次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ   作:松岡夜空

40 / 42
刺客

 バチ。

 バチチ。

 リリーシャの全身から青白い火花が散る。

 これは――スキル雷神《サンダーボルト》。

 

 

『つまりリリーシャを僕らと同じ待遇、いやそれ以上に引き上げてまで、彼との関係を深く結びたいのさ』

 

『これはリリーシャの格を名実ともに上げる手段でもあるのだが、父上は実に大胆なことを僕の娘になされたよ。それはね――』

 

 

 ツァイスが言っていたのはこれか。

 スキル雷神《サンダーボルト》はバーバラの領土を任された者、つまりは侯の名を継ぐ者が代々受け継ぐとされているが、それを孫娘のリリーシャに渡すとは。

 自分の子供は小粒が多いとは言っていたが無茶をする。

 リリーシャにその気があり、リリーシャを担ぐ人間がいたら下手し内乱だろこれ。

 

 

「いたぞ!! 奴らだ!!」

 

 

 入口から声がして振り返る。

 

 

「てめえら、よくも人の足血だらけにしてくれたな!! 掌も!! もう許さねえぞ!! 次は悪夢《ナイトメア》程度じゃすまさねえことしてやるからな!! 覚悟しやがれ!!」

 

 

 そこには氷呪縛《アイスバインディング》に皮膚を持っていかれ、手足を血だらけにしたテロリスト『ズ』が立っていた。

 靴も当然絡み取られてしまっているため、全員素足である。

 

 

「そういうわけにもいかねえな」

 

 

 俺は背中のポシェットを探りながら言った。

 

 

「何者だ、てめえは!!」

 

「俺か? 俺はこいつの――婚約者だよ」

 

 

 五指の間に十の煙玉をつかみ、相手に向けて放る。煙玉が炸裂し、その隙に俺は窓から飛び出した。

 弓が次々と飛んでくる。俺はそれを笑って見ていた。

 俺につかまれていたリリーシャが両手を広げる。

 

 

「雷《いかずち》よ!!」

 

 

 飛来してきた矢が次々と雷の網につかまり、爆ぜて落ちて行く。

 俺は思わず口笛を吹いた。

 

 

「やるな」

 

 

 屋根の上に降り立って俺は言った。

 

 

「誰に物言ってるのよ」  

 

 

 リリーシャが答える。

 スキル雷神《サンダーボルト》を完全に使いこなしている。

 ツァイスはローディス男爵、つまりは親子のために格を上げたと言っていたが、割とマジで、こいつが一番素質があるのかもしれない。

 ま、これなら後は楽勝――

 

 

 バチン!!

 

 

 雷がこめかみ付近で弾け、反射的にその射角先を手で覆う。

 

 

 パン!!

 

 

 何かが爆ぜる音が耳元で響いた。

 見ると、二の腕から鮮血が舞っている。

 

 

 狙撃か。

 

 

 動き回っていてかつ、雷結界を貫いて的確に俺のコメカミを狙ってきたってことは、弾に風《シルフ》を込めた追尾弾か。

 そしてこの威力。相当湾曲させて撃ち込まれたものだと思われるのに、雷結界を貫いた上で弾の威力は本来の狙撃魔銃と大差ない。

 

 

 敵方にかなりの魔具オタクがいるな。魔力増幅魔具を死ぬほど繋ぎあわせないとこの威力は出ない。

 

 

 俺は足を止め、屋根から住宅街へと着地する。ここなら左右に高い建物が並んでいるから、追尾できてもまず上からのみ。下手に湾曲させすぎれば威力が落ちて、リリーシャの雷結界で弾かれる。家ごと破壊してくるならば、避けることも迎撃も難しくはない。だが問題が一つある。 

 

 

 それは――正面。

 

 

「あんた、その怪我」

 

「心配すんな。それより俺の傍《そば》を離れるなよ」 

 

「う、うん」

 

 

 目の前。

 十メートルほど離れた先に、リリーシャの護衛が立っている。

 

 

「ネ、ネルガル」

 

「行くな。敵だ」

 

「え?」

 

「リリーシャ様を渡してもらおう」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「シュミット=クロウ。お前は確かに強い。だが私も一流だ。一流同士の魔術師戦の最中、そんなトーシロのガキを守れると――」

 

「聞こえなかったのか?」

 

「何だと?」

 

「嫌だと言ったらどうするんだ? そう聞いたつもりだったんだけどな、俺は」

 

「――忠告はした」

 

 

 パン!!

 ネルガルが掌を合わせる。

 掌術か。

 

 

「リリーシャ。自分の頭庇いながら雷結界を展開させろ。読み外してたら再生《リザレクション》かけてやる。俺の再生《リザレクション》ベストタイムは五分八秒だけどな」

 

「ぴゃあああああああああああああ!」

 

 

 リリーシャが頭上に飛んでいく。というか俺が風《シルフ》かけて頭上にぶん投げた。

  

 

 ドン!!

 

 

 ネルガルが両手を地面についた。

 すると、先端を尖らせた石の鎖が幾本も飛来してくる。

 俺はブロードソードを抜きながら呪を唱えた。

 

 

「風《シルフ》」

 

 

 駆けた。

 駆ける先は正面。

 数多の蛇のように向かってくる、石の鎖に向けてだ。

 石の鎖が俺の魔力障壁を貫通する。だがそのせいで、動きが緩慢になっている。

 俺はそれをブロードソードで弾き、体捌きでかわし、足を止める。

 

 

「な、なにィ!!」

 

 

 ネルガルが声を上げる。

 俺が五十にも渡ろうかという石の鎖の刺突を、正面から掻《か》い潜ってきたからだろう。

 

 

「ざーんねん。一流対『超』一流なら、意外と早く勝負は終わるものだったな!」

 

 

 俺は振り上げた拳を、ネルガルのアゴにぶち込んだ。

 軟体動物のように、その場に倒れ込むネルガル。しかしその先から、ライフルの弾丸かと思えるほどの速さで、刺突が迫ってくる。

 

 

 練気憑魔《れんきひょうま》。本来時間のかかるそれを、ネルガルを壁にして行っていたか。

 

 

 ――ふん。くだらねえ。

 

 

 俺は倒れ込んでいたネルガルを足で端までぶっ飛ばし、ブロードソードの柄頭の輪の部分で、その強力無比な刺突を受け止めた。

 

 

 ギチギチギチ……っ!

 

 

 氣と魔力をミックスしてるだけあって、さすがのパワーである。踏ん張った足が摩擦熱を上げながら数十センチ動く。刃が輪の部分を貫通しようと、今まで聞いたこともないような音を立てた。このまま粘れば柄を砕いて俺に一撃入れれるだろうが、わかっていて粘るバカもいない。

 

 

 俺は柄を支点にして足を空中へと上げた。そのまま旋回し、男の背後に回る。しかし。

 

 

 振り返った先。剣が迫っていた。

 平突きから横薙ぎの派生。それを背後にまで繋げ、遠心力も用いて周囲の敵を薙ぎ払う。確か技名は――

 

 

 旋風烈火《せんぷうれっか》。

 そうくると思ったよ。

 だがその技はもう予習済みだ。

 

 

 ギギ、ギギギ、ギギギギ――。

 

 

 男が剣を振るうと、足元から音が響いた。鉄と石を擦り合わせたかのような音で、実際火花も散っている。おかしいと思ったのだろう、男がチラリと自分の剣に目を向けた。

 そして――目を見開く。

 男のブロードソードの剣先に、俺の剣の柄が『氷漬けにして』張り付けられていたからだ。

 

 

 印術。

 

 

 指輪と指輪を合わせることで、指輪にエンチャントした魔術を他魔術に融合する術式。他魔術とは魔力を込めた物体、液体でも可能である(ただし人体と空間は不可)

 俺が親指の指輪に付与した魔術は氷結晶《アイススフィア》。物質を凍らせる魔術である。

 俺はそれを、あいつの剣を受け止めたと同時に発動させていたのである。

 

 

 俺は身を低くして男の斬撃をやり過ごし、運ばれてきた自分の剣をつかんで、振り返る。

 必殺の一撃を回避された男は、剣を高々と振り上げていた。

 

 

 俺は目を細める。

 一瞬ダブったのだ。

 直近で戦ったあの男。

 ベルンツィア最強の剣士。

 

 

 ディスケンスの剣と。

 

 

「チェストオオオオオオオ!」

 

 

 気合一閃、男が剣を振り下ろす。

 俺は鼻で笑った。

 

 

「おせえよ。お前の剣は――あいつと比べると遅すぎる!」

 

 

 俺は剣を振り上げた。

 

 

 ガキぃん!!

 

 

 男の剣が、半ばから折れて空を舞う。

 

 

「な……そんな、バカな」

 

「その台詞も耳タコだよ」

 

 

 俺は男の金的、水月、アゴにほぼ同時に当身を打ち込み、白目を剥いた男の頬を裏拳で叩いて視界から退場させた。

 

 

「ひゃあああああああああああ――」

  

 

 天空から声が聞こえる。

 リリーシャの声である。

 人質は生きててこそ意味がある。

 それでもワンちゃんはあった。

 良かった、無事で。

 

 

 ドン。

 

 

 振ってきたリリーシャを、両手で受け止める、

 

 

「はい、おかえり」

 

「ただいま。ってあんたねえー」

 

「片付いたぞ」

 

「あ、うん……」

 

 

 リリーシャを地面に下ろす。

 

 

「あんた腕大丈夫なの? というか狙撃犯がまだ残ってるんじゃ」

 

「市街地通っていればまず心配いらないとは思うがね。とはいえ、とっととここから離脱――」

 

「こんなところにいたのか、君たち!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。