次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ 作:松岡夜空
バチ。
バチチ。
リリーシャの全身から青白い火花が散る。
これは――スキル雷神《サンダーボルト》。
『つまりリリーシャを僕らと同じ待遇、いやそれ以上に引き上げてまで、彼との関係を深く結びたいのさ』
『これはリリーシャの格を名実ともに上げる手段でもあるのだが、父上は実に大胆なことを僕の娘になされたよ。それはね――』
ツァイスが言っていたのはこれか。
スキル雷神《サンダーボルト》はバーバラの領土を任された者、つまりは侯の名を継ぐ者が代々受け継ぐとされているが、それを孫娘のリリーシャに渡すとは。
自分の子供は小粒が多いとは言っていたが無茶をする。
リリーシャにその気があり、リリーシャを担ぐ人間がいたら下手し内乱だろこれ。
「いたぞ!! 奴らだ!!」
入口から声がして振り返る。
「てめえら、よくも人の足血だらけにしてくれたな!! 掌も!! もう許さねえぞ!! 次は悪夢《ナイトメア》程度じゃすまさねえことしてやるからな!! 覚悟しやがれ!!」
そこには氷呪縛《アイスバインディング》に皮膚を持っていかれ、手足を血だらけにしたテロリスト『ズ』が立っていた。
靴も当然絡み取られてしまっているため、全員素足である。
「そういうわけにもいかねえな」
俺は背中のポシェットを探りながら言った。
「何者だ、てめえは!!」
「俺か? 俺はこいつの――婚約者だよ」
五指の間に十の煙玉をつかみ、相手に向けて放る。煙玉が炸裂し、その隙に俺は窓から飛び出した。
弓が次々と飛んでくる。俺はそれを笑って見ていた。
俺につかまれていたリリーシャが両手を広げる。
「雷《いかずち》よ!!」
飛来してきた矢が次々と雷の網につかまり、爆ぜて落ちて行く。
俺は思わず口笛を吹いた。
「やるな」
屋根の上に降り立って俺は言った。
「誰に物言ってるのよ」
リリーシャが答える。
スキル雷神《サンダーボルト》を完全に使いこなしている。
ツァイスはローディス男爵、つまりは親子のために格を上げたと言っていたが、割とマジで、こいつが一番素質があるのかもしれない。
ま、これなら後は楽勝――
バチン!!
雷がこめかみ付近で弾け、反射的にその射角先を手で覆う。
パン!!
何かが爆ぜる音が耳元で響いた。
見ると、二の腕から鮮血が舞っている。
狙撃か。
動き回っていてかつ、雷結界を貫いて的確に俺のコメカミを狙ってきたってことは、弾に風《シルフ》を込めた追尾弾か。
そしてこの威力。相当湾曲させて撃ち込まれたものだと思われるのに、雷結界を貫いた上で弾の威力は本来の狙撃魔銃と大差ない。
敵方にかなりの魔具オタクがいるな。魔力増幅魔具を死ぬほど繋ぎあわせないとこの威力は出ない。
俺は足を止め、屋根から住宅街へと着地する。ここなら左右に高い建物が並んでいるから、追尾できてもまず上からのみ。下手に湾曲させすぎれば威力が落ちて、リリーシャの雷結界で弾かれる。家ごと破壊してくるならば、避けることも迎撃も難しくはない。だが問題が一つある。
それは――正面。
「あんた、その怪我」
「心配すんな。それより俺の傍《そば》を離れるなよ」
「う、うん」
目の前。
十メートルほど離れた先に、リリーシャの護衛が立っている。
「ネ、ネルガル」
「行くな。敵だ」
「え?」
「リリーシャ様を渡してもらおう」
「嫌だと言ったら?」
「シュミット=クロウ。お前は確かに強い。だが私も一流だ。一流同士の魔術師戦の最中、そんなトーシロのガキを守れると――」
「聞こえなかったのか?」
「何だと?」
「嫌だと言ったらどうするんだ? そう聞いたつもりだったんだけどな、俺は」
「――忠告はした」
パン!!
ネルガルが掌を合わせる。
掌術か。
「リリーシャ。自分の頭庇いながら雷結界を展開させろ。読み外してたら再生《リザレクション》かけてやる。俺の再生《リザレクション》ベストタイムは五分八秒だけどな」
「ぴゃあああああああああああああ!」
リリーシャが頭上に飛んでいく。というか俺が風《シルフ》かけて頭上にぶん投げた。
ドン!!
ネルガルが両手を地面についた。
すると、先端を尖らせた石の鎖が幾本も飛来してくる。
俺はブロードソードを抜きながら呪を唱えた。
「風《シルフ》」
駆けた。
駆ける先は正面。
数多の蛇のように向かってくる、石の鎖に向けてだ。
石の鎖が俺の魔力障壁を貫通する。だがそのせいで、動きが緩慢になっている。
俺はそれをブロードソードで弾き、体捌きでかわし、足を止める。
「な、なにィ!!」
ネルガルが声を上げる。
俺が五十にも渡ろうかという石の鎖の刺突を、正面から掻《か》い潜ってきたからだろう。
「ざーんねん。一流対『超』一流なら、意外と早く勝負は終わるものだったな!」
俺は振り上げた拳を、ネルガルのアゴにぶち込んだ。
軟体動物のように、その場に倒れ込むネルガル。しかしその先から、ライフルの弾丸かと思えるほどの速さで、刺突が迫ってくる。
練気憑魔《れんきひょうま》。本来時間のかかるそれを、ネルガルを壁にして行っていたか。
――ふん。くだらねえ。
俺は倒れ込んでいたネルガルを足で端までぶっ飛ばし、ブロードソードの柄頭の輪の部分で、その強力無比な刺突を受け止めた。
ギチギチギチ……っ!
氣と魔力をミックスしてるだけあって、さすがのパワーである。踏ん張った足が摩擦熱を上げながら数十センチ動く。刃が輪の部分を貫通しようと、今まで聞いたこともないような音を立てた。このまま粘れば柄を砕いて俺に一撃入れれるだろうが、わかっていて粘るバカもいない。
俺は柄を支点にして足を空中へと上げた。そのまま旋回し、男の背後に回る。しかし。
振り返った先。剣が迫っていた。
平突きから横薙ぎの派生。それを背後にまで繋げ、遠心力も用いて周囲の敵を薙ぎ払う。確か技名は――
旋風烈火《せんぷうれっか》。
そうくると思ったよ。
だがその技はもう予習済みだ。
ギギ、ギギギ、ギギギギ――。
男が剣を振るうと、足元から音が響いた。鉄と石を擦り合わせたかのような音で、実際火花も散っている。おかしいと思ったのだろう、男がチラリと自分の剣に目を向けた。
そして――目を見開く。
男のブロードソードの剣先に、俺の剣の柄が『氷漬けにして』張り付けられていたからだ。
印術。
指輪と指輪を合わせることで、指輪にエンチャントした魔術を他魔術に融合する術式。他魔術とは魔力を込めた物体、液体でも可能である(ただし人体と空間は不可)
俺が親指の指輪に付与した魔術は氷結晶《アイススフィア》。物質を凍らせる魔術である。
俺はそれを、あいつの剣を受け止めたと同時に発動させていたのである。
俺は身を低くして男の斬撃をやり過ごし、運ばれてきた自分の剣をつかんで、振り返る。
必殺の一撃を回避された男は、剣を高々と振り上げていた。
俺は目を細める。
一瞬ダブったのだ。
直近で戦ったあの男。
ベルンツィア最強の剣士。
ディスケンスの剣と。
「チェストオオオオオオオ!」
気合一閃、男が剣を振り下ろす。
俺は鼻で笑った。
「おせえよ。お前の剣は――あいつと比べると遅すぎる!」
俺は剣を振り上げた。
ガキぃん!!
男の剣が、半ばから折れて空を舞う。
「な……そんな、バカな」
「その台詞も耳タコだよ」
俺は男の金的、水月、アゴにほぼ同時に当身を打ち込み、白目を剥いた男の頬を裏拳で叩いて視界から退場させた。
「ひゃあああああああああああ――」
天空から声が聞こえる。
リリーシャの声である。
人質は生きててこそ意味がある。
それでもワンちゃんはあった。
良かった、無事で。
ドン。
振ってきたリリーシャを、両手で受け止める、
「はい、おかえり」
「ただいま。ってあんたねえー」
「片付いたぞ」
「あ、うん……」
リリーシャを地面に下ろす。
「あんた腕大丈夫なの? というか狙撃犯がまだ残ってるんじゃ」
「市街地通っていればまず心配いらないとは思うがね。とはいえ、とっととここから離脱――」
「こんなところにいたのか、君たち!」