次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ 作:松岡夜空
薬指の光線をたどり、俺は街の廃屋らしき建物を、他の家の屋根などを伝って駆け上がった。ちなみに一度帰ったこともあり、俺の装備は万全、つまりいつもの黒コートを羽織り、大きな丸サングラスをかけた姿に代わっている。
窓から中に入る。中には誰もいなかった。バーバラ侯が言ったように、かなり緩んでるな。本番は三日後だからなんてズレた命令でも下っているのかもしれない。
明かりもない部屋へと入り、光線が差す方向に足を回す。
「ここか」
光線が差した先は、人一人入れそうな木箱の中だった。周辺に同じような木箱がいくつか転がっている。
木箱を開く。中には女が一人、猿ぐつわと両手両足を縛られ放り込まれていた。
リリーシャである。
俺はリリーシャの身体を持ち上げ、足と手首の布を外し、猿ぐつわをとった。
「おい。大丈夫か?」
「あ……あ……あ……」
何かエロい声を出してるが別に十八禁的な展開は全くないから安心してくれ。あるいは落胆してくれ。
これは相手に悪夢を見せる魔術、悪夢《ナイトメア》だな。
しゃあねえな。解呪するか。
俺はコートの袖をまくって、深呼吸。
そして――
パンパンパンパンパン――
リリーシャの頬を左右にひっぱたく。
これが悪夢《ナイトメア》唯一の解呪法である。悪夢《ナイトメア》は呪による解呪法がないのだ。
かけられている間、ひたすら恐怖にさらされ続ける上に、解呪も物理的な方法しかないと、かなり強烈な術なのだが、所詮は夢のため起きるとそれまでの恐怖は綺麗サッパリ忘れている。
なのでせいぜい捕虜を黙らせるか金持ちのジジィを心臓麻痺に見せかけて殺すぐらいしか役割がない。
そんな術なのだが――
「なあにすんのよおおおおおおお!!」
バカでかい怒声とともに、張り手が飛んでくる。特に何も考えずビンタしまくっていた俺は、その一撃をまともにくらってぶっ飛んだ。
「いってえ〜〜〜〜〜」
頬を押さえながら上体を持ち上げる。
リリーシャは息を切らしながら、手を振り抜いた態勢で立っていた。
「あれ? あたし何してたんだっけ?」
「お前なー」
まあその反応はそれはそれでいいんだけどさ。トラウマとかは残ってないみたいだし?
そんなとき。
「おい何してる!!」
ハゲの親父が扉をぶち破らん勢いで入ってくる。そしてその顔が即座に上を向く。その目には俺が投擲したナイフが刺さっていた。
俺はコートの袖に投擲用のナイフを仕込んでいる。そして俺のナイフ術は百発百中である。俺の人差し指と中指には、風《シルフ》をエンチャントした指輪がハマっているからだ。
どおおおおおおおおん!!
ハゲの男が吹っ飛ぶ。俺がブロードソードで心臓を刺しながら壁まで突っ込んだからである。
ブロードソードを引き抜く。紅い血が飛沫となって吹き出た。
「何だ!! 何が起きた!!」
下から声がする。
俺は部屋の中へと戻り扉を閉めた。
ブロードソードを石の床に突き刺し、扉の前に立てかける。
ちょっとしたつっかえ棒だ。
どんどんどん!!
「おい!! ここを開けやがれ!! おい!!」
野太い声を発しながら、分厚い扉を何度も叩く。万に一つ術を解かれた時用に壁を頑丈にしたのが裏目に出たな。
「おい!! 下からもっと人呼んでこい!! 一斉に体当たりして、ここ突き破るぞ!!」
おーどんどん集まれ集まれ。
それを待ってたんだ。
俺は両掌を向かい合わせ、呪を唱えた。
「風よ。我が声を聞け。そして応えよ。大空《たいくう》従え旋風と化し我が前にいる全てを薙ぎ払え。竜巻衝波《サイクロンブラスト》」
扉越しからほぼゼロ距離で竜巻をぶつける。竜巻は扉どころか壁ごと吹き飛ばし、辺りに煙を巻き起こした。
ふと、砂煙の合間から刃が閃いた。形状からして斧か。
バキィ!
俺はその柄をカウンターの手刀でへし折った。旋回する斧の刃。俺は即座にそれをつかみ、相手の頭をその斧で叩き割った。脳天を吹っ飛ばされた男がぐったりと横たわる。邪魔なので蹴り飛ばして死体をどかし、地面に転がっていた自分のブロードソードを鞘に納めた。
扉の外に出る。
階下が騒がしい。
地面に手を合わせる。
「水よ。我が声を聞けそして応えよ。冷たく凍えしその力、大地を這う全ての者に、凍てつく静寂を与えよ。氷結呪縛《アイスバインディング》」
氷の蔦《つた》が地面から壁を渡り伸びていく。触れる者を凍り付かせるトラップである。
とりあえずこれでここは大丈夫、と。
「おい。とっととここ出るぞ」
「あ、あんたは……」
「え? あー俺だよ俺。クロードだよ。あんたの婿《むこ》だ。一応の」
サングラスをずらしながら、顔を近づける。吊り橋効果なのか、意外に初心《うぶ》なのか、リリーシャが顔を赤くするものだから、俺は頬をかきながら顔を持ち上げた。
「とにかくここ出るぞ。捕まれ」
「う、うん」
リリーシャが俺の手をつかむ。
引っ張って窓の外まで向かい顔を出すが、すぐに引っ込めた。リリーシャの頭を咄嗟に手でかばう。
公道から弓が射られているみたいだ。俺が魔力を全開にすれば、こんなへなちょこ弓、魔力障壁だけで止められるんだが、今はリリーシャがいるからな……。
「もしかして、あたしのことを足手まといだと思ってるんじゃないでしょうね?」
「い、いや? そ、そんなことはないけど?」
ついつい言葉が上ずる。
ふんと、リリーシャが鼻息を鳴らす。
「大丈夫よ。このままあたしのことを抱えて、そのまま出なさい」
「いや、あんたは大丈夫かもしれんがこっちが射たれるから。しゃあないな。魔力食うけど闇分身《シャドウビースト》使って陽動立てるか。闇よ。我が願いを――」
「だからいらないって言ってるの。あんたはあたしが守るって言ってるのよ。聞こえないの? クロード」
「いてててて。耳引っ張るなよ。守るたって、どうやって?」
「こうやってよ」