次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ   作:松岡夜空

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賭け

「あたしも旅をすれば、クロード様のように強くなれるのでしょうか?」

 

「いやどうだろう? 俺の場合、一緒にいた人がいた人だからなー。強くなりたいのか? イシュリエは」

 

「そうですね。姉は剣もずっと得意でした。できたら、姉のようになりたいのです。高望みである、ということはわかっているのですが」

 

「んー、すごいありがちな言葉になるんだけど、イシュリエはイシュリエのままでいいんじゃないか?」

 

「そうでしょうか?」

 

「月に太陽のように輝いてほしいと思う奴はいないじゃん? 月には月の魅力がある。同じことだと思うけどな、俺は」

 

「あ、ありがとうございます、クロード様。そう言っていただけて、すごく嬉しいです。あたしも月はすごく好きですから」

 

 

 両手で口元を隠し、顔を赤くするイシュリエ。俺は地球で生きた年数も合わせると、五十歳である。イシュリエは多分高校生ぐらいの年だろうか。

 だから娘に話しかけるノリで言ったのだが、考えてみると十六の男が言うような台詞ではなかった気がする。それでもこんなことを言うようになったのは、この世界に来てからである。

 地球にいた頃の俺が言っても何の説得力もない。全ては強くなったから言えること。

 全てライザのおかげだ。ここにはいないけれど。

 

 

「驚いたな、あのクロからそんな台詞が聞けるとは。しばらく会わないうちに、成長したんだな」

 

 

 手を叩きながらやってきたのはシュピナーだった。俺の隣にどかりと座る。怪我の類は一切なく、汗の一滴もかいていなかった。俺と同じように防具も一切していない。

 

 

「シュピナーさんも、大丈夫でしたか? お怪我とかはしておられませんか?」

 

「ああ余裕余裕。全然大したことねえや」

 

「ふふふ。その割には逃げ回ってばかりいたような気がしますけど」

 

「戦略的撤退ってやつさ。傷つけても仕方ねえからな。俺は無意味な戦いはしないのさ。平和主義者だからな」

 

「ふふふ。でしたら、そういうことにしておきましょう」

 

「それよりイシュリエ。その水筒貰えるか。喉がかわいた」

 

「え」

 

「おいシュピナー」

 

「おいおいまさか関節キスがどうので騒いでんのか? ガキだねー。ウブだねー。ならいいや。それなら、先にお前が飲んでもいいんだぜ? クロ。それなら関節キスじゃなくなるだろ? 俺はその後でも一向に構わんよ」

 

「はあ?」

 

 

 シュピナーを見据える。

 シュピナーは嫌らしく笑っていた。間違いなく確信犯だが、おかしい。

 こいつの目的は、リリーシャと俺との婚約のはずだ。

 俺とイシュリエの背を押す意味は皆無である。いやあるいは、俺がそれに応じることで、イシュリエを気持ち悪がらせようとしているのか。つまり俺の淡い恋心を間接的に終わらせて、リリーシャとの婚約に集中させようとしているのか。

 

 

「お前さ――ん?」

 

 

 目を向ける。

 正面にはリリーシャが剣を突きつけ立っていた。フルフェイスの兜を小脇に抱えているが、汗は一滴も流していなかった。

 

 

「ずいぶんと余裕そうね。どうかしら? 一戦」

 

 

 しばしリリーシャを見据えてから、俺は膝に手をつき立ち上がる。

 リリーシャが白線(道場中心)に向かう中、俺は背中に目を向けた。

 

 

「シュピナー」

 

「わーってるよ。さっきのは冗談だ。喉《のど》なんてかわいてねえさ。まあお前が飲む分には止めねえけど」

 

 

 あごに手を置き、シュピナーが笑って言った。

 本当にわかってんのかね、こいつは。

 リリーシャが足を止めた。

 俺はリリーシャと立ち会うために、ある程度の距離を離して向かい合い、足を止める。

 

 

「ただ戦ってもつまらないわね。そうは思わない? クロード」

 

「いや別に」

 

「賭けをしましょう。負けたほうは相手の言うことを何でも一つ聞く」

 

 

 こいつ……。

 周囲がざわついている。

 そりゃそうである。

 これで俺が勝ったなら、リリーシャとの婚約は成立したようなものだ。元々親同士の政略結婚でありながら、それでも仮になっているのはリリーシャが俺を拒否しているからだ。この賭けにより、その障壁をへし折ることができる。

 恐らく全員が、それを理解していることだろう。場合によっては、この一事で全てが決すると。

 

 

「どうかしら?」

 

 

 リリーシャが笑って言った。

 よほど自信があるようだ。俺の朝の立ち回りはこいつも見ていたはずだが、まあ体術で強いものが剣でも強いとは限らない、というのはその通りでもある。

 俺は刃止めがついた剣で肩を叩いた。

 

 

「条件がある」

 

「何かしら?」

 

「お互い防具なしならやってもいい」

 

 

 またざわめきが起こる。

 刃止めをつけているとはいえ剣は剣だ。鈍器としては十分で、当たりどころが悪ければ骨も折れる。

 実用性とハッタリ込みの言葉だが、さてどう出るかな。

 

 

「ふふ。それであたしを下ろそうってつもりかしら。残念ね。俄然燃えてきたわ。ブライアン」

 

 

 兜を放る。

 それはガラガラと音を立てて転がっていった。リリーシャは更にガントレットとアーマープレートも、床に落とした。重い装備がガチャンと大層な音を立てる。

 この状況に守衛は慌てただろうが、それ以上にビビってる者がいた。それは教官である。三人の教官が慌ててリリーシャの元に集まってくる。

 

 

 よーしおっけおっけ。

 止めろ止めろ。

 

 

 一撃で婚約が成立しようが(というか成立してほしくないし)こんな面倒臭い戦いは俺はまっぴらごめんなんだよ。

 

 

 しばし目を覆いたくなるような言い争いが起きる。

 そして。

 

 

「構いません」

 

 

 教官と男の護衛、リリーシャが言い合う中、女の護衛が言い切った。

 

 

「ちょっと待って下さいプルーニャさん。あなたはリリーシャ様のお気に入りかつ世話役でしかないわけですからいいかもしれませんけどねえ、こちとらリリーシャ様に怪我があった日には」

 

「大丈夫ですよ。何かあっても再生《リザレクション》の使い手が私を含め七人。どうとでもなるでしょう。ただし痛みまではどうにもならない。覚悟はあるのよね? リリーシャ様?」

 

「あ、あったりまえでしょ!! ボコボコにしてやるわ、あんな奴」

 

「わかりました。教官方。申し訳ないのですが、一度ここにいる皆を下げてもらえませんか?」

 

「いやしかし」

 

「責任は私がとります」

 

「あなたに取れるような責じゃ済まないと言ってるんですよ! 教官方も我々も! あーもういいですよ面倒くさい。どうなっても知りませんよ、我々は。一応言っておきますけど、奴は強いですよ、シュミット=クロウは。傭兵男爵は玉石混交ですが、シュミット=クロウは東の八剣に数えられる男。八剣の強さは他国の将軍クラスだともっぱらの噂。お嬢様に勝てる相手じゃ絶対にありません。負けたら鼻からシチュー飲んでもいいですよ、私は、はい」

 

 

 な、何だかかわいそうなことしたかな……。

 

 

 かくして道場の中心には、俺とリリーシャが立つばかりとなった。

 お互い稽古服のみであり、一撃喰らえば軽症ではすまない。

 

 

「これで五分ね。まじりっけなしの真剣勝負。あたしが勝ったらあたしの言うことを一つ聞いてもらうから」

 

 

 やれやれ。

 俺は刃止めがついた剣を振るった。

 

 

「後悔するなよ」

 

 

 俺が言った。

 リリーシャが剣を突き出し構える。

 ふーん。

 俺は構えることなく相手のことを眺めた。まあ結局のところ剣を合わせてみないとわからないのだが、スキル光の剣の効果を乗せていないアインと互角かやや下ぐらいかな。肌感としては。つまり、俺の敵じゃないな。

 

 

 ――ん?

 

 

 ふと、ギャラリーに目をやった。

 そこにはイシュリエとシュピナーがいた。

 シュピナーはあごに手を置き、にらみつけるように俺を見据えていた。

 

 

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