次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ 作:松岡夜空
俺とシュピナー、イシュリエの三人で、蒸気機関車に乗った。
この機関車は士官学校行きで、実質貴族専用のものだ。
全員士官学校の制服を着ており、帯剣もしていた。時間ギリギリだったこともあってか座ることはできず、俺たち三人は立ちながら向かい合った。
「ところでお前、今日はもうしょうがないけど、次からはもっと早く来いよ」
シュピナーが言った。
ちなみにこの二人の役割は、俺のサポートである。さっき周りは敵だらけだろうと言ったが、あれに関しては訂正せねばならない。
確かに周りは敵だらけだが味方もいる。つまり、ローディス家とバーバラ候の婚約に乗ろう、という諸侯もまたいる、ということだ。
この伯爵と男爵の子は、こっち側の人間、というわけだ。
「別に座れなくたっていいだろ。立ってる方が俺は落ち着くわ。何か好きなんだよな、電車で揺られながら立っているのが」
「お前は生粋のバカか俺を舐めてるのかどっちなんだ? 誰もそんなこと気にしていない。さっさと起きて、候女を迎えに行けって言ってんだよ。今のところ仮とはいえお前の婚約者だろ」
「あ、そっか」
俺はポンと手を打った。
言われてみればそうだった。
俺は転生前と後を合わせて五十年恋愛というものをしたことがないのだが、確かにこういう場合、男が女を迎えに行くのが筋っぽい。恋愛漫画だと、そういう展開が多かった。
「なるほどなー早く言ってくれよ」
「言おうとしたら頭を焦がされたんだよ」
「でも俺、バーバラ候の家なんて知らねえよ」
「心配するな。男爵の三男坊のお前に、候女の家を訪ねる権利はない。アポなしで言っても衛兵にぶっ殺される展開も一《いち》パーはあるよ。常識で考えたらわかるだろ、衛兵がお前という異物を放置しておく展開があると思うか? ん?」
「いやおめえが迎えに行けって言ったんやろがい。そもそも俺とそいつは婚約者だろ? 取り次がれるだろ? 普通に考えて」
「婚約者と言っても候補の一人なんだよお前は。一応筆頭ではあるけどな。それでもまだ確定じゃない。お前まだ候女と会ってないんだろ?」
「普通に会ってないな。何なら顔も知らねえよ」
「かなり適当だな。さすが異例の男爵の異名を持つだけあるよ、お前の親父さん。侯爵から政略結婚を持ちかけられてそこまで雑に扱えるのはあの人ぐらいのものだろう。普通情報の引き継ぎぐらいするぞ」
「いや、アインから情報引き継ぎの話はあったよ。正確にはアインからの手紙を父上から預かった」
「は? お前はそれを? どうしたの?」
「手紙を開くことで発動する陣型の魔術トラップの可能性があるから開いてねえよ。どこかで活きる可能性もあるから保管はしてるけど今も燃やそうかどうかで悩み中。微妙なところだな」
「いや罠って何だよ!! 開けろや!! 絶対に開けろ!! 活きる場所は今しかないの!! 今しか!! わかるでしょ!? 普通に考えたら!! どうしてそんなに全てを疑って生きてるの君は!! そんなの絶対おかしいよ!!」
シュピナーが勢いよくツッコむ。
こいつテンション高いなーと思っていると、クスクスと可憐に笑う声が耳をくすぐった。
見ると、イシュリエが口元に手を当てて笑っていた。
うーんやっぱり可愛い。
ついつい見続けてしまうと、またイシュリエがニコリと笑う。
天使かな? と思う。
だがシュピナーと行動してるしシュピナーのツッコミでウケてるし、例によって俺とは脈なしなんだろうな。
はぁとため息をこぼす。
まあ好きになってもらえたところで何をしたらいいのかもわからん。
俺ってのはその程度の男だ。人生二回目だっていうのに、好意の伝え方さえわからずじまいで終わりそうだ。
自嘲した。
その後、気を取り直して俺は口を開いた。
「じゃあ迎えに行くってのはつまりどういうことなんだよ」
「それは――まあ行けばわかる」
視線を外しながらシュピナーが言った。
いぶかしげに見ていると、鐘の音が鳴った。
どうやら学園についたらしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇
駅を出て目の前に学園はあった。
荘厳な門構えの先に、壮大な建物が建っている。
だが俺が驚かされたのは、建物ではなかった。門構えを越えた先に並ぶ、人の双列だ。向かい合い、気色の悪い道を作っている。
「何だこりゃ」
「候女を出迎える列だよ。見ての通り全員士官学校の生徒で、お前のライバルだ」
目を向ける。
確かに敵意を持って見られている。
「俺の顔は知ってるようだな」
「当然だ。お前と違って敵の情報は全て把握しているさ。人生がかかっているとか、そんな言葉じゃ足りないぐらいの、ビッグイベントだからな。恐らくお前の情報はかなりの高値で売買されているはずだよ。一応聞いておくけど、お前変な性癖とかないだろうな?」
「あるわけねえだろ。ってかあっても言わんわ」
「ならよかった。ちなみにさっき俺の頭をアフロにしたことに関してお前を責めたが、自室を即固めたお前の発想は正しい。じゃなきゃお前の荷物は即なくなっていただろうな。お前の情報を抜くためによ」
「なるほどね」
意味もわからぬまま、列の最後列に並ぶ。並ぶ前も後も、厳しい視線を向けられていた。
これはこれで中々に面白く、口角が上がった。
まるでスーパースターになった気分じゃないか。
まあ、ヒール役だが。
「で? この列には何の意味が?」
「さっきも言ったが、候女の住居で出待ちするなんてのは、伯爵だろうが何だろうがほぼ不可能だ。普通に衛兵に追い返される。向こうも立場ってものがあるから真剣だよ。甘い対応はまずしてこないと思ってくれていい。取り次がれるとしたら、伯爵本人。もしくはその長男でギリギリってところだ。貴族は領主と長男以外、平民とさして変わらないからな。まあ爵位にもよるが」
「約束してもか?」
「約束したのか?」
「いやしてないけど」
「だから問題なんだ。婚約ってのはあくまで親同士できめたことで、候女であるリリーシャ様は納得していない。バーバラ候はお甘い方でいらっしゃるから、婚約を決めても最後は娘の意思でと決めているらしい。だから、お前のことを全く知らない状態で、そんな約束が取り付けられる可能性はゼロってわけだ」
「名前今知ったわ」
「言ってよかったわ。後リリーシャ様は気位の高い人で、親の都合で決めた婚約に関して一ミリも納得していないらしい。つまりお前のことも認めてないどころか、何なら敵と認識しているまである」
「なるほどな。ところで質問なのだが、これもしかして、列の最前列にいた方が好感度アップとか、もしかしてあったりする?」
「当たり前だ。アインさんなんて一年、いや十ヶ月ぐらいかな、ずっと休むことなく、早朝からここに立ち続けてたんだぜ?」
「マ、マジ?」
「大マジ。元々最初にこんなことを始めたのかアインさんで、それを多くのライバルがマネて今に至るんだ」
「でも俺こんなの始めてみたぜ?」
「お前が入学する頃には終わってたからな。ライバルが多すぎて、互いに先を取ろうとして、最後は一日中立つことになって、アインさんはぶっ倒れた。そこまでやって、やっとリリーシャ様も折れたんだ。俺が知る限り、リリーシャ様唯一のデレ話だよ」
「なるほどね。すまんな二人とも」
「いいさ。俺たちはお前にかけている。必要なものがあるなら何でも言え。できる限りのサポートはしてやる」
「いやそうじゃなくて。多分無理だなこれ。恋愛経験ゼロの俺には重すぎ。今からでも鞍《くら》替えしていいぞ。俺は恨まんマジで」
「お前な〜〜〜〜〜〜〜〜」
シュピナーが人の胸ぐらをつかんで吠えてくる。俺は口笛を吹きながらそっぽを向いた。
見ると、またイシュリエがクスクスと笑っていた。こんなアフロ頭の好感度を上げるのに一役買ったと思うとイラッとくる。
しかしまあ、いつものことではある。
せっかくだから、イシュリエにも話をふってやろう。
モテない男だろうと、女と話す権利ぐらいはあるのだ。
そう思ったその時。
「来たぞ、クロ」
シュピナーが言ったので目を向けた。
「おはようございます、リリーシャ様」
人の双列の大合唱が響く中、二人の女と四人の男が門構えをくぐった。