金持ちレズ女はニコに付き纏う 作:──
「おはようニコ!朝早くから失礼するわ!」
「もう来ないと思ってたのに……」
今回は玄関から現れたレイア。
しかし、今回はいつもより遅い時間にやってきたばかりか、顔色が青白いように見える。
「アンタ、顔色悪いわよ?悪いけど、病気なら移されたくないから日を改めてくれる?」
「病気じゃないわよ!……ただちょっと疲れちゃっただけ」
そう言うとレイアは、玄関横のこれまでニコが見えていなかった死角から、パンパンになるまで中身が詰められたいくつもの袋を台車を利用して運んでくる。
「ちょっ!?何よコレ!?」
「ふっふっふ……、揺らしてみて!」
ニコが言われた通りに袋を揺らすと、中からはチャリチャリ、ジャリジャリという、金属がぶつかったり擦れたりする聞き覚えのある音が聞こえてきた。
「もしかしてこれ……っ!!」
ニコが袋を一つ開けると、その中では袋がパンパンになるまで詰め込まれた硬貨と紙幣の混ざったディニーが白銀の輝きを放っていた。
ニコより少し小柄な彼女は袋一杯のディニーをなんとかしてここまで引き摺って来たはいいものの、息は荒く顔には疲労が滲み出ており、その上体は今にも倒れそうにフラフラと揺れている。
「ちょっ!?なんでそんな無茶してまで持ってきたのよ!」
「ぷ、プレゼントは心をこめるのが大事って……、聞いたから……」
「ああもう喋るのも辛そうじゃない!……取り敢えず入って、座って休みなさい」
………………
「……ニコ、喜んでくれた?」
「……嬉しいけど、どうして突然?」
「一年には何度かプレゼントを送る日があるんでしょう?私、渡されたことなかったから知らなくて。これまで渡さなかった分を取り返さなきゃって思って!ニコにちなんで二千五百万よ!……手渡しできる量だとこれ以上は厳しいから、もうちょっと欲しかったら振り込むわ!」
胸を張った彼女の発言にニコは少し気圧されつつも、一つ気がついたことがあった。
「アンタ、本当にこれまでお金だけで生きてきたのね」
「えぇそうよ、お金の価値と使い方だけを迎えて成人したの。自慢じゃないけど、誰より一般常識が欠けてる自信があるわ」
「……胸を張って言うことじゃないわよ」
「そう?」
レイアは本当に不思議そうに首を傾げた。
その様子──正確には常識のなさ──にげんなりとしたニコだが、気を取り直してこの袋の中身をどうするべきかと考え始めた。
考えても見てほしい、自転車操業に限りなく近い状態を長年維持してきた邪兎屋が急にこのような金額を現金で持っていけば必ず怪しまれること請け合いである。
「この量のディニー、私たちが急に銀行まで持っていったら怪しまれると思う。ついでに持っていくのも面倒な量よ、これ」
ニコの懸念を、アンビーがニコより早く、そして直接的に口にした。
すると、少女はそれは考えていなかったというふうに固まる。
「あ……」
少女が小刻みに震え始める。
「ご、ごめんなさいニコ。困らせたかったわけじゃなくて……えっと、その、取り敢えず今日は持って帰るわね!ま、また明日……」
少女はやって来た時のような白い顔で、瞳に雫を湛えて撤収の準備を始める。
「ちょっ、ちょっと待って!貰うわ!ありがたくもらうから!」
「…………え?ほ、ほんとう?」
「えぇ!現金なら小さな買い物の時にでも少しずつ使えばいいんだから!何も銀行に持って行く必要ないのよ!」
少女が笑顔を取り戻したのを見ると、ニコは安堵のため息を吐いた。
「……にしても、アンタがあんな表情するとは思わなかったわ」
「だって、好きな人に迷惑をかけちゃったなんて、一番悲しいことじゃない?……その、気を遣ってくれてありがとう。あと、ごめんなさい」
少女はぺこりと頭を下げると
「今日は嬉しかったから、残りの支払いの半分をチャラにしてあげる!また私を頼ってね、ニコ!」
少女は花咲くような笑みと共に去っていった。
そして、ビリーが下駄箱の上に置かれている紙切れに気がついて拾い上げる。
「おっ、おお、おおおっ親分!」
ニコが差し出されたそれを見るとそこには小切手に走り書きされた「二十五万」の文字。
「ま、またなの〜──っ!?」
ニコの叫びは、レイアに届くことなく消えていくのであった。