次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ 作:松岡夜空
「ふ」
バーバラ侯が笑う。
是と非。どちらにも取れる笑い方だった。
まあこれで否を選ぶようならその時は開戦だな。
俺は口角を持ち上げ笑った。
「クックック……わーはっはっは!!」
大笑した。
それでもまだ是を選んだと、安心はできない。
こいつは相当ひねくれている。安心したところを一刀両断なんて、いかにもこの男がしてきそうなことではないか。
「中々面白い小僧だな。デイヴィスの鼻垂れが気に入るだけのことはある。前のガキ。何と言ったかな?」
「アインです。アイン=ローディス」
「ああそうそう。あの時のガキとは違うな。あの男は額を床につけ、これ以上ない醜態を見せながら懇願したものだったがな」
「アインにも同じことをしたのか?」
「ああ。胆《たん》を確かめたかったのでね。しかし確かめてすぐにわかった。こいつはダメだとな。だから壊した」
「壊した? リリーシャとの婚約はうまくいっていたんじゃなかったのか?」
「奴の美徳を上げるなら辛抱強さと感の良さを上げるだろう。特に感の良さ。鋭さに関しては目を見張るものがある。その一点だけは評価してもいい」
「ならそれでいいじゃねえか」
「ずいぶんとかばうじゃないか。お前は奴に陰湿なイジメをうけていたと聞いたがな」
ムッとして俺は黙った。
だが実際バーバラ侯の言う通りである。俺が奴をかばう理由はどこにもない。
バーバラ侯は豪快に笑って酒をあおる。
「ワシが奴を気に食わなかった点の一つがその陰湿さだが、それを圧倒する才があるならそれでもいい。風評は文字通り風の如く噂を運ぶが、その陰湿さ以上のものを見せれば、下の人間も納得する。奴は確かに感の利く男だが、それは自分に直接向かってくるもののみであり、周りから婉曲《わんきょく》して向かってくる危害に対しては一切の感が働かない」
「あいつの解説はもういいよ。あいつが陰湿で最低なゴミカス野郎だってことは俺が誰より知っている。それより壊したってのはどういうことだ?」
「大したことはしとらんよ。お前には姉がいたろ。カトリ=ローディスだったか?」
「……それが?」
「ワシには四人の子がいる。孫は何人だったかな。忘れたが、そのうちの一人と、カトリ=ローディスを奴の情報の網にかかるようにして接触させた」
「……」
「必ず動くと確信していたよ。奴の陰湿な性格と過去が全てを語っている。一度罪を犯した奴は必ず同じことを繰り返す。常識だ。結果はお前も知っての通り。ワシは奴の感の良さだけは評価すると言ったが、忘れておった。もう一つ評価できることがある。それは最期にワシを大笑いさせたこと。中々に傑作であった。やはり何度見てもいいものだな。そこそこに持っている者が、崩れ落ち消え逝く瞬間というものは」
「……クズ野郎」
「やめろアンリエッタ。ワシはこの男が気に入っておる。十六でその胆は見事と言っていい。デイヴィスの鼻垂れが気に入るのもよくわかる。だが後学のためにも覚えておけ小僧。ワシは残虐であり陰湿だ。だが世間からの評は、娘のことを一番に考える、情に厚いバーバラ侯だ。わかるか? これが情報を制するということだ。お前もワシの後を継ぐやもしれんでな。礼儀はいっそ捨ててよい。勝負に負けた以上とやかく言うまい。だがそれならば相応の力を身に着けろ。お前には前任者よりかは期待している」
「……結局それが言いたくてここに呼んだのか?」
「いいや。ここまではただの余談であり余興だ」
「誰への余興だ」
「当然ワシのだ。ツァイス。お前はここの女共を連れて去《い》ね。わずかでも近づいたら、例えお前でも斬るように外の衛兵に伝えている。気をつけよ」
「はははははは、はい!! おい、行くぞ、お前たち!!」
「は、はい!!」
ツァイスとメイド三人が慌てて外に駆けていく。
バーバラ侯が立ち上がり、空いている席の一つにドカリと座った。客間には、多人数で食を囲めるようのスペースと、ここのように少人数で話せるようのスペースの二種類あった。故に椅子はいくらでもある。
バーバラ侯が掌を上向ける。
「風よ。我が願いを聞け。そして応えよ。静謐《せいひつ》なる帳《とばり》を降ろし、我らに静寂を与えん。風音失《シルフサイレンス》」
野太い声で呪を唱えた。風の精霊が部屋一帯を走り抜けていく。
「アンリエッタ」
「はい」
バーバラ侯の隣に控えていた獣人のアンリエッタが、俺の前へと座る。
「念の為、お前には精神鑑定を受けてもらう。と言っても世間話をするだけだ。構えずに聞いてほしい」
「なるほど。それがあんたの潜在能力《ポテンシャル》か?」
獣人はスキルを覚えることができない。その代わり、いくつかの年に特定のスキルを覚える。これを潜在能力《ポテンシャル》という。どのスキルをどういうルールで覚えるのとかは、俺も詳しくは知らない。
「御名答。私の潜在能力《ポテンシャル》は審判《ジャッジメント》。相手の言葉の虚実がわかるというものだ」
「でもどうせ確定じゃないんだろ?」
獣人の潜在能力《ポテンシャル》は自動的に覚えられる上に便利なものが多いが、一つだけ欠点がある。
それは、発動しないことがある、という点だ。
言っちゃ悪いがこの欠点は、致命的と言っていいレベルできついと思っている。
何ならない方がいいまである。どうしたって勘が働かなくなるからだ。
「その通り。正答率は平均八十パーセント」
「……」
「しかもある程度相手と話さないと成立しない」
「それさあ、前々から思ってたんだけど、同じ能力持ちで多人数同時発動とかできないの? 獣人の潜在能力《ポテンシャル》ってそんな数ないんだろ?」
「理想だが私の能力はレアでな。少なくとも主侯の部下でこれを発現させたのは私だけだ」
「……まあ、噛ませとくだけで気休めにはなるのかね。よく当たる勘とでも思っておけば。ただし、その能力を使う人間が『もっている』ことが大前提だけどな」
「中々に食ってかかるな。何かあるのか?」
「……別に」
「まあお前がそういうならそれでもよい。さて何の話をしようか。お互いに利のある話。お前の父親、ディスケンスの話でもするのが妥当かな」