次兄殺しの濡れ衣で追放された元天才(転生者)は、不老の少女にかけられていた封印を解除してもらって無双する。復讐はするよ   作:松岡夜空

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できるものなら

 少女と過ごす最後の一日。今日も今日とて魚をたべる。

 少女はこの三日、一切の食事をとっていなかった。静かに本を読み続けている。

 

 

「あのさ」

 

「何だ?」

 

「神の代理人になると、食欲もなくなるの?」

 

「どうかな。食べなくても死ぬことはないが、腹は減る」

 

「え? だったら……」

 

「飽きたんだよ。別に食べなくても死ぬことはない。しかしそれをやめたらいよいよ人じゃない。だから人間のように振る舞って、無理にでも何かを口にしていた時もある。だがあるとき、吐いてしまってな」

 

「ええ」

 

 

 そんな大げさな。

 言いそうになったが、よくよく考えてみるとちょっとわかる。

 これは物凄く失礼な話なのだけれど、ぶっちゃけた話、この世界の飯はまずい。俺が産まれた地方が寒冷地方というのもあるけれど、俺も産まれて十三年ほぼほぼシチューしか食っていない。俺も実は三歳ぐらいの時に一瞬へこたれかけた。

 というか、この世界の飯がまずいというより、日本の飯が美味すぎた。これに尽きる。余談だが、日本人は『幸せを感じる時はいつか』という質問に対し『食べている時』と答える数少ない民族らしい。

 つまり食の探究心が地球上でも随一。そんな国で三十五年生きてたら、誰でも辛口になるってなものだ。

 

 

「まあ同じものばかり食べていたあたしが悪い。基本ズボラなものでな。ローテーションをきちんと組めば多分大丈夫だろうが、ある日からもういらないと思うようになった。パンもシチューも魚も肉も。ハチミツもリンゴも、何もかもな」

 

「……」

 

「だから、いらないんだよ」

 

 

 火が爆ぜて、薪が割れた。

 俺は少し考えていた。

 あの五人のパーティーが言っていたことをだった。

 

 

「あのさ」

 

 

 少女が目を向けてくる。

 

 

「君が最後に笑ったのはいつ?」

 

「さあ……いつかな。忘れたよ」

 

「君は神の代理人なんだよね?」

 

「だから?」

 

「重戦士の男が言っていた。神は必ず対価で返す。これはつまり、相応のものを渡せば、相応のものを返してくれるってことだよな? だからこその生贄だった。――これは君にも適用されるか?」

 

「残念ながら、答えは否だ」

 

「ええ! ウソ! この流れで!?」

 

「何故あたしが嘘をつく。神が対価で応えているのは神が精神生命体《アストラルたい》だからさ。霊獣もそれに同じ。あたしは神の権限を与えられた人間だ。精神生命体《アストラルたい》じゃないから、対価に縛られない。これがあたし達の存在理由だ。神はあたし達に権限《オーソリティ》という対価を与え、それを通すことで縛りを貫通して世界を操っている」

 

「じゃあ……ダメか」

 

「だがこれは、あくまで制約の話だ」

 

 

 パタンと本を閉じる。

 真っ赤な炎が、少女の端整な顔を照らしている。

  

 

「物理的な接触もなく、あたしを笑わせることが本当に可能なら、叶えてやるよ。どんな願いでも」

 

 

 炎に照らされた少女の顔を見て、俺は思わず息を呑んだ。

 軽はずみなことを言ったと思ったから。

 少女の顔は、真剣だった。

 こんな、日本でも、異世界でも、何一つ成せなかったカスに、期待している。

 それはこの子が俺のことを何も知らないからだ。知ってたら期待なんてするわけがない。だって俺は、日本で三十五年生きてきた、というアドバンテージがあっても負けている。真の無能なのだから。

 でもこの子はそんな俺のことを何も知らないから、万に一つの可能性にかけて、口にした。

 やってみろと。

 一抹《いちまつ》の期待を胸にして。

 逃げるように拳を見つめた。

 何度か、拳を握る。

 まだだ。

 まだ終わってない。

 この言葉を唱え続けて、日本における俺の一生は終わった。

 だけど、この世界ではまだあるだろ?

 試していないことが。

 アーストゥエバーグリーン。

 地球からここエバーグリーンに、二回だけ物を持ち込める。

 その能力を、俺はまだ『一回』残している……。

 

 

「君の時間をくれないか。できたら一週間ほど」

 

「何をするつもりだ?」

 

「それを言ったらサプライズにならないからダメだよ」

 

「予想外の事態で感情を動かされてもつまらない。『しまった』という言葉を挟む余地もないほどの感動を作れないなら、この話はなしだ」

 

「……えっと、料理を」

 

 

 あまりの押しの強さに、俺は思わず白状した。

 

 

「何故それに一週間もかかる」

 

「いやだって食材集めしたり、それに肉を寝かせる必要だってあるし……」

 

「あたしの権限《オーソリティ》を忘れたのか? 文明創造《アイテムマスター》だぞ。必要なものがあれば何でも言え。すぐにでも用意する」

 

「……」

 

「何だ?」

 

「いや」

 

 

 俺は思わず指先で口元を隠した。

 

 

「なんでもない」

 

 

 しかし多分隠しきれていないだろうと、俺は思った。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 森の中。

 誰もいない場所で、両手を足元に向けて広げた。側には俺の荷物一式を置いていた。

 この世界には、魔術の他に、個人個人の特殊能力であるスキルがある。

 本来スキルは十五歳以上でないと会得できない。何故ならば、その十五年の間で得た想いや行動が、スキルとして顕現するからである。

 しかし俺は、ガキの時からとあるスキルを持って産まれていたことを、脳内に刻み込まれて知っていた。

 

 

 アーストゥエバーグリーン。地球からこのいエ異世界バーグリーンに、二回だけ物を持ち込める。

 

 

 俺はこの能力の説明を脳内からほじくり出した時、一つの可能性を感じていた。

 それは『二つ』ではなく『二回』である、というところだ。

 

 俺は三歳の時、このスキルを実験的に使用してみたことがある。

 呼び出したものは、金銀財宝。これを呼び出した意味は二つある。

 

 一つは順当に腐らない、つまり、いついかなる時でも価値が落ちないと考えたからだが、もう一つは、金銀財宝という言葉は、単数ではなく複数を指す言葉であったからだ。

 

 金銀財宝を呼び出した時、発動しないなら単数でしか呼び出せないか俺の妄想だったの二択である。

 だがこの能力は二回まで呼び出せるとなっている。であるならば、金銀財宝の指す言葉のまま、無数の金銀と財宝が呼び出せると考えてもおかしくはない。

 

 結果は予想通りだった。呼び出したいと思った場所に、ダイヤやエメラルド、はてには金塊までもが、具現したのだ。まあ最終的にその金銀財宝は、魔術で開けた穴の中に一時的に隠し、封まで施したため、今の魔術が使えなくなった俺ではまずたどり着くことさえできなくなってしまったわけだが。

 

 金銀財宝という言葉は、あくまで語呂がいいだけで、四文字熟語ではない。――いや、なかった気がする。

 これはつまり、金、銀、財宝など、類似のものを呼べば、全て一括で呼び出せることになるのか。もしくは――

 

 

 言葉と俺の想像がセットになっていて、その時

頭に描いたものが俺の前に現れるのか。

 

 

 だとすれば、電子機器など、対象を明確にせず呼び出せば、結果はどうなるのか。

 思い描いた電子機器が全て俺の下にきてくれるのか。

 もしくは、地球上で一瞬にしてアンケがとられ、世の中で電子機器ならこれ、というものが、俺の前に現れるのか。

 もしくは失敗《エラー》とみなされ発動しないのか。

 発動しなかった場合はもう一度使えるのか。あるいはそれで一回を使い果たしてしまうのか。

 

 

「……」

 

 

 この能力《スキル》の一番厄介なところは、冗談みたいな話になるが、説明がザックリしすぎているところにある。

 説明書をくれ、説明書を。

 色々わからないところが多すぎる。

 

 

「……」

 

 

 ほしいものは決まっている。

 だが数が多すぎる。読み上げるにしたって息が続かない。

 ――よし。

 

 

 言葉と俺の想像がセットになっていて、その時

頭に描いたものが俺の前に現れる理論でいく。

 

 

 外れてたらその時は――もうその時、考えればいいんだ。

 知らん知らん何も。

 

 

 ――ふぅ。

 頼むぞほんと。

 

 

 頼むぞ!!

 

 

「アーストゥエバーグリーン。我が今求めしものを、今この場へと転送せよ」

 

 

 頭の中に門があって、それを鍵で開くイメージ。

 そしてそこから、物を取り出す。

 一つじゃダメだ。決して単一を想像するな。これならこれらと、複数を想像するんだ。

 目の前一杯に広がる――

 

 

「来い、調味料!!」

 

 

 さて、どうなるか。

 怖ず怖ずと、目蓋を開く。

 開いた先には、山盛りの調味料。

 醤油にみりんに白だし、マヨネーズ、ケチャップといった王道の調味料から、塩コショウ唐辛子などの香辛料。わさび、しょうが、にんにくなどのチューブ薬味。更には麺つゆから焼き肉のタレ、味噌、サラダ油やゴマ油、オリーブオイルなどの、広義として調味料と呼べるものまでそろっている。

 呪からも察しはついていたが、これは具現ではなく転送のようで、全て日本製だった。かつ俺がいつも使っていた馴染みあるものでもある。全て新品であり、消費期限も20◯◯年と長く持ちそうな感じだった。

 どこから取ってきたんだと思いつつも、俺は指を鳴らした。

 

 

 バタン。

 

 

 腰が抜けた。

 震える手で指を鳴らす。  

 

 

 ――いやまあ鳴ってなかったけど。

 

 

 まず第一段階クリアだ。

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