次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ 作:松岡夜空
ウェンズリーへ
俺を乗せて、蒸気機関車が走っていた。窓から見る景色は一面の緑である。
向かう先はウェンズリー士官学校。俺がガキの頃に通っていた軍学校であり、貴族学校でもある。ブリンストンはド田舎のため、駅まで三時間、ウェンズリーまで三時間かかる。
だからエイチカを除く俺たち兄妹はいつも寮生活をしていた。
エイチカは年齢的な制限で単純にまだ学園に通っていないため、ブリンストンに住んでいる。
ちなみにだが、今回の旅にライザは同行していない。ディスケンスに思うことがあるらしく、マークに回ったようだ。いかにディスケンスが化け物であっても、神の代理人《シャドウ》であるライザには及ぶまい。
家に置いてきているエイチカが心配だったため、ライザがあの家に残ってくれることはただただ心強い。
これでミッション(候女との婚約)に集中できる。
蒸気機関車が止まる。どうやら着いたようだ。
駅から降りた先は、走行中とは打って代わり、一面の家々が広がっていた。道もしっかりセメントで固められ、馬車が地球でいうところの自動車のように往来していた。
学生証を見せて、寮に入った。今は昼なので、入園は明日からとなる。
ドサリと荷物を置いて横になった。
観光してもいいが、俺みたいな超絶陰キャは家にいる方が落ち着くのである。
転生してすぐならファンタジーの街並みに感動したものだが、なんやかんやもう十六年も生きてるからな。
十六年か――あ、そうだ。感傷に浸ってる場合じゃねえや。
アレやっとくか。
部屋に置いた荷物からガルーダの羽ペンと呪液が入った瓶《ビン》を取り出し、壁一面に呪を描いた。一通り描き終えた俺は、壁に手を当てる。
「闇よ。我が願いを聞け、そして応えよ。我に仇なす全てを呑み込め。闇暗壁《シャドウケージ》」
壁の陣が真っ赤に光り、そして消えた。寝てる間に爆撃されてもかなわんからな。何せ候女との婚約だ。暗殺は常に警戒しておいた方がいい。俺には暗夜《あんや》とかいう胡散臭い部下もいないしな。
とりあえずこれで、魔術による砲撃は防げる。後は――
「雷よ。我が願いを聞け。そして応えよ。弾け我が盾とり対象を焼き尽くせ。雷障壁《ボルトバインディング》」
陣に稲妻が走り、そして消えた。ちなみに描いた陣は魔術を永続化させるためのものである。
念の為にもう一つ入れとくか。
「大地よ。我が願いを聞け。そして応えよ。大地の守護にて不変と化せ。鉄化壁《メタモアイアン》」
壁に紫暗の光が走り、そして消えた。
まあこれで当面大丈夫だろう、多分。
ガタンガタンガタンガタンガタン……。
窓を開いた。
蒸気機関車が、黒い煙を上げながら走っている。
平成初期生まれの俺は、まあまあ雅《みやび》な光景に思えた。
風が吹く。
カーテンが揺れた。
あご肘ついてそれを見て、俺はポツリつぶやいた。
「うるせ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝。
制服に着替え、ブロードソードを腰に佩《は》く。十指には、魔術を付与した指輪を五つずつ。指輪は重ね合わせて呪を唱えることで、その呪に指輪に付与した魔術を融合することができる。通称印術。重ねる指輪の数が多いほど効力は増し、魔術とは魔力をまとわせた物質も指すため、投げナイフなどにも使える。
例えば俺は人差し指と中指に風《シルフ》をエンチャントした指輪をつけている。
そのため人差し指と中指で挟んで投げる俺の投げナイフは、百発百中でありかつ速い(ただしナイフに魔力を込める必要はあり)
他の三指にも指輪をつけているが、薬指の指輪はライザが文明創造《アイテムマスター》で作ったもののため、印術には対応していない。
――とまあ、長々と前置きしたところで。
いよいよ俺の学園生活のリスタートだ。
ガチャリ。
扉を開く。
するとその前に、頭を焦げ散らかした男と、長い栗色の髪を伸ばした少女が立っていた。
「うお!!」
物語の第一歩目早々に俺は声を上げた。
そりゃそうよ。
どっちも知らん。
片方はめっちゃ可愛いし、もう片方に至っては金糸にアフロと中々に前衛的な髪型をしている。
こんな奴と知り合いなら覚えてられそうなものだが。
「何だお前ら? ってか誰だ」
「は、はじめまして。クロード=ローディス様。あたしの名はイシュリエ=クロイツと申します。ヴィーゼン=クロイツ伯の娘で、父の命により、本日はクロード様のお迎えに上がりました。今後ともお世話させていただきますので、よろしくお願いします」
スカートの裾を持ち上げイシュリエと名乗る少女が言った。
か、かわええー。
と思ったのは確かだが、それ以上に気にかかる。
ヴィーゼン=クロイツ伯。
どこかで聞いたようなするが、うーん、思い出せない。
俺は思い出すのを諦め、もう一人のアフロ頭を指さした。
「で? そこの頭爆発している男は?」
「シュピナー=ケーブルだ。てめえ、人の頭こんなにしやがって」
「シュピナー? ああ何かいたような気がするな。昔ちょくちょく家に来てた、男爵の息子だっけ? で? 何の用だ?」
「その前に言うことがあるだろ。言うことが」
「悪いな、念の為だった。暗殺される可能性があるから、防備は万全にしといた」
「何度も呼びかけもしたぞ」
「あーすまん。蒸気機関の音がくっそうるさかったから、風音失《シルフサイレンス》もかけてたんだよな。あれは周りの音も呑み込むからよ」
「お前なー」
「で? 何の用だよ。これ実質三回目な?」
「昔の友人が三年ぶりに戻ってきた。ここに来る理由がそれ以上に必要か?」
「必要だな。理由その一。お前とは多少関わりがあったが、そこの女とは全く関わりがない。理由その二。お前が三年ぶりの友人に会いに来るのに、彼女を連れて来るような奴なら今日でもう絶交だ。理由その三。士官学校に友人もクソもない。そんなことでマウントとるバカはアインだけで十分だ。ましてやこの状況。聞きたいのは端的に一つで、お前は俺の敵か味方か。どっちだ?」
シュピナーが呆けた顔をした後、ニヤリと笑う。
「いやどっちかわからねえよ。はよ言え。場合によったら斬るしかねえから」
「待て待て待て。まあそこだけは合格と言ったところか。他の全ては落第だけどな。ついてこい。久しぶりで忘れたろ。案内してやるよ。ウェンズリー士官学校までな」
「とりあえずその頭どうにかしてくれないか? 隣歩くの恥ずかしいよ俺」
「だからおめえがやったんだよ!!」
シュピナーがイキり立って吠えた。
その後ろで、イシュリエがクスクスと笑っている。
目を向けると、イシュリエがニコリと笑いかけてきた。
めちゃくちゃ可愛い。
いかんいかんと思う。男の最大の弱点は女だ。童貞の場合それはクリティカルヒットになる。
女は信用できない。こんな状況下では尚更だ。なんて、そういった関係になったこともないのに、そんな定説を俺は信じてしまうのだった。