次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ   作:松岡夜空

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再開(三人称視点あり)

「マジかよ。ライザの魔術の雑さでバレたにしても、よく見えるな。相手獣人なんかね?」

 

 

 無論だが、俺は相手を裸眼で見ていたわけではない。

 目で輪を作り、そこを通すことで遠視する魔術、光遠視《ウィプススコープ》を使って見ていた。

 しかし相手は裸眼だった。まあ訓練でどうにかなる範疇《はんちゅう》ではあるが――

 

 

「いや。どうやら獣人の目を植え込んでいるようだな。注視すべきは『お前の』魔波《マジックウェーブ》に気がつく感の良さと、どうやって獣人の目を移植したのか、だがな。相手の眼球を移植するのは再生《リザレクション》はもちろん、治療《リカバリィ》を用いても本来不可能のはず。視神経を魔糸で繋ぐには、さすがに脳の位置が近すぎる。そういう魔具なら作ったこともあるが、アレはその類ではなさそうだ」

 

 

 遠視ができるモノクル(もちろんライザの文明創造《アイテムマスター》で創造したもの)を外しながらライザが言った。立ち上がり、肩口でそろえた髪の毛をヒモで縛る。

 ライザが真剣《マジ》になった時よくやる儀式《ポーズ》だ。

 

 

「あたしは正面。お前は後ろに回れ。挟み撃ちにするぞ」

 

「珍しいなライザが正面から行くとか。いいの? もちろん俺はいいけどさ」

 

「さっきも言ったように、奴らは獣人の目を移植している。少し話が聞いてみたい。もしかしたらあたしの知らない世界があるかも知れないし、知っている世界の話だとすれば、話を聞いておくにこしたことはない」

 

「え……?」

 

 

 中々意味深なことを言うものだと、俺は首を傾げた。

 知っている世界の話だとすれば、話を聞いておくにこしたことはない? どゆこと? 

 

 

「尋問に時間を割くから合流も遅れる。入り口は封鎖しといてやるから大元はお前が潰せ。いいな」

 

 

 尋ねる暇もなく、ライザが消えるような速度で跳躍した。

 風《シルフ》と呼ばれる魔術で、操った風を足裏に集め跳躍したのである。

 前にも言ったが、ライザぐらいの高魔力魔術師になると、呪を唱えなくとも発動できる魔術がいくつかある。

 風《シルフ》もその一つである。

 

 

「了解」

 

 

 そして俺もライザほどではないが、同じく高魔力魔術師。俺は無詠唱の風《シルフ》を用いて、丘から飛び降りた。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「いよっと」

 

 

 乗せられていた岩をどかし、俺は隠し通路から顔を出した。

 隠し通路は腹ばいでなければ進めないほどに狭く、下ったと思ったら登らされ、クソ面倒な移動を経た結果たどりついたため、俺の服は土で汚れていた。

 パンパンと服の汚れを叩く。

 出た場所は牢屋の中だったので、抱くようにして持ってきた剣を閃かせた。

 鞘に剣をしまう。

 切り裂かれた格子の欠片を蹴り飛ばし、頭を下げてそこを通り抜けた。

 外観は野暮ったい洞穴であったが、意外と中はしっかりしている。

 石畳であり灯りもある。今はついていないが。なるほど。ライザが言っていたように、元々はダンジョンだったものを再利用しているようだ。

 ダンジョンは神の力で突如出現し、中堅の職人が時間をかけて作った程度には、精巧に作られている。だから盗賊などが終わったダンジョンの跡地をねぐらにするケースが後を絶たない。

 まあさしあたり――

 

 

「光よ。我が願いを聞け、そして応えよ。光《ウィプス》」

 

 

 光の弾を生み出す。

 とりあえず明かりは確保っと。

 周囲を照らしてみる。

 左右に作られた牢の中には囚人が繋がれていた。生きている者もいれば、死んでいる者もいる。

 牢屋というより、人間飼育小屋って感じか。衛生面は最悪だが。拷問の後もいくつから見られる。

 笑った。もちろん楽しかったわけじゃない。良くも悪くも感情が動くと笑ってしまう。俺の転生前からの悪癖だった。

 

 

「風よ。我が願いを聞け、そして応えよ。彼《か》の地より響きしその音を、風に乗せて此《こ》の地に旋律として響かせよ。風精聴《シルフキャリーシンフォニア》」

 

 

 薬指でサングラスを持ち上げ、呪を込めた。

 音はサングラスのテンプル(耳かけ)を通して、骨伝導で聞けるようになっている。

 足を進めた。

 一歩二歩と。

 長い影が、通り過ぎた通路にのっぺりと伸びていた。

 

 

 ◇◇◇《ここから三人称》◇◇◇

 

 

 聞こえてくる足音を耳にして、カトリ=ローディスは目を開いた。

 牢に閉じ込められてから四日。手を雷魔封の鎖(呪に反応して雷を発して対象の魔術を封じる)で繋がれているため魔術は使えず、手も動かせないから排泄の処理も満足にできない。

 今、自分の尻元は糞尿塗れである。悪臭で眠ることもできなかった。

 黒い影がゆっくりと伸びてくる。

 現れた男は二人。

 長兄アイン=ローディスと、ローディス家剣術指南役にして、長男であるアインにだけついている護衛、キルバルト。

 

 

「やっぱりあんただったのね、クソ野郎」

 

「何のことかな?」

 

「全部よ。ベレト兄を殺したのも、クロを追放したのも。全部あんたの差し金。自分を超えようとする者を、自分の背中を脅かそうとする者を、いつもこうやって消してきた。そうなんでしょ?」

 

「ふっ。やはりお前もそう思ってるのか? どいつもこいつも長兄を何だと思っていやがる」

 

「ゴミよ」

 

 

 がちゃん。

 アインが牢を蹴りつける。

 鼻息が荒くなる長兄を見てカトリは失笑した。

 

 

「違ったの? そうでなきゃ、こんな卑劣なマネはできないと思ってたけど」

 

「ぐっ」

 

「それとも広義的な意味できいたのかしら。だったら一番最初に産まれただけの男と答えておくわ。虫酸が走る。カス野郎」

 

「貴様!!」

 

「坊ちゃん、落ち着いて下さい。最期を看取りたいと言うから、お連れしたのですぞ」

 

「ふ、ふーん、やっぱり殺す気なんだ」

 

 

 カトリの声が少しばかり震えた。

 それを見てアインがニヤリと笑う。

 

 

「お前はクロとは違う。生かしておくと必ず厄介なことになる」

 

「じゃあとっとと殺しなさいよ。人を糞尿塗れにして、何がしたいの? 辱めたいってこと? あんただったらやりそうだわ。ゲスな趣味持ってそうだし」

 

 

 アインはその問いには答えず、小瓶を取り出した。中には黒い粒がいくつも入っている。

 

 

「ブードゥードラッグ……」

 

「御名答。こいつの面白い使い方を知ってるか? 三日飯を抜き、糞も尿も出なくなってから二十粒以上を同時服用する。どうなると思う?」

 

「もったいぶらずにとっとと言いなさいよ」

 

「人格がぶっ壊れるんだ。具体的に言うと幼児退行する。そして決して戻らない。何人かで実験済みだ。確かだよ」

 

 

 カトリの唇が思わず震えた。

 アインは笑って懐中時計を取り出す。

 

 

「念の為四日待った。今が四日目のゼロ時。念の為だ。後三時間待つ。ぶっ壊れたお前を俺が救い出す。犯人をでっち上げやすいようにレイプ痕も作ってやろうと思ったが、お前のそのシーンを考えるだけで吐き気がしたからやめたよ。よかったな、俺がノーマルで」

 

「壊れたあたしを助け出して英雄にでもなるつもり? バカね。お父様がそんなに間抜けだと思ってるの?」

 

「逆質問してやるよ。お前、あの父上がそんなに優しい人だとでも思ってるのか?」

 

「は?」

 

「あの時、ベレトが死んだ日、ベレトは何かに気づいていた」

 

「……」

 

「あの時、その場にいたのは俺、ベレト、お前、クロ、エイチカ、父上、テリー、キルバルト、アイリスの九人のみ。エイチカは当時六歳で論外だ。いかにクロを上回る天才だと言ってもな。ベレトを殺したのが俺でもお前でもなく、アイリスでもクロでもないなら残っているのはテリーと父上のみ。だったらどっちが犯人かは少し考えれば明白だろ」

 

「まさかお父様が!! そんな!!」

 

「父上は俺に家督を継がせたがっている。だから俺の秘密に気づいたベレトを殺したのさ」

 

「出任せを!! お父様を愚弄するな!!」

 

 

 がちゃんと、アインが牢を叩いた。

 その顔は涙と鼻水でグシャグシャになっていた。

 

 

「貴様こそ、俺を愚弄するなよ。どいつもこいつも長兄を何だと思っていやがる。いいか? 俺は消されないぞ。ベレトを殺した犯人が父上だろうが他にいようが。本当の母様や姉様のためにも俺達は生き残る。絶対にな」

 

 

 何を言っているのかわからなかった。

 本当の、母様? 姉様? 

 アインは長兄である。姉はいないはずだが……。

 自分の失言に気づいたのか、アインがハッとした顔を見せる。

 そして顔を押さえて笑った。

 狂笑だった。

 その時。

 

 

「驚いたな。ベレト兄を殺したのは兄さんじゃなかったのか?」

 

 

 アインが狂笑を止めた。

 カトリが振り向くも、牢の中にいるカトリには、相手の姿形は見えない。

 しかし、この声は――

 

 

「放っておけば他にも色々聞けそうだったが、まあそんなことは、お前をとっちめてからまとめて聞けばいいことだ」

 

  

 響く足音。

 キルバルトがスラリと白刃を閃かせた。

 足音が止まる。

 そして。

 

 

「よお。久しぶりだな。兄さん」

 

 

 泣きたくなるほど久方ぶりの声が、もう二度と聞けないと思っていた最愛の弟の声か、カトリの耳に飛び込んだ。

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