次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ   作:松岡夜空

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全てはこの一杯のために編
鈍感系主人公


「お前さー、リリーシャ様ふったってマジか? 言っとくけど、俺の情報網は誤魔化せんぞ」

 

「は?」

 

 

 あれから約一週間。

 リリーシャ攻略のための作戦会議として、今、俺の部屋にはシュピナーとイシュリエが集まっていた。

 一応説明しておくと、直近の俺の目的は、ディスケンス、そして仮面の女ことティンパニーの攻略――ではなく、ギャルゲーよろしく、リリーシャを落とすことであり、シュピナーとイシュリエは、そのサポートとして俺についている。

 まあ一言で言えば、政略結婚、いや、目指せみんなで玉の輿、みたいな感じかな。厳密には違うかもだが。

 

 

「いや、ふった覚えはないけど。ってか好かれてもないし」

 

「お前はここ数日リリーシャ様とデートしてただろ。前後のイベントとか考えたらリリーシャ様の気持ちはわかりそうなもんだ。お前まさか鈍感装ってリリーシャ様で遊んでんじゃねえだろうな。いくらお前でも許さんぞそれは。女の子を傷つけるな」

 

「んなわけねえだろ……」

 

 

 鈍感。もしくは難聴。

 ラブコメの定番だが、俺に限ってそれはない。

 何故なら俺は、女の子に笑いかけられただけでも『とうとう俺にも春がきたのでは』と考えてしまう、彼女いない歴年齢の男だからだ。

 もっとも、ネットでそう言った男が笑いものにされていることは知っている。だから俺も、いつだったかの年からそう思わないようにはしているのだが――

 

 

 話がそれたが、リリーシャが俺を好きではない、と断定しているのは理由がある。これはもう簡潔明瞭な話で、リリーシャはトラヴィスが好きなのである。これは本人から聞いているので確定情報である。揺らぎようがない。

 つまりリリーシャは、トラヴィスを嫉妬させるために俺にくっついてきていたのだ。それ以外考えられない。

 だから俺は、実質五十年生きている人生の先輩として『トラヴィスに嫉妬させるためとはいえ、あんまりベタベタしない方がいいんじゃないか? やっぱり恋愛は、直球で恋心を伝えた方がいいと思うぞ』とアドバイスしてあげたのだ。

 優しいだろう?

 恋愛経験ゼロとは思えない、素敵なアドバイスだと思ってるよ、俺は。

 

 

「で、その結果はどうなったんだよ?」

 

 

 上記の内容を端折ったり言葉を変えたりしながら説明すると、シュピナーがジト目で問いかけてきた。

 

 

「いや、アイスぶつけられて帰られましたけど」

 

「明らかに怒ってるよな? それは」

 

「図星突いただからだろ。堪え性のないやつだぜ」

 

「はぁー。これは一生彼女できませんわ。むしろできたらダメまである。女の子が泣くだけです、はい」

 

 

 パンと膝を打って、シュピナーが言った。

 

 

「いやいや、一生とか言うのやめろよ。普通に傷つくだろさすがに」

 

「お前はリリーシャ様を傷つけといて何を言ってるんだ? 言っとくけど『そういう奴だ』って知ってるお前だから許してるんだ。お前じゃなきゃ普通にぶっ飛ばしてる。なあイシュリエ。お前も女代表として何か言ったれよ」

 

「そうですね。多分クロードさんは、一度好きになられたら、ずっと相手のことを想われる方なのではないでしょうか?」

 

「そりゃ好きってのはそういうことだろ? いやむしろ違うの?」

 

「かー重い。重すぎる。お前それ女の前では絶対に言うな。引かれる確率百パーだから。引かれなかったら鼻でシチュー食いながら腹踊り披露するわ。断言する。そんな女この世にいないから」

 

 

 チラリとイシュリエを見る。

 イシュリエは両手を口元に当てて返答に困っていた。

 

 

「正直に言っていいぞ、イシュリエ。クッソ重たいってよ。恋愛なんてフラれたら次フラれたら次でサクサク行きゃいいんだよ、サクサクと。男と遊んで『結婚しなきゃ』なんてならんだろ? 極論同じだ。付き合うってのは要は遊びなんだよ、遊び」

 

「ええ!?」

 

 

 イシュリエが声を上げる。

 

 

「ええって声が出てますよー」

 

「まあ待てイシュリエ、最後まで聞けって。仲良くなると、遊びから恋愛に変わるんだ。付き合うってのはお互いのことをよく知るためのイベントでしかないから。君はそこから間違えてるんだ、クロード君。わかるかな?」

 

「誰なんだよお前……」

 

「そして仲良くなると、遊ぶ時間も長くなるわな。それが夜まで引っ張られると、めくるめくイベントへ突入だ。続きは言うまでもないな? 今日俺に会えたことに感謝しろ、クロ。君にこの考えを伝授しよう。これで今日から君もモテモテだ」

 

「モテモテねー」

 

 

 イシュリエをチラリと見る。

 イシュリエは両手で口元を隠しながら、シュピナーの話を聞いている。

 とてもじゃないが、俺が好かれたい人間に、好かれる思考だとは思えない。

 

 

「わかったよ。じゃあイシュリエ。ここには今、女が君しかいない。せっかくだ。俺とクロ。どちらが正しいか、判決を下してくれ」

 

「ええ!?」

 

「辛い役目かもしれん。が、そろそろクロに現実を教えてやってくれ。このままじゃ、こいつはこじらせたまま年をとっちまう。一友人として見てらんねえよ俺は。なあイシュリエ。俺とクロ。どっちの方がいいこと言ってるよ」

 

「あたしは――」

 

 

 床を見つめながら、イシュリエが口を開く。正直俺は、続きは聞きたくないなと、思ってしまった。

 ぶっちゃけ俺も、シュピナーの考えが正しい、いや、かっこいいと思っているからだ。

 恋愛なんてさ、適当に付き合って、適当な理由で別れて、元カレ元カノなんて軽い気持ちで口にしながら、相応の年になってできた彼女と結婚。

 それぐらいドライな思考を持っている方が正常だと、俺も思う。

 何なら俺も元カノとか言ってみてーもん、ぶっちゃけ。

 わかりつつも、一番を追ってしまうのだから、これをこじらせてる、と言うのだろう。

 

 

「あたしは――クロードさんの考えの方が、素敵だと思います」

 

「え?」

 

「は?」

 

 

 俺とシュピナー。

 二人の声が混じった。

 すると、イシュリエが赤い顔を隠すように両手を振った。

 

 

「あ、いえその、あたしもその、重い女なのかもしれません。ただ――」

 

「た、ただ……?」

 

「あたしは多分、クロードさんのように一つの気持ちを貫けないと思います。だから、リリーシャ様の気持ちもすごくわかるつもりです。いけないことだなとは、思うのですが……」

 

 

 床を見ながらイシュリエが言った。

 何かー、意味深だな……。

 何も言えなかった俺に対し、シュピナーが笑った。

 

 

「まあなんだ。とりあえず、酒でも飲んで忘れろよ、イシュリエ。世の中、大抵のことは忘れてもいいことなんだ。多分それは忘れていい類のことだろ」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「そうさ」

 

 

 シュピナーが言った。

 俺はそんなシュピナーをジト目で見据えて言った。

 

 

「何か良いこと言ってるけどさー、腹踊りはまだかよ」

 

「え?」

 

「イシュリエは俺の意見のが正しいと思ったんだよな?」

 

「え? あ、いえ、その……そうですね。あたしは、クロードさんの考え方の方がその、好きです」

 

「見ろ。とっとと腹踊りしろよ。シチューも俺が作ってやる。料理は得意なんでな」

 

「まあその何だ。イシュリエはちょっと別枠だから」

 

「ほー逃げるのか?」

 

「逃げるんじゃない。そんな約束は忘れたのさ。な? イシュリエ。大抵のことは忘れてもいいことだったろ? だからお前も忘れちまえよ、嫌なことは」

 

「はい。そうですね」

 

 

 イシュリエが笑って言った。

 俺はやれやれと思いながら、手を床につきながら天井を見上げる。

 

 

 忘れてもいいこと、か。

 

 

『自分だけが特別だと、思い込んだことさ』

 

 

 目を見開く。

 ふと思い出した。

 あの時のあいつの、十二芒星が刻まれた紅の左目と、狂気に歪んだ口元を。

 恐らくあいつが見せた、数少ない本音。

 あいつの腹には、確実に黒い炎が燃えている。

 そしてそれを消せるものは、俺の知る限り、ライザしかいない。

 

 

『……ただの任務さ。伯爵の帰路に付き添って隘路《あいろ》を通った時に賊に襲われたようだ』

 

『現場にたどり着いた時、その場にいた全ての者が虐殺されていた。相当恨みがあったのか、顔のわかる死体の方が少なかった。生死不明と言ったのは、誰が殺されているかもわからなかったからだ』

 

 

 アンリエッタの言葉を思い出した。

 はっきり言う。

 俺は――

 

 

 あいつらが……怖い。

 

 

「まあ何だ。今日は飲もうぜ? 作戦会議なんてつまんねえもんもういいだろ。明日は休みだし、パーッと遊んで忘れちまおう。な?」

 

 

 立ち上がってシュピナーが言った。家から持ってきたのかトランプを両手で切っている。

 相変わらずテンションの高い男だ。俺みたいなダウナー系は苦手なタイプだ。しかし。

 

 

 チラリと横を見る。

 イシュリエがクスクスと笑っている。

 俺はしばし天井を見つめて――目の前の酒をつかんで、あおった。

 

 

「お、良い飲みっぷりだねー、クロ! いいじゃんいいじゃん、今日は隣の奴が乗り込んでくるぐらい、パーッと盛り上がろうぜー!」

 

 

 その日のどんちゃん騒ぎは、結局朝まで続いた……。

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