次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ 作:松岡夜空
テーブルを挟んで俺と父上が向き合っていた。テーブルの上にはエイチカが淹れてくれた紅茶が湯気を上げている。この家で出されるものなんて飲みたくはなかったが、誰あろうエイチカが淹れてくれた紅茶である。俺はちびちびとそれを口に運んだ。
テーブルの脇にはアイリスが座り――カトリとエイチカは同席を許されず、ライザは興味がないと外で魔導書を読んでいる――父上の後ろには腹心のテリーが立っている。暖炉の前には、アインとキルバルトが両手両足を拘束された状態で座らされていた。
二人を見張っているのは、この家のメイド、ティンパニーである。
実はこのメイドもかなりの腕利きで、野盗の一人や二人程度なら軽くひねる力がある。メイド兼護衛なんてのは漫画の定番なので若い時の俺は特に違和感を覚えていなかったが、強いメイドなんてのはそうそうおらず、ティンパニーが例外なだけらしい。この三年の傭兵生活でそれを知った。ティンパニーが特別何かの訓練を受けている、というわけではないらしいが――。
三年間のあらましを終えた後、父上がカップを皿の上に戻した。
陶器と陶器の重なる音が静かに響く。
「そうか。三年の間にそんなことが。大変だったんだね」
「大変ではあったけど充実はしてたよ。望んで得た大変だからな。同情されるようなことじゃないさ」
「確かに苦労は買ってでもしろとは言うからね。そのかいあってか君は準男爵になったそうだね。とりあえずおめでとうと言っておこうか」
「よせよ。そんな大層なものじゃない。知っていると思うけど、東で言うところの傭兵男爵だよ。領土が与えられない準男爵や騎士男爵なんてタダみてえなものだから、戦力確保のためにデイヴィス公が爵位をバラまいてるんだ。まあ便利っちゃ便利なんだけどな。魔術は貴族だけの御業で庶民が使うと本来豚箱入りだ。が、傭兵男爵ならその辺もフリーだ。ちょくちょく召集かけられるのが玉に瑕《きず》かな。まあ素直に行く奴の方が稀《まれ》なんだけど」
「ふ。素晴らしいね。私は認めるよ。君の努力と強さをね。何より誇らしい。君が我が子であることがね」
「それはどうも」
「ところで相応に修羅場をくぐってきた君に聞きたいのだが、いいだろうか?」
「何だよ」
「君ならこの三人の処遇について、どうするのが正確だと思う?」
手を広げて全体を指すようにして、父上が言った。
三人とは恐らくアイン、キルバルト、アイリスの三人を指しているのだと思われる。
「三人ということは、ベレト兄の件か?」
「それもあるが、君を追放した罪もある。おかげで私はダイヤの原石を失った」
「ライザがいなけりゃ今も俺は石ころのままさ。まあ俺のことはどうでもいい。落とし前はキルバルトにつけたしな。ベレト兄の件については、こいつらの証言だけを一方的に信じるなら違うらしい。犯人は九分九厘身内だと思うが、特定できる材料がないんじゃどうしようもない。三年経って他の誰も死んでいないことから、再犯の可能性もかなり低いと思っていい。ベレトを殺し、かつ俺を追い出したことで、犯人の目的は達成させられてたんだろ。動機こそ不明だがな。何より架空の犯人をもう司法と警備隊に出してるんだろ? だったら後はあんたの裁量一つだな。無罪でも別にいいと思うぜ。一番合理的だよそれが。今更何をしたところで、意味がない」
「ふふふ。なるほどね。カトリの件についてはどう思う? つまりアインの処遇について、ということだが」
「バーバラ候のご令嬢との縁談も考えたら不問にするしかないんじゃないの? 政治的判断ってやつ。持論だが、バカは死ななくても治ると思うよ。知らんけど」
「ふふふ。なるほど」
父上が笑いながらあごを擦る。
窓の外から雷鳴が響いた。雨こそ降っていないが、今にも降りそうである。
父上がカップを手に取り、言った。
「おや。紅茶がなくなってしまったよ。おかわりはいるかな?」
「飲み終えたら出ていくよ俺は」
「この家に戻ってくるつもりは?」
「ないね」
「できることに限りはある。が、君が望むことの大抵は叶えるつもりではいるのだが」
「望みは特にない。だがあえて言うなら今後二度と俺に関わるな、だな」
「ふふふ。強気な言葉だ。しかし君は現状がよくわかっていないように思うね。今までの問答から察するに、その言葉は君を後悔させることになると思うよ、必ず」
「ご忠告どうも。しかしその忠告を聞く前に教えてくれよ。あんた最初に言ったよな? 俺はあんたに必ず話したいことがあるはずだと。かれこれ数十分話しているが、皆目見当がつかない。本当にあるのなら教えてくれ。俺があんたに話したいこととは、何だったのかを」
「ふふふ。テリー」
「はい」
「アイン、キルバルト、アイリスの三人は、共謀してベレトを殺した疑いがある。よって拘束の後、刑を執行。手始めに、アイリスを股裂きにしろ」
「「な!!」」
声を上げたのは、テリーと俺、二人同時だった。
アイリスが席を立って後退る。その顔は蒼白だった。
父上はカラカラと笑いながら、俺を指さす。
「こうこられたら――嫌だろ?」
こいつ……っ!
「先の質問に答えよう。君が私に話すべきこととは何かと聞いたね。それは、彼女ら三人の減刑を乞うことだよ。貴族には自主裁判権がある。つまり私はその気になれば彼女らの命などどうとでもできるのだよ。そして、君が心ではどう思おうとも、本当は彼女らの命を案じていることは、先の質問から確認済みだ。この状況。どうすれば脱せられるかわかるかな?」
「くっ。くっくっく……なるほどね」
笑いながら、俺は席を立ち上がった。
困難に出会うと逆に笑ってしまう。
俺の悪癖だった。
「てめえの命に剣突きつけて、交渉の一つでもすれば脱せられるんじゃねえのか?」
腰の剣を閃かせる。
親父――もはや父上と呼ぶ必要もないだろう――もまた、あごに手を置き笑った。
「できるのかな? 君に」