異世界から勇者を召喚したらとんでもない迷惑集団が来た件 作:笹川慶介
どこまで行っても尽きない空と、どこまで行っても尽きない海。
その海の中に、2つの大陸と無数の島々が存在する世界。
この世界には、海を故郷とする種族である“魔族”、空を故郷とする種族である“天族”、そして大地を故郷とする種族である“人族”という三つの種族が存在し、この世界の覇権を競い長らく争ってきた。
数千年もの月日を争ってきた三つの種族だが、二つの種族が滅亡しない限り決して終わることがないと思われていたその争いの歴史は突如として終焉を迎えることとなる。
彼らの争いに終止符を打ったのは、三つの種族のいずれにも属さない──それどころかこの世界のどこも故郷としない、異世界からきた侵略者であった。
世界を侵食する侵略者の力は強大であり、三つの種族は同じ世界の者同士で争っている場合ではなくなった。
共通の敵を前にして各々が抵抗するべく立ち向かうもまるで歯が立たず、彼らは余所者によって滅亡の危機に瀕することとなる。
危機に瀕する三つの種族は、この世界と三つの種族の創造主である女神に救いを求めた。
その願いは聞き入れられ、女神は異世界の侵略者に対抗できる存在として同じく異世界から“勇者”を召喚する。
異世界の侵略者と対等に戦える力を持つ、異世界からの勇者。
この世界の希望を背負うこととなった彼らは、侵略者たちへと立ち向かう。
だがしかし、この勇者たちはいささか……いや、なかなか……いや、かなりの問題児たちであった。
果たして、彼らを召喚するべきだったのか。
そんな悩みすら抱かせることになる者たちが、この異世界に召喚されることとなる……
魔族の国“アクシズ”──
海を故郷とする魔族たちの都である海の底に広がる都市、その都市の中心に聳える魔王が君臨する海底神殿。
彼らの歴史と繁栄を示す荘厳な神殿は──戦場となっていた。
ある日、突如として異世界から襲来してきた侵略者たち。
他の種族と世界の覇権を競い合っていた日々は突如として終焉を迎え、魔族はこの侵略者の脅威に晒されることとなった。
奴らはあまりにも強大だった。
魔族は多くの戦士、多くの将軍を失い、そして魔王すらも生死を彷徨う傷を受けることとなる大敗を喫した。
戦いは一方的となった。
もはや奴らを倒すなど夢物語となり、無力なもの達を守り彼らが逃げ延びる時を稼ぐために抗う戦いになっていた。
そして、戦場はついに都にまで及ぶこととなった。
「ぐっ……」
王と民を逃す時を稼ぐため、侵略者に立ち向かうも、すでに満身創痍。
魔族の将軍3人がかりで立ち塞がるも、2人がすでにこの新たな侵略者の餌食となり、残す己も膝をつくこととなった。
「おい、雌牛。まさかこれで終わりなのか?」
血溜まりを作り、立ちあがろうとするも力が入らず倒れ込む。
それを見下ろす異世界からの侵略者は無傷。
戦いにすらならず倒れた此方を、軽蔑と落胆に満ちた目で見下ろす。
「まだ、だッ……!」
王と民を守れるのは、この場にはすでにこの身一つ。
倒れるわけにはいかないが、もはや戦闘形態を展開する力もなく、出来たことは相手を睨み返すことだけだった。
「“まだ”だぁ? いやいや、決着ついただろうが!」
その精一杯の抵抗にすらならない目を受けた侵略者は、鼻で笑うと負けてなお失おうとしない反骨に苛立ちを見せ此方の剣を握る腕を踏み砕いた。
「あぐっ……!」
内臓をやられているせいか、砕かれた腕の痛みに対して声が出ない。
立ち上がることもできない魔族に対し、侵略者は情けをかけない。次は倒れるその背中を踏みつけた。
「無様だなァ!」
「かはっ……!」
「ギャハハハハ! みっともねえ、情けねえ、身の程知らずがよォ! 同胞守るって、こんな弱小世界のゴミクズどもに何が守れるっていうんだよ、弱ェくせによォ!」
「……ッ!」
「そゥら、テメェらの大好きなお仲間の元に送ってやるよ。俺様の腹の中でなァ!」
ボロボロとなった獲物にトドメを刺す──その目の前で同胞達を喰らったのと同じように、魔族の将軍を喰らい己の
獲物となった魔族に、それを防ぐ術も、逃れる術も残されてはいない。
(無念だ……陛下、どうかご無事で……)
せめて一矢報いたかった。
せめて時を稼ぐ任務だけでも果たしたかった。
せめて仲間の無念を晴らしたかった。
せめて……せめて……せめて……そんな後悔が脳裏をよぎる。
それでも、すでに魔族になす術はない。
取り込まれ、侵略者の肉体という名の異世界に取り込まれるのだから。
もはやこれまで。
自身も諦めその死を受け入れるしかないと考えた魔族。
「──ぐぎゃあああ!?」
しかし、まさに喰われようとした時。
突如として侵略者が吹き飛ばされ、魔族を抑える力が消えた。
(何が、起こった……?)
状況が飲み込めない魔族の前に、吹き飛ばされた侵略者から守るように1人の人族らしき男が背中を向けて降り立つ。
その人族は、学ラン姿の中肉中背の男であり、顔に魔族が見たこともない造形をした仮面──一般的には“童子”と呼ばれる能面を被っていた。
「オヨヨ、これは失敬。なにぶん緊急事態だったもので、手荒な奇襲攻撃をしてしまいましたね〜、ヨホホホホ」
その男は、この世界の創造主である女神が遣わした、侵略者に対抗するための力を与えられた異世界の勇者である。
この世界の者達では決して抗えない異世界からの侵略者と戦える力を持つ、同じく異世界から来た存在である。
──だが、しかし。だがしかし、である。
態度こそ慇懃だが、軽薄な口調におちゃらけた動作。なにより素顔を隠す能面。
その勇者は、どこからどう見ても変態だった。
紛うことなき変態であった。
一目でわかる変態であった。
「誰だテメェ!」
捕食を邪魔された侵略者は怒り心頭である。
その相手がこんな変態とあれば、激怒するのも道理である。
「ご覧の通り、
しかし、変態はその怒りを飄々とした様子で受け流し、聞く側からすれば煽っているとしか感じられない態度で自らを“変態”と呼び返答とした。
これは、異世界からの侵略者により滅亡の危機に瀕した世界にて、侵略者達から世界を守るために召喚された勇者が活躍する物語である。
だがしかし、果たして彼らは召喚されるべきだったのか?
救われた世界から散々そう疑問を持たれることになる、勇者だがとんでもない迷惑集団となった者達が異世界で暴れる物語でもある。