次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ   作:松岡夜空

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稽古

 六限目は剣撃稽古だった。場所は大きめの道場で行われる。割は自由に組めるのだが、俺はリリーシャに全て合わせなければならないので最高に自由がない。

 生徒が整列し正面に三人の教官が立つ。その中でも一際イケメンの教官が口を開いた。

 

 

「みんな。この剣撃稽古を取ってくれてありがとう。教官のトラヴィスだ。後ろの二人はスラッグとデルタ。私も含め、みな再生《リザレクション》の使い手だ。安心してケガをしてくれていい。知っての通りこの学校は、基本的にどの授業を取るのも自由だ。そんな中、辛く危険なこの授業を取ってくれて嬉しいと思う。貴族は強くなくてはならない。民を従えるためではなく、導くために。我々が最前線に立つことはまあないが、心だけは前に立つべきだ」

 

「トラヴィスさん。ちょっといいでしょうか?」

 

「何だいデルタ。これから上がるところだったのに。まだ語りたいことの一割も語ってないよ。せめて五合目まではいかせてくれないか?」

 

 

 そこかしこで笑い声が上がる。中々にうざいムーブだが、イケメン無罪ってやつでお茶目として許されている。

 ガリガリ頭をかいて呆れていると――

 

 

「くくく」

 

 

 隣から、嘲るような笑い声が聞こえて目を向けた。見るとアフロ頭のシュピナーがポケットに手を入れ、口角を持ち上げていた。

 気持ちは同じだが、中々にガラが悪いなと思った。もしかしたら、あいつと何か因縁でもあるのかもしれない。

 

 

「みんな聞いてくれ。同じく教官のデルタだ。確かに我々は再生《リザレクション》が使えるし、練度にも自信があるが、それでも絶対に怪我をしてほしくない部分がある。それは目、耳、鼻、舌の四感と、頭部だ。目、耳、鼻、舌の四感は、器官として複雑のため修復が非常に難しい。治せないことはないが、時間もかかるし場合によっては後遺症も残る。頭部に関しては、まず脳に対しての再生《リザレクション》が使えない。複雑すぎることが一つと、脳に魔力が悪影響すぎるからだ。かつて再生《リザレクション》の達人が脳の修復を可能にした例もあるが、人格は完全に破壊され戻ることはなかった。また魔力が脳に悪影響なこともあって、頭部の外傷――それが仮に脳に達していないにしても――修復が非常に難しい。稽古は刃止めをはめた剣を行うため切れ味は皆無だが、鈍器としては十分に威力がある。フルフェイスの兜、プレートアーマー、ガントレットなども用意しているため、自信がないものは着用を忘れないこと。以上。スラッグさんは言いたいことはありますか?」

 

「そうですね。第一は怪我をしないこと。デルタさんの再生《リザレクション》講座に補足させてもらうと、再生《リザレクション》は治療される者の体力を大きく削ります。つまり、訓練で疲労した後にかけるには不向きということで、怪我の具合によっては一日二日置くやもしれません。それはどういうことかと言うと、それだけ痛みが長引く、ということです。痛い思いが嫌いな者は必ず防具をつけること。第二にトラヴィスさんの言うことに感化されすぎないこと。我々は生まれながらに持っている人間だが、何でもできるわけではない。また何でもしていいわけではない。最低限それらを覚えておけば大丈夫でしょう。後貴族は逆恨みされることも多いので、武力はあるにこしたことはない。この授業が少しでも君たちの人生の彩りを良くしてくれればと思っている。以上です」

 

「ありがとうございます。それじゃあそろそろ始めちゃいましょうか? トラヴィスさん」

 

「あ、ああ、そうだね」

 

「それじゃあ二人一組を作って打ち合い始めて。防具がほしい人はこちらへ。怪我をしたらすぐに申告すること。休憩も遠慮せず、疲れたらすぐにでもとること。いいね」

 

 

 パンパンとデルタが手を叩いて指揮をとる。「何だか納得いかないなー」とトラヴィスがボヤくと、そこかしこで華やかな笑い声が響いた。

 

 

「クク。ククク……」

 

 

 隣でシュピナーが静かに嘲笑する。

 何に対して笑っているのか。この生ぬるすぎる訓練に対してか、もっと別の何かに対してなのか。

 それを測るために、俺は目だけでシュピナーを見据えていた。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 キィンキィンキィンキィン!

 何度か剣を打ち合わせてから、相手の剣を跳ね上げた。

 反動で男が尻もちをつく。男に切っ先を向ける。男は両手を上げて降参を示した。

 

 

「おいおいマジかよ。あのジョージさんに勝っちまったよ。俺あの人が剣撃稽古で負けてるの初めて見たぜ」

 

「しかも片手だぜ。左手を一切使ってねえ。防具もしてないし」

 

「朝の騒ぎ見たろ? 鬼のペンデュラム教官を、魔力圧だけでカマ化させた男だぜ? 俺らに勝てるわけねえよ」

 

「さすがにあのアインさんの後を継いでリリーシャ様の婚約者になるだけあるわ。俺等とは住んでいる世界が違う。でも昔は弱かったって話聞いたけど」

 

「弱かったと言っても、氣功術と体術だけで士官学校に入学した男だからな。さすがに魔力ゼロじゃ大した成績は出なかったらしいが、それでも体術だけなら昔から上位にいた男だ。病的に努力家でもあって、『空回りの永久機関』とよくアインにバカにされてたな。だが良い師匠もついたんだろうな。あの努力に魔力まで戻ったら、手がつけられなくなるのも納得だよ」

 

「戻る? どういうことだ? 今は魔力が使えてるし」

 

「アインが古代魔術を使って封印してたらしい」

 

「うわマジかよ。ひくわー。昔から陰湿な奴だったけどマジでカスだったんだな、あいつ。実は前々から嫌いだったんよ、あいつのこと。リリーシャ様の手前言えなかったけど」

 

「ああ。まあ、今じゃグランフォートの牢の中だ。やっぱり創生十二神様は見てるな」

 

「こりゃ今のうちに俺等の名前も覚えてもらわないとな? シュピナーとイシュリエはもう懐に入ってるって話だぜ。急がねえと」

 

「ゴマすりシュピナーと女玄の伯爵の娘イシュリエか。その手の嗅覚が一級のあいつらが味方してるなら、俺たちもそっちについた方がいいのかもな」

 

「おいおいやめとけって。で、名前なんだっけ? 正直ノーマークでよく調べてなかった。そうあれだ。確か――」

 

「クロード=ローディスだよ。異例の男爵の三男。クロード=ローディスだ」

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 手加減に疲れて、壁際に座った。隣にはイシュリエが息切れしながら座っている。手には脱ぎ終えた兜を持っていて、栗色の髪が汗で乱れていた。

 

 

「大丈夫か? イシュリエ」

 

「え? あ、はい大丈夫です。ご心配していただき、ありがとうございます、クロード様。クロード様はお怪我などはありませんか?」

 

「いや全く。正直余裕だな」

 

「本当にお強くなられたのですね、クロード様は」

 

「俺の昔を知っているのか?」

 

「あ、申し訳ありません。それは知らないのですが……」

 

「いやその方がいいよ。黒歴史だから」

 

「黒歴史?」

 

「あーこっちの話こっちの話」

 

「ふふふ」

 

 

 イシュリエが口元に手を当てて笑う。ふと、リリーシャの言葉を思い出した。

 

 

『イシュリエはあんたみたいな男が好きなのよ』

 

 

 あり得ないとは思うが、そう言われると何だか照れてしまう。

 

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