金持ちレズ女はニコに付き纏う 作:──
「お嬢様、電話でございますわ」
「……誰から?」
ある日の午後、午睡に浸るレイアにリナが告げた。
彼女は寝惚けた目でそう聞くが、リナも少し困った顔で
「それが……どうやら電話帳には登録されていないようで」
「それじゃあ迷惑電話じゃないの?」
「非通知でもないのです。……既に三回ほど着信しておりますから、確実にお嬢様にご用事のある何者か、ということになりますわね」
「そう、じゃあ話すから渡して」
渡された電話からは、焦ったような早口の少女の声が聞こえてくる。
レイアは早口すぎて聞くこともままならない、と少女を諌めた。
落ち着いた少女は、今度は少し大きな声で言った。
『えっと、これは渡された電話番号だから、あなたが誰かわからないんだけど……とにかくニコがピンチなの!助けて!』
「……は?」
その言葉に、レイアは怒気を滲ませた疑問符で答えるしかなかった。
「……なんて言って渡されたの?」
『〝きっと助けてくれる、信頼できる人だ〟って』
「悪いけど、彼女と私は絶交中。──助ける義理はないわよ」
『そんなこと言わないで、きっと助けてくれるって言われるくらい信頼されてるんだから、それで仲直りって……できない?』
「無理ね。そもそもあなただって、ニコからこの電話番号を渡されるくらい“信頼できる”仲間なんだから、私抜きで十分じゃないの?」
相手は、腰を上げる気配を見せないレイアに焦れた様子を見せた。
『相手はあのヴィジョンなの!一人でも味方が欲しいんだって!』
「……へえ?ヴィジョン?あんなところを相手にしたって時間の無駄よ。適当なところで手を引いたほうがいいってニコに伝えておきなさい」
『それができるならとっくにしてるよ!』
そこから電話越しの少女は今回のことの顛末を話し始めた。
ヴィジョン・コーポレーションが爆破解体を計画する地域でいまだに暮らしている人がいることをニコたちが見つけたこと、そして今ニコたちはそれをどうにかするべく動いてあることを。
「……ヴィジョンなんて片手で潰せる企業を潰すのに、わざわざ私が手伝う理由ってある?」
『それ!その一言に全部詰まってるよ!』
「はぁ……とりあえず、私はその話には乗らないから」
『──見返したいと思わないの?』
「はぁ?」
『ここでニコを助ければ、きっとニコも自分が手放した人がどれだけ凄かったのか気づくよ』
「…………」
数秒の、とても重い沈黙が流れた。
「……到着はだいぶ遅れると思うから、今から言うアドレスにニコの座標を送っておきなさい」
『……!じゃあ──』
「勘違いしないで、単なる暇潰しよ。アイツと私が出会った時みたいに」
レイアは電話の相手にアドレスを伝えると、それ以上の会話はせずに電話を切った。
「ライカン、私の装備を引っ張り出してくれる?管理は任せたはずよね」
「…御意に」
「作るだけ作って使わないガラクタだと思っていたのだけれど、使う機会が来るなんてね」
柔らかい口調で独り言ちる彼女はしかし、誰が見てもわかるほど気が立っていた。
彼女の元へ運ばれてきたのは、鋼鉄の刺々しいガントレットとブーツ、防弾プレートの仕込まれた緑色のドレス。
そして、彼女のためだけに作られた、蛇腹剣と呼ばれる──刃の部分がワイヤーで繋がれ必要に応じて分裂し、鞭のように変化する機構を備えた──剣、そしていくつかの追加の装備たち。
それら全てを身に纏ったレイアは、送られた座標を確認すると車庫へ赴き、バイクのエンジンを始動させた。