次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ 作:松岡夜空
「はああっ!!」
気合いとともに剣が突き出される。いい一撃だなとと思った。
「おおおー!!」
ギャラリーから声が上がる。俺は首の動きだけでそれを避けていた。俺の剣先は床を向いたままである。
「てえりゃああああああ、はあ! はあ! はあ!」
剣を引き、リリーシャが剣を振るう。俺は全てそれを体捌きだけで避けていた。
何本か避け続けると、リリーシャの息が切れ始めた。ボクシングと同じで、剣は避けられるのが一番こたえる。肉体的にも、精神的にもだ。
「ふーっ!!」
リリーシャが目を閉じ、息を吐いた。リリーシャの身体から白い煙が上がる。
氣功術。目に見える氣功術は達人の証。更にそれを魔術の技法、肉体活性と組み合わせることで、吹き出すオーラを紫暗に染め上げた。
ふーん。練気憑魔《れんきひょうま》か。俺も見るのは初めてだな。
端的に言うと氣功術と魔術のハイブリッドだが実戦ではあまり、というかほぼほぼ使われない。この手の難しいことをするなら光で視界を潰すなり遠距離から火球でも投げてる方が早いからな。難しさと威力、汎用性が釣り合ってない。
とはいえ剣のみに絞った戦いをしようっていうなら意味はある。
まあ余裕なんだけど。
俺は剣を持ち上げ、肩を峰《みね》で叩いた。
「はーっ!」
リリーシャが突っ込んでくる。やはり突進しての突きか。俺は跳躍してそれをかわし、リリーシャの頭に指を置いてそのまま後方に回った。
着地する。
「どりゃあああああああああ!!」
振り返った先に、剣が猛烈な勢いで迫っていた。平突きから派生する横薙ぎの一撃。それを背後にまで回したか。遠心力考えれば威力は二倍。
淀みない動きから見て、突発《アドリブ》じゃなく技かな。
ガキィン!!
俺はそれを剣の柄で受け止めた。ギリギリと柄と刃止めの鉄が噛み合う音が響く。
やば。しくじったわ。
刃が折られることを避けて頑丈な柄で受けちまったが、刃止めつけてるなら多分折れなかったな。普通に受けにくい。
それにしてもこの威力。刃止めがなかったら刃はもちろん、柄でもすっ飛んでいたことだろう。化石みたいな技法で存在しか知らなかったが、思っていた以上に出力がある。
止めきれん。
ガキィン!!
剣が道場の端に飛んでいく。切っ先が俺の喉元に突きつけられた。
俺は両手を上げた。
「まいった」
笑って俺は言った。
しばしの沈黙があり、周囲から歓声が上がる。
リリーシャは肩で息をしながら俺を見ていた。体内で氣を爆発させたせいか、全身汗でびっしょりだ。
そんなリリーシャがイライラした顔で、眉を動かす。
ぶっちゃけ普通に負けたんだけど、まあいいか。結構強いよこいつ。
驚きだわ。
「ふーっ」
リリーシャが息を吐く。
俺は壁際まで戻ろうと足を動かす。
「約束通りあんたを手駒として使わせてもらうから。今日からあんたはあたしの犬よ。いいわね?」
「はいはい」
背中越しに手を振った。手首が中々に痛い。
さすがに舐めすぎたな。これが実戦なら死んでたかもしれない。猛省だ。
「後、放課後、正門で待ってなさい」
振り返った。
リリーシャが厳かな態度で腕を組み、俺を見ていた。不思議と見下されている気がするのがすごい。俺より身重低いのに。
「お父様があなたと話があるそうよ」
ふーん。
音に聞くバーバラ候との面会か。
いよいよって感じだな。
「はいはい」
俺は今度は手を振ることなく背を向けた。痛む手首を擦るようにして、擦る手を手の甲に伸ばしていく。俺は目だけでそれを追っていた。
手の甲を擦る手の中には、先の一撃を避ける時に拝借した、リリーシャの髪が隠されている。
しばらく手の甲を擦っていると、薬指の指輪が紅く光り、蒼い宝玉をはめた元の指輪に戻った。
俺は表情を崩すことなく手を離す。リリーシャの髪は左右どちらの手にも残っていなかった。
「いいムーブだったな」
「そりゃどうも」
俺は適当な返事を返し、シュピナーの隣に座る。
ぼんやりと、道場中心に目を向けた。
「さすがだね、リリーシャ候女。今の旋風烈火《せんぷうれっか》も見事だった。やっぱり君の相手はみんなでは無理かな。僕が相手になろう」
「は、はい!! よ、よろしくお願いします!!」
トラヴィスの言葉に、リリーシャがかしこまって言った。
俺は目を細めた。
「怖い顔してるな、クロ」
シュピナーが言った。
「あの二人の関係が気に食わないのか?」
「いや? そんなことはどうでもいい。俺が話を聞きたいのはお前だよ、シュピナー」
「光栄だね。何だよ」
「お前、さっきの戦いが始まる前に俺をにらんでいたな。何故だ。端的に答えろ」
お前は本当に味方か?
そういう意味で問いかけた。
シュピナーはしばし俺を見据えて、笑った。
「さっきも言ったが、今の勝負、あえて負けてやったのは正解だよ」
「あえてじゃないさ」
「顔が素だったぞ」
「ただのクセだよ。普通に一本取られたと思っている。手首も痛いしな。強いよあいつ」
手首を擦って俺は言った。
再生《リザレクション》は他者にしか使えず、治療《リカバリィ》は裂傷にしか効果がない。
「くくく。なるほどな。で、何だったかな、俺がにらんでいた理由だったな。答えは簡単さ。仮にこの勝負、お前が勝ち、婚約の成立を約束させていたら、最悪の場合お前の首は飛んでいた」
「え?」
「わからずにしてたのか。やっぱお前は持ってるな。まああくまで最悪のケースが重なった場合の話で絶対じゃないし、その場合俺がいかなる手を用いてでも止めていたから現実には起きていないけどな。そもそもこの婚約は親同士が決めた政略結婚だが、それでもお前が婚約者(仮)なのは、バーバラ候が娘の気持ちを第一に考えているから、という建前を前に出しているからに他ならない。そんなバーバラ候に対し、賭けで婚約を成立させたなんて、第三者が悪意を持って伝えたらどうなるかって話さ。しかも相手はこの機会にお前の首を飛ばそうと全力だ」
「だからといって首は飛ばんだろ」
「飛ぶさ。あいつはそういう奴だ。後これは覚えておけ。お前を潰したいのは周りの貴族だけじゃない。実は候女もそうなんだよ。候女はこの婚約に乗り気じゃないからな。俺ならバーバラ候と同時に候女に喋略《ちょうりゃく》をかける。ガキの俺が思うのだから海千山千の貴族《こいつら》の親父や参謀もそうするさ。候女が気まぐれにでも『無理矢理させられた』と言えばお前の首は飛ぶよ。これは確実だ」
「ほーん。溺愛だな」
「そうじゃない」
「え?」
「今のこの盤面で諸侯と候女。二方向から攻められる隙を作ってる時点でもうダメなのさ。王が子に求めていることは一点。後継者足り得るかどうかさ。それを求めないようでは王の器ではない。後であいつの親父に会うんだろ? 気をつけろよ。何を仕掛けてくるかわからんぞ」
こいつ……。
アフロなんてふざけた髪型してるくせに中々考えてるな。
意外すぎる。
「もう一つ質問がある」
「何だよ」
「お前、あそこの教官と何か因縁でもあるのか?」
俺はリリーシャと剣を合わせているトラヴィスを指差し言った。