次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ   作:松岡夜空

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ブリンストンへ

「あんた、クロが赤子の頃から意識があったって言ったわね。だからこいつは化け物なんだって。あれはどういう意味? どこでそう思ったのか教えてくれる? あたし目線あんたの方がよっぽど化け物なんですけど。後あたしが論破できたら、ちゃんとクロに謝りなさいよ。今までのことも含めて、全部ね。心がこもってなかったら、何回でもやり直させるからそのつもりで」

 

 

 カトリには、今までのことを全て話している。だから俺が何をされたかも知っている。

 カトリの言葉を聞いて、アインが笑った。

 

 

「謝って許されることかね」

 

「許される許されないじゃない。これは誠意の問題よ」

 

「ふ。確かにそうだな。カトリ。こいつはな――グッ、う、あぐ……っ」

 

 

 またアインが顔をしかめた。

 漫画でこの手のパターンを見てきた俺は結構慌てた。アインにはまだベレト殺害時に俺の剣が使われていたことについて聞いていない。重要な話を話す前にキャラが死ぬ。漫画の定番だ。

 が、アインの頭痛はどうやらただの持病らしい。チッ。無駄に心配させやがってクソがよ。

 ライザもアインが死ぬかもと考えていたのか、魔導書を読む手を止めて、鋭くアインを見据えていた。

 

 

「悪いな」

 

「同情はしないわ。当たり前だけど。もったいぶらずにとっとと言いなさいよ」

 

「カトリ。こいつはな、産声も上げずに産まれてきた」

 

「――まさかとは思うけど、それで赤子の頃から意識があった、なんて言ってるわけじゃないでしょうね。そんなことは稀にあることだし、あたしの記憶じゃ普通に泣いてたわよ? クロは。まあ子供の頃の記憶だから、覚えているのはせいぜい産声ぐらいのものだけど」

 

 

 腹が立っているからか、しかめっ面をしながら髪をかき上げ、カトリが言った。

 

 

「時系列が間違ってるんだよ、お前。こいつが泣き始めたのは、母上にあやされた後だ」

 

「いや泣いてるじゃん」

 

「こいつはな、産声を上げることなく、まぶたを開いて産まれてきた。もちろんそれでも、赤子の時から意識がある、という可能性よりかは全然ありうることだ。泣かずに産まれることも。目を開いていることもな。だがこいつは開いた目で、明らかに俺達全員を見渡していた。いや、値踏みしてたんだ。この家にはどんな奴がいるのかってな」

 

「あのさあ」

 

 

 カトリが呆れたように言葉をこぼす。

 しかしアインの言葉に俺は戦慄していた。他人が聞けば戯言と一笑に付す内容ではあるものの、当事者である俺にはわかる。

 アインの読みは的中していた。

 当時のアインは俺の年齢から計算すると五歳である。ハーフは純正より知能指数が高く産まれる、なんて俗説があるが、俗説は俗説な上に五歳でここまで気づける観察眼は普通じゃない。

 何かカラクリがあるのではと思うが、確かに赤子の頃の記憶をほじくり返すと、目を見開いて俺を見ているアインが思い浮かぶ。

 あれを見て俺は『ああこいつは嫌な奴だ。なろうアニメでよく見る踏み台にしていいキャラだな』なんて思っていたが、答えは違っていたようだ。

 こいつは、家族構成を冷静に確認していた俺を疑って――

 

 

 ズキリ。

 突如、頭が痛んだ。

 何故かわからず、頭に手を添える。

 何だ、今のは……。

 

 

「そして母上が泣くように指示して、ようやっとこいつは泣いた。まるでそれが赤子なんだと気づいたみたいにな。俺はその時からずっと思っていたよ。こいつは化け物だってな。恐らくはベレトも気づいていたと思うよ。あいつは俺より鋭いしな」

 

「はいはい。どうせあたしは鋭くないですよ。で? 話はそれで終わり?」

 

「こいつが成長するにつれ、疑惑は確信に変わっていったよ。こいつの俺を見る目は、明らかに知っている人間のそれだった。何もわからないフリをして、全てを理解し、難しいことでもソツなくこなす。怖かったよこいつがずっと。そんな俺にキルバルトが提案した。いい古代魔術があるってな。それでクロの力を抑えることができると」

 

「はぁ」

 

 

 カトリは呆れて何も言えないとばかりに、掌を上向け空を仰いだ。

 しかし俺は、アインの話していることが的を射ていると知っていたから、聞き入っていた。

 

 

「そうして俺はクロの力を抑えた。悪いことをした、とは思っていなかった。お前は人間じゃない。だから何をしてもいいんだと、俺は思っていた。だからお前を罠にハメて家から追い出した時も、何の罪悪感もわかなかった。いつか化け物が帰ってきた時のために、腕を磨いておこうと思っただけだ。そして三年。お前は本当に帰ってきた。俺も相当努力したつもりだったが、歯が立たなかった」

 

「……」

 

「俺は今でも、お前が赤子の時から意識があったと確信している。他の誰が否定しようともだ。しかし、俺があれだけのことをしたのに、それでも前に進むことを諦めなかったお前は、化け物というくくりじゃ足りない。お前は単なる――凄《すご》き者だった」

  

 

 意外な話の流れに、俺はきょとんとしながらアインを見る。

 アインは俺から目を背けた。

 

 

「今まですまなかった、クロ。全て俺の心の弱さがまねいたことだった」

 

 

 何と言ったらいいかわからずに、空を見上げた。

 見上げた先で、蒼い空がどこまでも広がっている。

 

 

「遅えよ。今更」

 

 

 俺はポツリとつぶやいた。

 

 

「そうか」

 

「残念ながら、もう時効になっちまったよ。もっと早く言ってくれりゃ、ボコボコにしてやったんだけどな」

 

「――そうか」

 

 

 アインもまたポツリとつぶやく。

 顔をそむけていたから、表情は見えなかった。

 街道の上で馬車が揺れる。

 故郷ブリンストンまでは、後一時間ほどでつくらしい。

 

 《光と闇と編 了》

 

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