次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ   作:松岡夜空

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圧倒

「リリーシャ様!! 今日も麗しい!!」

 

「リリーシャ様!! 貴方は学園の女神です!!」

 

「リリーシャ様!! どうか私と、清く正しい交際を!!」

 

「リリーシャ様」「リリーシャ様」「リリーシャ様」「「リリーシャ様」」

 

 

 や、やべぇ〜。

 病気だよこいつら。

 一秒でも早くここから離れたい。

 こいつらと同列に立っている自分に耐えられない。

 悪い。

 俺、けーるわ。

 口にも行動にも出そうとしていた時、魅惑の女、リリーシャが足を止めた。

 ジッと俺のことを見つめてくる。なるほど。確かに美人ではある。ただ俺のタイプではなかった。というよりこの状況が、恋愛感情をへし折り彼方に吹き飛ばしてしまうに十分すぎた。

 

 

「クロード=ローディス。あなたがそうね」

 

「ああ。ども」

 

 

 俺は周りの空気に圧されて軽く頭を下げた。この後どうすればいいのか全くわからん。地球異世界合わせて五十歳。未だに女にどう好意を伝えたらいいのかよくわかっていない。

 まあこの女の場合、全く好意は持ってないけどな。

 

 

「なっていないな。クロード=ローディス」

 

 

 野太い声が聞こえた。声だけで相応に鍛えていることがわかる。訓練のやり過ぎで声帯を何度も痛めつけてできた声だこれは。リリーシャの横に立っていた執事兼護衛の一人だろうと思われる。

 

 

「貴族の挨拶。特に下位貴族が上位貴族に挨拶する時というのは、こうするんだ」

 

 

 手を伸ばされているのが、影の動きでわかった。俺は反射的に男の親指をつかみ、そのまま男の背にまで回り込んでいた。

 

 

「いたたたたたたたた!!」

 

 

 護衛が情けない声を上げる。抵抗しようとしているみたいだが、痛みが増すだけだ。関節の構造上この形にまできたら反撃は不可能だ。手が絶対に届かないからだ。

 

 

「指取りの警戒もしてねえとは不用心な奴だな。下位貴族なら何もしねえと思ってのこの様か? それとも素か? いずれにせよお前は護衛失格だよ。何から誰を守るつもりだったんだ? お前」

 

 

 放り出した。

 指を赤く腫れ上がらせながら、男が睨みつけてくる。

 俺はそれを見下ろし笑った。

 

 

「貴様何をしている!!」

 

「狂ったのかお前!!」

 

「みな、クロード=ローディスを取り押さえろ!!」

 

 

 周りから一斉に声が上がる。リリーシャの護衛の四人は、リリーシャが片手で制しているため動いていない。今、声を上げたのは双列を作っていたリリーシャファンクラブの面々だ。

 俺は半歩下がって、全員を見渡せる位置に立ち、両掌を合わせて音を響かせた。

 この場にいる全ての者がたじろく。 

 魔術師が両掌を合わせたら警戒せねばならない。魔術師は基本、両掌に魔法陣を刻んでいるものだからだ。故に魔術師は一つだけ、呪もなく陣術を発動することが可能なのである。

 さすがに剣と魔術を教える士官学校だけある。最低限のことは、知っているようだな。

 俺は笑って両掌を開いた。起動の合図と思ったか、何人かが後ろに下がる。

 

 

『――楽しいだろ?』

 

『弱者をいたぶるのはさ』

 

 

 ふとディスケンスの言葉を思い出した。 

 確かに面白いかもしれないな。

 ここはまるでウサギ小屋だ。

 俺はスタスタと、倒れているリリーシャの護衛に近づいた。最初こそ鼻息を荒くしていた男であったが、俺が前に立つと目を見開き瞳孔を震わせ、そしておびえた。

 高魔力魔術師のマナーとして、俺はいつも外に出す魔力を一割程度に抑えている。

 魔力は精霊の個我を狂わせる。そして高魔力にもなると、自分、そして他者の個我をも狂わせてしまうからだ。以前そのせいで、キルバルトを殺しかけた。――いや、嘘です。本当は途中から正気でした。さーせん。

 俺はそれを今、半分ほど放出していた。

 高魔力魔術師を前にした魔術師は大抵おびえる。これがさっきも言った、他者の個我をも狂わせるってやつで、高魔力魔術師の魔力は相手魔術師の恐怖指数を多大に膨らませるらしい。

 子供だったアインが必要以上に俺に怯えていたこと。あの巌《いわお》のような男だったキルバルトが生まれたての子羊のようになったのもそれが理由だ。

 あまり言いたくないが、あの状況で俺に向かってきたキルバルトは客観的に見れば立派と言える。主観的には死ねと思ってるけどな。

 俺は手を伸ばす。

 

 

「ヒッ。いや、やめて……助けて。誰か、誰かー」

 

 

 何だかそっち系っぽい声を上げて震えるハゲの護衛。

 だがそんな俺の前に、小さな女の子が立ちふさがった。

 イシュリエである。両手を広げて真っ直ぐ俺をにらみつけている。

 まーた嫌われちまったよと思った。しかしいつものことでもあるのだった。

 俺はそんなイシュリエの肩に手を置いて言った。

 

 

「別に何もしねえよ。信じろ」

 

 

 そのままイシュリエの横を通り過ぎ、子猫の用に怯えた男に手を伸ばした。

 そして、赤く腫れ上がった指を無情に引っ張る。

 

 

「う、うわあああああああああああ!!」

 

 

 叫び声を上げる護衛その一。

 俺はその指を離した。

 

 

「うるせえなーとりあえず脱臼治しただけだ。お前みたいなのが候女の護衛とはな。話にならんな」

 

「確かに。少しは期待してたんけど見かけ倒しだったようね。よくある話だけど」

 

 

 髪をかきあげて女が笑う。

 その意味深な反応に俺は眉を寄せた。

 何だ。よくある四天王最弱ってやつなのか、こいつは。

 実際、実戦経験皆無、身体を鍛えているだけのとんでもない雑魚だったが。

 逡巡《しゅんじゅん》している俺に対し、シュピナーがツンツンと背を突いてくる。

 

 

「クロ。残念だがこいつはリリーシャ様の護衛じゃない。この方はウェンズリーの教官だよ」

 

「え?」

 

 

 声を上ずらして俺は言った。

 そんな俺を――いや、俺たち三人を見て、リリーシャが静かに笑った。

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