次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ   作:松岡夜空

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それから

「付き合え、か。弱ったな。女性と戦うのはどうにも苦手なんだけどね、私は」

 

「あたしもお前みたいな人間と戦うのはゴメンだよ。お前みたいな外法に手を染めた人間と戦うのはな」

 

 

 親父が口角を持ち上げる。

 曇天がゴロゴロと音を立てていた。

 

 

「ただお前とサシで話がしたい。これはお前のためにもなるはずだ。例え覚悟が決まっていたとしてもな」

 

「ふ」

 

 

 親父が屋敷に身体を向ける。

 足を踏み出す前に振り返った。

 

 

「部屋はそのままにしてある。シエルがずっと掃除していたからホコリもたまっていないよ。私の願いは追って伝えよう。ああ後――逃げたければ逃げてもいいよ」 

 

 

 ピクリと眉が動くのを感じた。

 親父がクスクスと笑い、ライザと共に屋敷の中へと消えた。

 ガン!!

 思い切り地面を殴りつけた。

 クソが。

 このままで終われるかよ。

 

 

「炎よ。我が願いを聞け。そして応えよ。炎の力で世界を幻惑の海へ誘え。炎幻惑《フレアイリュージョン》」

 

 

 姿を隠し、俺は二人の後を追った。

 場所は大体察せられる。

 まず親父の執務室だろう。

 執務室にまでたどりついた俺は、気づかれぬよう扉に耳を押し当てた。

 

 

「で? 話とは何かな?」

 

 

 親父の声が聞こえる。

 

 

「お前は――いや待て。その前に。風よ」

 

  

 ライザの呪を最後に、音が聞こえなくなった。ライザほどの魔術師になると、風音失《シルフサイレンス》程度の精霊魔術は呪一言で事足りる。

 舌打ちした。

 立ち上がって、俺はその場を後にする。

 雷鳴が響く。

 音に釣られて窓を見る。

 今になって雨が降り出していた。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 あれから一週間が過ぎた。

 アインとキルバルトは侯都グランフォートの裁判所に送られた。

 罪状はまだ決まっていない。親父がどれだけ働きかけるかにもよるが、不起訴か禁固刑になるだろう。

 

 

 アイリスは我が家の牢獄で軟禁となり、テリーがそれを見ることとなった。

 噂によるとアイリスが繋がれる牢だけ別次元に清潔にしているとか。

 それなら不衛生からくる病にかかることもないだろう。

 

 

 カトリ姉さんは、長期休暇も終わり、一足先に学園に戻った。先に行って待ってるからねと笑うカトリ姉さんに、俺は笑って応じた。

 

 

 母上はまだ帰ってきていない。母上の父であるゼクス伯爵の体調が芳《かんば》しくないらしい。母は白魔術の達人ではあるものの、病までは治せない。帰郷までにはまだ時間がかかりそうだ。

 

 

 親父は六日後にやっと帰ってきた。帰ってくるなり、俺は執務室に呼び出された。そして敗北の代償を払わされることになる。

 

 

 次の日の朝、つまり今、俺は服を鞄に詰めていた。つめていたのはウェンズリー士官学校の制服である。

 

 

 ブロードソードはいつものように腰に佩き、腰には爆薬と煙玉、包帯、呪液にガルーダの羽ペンを詰めたポシェット。手首に投げナイフを仕込んだ黒のコートを羽織り、鉄板を仕込んだ靴をはく。呪をエンチャントした指輪を十指につけ、愛用のサングラスを持ち上げた。

 

 

 決闘の報酬。勝った者が負けた者に一つだけ命令できる。敗者にとっては代償か。

 

 

 親父が俺に下した命令は、不祥事を起こしたアインの代わりに、バーバラ候のご令嬢との縁談を引き継ぐこと。

 つまり結婚しろということだが、婚約は確定していないらしい。女に話が通っているだけだ。つまり厳密には『女を落とせ』ということでもある。

 

 

 復縁を命じられたわけじゃない。かといって、傭兵シュミット=クロウとして学園に通い、お前の子ではないから、なんて寒いことはしない。

 

 

 ――しないが、申し訳ないが、この縁談はまず失敗すると俺は見ていた。

 

 

 ってもの、俺は人生で未だにモテたことがない。そんな俺が女を落とせ? 無理に決まってんじゃん。

 キスどころかまずデートをどうしたらいいのかからわかんねえもん。何なら誘い方からわからん。いかに無理ゲーかわかろうってなものだ。

 

 

 だから特に反論することなく受けた。どうせ無理だし、これなら割とすぐ終わりそうだなと思ったからだ。何せ西の獅子バーバラ候の娘なのだ。俺以外にも狙ってる奴は数多いるはず。ならばとっとと蹴落としてもらおうじゃないか。

 そしてやるだけやって失敗するならそれは俺のせいじゃない。親父《こいつ》の下す命令にセンスがなかった。それだけの話だ。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 二階から一階に足を運ぶ。

 廊下を通り、居間へ。家族全員が座れる大きなテーブルの前に、親父が一人座っていた。寒冷地方ということもあって、暖炉には薪《まき》がくべられ燃えていた。

 棚の上には黒白並べられたチェス盤が置かれている。

 俺が前に吹っ飛ばしたはずだが、次の日にはもう復元されていた。陣形が初期状態ではないので、もしかしたら打ちかけなのかもしれない。

 思えば来た時、いや……もっと前だ。俺がガキの頃から、あれと同じように並んでいた気がする。

 ……気のせいか。

 

 

「おはよう、クロード君。しかし悲しいね。久しぶりの出会いだというのに、もうお別れとは」

 

 

 ウェンズリー士官学校は遠いため、通っている間は寮生活となる。帰れるのは長期休暇の時と、よほどのことがあり、帰郷した時だけだ。ちなみに長期休暇は年三回ある。

 

 

「そりゃどうも」

 

「ミッションがあるとはいえ、これから楽しい学園生活の始まりだ。どうだい? 意気込みとしては」

 

「今更って気しかしねえな。ただただ面倒くせえよ」

 

「ふふふ。それは嘘だね」

 

「は?」

 

 

 聞き返す。

 そんな俺に、親父が封筒をほってよこした。

 俺は二本の指でそれを受け止めた。

 

 

「アインから君あてに。候女はまあまあ気難しい方のようでね。それに対するアドバイスなどが書かれているようだよ」

 

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