次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ   作:松岡夜空

22 / 42
別れの挨拶

「ふーん」

 

 

 中々の分厚さである。封筒の厚さからして、何枚折かにされた紙が、最低三枚は入っていると推察される。

 

 

「……」

 

 

 俺はそれをしばし見つめてから、封筒を親父にほって返した。

 親父がそれを二本の指で受け止める。

 

 

「いらね」

 

「見栄を張るものではないと思うよ。何より最低限のやる気は見せてもらわないとこっちも困る」

 

「だったらお前が資料を用意しろよ。あいつからのものは俺は一切受け取らない」

 

「何故? もちろん私が用意しろという部分を聞いているわけじゃないよ」

 

「昔の話だ。学園の入園式の日、この手の手紙をアインから渡されたことがある。だが封筒を開けてみると、中からイボガエルとウシガエルの大群が出てきた。中は召喚の魔法陣だったのさ」

 

「……」

 

「あの日から俺がどんな目にあったか。一秒でもあいつを信じた自分を今でも殺したくなる。元凶であるアインはもっと殺したかったが、そういう一面を見せたくない人がいたんでね。命はとらなかった。悪いがそれは捨てといてくれ」

 

「確かにそれはアインが悪い。しかし昔の話だ。忘れてやってもいいんじゃないかな? 人は変わるものだ」

 

「確かにそうだな。あいつは変わったよ。そりゃそうさ。俺が強くなったからな」

 

「……」

 

「人は強さによって態度を変える。この三年で身を持って学んだよ。それならそれで別にいいさ。人にそこまで求めるのは酷ってもんだ。だが結局、弱い人間に見せる態度がそいつの本質だろ。俺は絶対に忘れない。少なくとも、同じ轍《てつ》だけは絶対に踏まない。あんな目に合うのは、もうコリゴリだからな」

 

 

 拳を握って俺は言った。

 狭量な奴だなと、笑うなら笑え。

 だが今でもフラッシュバックするんだ。

 弱かった頃にされた、様々な仕打ちが。

 アインだけじゃない。俺をハメた、五人の冒険者。

 エイフィスとシャルルーにしてもそうだ。

 恨みは――しまい。しないが、それでも俺は忘れない。

 同じ徹だけは踏んでたまるか。

 絶対に。

 

 

「ふふふ。なるほどね。しかしこれは持っていた方がいいよ。念の為ね。それでも捨てたいと思うなら、勝手にするといい」

 

 

 また親父がアインの手紙を投げてよこす。俺は今一度それを二本の指で受け止めた。破り捨ててやろうと思ったが、ここまで執拗に渡されると『やりすぎか?』と誤認させられる。

 俺は迷った末、それをポケットにしまった。

 それを見て親父が笑う。

 

 

「何だよ」

 

「いや? 中々に用心深い男だと思ってね」

 

「ふん。ところで、さっきの言葉の意味を聞いてもいいか?」

 

「何のことかな?」

 

「……それは嘘だね。あんたの言葉だ。何が嘘だ?」

 

「そんなことか。ふふ。まあこの前の戦いではよく頑張ったしね。それぐらいは答えてあげてもいいかな。敢闘賞だ。おめでとう」

 

 

 パチパチとディスケンスが手を叩く。

 軽くイラっときた俺は、コメカミがひくひくと動くのを感じた。

 

 

「いやもったいぶらずにとっとと言えよ。何が嘘なんだよ」

 

「――楽しいだろ?」

 

「は?」

 

「弱者をいたぶるのはさ」

 

「……」

 

「特に自分の力を見抜けなかった無能に力を見せつけるのは中々に快感だ。君も本当はワクワクしてるんじゃないか? これから始まる生活に。どうだ。これが今の自分の力だと、かつての無能に見せつけてやりたいと思うだろ? しかし、それを面倒臭いと言ってしまう気持ちもまたわかるよ。そんなことを口に出すのは大人の振る舞いじゃないからね。おっと、君はまだ十六歳だったかな。一応は」

 

 

 目を細める。

 怒ったわけじゃない。

 こんな安い挑発に乗るほどアホじゃない。これでも地球異世界合わせて五十年生きているのだ。

 ただ親父にしてはやけに饒舌《じょうぜつ》だなと、違和感を覚えたことが一つ。何だったら初めて見たかもしれない。

 もう一つは、言葉の末尾。『一応は』という言葉遣いが気にかかった。

 やはりと言うべきか、こいつ多分気がついているな。俺が転生者であるということに。

 一応十六歳だったね、という言葉が若干ではあるがそれを示唆している。

 何せ当時五歳のアインが、俺が転生者であることをわずかな傷(十八章参照)で見破ったのだ。ならばあの場にいた親父もまた見破っていてもおかしくはない。

 それであれば、ガキの頃からロクに名前を呼ばれなかったこと。呼ばれても俺だけいつも『君』をつけられていたことにも納得がいく。

 しかし再三になるが、今一度言わせてもらう。

 

 こいつらの鋭さ、特にアインは異様である。何せ五歳だ。聞いた時は『本人が言うなら』と流したが、やはりどう考えてもあり得ない。

 

 そもそもアインが気がついていないなら『俺が転生者であることに、親父が気づいている』とも仮定しない。親父が気がついている、という推測は、あくまで『俺が転生者であることにアインが気がついている』という事実を軸に組み立てている。親父の末尾の言葉も、その事実がなければあくまで『大人びている』という表現として受け入れただろうし、名前を呼ばれないことにしたって『まあそういうものかな』で受け入れた。それが普通の考え方だからだ。

 このアインの鋭さについて、俺はずっと異様だと思っていた。

 そしてその異様を解《ほど》く糸口のような言葉を、ある時聞いた。

 それは――

 

 

「なるほどな。素敵な褒美をどうも。ついでと言っては何だが、もう一つ答えてもらってもいいか」

 

「何かな?」

 

「決闘前に、あんたがアインに言っていた言葉をそのまま並べるよ。仮にも私の血も入っているはずなのに。この仮にもってのは『どっちの』意味だ」

 

 

 親父が表現を崩さぬまま、目だけ見開く。

 俺はそんな親父を鋭く見据えた。

 やはりなと思う。

 仮にも=一応は。

 この言葉を聞いた時、俺は二通りの意味があるなと思った。

 愚かだが、息子として『一応は』自分の血も入っているはずなのに。という意味で使ったのか、もしくは――

 真っ当な方法で産まれていないが、『一応は』自分の血も入っているはずなのに。という意味で使ったのか。

 俺の推測では恐らく後者。何度も言うが、アインの鋭さは常軌を逸している。持病の頭痛もその後遺症だと考えれば合点がいく。

 恐らくアインは、何らかの方法で脳を改造され、かつ通常の出産とは別の、擬似的な方法で産まれている。

 証拠はない。動機も不明。はっきり言えば妄想だ。だが俺は確信してるよ。

 お前はそういう奴だってな。

 

 

「ふっ。ふふふ……」

 

 

 間を置いて、親父が笑った。

 

 

「君の問いに答えて上げたのは、あくまで君の健闘を讃えてのこと。だからその答えが知りたいなら、結果を出してくれたまえ。君の新しいステージで」

 

「そうかい。ならそうするよ」

 

 

 背を向けた。

 アインからの手紙をポケットに入れる。

 居間を出る前に振り返った。

 

 

「父上。いいや。――ディスケンスさん」

 

 

 視線が交錯する。

 お互い本当は赤の他人だと気がついている。ならば親父と呼ぶ必要さえない。

 そして、俺は聞き逃していないぞ。

 ライザがお前のことを『外法の力に手を染めた人間』と称したことを。

 お前の力は人間離れしすぎている。どうせ俺とは違って、卑怯な手を用いて手に入れた力《チート》なんだろう。

 先に俺はこのミッションの終了条件を、婚約相手が他人に奪われた時だと語ったが、もう一つ、主体的にこのミッションを終わらせる方法がある。 

 それは今一度ディスケンスに決闘を挑み、真っ向からこの男を打ち破ることだ。

 もちろん今のままでは無理だ。

 だが今に見ていろ。

 次こそはお前の虚飾《きょしょく》を全て剥ぎ取り、俺が勝つ。

 足を踏み出し、俺は居間を後にした。

 

 

 《帰郷編 了》

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。