じように回復できるという錯覚……いや、単に「自分が良ければそれでいい」という極端な自己中心性の発露か。

 

「とにかく! この馬たちはエランテルに着くまでは『乗り物』でござる! 『非常食』カテゴリーに入れるのは、どうしてもっちゅう緊急事態だけにするでござるよ! わかった!?」

 

「はぁーい。わかったわよぉ。……じゃあ、街に着いたらこの子たち、解体ショーしてもいい? 新鮮なレバー、胡麻油とお塩で食べたいなぁ」

 

「……街に着いてから考えるでござる」

 

 先送りにしただけだが、とりあえず今のところは桜肉1号の命拾いだ。馬よ、感謝してくれ。そんな殺伐とした(主に食欲由来の)会話を繰り広げながら荒野を進むこと数刻。

 

「あー、ストップ! ストップでござるクロエ氏! 待て待て待て!」

 

 街道を進むこと数十分。拙者たちの眼前には、威容を誇る城塞都市エランテルの城壁が見えてきた。そして前方から、せせらぎの音が聞こえてきた。さて、ここで最大の問題がある。

 

「クロエ氏、ちょっと顔貸して。いや物理的にじゃなくて」

 

「なぁに? お腹減った?」

 

「減ってないでござる。いいか、鏡を見るでござる」

 

 拙者は手持ちの水筒と布を渡した。クロエ氏の姿は、一言で言えばスプラッター映画のクライマックスだ。

 

 口の周りは真っ赤、服の至る所に血飛沫、そして手にはこびりついた赤黒い何か。このまま門に行けば、衛兵に即座に包囲され、「モンスターが出たぞー!」と警鐘を鳴らされるのは確定的に明らか。

 

「んー? 汚れてる? でもこれ、勿体ないわよ?」

 

 彼女はそう言うと、自分の腕についた血の塊を、長い舌を伸ばしてペロリと舐め取った。

 

「ん……鉄の味。やっぱり人間の血って、そんなに美味しくはないわよねぇ。ソースとしては下の下だわ」

 

「ひっ……(ドン引き)。い、いや、味の評論はいいから! 街に入るには『普通の女の子』に見えないといけないのでござる! 衛兵に怪しまれたら、美味しいご飯も食べられないでござるよ!」

「……! それは困るわ」食欲という名の最強の動機づけが機能した。クロエ氏の目の色が変わる。

 

「わかったわ。邪魔が入って食事が遅れるのは嫌だもの」

 

 彼女は水筒の水を奪い取ると、バシャバシャと顔と手を洗い始めた。驚くべきことに、その手際は異常に良かった。獲物の解体に慣れているからか、あるいは返り血を浴びるのが日常茶飯事だからか、布切れ一枚で効率よく目立つ汚れを拭い去っていく。

 

 服の血痕はどうしようもないが、彼女は野盗から剥ぎ取っておいたマント(比較的綺麗なもの)を羽織り、それを隠した。

 

「どう? これなら『野盗に襲われて逃げてきた可哀想な女の子』に見えるかしら?」

 

 クロエ氏が首を傾げる。先ほどまで肉を食いちぎっていた怪物が、今はあどけない少女の表情(皮)を被っている。その変貌ぶりに、拙者は背筋が凍る思いだった。こいつ、擬態能力が高すぎるでござる。サイコパス特有の「正常な振る舞いの模倣」が完璧すぎる。「う、うん……完璧でござる。完璧すぎて逆に怖いでござるが……まあいい。行くでござるよ」

 

 エランテル正門。数人の衛兵が、検問を行っている。拙者たちも列に並び、やがて衛兵の前に立った。

 

「止まれ。身分証の提示を……む?」衛兵の視線が、俺のむさ苦しい髭面と、その横にいる小柄な少女を行き来する。明らかに不審がっている。野盗崩れのオッサンと、痩せ細った少女。誘拐犯と被害者にしか見えない構図だ。

 

「おい、そこの男。その娘とはどういう関係だ? まさか……」

 

 衛兵が槍の柄に手をかけたその時。

 

「うぅ……兵隊さん……」クロエ氏が、震える声でつぶやいた。その瞳は潤み、恐怖に怯える小動物のように肩を縮こめている。

 

「私たち……道中で怖い人たちに襲われて……おじちゃんが、このおじちゃんが助けてくれたの……! 怖かったぁ……お腹空いたよぉ……」

 

 名演技である。アカデミー賞女優も裸足で逃げ出すレベルの「可哀想な被害者」ムーブ。

 

 だが俺は知っている。クソ女が震えているのは恐怖ではなく、「目の前の衛兵の太ももの肉付きが良くて美味しそうだから我慢している震え」であることを。彼女の視線が、衛兵の首筋(動脈)に一瞬だけ吸い寄せられ、すぐに伏せられたのを拙者は見逃さなかった。「な、なんだ、そうだったのか。疑ってすまん。野盗が出るとは聞いていたが……」

 

 衛兵の態度が軟化した。チョロい。いや、普通の人間ならこの怪物の本性など見抜けないだろう。

 

「通行料は銀貨二枚だ。……と言いたいところだが、特別にただでいい。あんちゃん。あんたもだ。疑って悪かった。嬢ちゃん、災難だったな。早く街に入って何か食べて休むといい」「ありがとう、兵隊さん! ……あ、あのね、兵隊さん」

 

 クソ女が上目遣いで衛兵に近づく。おい、やめろ。距離を詰めるな。その距離はすでに捕食の間合いだ。

 

「なぁにかな?」と屈み込む衛兵。「兵隊さん……とっても『美味しそう』な匂いがするわね……うふふ」

「え?」

 

 衛兵がキョトンとする。俺は心臓が止まるかと思った。バカ野郎! 欲望がダダ漏れでござるよ! ブラックジョークのつもりか本気か判別つかないのが一番タチ悪い! 「ご、ご主人! 空腹すぎて幻覚を見てるでござるな! さあ行くでござるよ! ほら、早く美味しいご飯屋さんを探さないと!」

 

 俺は強引にクロエ氏の肩を抱き(骨と皮ばかりで感触が悪い)、門にぶち込んだ

クロエについて

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