次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ 作:松岡夜空
「……何故そう思う?」
「お前があいつが話す度に嘲笑していたからだよ。何かあるのかなと思ってな」
「あいつは男爵の息子なんだよ」
「へー」
「ちなみに、イシュリエの婚約相手でもある」
「え?」
目を道場にやった。
イシュリエは防具を着て、懸命に稽古に励んでいた。
「イシュリエの出自は伯爵家だろ? よく成立したな。男爵家と伯爵家の婚約なんて」
「叙爵される前はただの騎士だからな。しかも広いばかりで大した土地じゃない。伯爵ってのは名ばかりで、実質男爵みたいなもんだ。何より、イシュリエの親父さんであるクロイツ伯が元々仕えていた相手がシャーク・ルーデン男爵。つまり、トラヴィス=ルーデンの親父なのさ」
「へー」
「わかるだろ? 美人な婚約者にあの顔にあのムーブ。バカにもしたくもなる。あんなののどこがいいのか、俺にはわからんね。クッソ寒いと思わなかったか? あの発言。なあクロ」
確かにそうだ。寒いと思った。だが女が『ああいうのがいい』と思う気持ちもよくわかる。
実際、俺もイシュリエが同じことを言っていたら『なんて立派なんだ』と思っていたに違いない。
人間なんてそんなもんだ。
「悪いな、疑った。てっきりスパイかと思ってな」
「気にするな。お前の仕事をキチンとこなしてくれりゃ、それが俺への貸しの返しになる」
「ああ、そうだな」
リリーシャとイシュリエ。
二人の女をボーっと眺めながら俺は言った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ガタンガタン。ガタンガタン。
蒸気機関車が走る。中は俺とリリーシャの二人きりである。護衛もいない。元々この蒸気機関車が士官学校専用の足であることもあり、候女が乗る時は必ずこうなる。護衛もいないのは、リリーシャが置いていったからである。
蒸気機関車の中は暗く、夕焼けの赤さだけが、中を照らしていた。
「クロード」
「ん?」
「あたしの目的を教えておくわ」
「その目的を達成させることが、あんたの願いでいいってことだな」
「そういうことよ」
「言ってみてくれ」
ガタンガタン。ガタンガタン。
「あのっさー」
「うるっさいわねー。今言おうと思ってたのよ。ただ心の準備ってものができてなかったの、今は」
「さいですか。じゃあ心の準備ができたら教えてくれ」
ガタンガタン。ガタンガタン。
「お前っさー」
「あなた!!」
「何だよ」
「……教官のことどう思う?」
「え?」
「ト、トラヴィス教官のことどう思うかって聞いてるのよ!! 男としての率直な意見を求めるわ!! 言っておくけどこれはただの質問で、命令は使ってないから」
「はいはい。トラヴィス教官ねー。まあ、いいんじゃないの?」
「ざっくりしてるわねー」
「出会って何分だと思ってんのよ。あいつのことなんか知らんわ。ただまあこれは俺の経験談で語るんだが」
「だが?」
「イケメンで嫌な奴にお目にかかったことが一度もない」
よくイケメンは腹黒いと言われるが、同性の観点で言わせてもらうとあれはデマだと思う。
ちなみにイケメンにも色々なカテゴリがあると思うが(ホスト系、野獣系、雰囲気系、さわやか系など)俺が指しているイケメンとはさわやか系のみである。それ以外は別にイケメンとは思わないからだ。
そしてトラヴィスはそのさわやか系に当たるイケメンだ。オシャレをしなくても尚イケメン。ナチュラルイケメンだ。
私的には性格に裏があるようには見えなかった。
まあややイラっとはくるものの、それは多分嫉妬だろうと解釈している。
「や、やっぱりそう思うわよね!」
「とはいえ、その顔で女を食い物にしてる奴だっていくらでもいる。お目にかかったことこそないが、ニュース、いや、噂話とかでよく聞くしな」
「そうなのよね」
「だから結局のところ重要なのは、顔がいい悪いとかではなく、自分と合うか合わないかだろう。それは俺にはわからん。だから接してみて良い人だなと思うなら、それは正解だと思うよ」
「なるほどねー」
「好きなのか?」
「うん。ってえ?」
「えも何もこの流れで察しない人間いないよ。つまり、それがあんたの目的ってことでいいのか? トラヴィスとの恋愛を成就させるってのが」
「ま……まあ、そういうことになるかしら?」
「なるほどな。しかしあんたがその気になれば、何だってできると思うけどな。手を回して俺とイシュリエを婚約させるとか朝に言ってたじゃん」
「それはあの子があんたに気がありそうだったからよ。向こうの気持ちがあんたに傾いてるなら、喋略もかけれなくもないかもねって話。貴族であっても婚約相手を奪うのって結構敷居高いから。あらゆる場所からの風評が落ちるからね」
「いや急に現実的で怖いこと言うなよ。しかも気なんてなかったし」
「確かにこのまま動かなかったら、せっかくの可能性も幻となるかもね」
「……」
「いいことを教えてあげる。美人は誰からも好意を持たれている。だから放っておけばおくほど、相手からの評価は下がるばかりよ。美人相手には速戦即決。そういうところで男らしさも見せていく。当たって砕けて上等じゃない。周りはあの子をチヤホヤ――いや、イシュリエの場合チヤホヤはされてないか」
「美人なんだけどな」
「元が騎士の娘で、言うなら他国に姉を売り飛ばして伯爵になったようなものだからね。裏では女玄の伯爵の娘、なんて言われてる。こう言っちゃなんだけど、不当に下げられてて狙い目だわ。美人だし地位も十分。性格も甲斐甲斐しい。買い一択ね。あたしなら買う」
「お前なー。人を物に例えるな物に。失礼極まりないだろ」
「そういうところよ」
「は?」
「あの子はあんたのそういうところに惹かれてるのよ。あんたは何もなくなんかないよ。もう少し自信持ったら?」
「……」
「じゃあ決めた」
「ええ。やめてくれよ。どうせろくでもないことだろ?」
「ろくでもなくないわ。あんたの命令を、イシュリエへの告白にするわ」
……やっぱりろくでもない。
「どんな手順踏んでも時間かかってもいいから、イシュリエに告白しなさいよ。もしかしたらうまくいくかもしれないじゃない。首尾よくもしも婚約者がとなったらあたしが動くわ。安心して玉砕してきなさい」
「あのさあ」
呆れて口を開こうとすると、ガタンと列車が大きく揺れて、止まった。
外にいた駅員が扉を開ける。
リリーシャが立ち上がり、そして振り返った。
「約束よ」
リリーシャが笑って言った。
時折年相応の笑顔を見せる。
そういうところは嫌いじゃない。
「はいはい」
目を逸らしながら俺は言った。
赤黒かった空が黒く染まり初めていた。
◇◇◇◇◇◇◇
蒸気機関車を降りた後、待っていたのはガチガチに守りを固められた馬車だった。荷台は大きく、豪奢であり、魔術、物理を跳ね返すために陣を付与した硬質な材木で固められている。引く馬は四頭であり、速度も相応に出そうである。
御者が帽子を取り頭を下げる。俺も同じく頭を下げた。
中はかなり広く、かつゆったりできるように作られていた。
馬に揺られてしばらく。リリーシャとのトランプ勝負に丁度負けたところで(こればっかりはまじりっけなしに強いよこいつ)馬車が止まった。どうやら目的地に着いたらしい。
荷台の扉が開けられ、俺とリリーシャが外に出る。
基本、伯爵から上の人間が住む家は城である。ポンポン伯爵が出るので感覚が狂うが、伯爵というのはそれだけ偉い。侯爵はその更に上である。
どんな城に住んでいるのやらと思いながら、外に出た。
外は完全に闇夜に染められていた。見た感じ城はない。
ハメられたか?
思いながら腰の剣に手をかけた。
「何してるの?」
リリーシャに声をかけられ振り返る。
「早く行くわよ」
「どこだよお前の家」
「はあ? あれよ」
指差した先には、小さくはないが大きくもない。
館と呼ぶのが妥当な建物が建っていた。