金持ちレズ女はニコに付き纏う 作:──
屋敷に入ってすぐのこと
「これだけの豪邸なのよ、折角だから金目のモノは貰っていきましょ!」
「彼女に無断でそんなことをしていいの?」
「いいでしょ、アイツが勝手にスタスタ地下まで行っちゃったんだから」
レイアが地下へ向かう階段を降りて行った直後にニコはそう言った。
すると、階段の下から
「いいわよ、勝手にしなさい!」
聞こえているぞ、と言わんばかりの大声で承認が飛んできた。
常識では考えられない地獄耳に驚きつつ、渡された地図を見たニコが「げっ」と声を上げる。
他の三人が覗き込む。
渡された地図は三枚、三階層それぞれにいくつかの印がつけられていた。
エントランスから一番近い場所にあるデータの保存機器は、食堂を抜けた先だ。
「食堂って、アイツが言ってた通りなら……」
彼女の話によれば、そこがレイアの最後の殺戮の場所だ。
「ニコ、彼女の発言の矛盾に気がついてる?……ここで殺しをしたはずなのに、デッドアンドホロウで私たちを助けた彼女は、“初めて”と言ったわ。もし後者が本当なら、ここに死体なんてない筈よ」
そう言ってアンビーが開けたドアの先はしかし、レイアが語った通りの情景が残されていた。
地面にはシャンデリアが落下し、散乱している壊れた破片に混じって死体から生えたのだろう紅いエーテル結晶が人の形を留め、かつてそこにあった凄惨な死体の形を保っている。
「……これがここにあるなら、デッドエンドホロウでの発言が嘘ということになるわ」
一同はそこら中に散らばる残骸を踏まないようにしながら食堂を通り抜けた。
「ニコ!これじゃないか?」
エーテルの侵食が酷く、壁一面の本棚が崩れた部屋の中から猫又が光る据え置きの端末を見つけ出した。
「地図の裏に端末の説明書……っていうか、説明書の裏に地図を書いてるわね」
地図の裏にあった説明書、もといその紙に元から印刷されていた説明書に従ってニコがスタンバイモードだった端末を起動した。
〝音声ログを再生しますか?〟
しばらく顔を見合わせた一同。
そして、同じタイミングで頷くと、ニコが再生のボタンを押した。
流れ出したのは老若男女の入り混じった大合唱。
〝我々の流す血は、後世へ残す希望である。人は真紅の血をもって虚を滅ぼす〟
同じフレーズが何度もも繰り返される不穏な音声をニコが停止させようとしたその時
〝────これより、司政の要請に応じエリー都に発生したホロウへと突入する〟
レイアの声を最後にログは途切れた。
「十年前の旧都陥落、アイツもあそこに──」
〝最終更新日時、十年前。旧都出陣、帰還者・生存者共にゼロ〟
「ゼロ?レイアは帰ってんだろ、ゼロってのはどういうことだ?」
《……彼女には悪いけど、一気にきな臭くなってきたな》
ボンプ越しにアキラが呟く。
《もう少し探れないか試してみるね!》
リンが端末にアクセスしてしばらく、時間をかけてハッキングを行ったにも関わらず、リンが得る事ができたのはたった一つの画像だけだった。
写真の中では、真紅のドレスに身を包んだレイアが今日持っていたものと同じ儀礼剣を手に玉座のような豪華な椅子に腰掛けている。
周囲には、彼女の椅子から伸びるレッドカーペットの両端に帯剣した数人の人物が控えており、床に伸びる影を見れば写真の画角の外にはより多くの人が控えているのが伺える。
『新女王、出陣の命』
画像にはそうタイトルがつけられていた。
それ以上の情報を得られず、一同はその端末のデータを削除したのちその端末を破壊すると、周囲を調べながら二階に辿り付いた。
「結局、一階の残りの端末は全部プログラム?だったのよね」
《うん、どの機械で作動させるのかもわからないプログラムが保存されてた》
「まぁ、メインの報酬はアイツからの現金なんだし、情報がなくたって良いわ。次に進みましょ!」
そう言ったニコを先頭として廊下を進み、その突き当たりの部屋にやってきた。
ニコが二度地図と現在地を照らし合わせ、目の前の扉を開けるとそこはたった一つの巨大なコンソールが置かれた部屋だった。
先ほどと同じような操作で情報が一気に表示される。
〝パスワードを入力してください〟
表示された文字にを見てリンがハッキングを試みようとしたその時、地図に書き込まれた一文がニコの目に映る。
bLood for thE GlorIA’s
意図的な誤字が含まれ、書き込まれた位置すらも不自然な一文。
打ち込むと、二つの文章ファイルが表示された。
そのうちの一つ、“Legion”とタイトルがつけられた文章をニコが開くと、最初に映し出されたのは館を覆っているものと同じ真紅のエーテル結晶を纏ったエーテリアスだった。
〝共利貸与型エーテリアス・レギオン。このエーテリアスの特筆すべき特徴は、他の生物を吸収しその特性を模倣し、必要に応じて吸収した生物を模倣したエーテリアスを生成することにある。例えば、毒ガエルを取り込ませれば毒を纏うようになり、必要に迫られれば毒ガエル型のエーテリアスを産む、まさに一にして軍である。そして、このエーテリアスが人を取り込むと、取り込まれたモノの才能を模倣する。これまでにこのエーテリアスはナイフと銃の扱いを学び、毒の調合をこなし火を扱うようになった。そして、彼は私たちの言語を理解する。〟
二つ目のファイルのタイトルは、パスワードと同じく“Blood for the Glory”。
〝我々はエーテリアス・レギオンを地下へ幽閉することに成功した。そして、その力を利用する方法を見つけた。これにより私たちは死したものの才を生き残ったものへ受け継ぐことができる。誰の死も無駄にならない、我々の流してきた多くの血は今まさに、栄光のための血となったのだ〟
悍ましい、口には出さないが、誰もがそう思っていると知って口をつぐんでいた。
「……なんでレイアがこの屋敷を燃やしたいか、わかったわね」
ニコはそう言って無理矢理場を仕切り直すと、データと装置を破壊して三階へ向かった。
最後の部屋は三階の廊下の突き当たり、培養槽が並ぶ不気味な部屋だった。
その部屋は対侵食設備が潤沢であったらしく、未だに往日の面影をある程度とどめていた。
十五の培養槽の内、十二まではガラスが割れ機器が破壊されており、一つ飛ばして十四と十五は使われた形跡がなく垣間稼働していない。
唯一無傷で残った十三番目の培養槽の手前に置かれた端末が目標だろうと容易に推測ができた。
〝実験記録0-1-A〟
そこに記されたのは長い実験の成果に関する文章。
〝超抜級エーテリアス・レギオンより結晶の入手に成功。今回の実験では現当主とその夫人の生殖細胞にこれを癒着させ、エーテリアス・レギオンの特性に最も適合する者を作り出す。破壊工作への対策として、一番から三番はダミー、四番から十二番に他の試作を培養する〟
「……人と、エーテリアスを人造で融合させる実験」
アンビーの表情が曇る。
〝培養は成功し、一人の少女が生まれた。やはり彼女はレギオンの力を最も利用できる器だ。彼女だけが非言語的にレギオンと意思を疎通し互いの持つモノを交換している。これは、レギオンが人間の言葉を発し始めたことからも、彼女の異常な万能の才からも明白だ、我々はこの能力を共振と呼称することにした。そして、レギオンの生成した紅結晶から彼女の共振能力を最大限に発揮するための武装を開発し、これを儀礼剣血栄と名付けた。次期の当主は彼女となるだろう、その時のためなるべく多くの才あるものをレギオンへ捧げる必要がある〟
この屋敷の悲劇の裏側が一つづつ明かされていく、最後のピースはきっとニコたちに依頼をした彼女自身が握っているだろう。
一同は、地下に向かった彼女を追うべく、データと装置を破壊して部屋を出た。
その時、背後から
「止まりなさい。あなたたち、ここで何を?」
声の主は桃色の髪に黒縁のメガネの槍を手にした人物。
───対ホロウ六課、月城柳に相違なかった。