次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ   作:松岡夜空

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バーバラ侯現る

 まあ館と言っても現代のホテルのように、縦に伸びるばかりではない。見た感じ三棟《さんとう》の館を連結しているようで、収容人数は軽く千は超えるだろう。兵もそれなりに従えられる。田舎貴族でしかないうちの家とはえらい違いだ。

 十分にでかい。が、侯爵の住居として圧倒的に小さい。

 そう思っただけだ。

 

 

「何固まってんのよ」

 

「いや、思ったより小さいと思ってな」

 

「悪かったわね。とにかく行くわよ」

 

 

 リリーシャが先行し俺が後に続いた。

 侯爵の娘が住むにしては小さすぎる。と思ったが、すぐに理由はわかった。

 他の学生と同じく、ここから学園に通っているのだろう。

 リリーシャにとってこの三棟繋ぎの館が、俺らにとっての寮のワンルームと同じなのだ。

 さすが侯爵の娘ってわけか……。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「こちらでお待ち下さい」

 

 

 メイドに客室らしき場所に連れてこられ、グラスを出される。

 そこに真っ赤なワインを注がれた。「どうも」と俺は一言告げたが口にはしなかった。よくわからない場所で出されたものは、口にしない主義だ。

 しばらくして、扉が開けられる。現れた男は、清潔感のあるイケメン男だった。

 若い。中年ではあるが、バーバラ侯は確か老齢だったはず。こいつではない。

 とはいえ一応立ち上がっておくか。礼儀として。

 

 

「どうも。ええと、あなたは――」

 

「え? あっはっはっは。リリーシャから聞いてないのかな? 僕はリリーシャの父親だよ」

 

「ええ?」

 

 

 おかしい。

 バーバラ侯がこんなに若いはずはない。確か七十は回っていたはずだ。

 いつの間にか死んでたのか……。

 

 

「考えていることは大体わかるよ。まあとりあえず座りたまえ。コープル。僕にもワインを」

 

「はい。ご主人様」

 

 

 メイドの一人がグラスを出し、もう一人のメイドがワインを注ぐ。注いだワインは同じ容器から注がれている。毒は入ってないようだ。まあグラスの縁に塗られている、という可能性も考えられるが。

 

 

「まずは乾杯といこうか。二人の出会いに」

 

「いや下戸なもんで」

 

「え? あっはっは。なるほど。まあ無理強いはすまい。とはいえグラスだけでも合わせようじゃないか」

 

 

 中々ひょうきんな男らしい。嫌いな男ではないが、気がつけば豹変なんてパターンは幾度となく見てきた。まだ信用はできない。

 

 

「じゃあ」

 

 

 カツン。

 グラスを合わせる。

 目の前の男がごくごくと喉を鳴らしてワインを飲んだ。

 俺は静かにそれを見つめていた。

 

 

「いやおいしいね。今年のワインは多く注文しようかな。礼品としても喜ばれそうだ」

 

「かしこまりました。ご主人様」

 

 

 頭を下げて、メイドコープルが言った。

 

 

「注文する時はチャーチルから頼むよ。僕の故郷だからねー」

 

「かしこまりました。ご主人様」

 

「……あのー、俺の考えていることが大体わかる、というのは?」

 

「ああそうだったね。バーバラ侯にしては僕は若すぎる。そう思ったんじゃないのかな? それは父上が流した虚報でね。バーバラ侯は僕の義理の父。リリーシャは僕の娘。バーバラ侯とリリーシャがどういう関係かは、わかるだろ?」

 

「もしかして――娘ではなく、孫娘」

 

「そういうことになるね」

 

「はあ」

 

 

 頭を抱える。

 卑怯とは言うまいが、何つー姑息な手を。

 天下のバーバラ侯爵のやることかね。

 

 

「あっはっは。君は何でも素直に受け取るね」

 

「悪かったな」

 

「いやいや。そこじゃないよ。父上が孫娘を娘と語り喧伝した。それを箔をつけるためだと思ったんだろう? 君は」

 

「違うのか」

 

「まあ全く違うとは言わない。が、よく考えてみてほしい。あの父が、どうして孫娘のリリーシャだけを娘と評したのだろう。他の子供らは町長の娘息子で通っているのに」

 

「え? あんた町長なの?」

 

「ん? あっはっは。低い身分だろ? これでも元は伯爵の出なんだけどね。あー恨んでいるわけじゃない。こういう生活もこれはこれでまた楽しい。気楽だしね。おっと話がそれたが、父上、つまりバーバラ侯には子供が四人いて、それぞれ王都周辺の町を一つ治めている。ちなみに僕の妻はその四人目の子に当たる。リリーシャに似てとても綺麗でねーおっと、また話がそれてしまったよ。父上はね、よくこういったことをするんだ。子に争わせて、より資質が高いものを見つけようとしている。悪癖なのさ。理由はまあ……口に出して言うことでもないかな」

 

 

 高齢か。

 先も言ったがバーバラ侯は七十を回っている。

 つまり、西の獅子と呼ばれた男が、もうすぐ死ぬ。

 その後の後継者を、バーバラ侯は探している、というわけか。

 またこれも例によって話がそれているわけだが。

 

 

「リリーシャがバーバラ侯の娘と喧伝されているのは、一つは箔をつけるためで、もう一つがローディス男爵のためだ。父上はそれだけローディス男爵を買っている。つまりリリーシャを僕らと同じ待遇、いやそれ以上に引き上げてまで、彼との関係を深く結びたいのさ」

 

「それ以上?」

 

「そこさ。ミソなのは。他の諸侯も躍起になって、リリーシャを娶《めと》ろうとしている理由がそこにある。元々娘と言ったところで本当は孫娘だ。所詮はただの言葉遊びで、リリーシャの立場を上げる保証にはなり得ない。故に父上は、リリーシャの格を名実ともに上げるため、実に大胆なことを僕の娘になされたよ。それはね――」

 

「そこまでにしておけ。ツァイス」

 

「え」

 

 

 今までご機嫌に話していたリリーシャの父、ツァイスが振り返る。

 そこには、覇気をまとった筋肉隆々の老人と、護衛の女獣人が立っていた。

 

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