結成6年、中々順調に活動しながらも、皆がちょっと行き詰まりを感じている時。
そんな時にある出来事が。
それから各々が、自分の出来る事を考え始めます。
pixivで投稿していて、こちらは初投稿です。
どうか宜しくお願いします。
「虹夏!危ない!」
星歌か咄嗟に叫ぶ。
その叫びも虚しく、傍らに除けられていた大型のアンプが虹夏めがけて倒れ込んでゆく。
ステージ床の汚れを丹念に雑巾で拭いていた虹夏は、反射的にそちらを向いたが目を見開いたまま動く事が出来ず………
次の瞬間、派手な破壊音がスターリーの店内に響き渡った。
ーーーーーーーーーー
時をちょっと戻して新宿FOLT
「や、やっぱりお姉さんのステージはす、すごいです!」
「うむ、ぼっちよ。わかるかね」
「…なんでリョウ先輩がドヤ顔なんですか?」
虹夏を除いた結束バンドの面々は、FOLTにてSICK HACKのライブに訪れていた。
虹夏はスターリーの改装の為、店に張り付いていた。
結束バンドの面々は、1週間程前にライブハウスツアーを終え、久々の休暇。
その時偶々連絡があったきくりから「ライブ見に来ない〜?」とお誘いを受け、改装の手伝いをしたい虹夏を除いた3人で新宿FOLTに出向いた。
☆
「やーやーぼっちちゃ〜ん。私のライブどーだった〜?」
おにころを一発キメながら、廣井きくりが現れる。
「一見不安定に聴こえがちながら卓越した技術で纏め上げ揺れ動いたオーディエンスの心を根こそぎ掻っ攫っていってウンヌンカンヌン……」
「相変わらず山田ちゃんはわたしの事になるとあち〜な〜!…で、ぼっちちゃんはどぉよ!?」
ひとりは、目を伏せながらも訥々と答える。
「観客を惹き込むというか、じ、自分の世界を完全にも、持ってるのがすごい…です…」
ひとりの顔には、羨むような悔しいような表情が浮かんでいた。
その表情を眺めて、廣井は横目で郁代に確認する。
「喜多ちゃん、ぼっちちゃん何かあったの?」
小声の廣井の質問に、苦笑しながらこちらもまた小声で返す。
「実は…最近結束バンドの公式アカウントで、アンチひとりちゃんっぽいコメントする人が増えてきて…。多分、最近名前が売れてきたバンドのギタリストを信奉するファンの仕業じゃないかって、星歌さんは言ってたんですけど。」
そのバンドは、新進気鋭と言って良い最近どんどん名が売れてきたバンドだ。
特にバンマスであるリードギターは「俺等スターリーじゃ絶対演らないから!」とファンに公言しているとか。
あからさまに[後藤ひとり]に対抗しているのがありありとわかる。
それを示すように、[自分の音][自分のフレーズ]を必要以上に強調したサウンド作りを目指しているらしい。
彼のファンも
「彼に比べて後藤ひとりのリフは上手いんだけど、ね〜…」
「教則本の上位互換て感じ?」
「彼のサウンドに比べて心に残らないなぁ」
等々、そのギタリストをアゲる為にひとりをサゲている、そんなコメントばかり綴っているようだ。
結束バンドのSNSにも、「上手いけど特徴が無い」というような書き込みが散見される。
「喜多ちゃんさぁ、それ本気にしてないよね?」
「当たり前じゃないですか!ひとりちゃんのサウンドは唯一無二!この世の誰にも鳴らすことが出来ないリフです!あの歌うような囁くような、それでいて突然雷鳴が轟くようなメロディアスかつ激しい音!私を見ろ!音を聴け!と暴君の様に叩き付けたかと思えば次の瞬間には抱き締めてくれるような甘いメロディーを奏でてウンヌンカンヌン……」
「いや、喜多ちゃんもぼっちちゃんに関して相当あち〜な〜!」
「…ゴホン! とにかくそんな書き込みに惑わされる筈ありません!」
きくりも苦笑しつつ答える。
「まぁ、わたしから見てもぼっちちゃんのサウンドは際立ってると思うよ。この先なにを上積みすりゃいいの?ってくらいには」
黙っていたリョウも加勢する。
「ぼっちの音は他のギタリストには出せない。天才の私が最初に見い出した逸材だよ」
「ひとりちゃん連れてきたの、リョウ先輩じゃなくて虹夏先輩ですよね?」
「…誰が最初とか関係ない」
「言ってる事矛盾してますけど」
ふい、とリョウはそっぽを向く。その耳が赤い。
その騒ぎを余所に、ひとりが項垂れながらぼそぼそと言葉を発する。
「…わ、わたしの音って、なんなんだろう…」
その、思わず発してしまったという感じの震えた言葉に、周囲が静寂に包まれる。
「は、初めは、め、目立ちた…あいえ、世界平和、世界平和を…」
「ひとりちゃん、それもう良いから」
郁代が醒めた目でひとりを見る。
「と!…とにかく、最初は上手くなる事だけを考えて…いえ、ただ夢中で掻き鳴らしていただけなんです」
不意にきくりと目線を合わせる。
「ただ、技術がついてくると、色々な鳴らせ方が楽しくって、こ、こういうのはどうだろう、ああやってみるのはどうだろうって…と、とにかく楽しくてやってただけで…」
「それが今のぼっちちゃんを形作ってきたんだよね。ふつう、そこまでのめり込めるヒトは中々居ないよ」
「そ、そうなんでしょうか…」
きくりは、おにころをちゅうと一口
「ただ、それは中々言語化出来るもんじゃない。世の中は、とにかくカテゴライズしたがるからねぇ。自分のワカラナイものは怖いのさ」
「じゃあ、どうすれば良いんですか!?」
郁代が憤懣遣る方無しといった表情できくりに詰め寄る。
「郁代、どぅどぅ」
リョウが郁代の肩を掴んで宥めにかかる。
「馬じゃないです!」
リョウと郁代がワチャワチャやってる横で、きくりはふぅ、と一息。
「…じゃあさ、ぼっちちゃん。いっその事、世間様を手玉にとろうか!」
「…ど、どういう事ですか?」
当然の疑問だ。きくりが何を思っているのか皆目わからない。
「いやさ、丁度良い機会だなーってね」
「………?」
「実はね、都合でイライザがイギリスに一時的に帰らなきゃならなくなって、それが少なくとも1年くらい。だからね、ちょうどいいなーって」
「廣井さん!何が丁度良いのかわかりませんよ!」
唐突に郁代が参戦してきた。
「廣井、それじゃ言ってる事が全然わかんねぇよ!」
ステージ脇から、肩にタオルを掛けた志摩が現れる。
「そうデスよきくり。モッとちゃんと説明しナいと!」
その隣にイライザも現れた。
「あ、岩下さんとイライザさん!お疲れ様です!」
郁代がすかさずキラキラ笑顔で挨拶を交わす。流石のコミュ強。
「ああお疲れ様。来てくれてありがとう」
こちらもまるで王子様のような笑顔で返す。こちらは気遣いの人。
「後藤サン!行きましょう!」
「「イライザ!それじゃわかんないよ!」」
志摩ときくりのダブルのツッコミが入る。
「それで、どういう事です?」
傍観していたリョウから、質問が飛ぶ。
「ああ、ごめんね。イライザが家庭の事情で一旦帰国しなくちゃならなくなって、最低1年はイギリスに残るんだ。それだったら、私達も行っちゃおうかってなって」
志摩が苦笑しながら説明してくれた。
郁代が目を丸くして聞く。
「え、じゃあ、向こうでバンド活動を!?」
きくりは新しいおにころにストローを刺して軽く答える。
「まーそーいうことー。どーなるかわかんないけど、ま、ムチャクチャやってくるよ!」
酒の入ったきくりは無敵だ。向こうでの生活やその他うんぬんは、全てイライザに丸投げする気マンマンである。
「でね? どうせならぼっちちゃん、一緒にいかねーかなーって」
「わ、わわわわたしが海外なんて、むむむ無理ですっ!」
ひとりは青ざめを通り越して顔を虹色に染めながら必死に否定する。
「やー、良い機会だと思うんだけどなぁ、タイミング的にも」
「タ、タイミング?」
怪訝そうなひとりに、ビッとおにころを差し向けてきくりは笑う。そう、悪魔のような天使の笑顔で。
「だってさぁ、悔しいじゃんか!わたしが最初に見い出したぼっちちゃんが、訳のワカンネーガキに言いたい放題されてさ!」
「廣井さんわたしが最初」
「リョウ先輩」
ヒエヒエな眼を向ける郁代に動じず、リョウは自らの見解を話す。
「つまり、イギリスーーロンドンやアイルランドの、本場の風を受けてこい、と?」
きくりはまたストローを一口
「ま、それもあるんだけど、ね。それと同時に、[後藤ひとり]を世界にわからせに行く、ってさ」
リョウは唐突に合点が行ったような表情になる。
「つまり、本場に[後藤ひとり]を無理矢理カテゴライズさせに行く、と。確かに、未だに日本は海外の後追いする部分がある。そこで、海外にぼっちを認めさせればそれを輸入された日本は文句の付けようがない、と」
「そ! そこらのガキなんざイチコロよ!」
きくりとリョウ、二人してニヤニヤしだす。
「…で、でも…それじゃ結束バンドばどうなるんですか!?」
暴走気味の二人を制止すべく、ひとりはココイチの声を張り上げる。
「そうですよ!それじゃひとりちゃんと離れ…ゲフン、結束バンドがバラバラになっちゃいます!」
郁代も必死だ。このまま話が纏まれば、最低1年はひとりと離れ離れになってしまう。
「そこなんだよなぁ~。だから強くは言えないんだよ〜」
きくりは志摩とイライザに顔を向け、苦笑を漏らす。
今現在、結成6年目の結束バンドは順調にファンを増やして来ている。
人気バンドの波に乗ってきているといっても過言では無い。
スターリー位の広さのステージでは、そろそろ収まりきらなくなってきた。
星歌も
「おまえらとっととデカいとこ行け!」
と、言われる始末。
まさに、これからが正念場だ。
「いま、ぼっちに抜けられると困る…」
とリョウが言うのが本音だろう。
「ひとりちゃんは、今のままで充分スゴいんです!だから日本に居ながら外野を黙らせてくれます!」
郁代のコレは、我欲だろう。
「あ〜わかったわかった!わたしだってぼっちちゃんはスゴいって思ってるよ~!…でも、ね」
きくりはひとりに向かって悪魔の微笑みで
「チャンスの神様は、前髪しかねーんだわ」
当然困惑するひとり。
「ど、どういう意味です、か?」
「そこは自分で考えてねー」
まるではぐらかすかのようにズビッとおにころを啜る。
きくりが去った後、志摩がひとりに打ち明ける。
「廣井があれだけ執着するプレイヤーは後藤さんだけなんだ。だから、そこはわかってやってね」
「そうヨ。きくりがあれダケ「上に登ってほしイ」って言ってるのはひとりサンだけヨ」
イライザも賛同する。
「…は、はい…」
ひとりは、困惑しながらも悪い気分では無かった。
なにしろ、あれだけ自分の世界を持って、自分の世界を表現出来るプレイヤーに買って貰っている。
それは、自分ではついぞ獲得出来なかった(と思っている)モノを持っている、憧れのバンドマンだからだ。
まあ、素行は無茶苦茶だが。
☆
…結束バンドマイナス虹夏の一行は、ホームに帰る為FOLTを出た。
「…ひとりちゃん、行かないわよね」
郁代が心細げに聞いてくる。
「…はい、わたしには結束バンドが第一ですから」
「まあ、確かに良い機会ではあるんだけどね」
リョウが空気の読めない発言をする。
「リョウ先輩!結束バンドがどうなっても良いんですか!?」
「でもさ、ぼっちに今抜けられるのはダメージが大きい。ヘタするとバンドが無くなる可能性だってある」
「だったら!」
「まあ落ち着いて郁代。わたしだって行ってほしい訳じゃない。…ただね」
一呼吸入れて、リョウはひとりの正面からその瞳を覗く。
「ぼっち。いいの?」
「………?」
「自分の知らない世界を見れるよ。誰もが望んで手に入れられるモノじゃない。ぼっちにしか…ぼっちだから見られる世界を手に入れられる。」
「…リョウさん…」
「少なくともわたしはそう思っている。もちろん、ぼっちだけ上がっていってもワンマンバンドになっちゃうから、わたしたちも相応以上の努力は必要たけどね」
ひとりは泣き笑いのような表情を浮かべる。
「…やっぱり、わ、わたしは日本に居ます。み、皆とずっとバンドやってたいです」
「…そっか」
「…ひとりちゃん」
「パ、パスポートも無いですし!わたしなんかが海外行ったら、それこそ秒で行き倒れますし!何より日本でだってまともに生活出来ないのに、喜多ちゃんが居ないと生きていく事すらままならないのに!」
「…ひとりちゃん!」
がっしと抱き合う二人。
郁代からは見えないひとりのその表情は、何かを諦めたような顔に見えたのを、リョウだけが見ていた。
と、不意にリョウのポケットが震え出す。
「ん、…店長?」
それは、結束バンドの…後藤ひとりの運命が
ゴロゴロと転がってゆく
一本の電話
今年の春からpixivで書き始めた初心者です。
シリーズも終了し、ある方のアドバイスでこちらに投稿する事を決めました。
内容が不快に思われた方が居れば、申し訳ありません。
その時はブラウザバックお願いします。