王の帰還   作:サマネ

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閑話2

「アンタ達!皆付いて来なさいよ!それじゃ、ハナから飛ばしてくぞぉっ!」

 

ワァァァァ!!!……………

 

 

「おつかれさまーヨヨコちゃん!」

「ふぅ………店長も、お疲れ様」

 

新宿FOLT

今はココ出身の大人気バンド、シデロスのワンマンライブが終わった所。

 

今やスターダムを駆け上がり、押しも押されぬ人気となったシデロスだ。

武道館どころかアリーナやスタジアムでの公演でさえ出来る彼女達だが、未だにライブハウスの演奏に拘っている。

彼女達の所属しているメジャー事務所的には余り旨みが無いライブハウス活動だが、シデロス…大槻ヨヨコは、自分達の活動に制限を掛けない条件も盛り込み契約させたので、事務所に何かを言われる筋合いは無い。

 

嫌なら辞めてやる!なのだ。

 

「それにしても、貴女達…ウチくらいのキャパでやってて良いの?」

新宿FOLTのキャパはそれなりだが、しかしスタジアムやアリーナとは比べるべくも無い。

 

「いいんです。ココが私達の原点ですから。やっぱりライブハウス活動は疎かに出来ません。それに、姐さん達の居ない間にココの集客を減らす訳にはいきませんから」

 

ヨヨコが「姐さん」と慕う、廣井きくり。

そのバンド「SICK HACK」は只今ロンドン滞在中。

ヨヨコは思う。間違い無くロンドンでも人気の筈だ。連絡くれないけど。

 

「まぁ、私にとっては有り難いんだけどね。でも…事務所、良いの?」

銀次郎店長の言葉に、ヨヨコは眉間に皺を寄せる。

「口出しはさせません。そう言う契約を勝ち取りましたから」

その答えに銀次郎店長は思わず苦笑する。

「そ。今度やるスターリーでのライブも、そんな理由?」

下北沢スターリーは、更にキャパが少ない。最早シデロス程のバンドがライブをすれば、ライブハウスの方が負担になる位の。

 

「………そうですね」

 

何か含みのある言い方。表情。しかしそれを素直に話すようなヨヨコでは無いのが判る位にはヨヨコと銀次郎の付き合いは長い。

 

「そ。まぁ、これからも頑張んなさい。…無理はしないようにね」

「…ありがとうございます」

銀次郎店長は何となく想像は付いていた。多分、結束バンド…後藤ひとりに拘った、何かなんだろうな、と。

 

 

帰りの準備を済ますと、もうメンバーは居なくなっていた。まあ、何時もの通り。

「…フン」

春の夜風に吹かれてアスファルトを踏み締め歩き出す。

数ヶ月前から感じる焦燥感は、未だに消えない。それどころか増々大きくなって行く。

 

「何で私が…こんな気持ちを抱えてなくちゃならないのよ…」

 

全ては順調。未だメンバーからは微妙に距離を置かれているが、「仲良しの学芸会」では無いのだ。目標が同じなら、距離を置かれようと疎まれようと、別に構わない。

「私」という高速艇で、メンバー皆を見たことの無い大海原に連れて行ってあげる。振り解かれないように、覚悟してしがみつきなさい!

 

しかし…

 

皆で支え合い、皆で笑い合い、進むべき道を相談しながら進んで行く。

そんな関係だったら、或いは…丸木舟だって楽しかったのだろうか。

詮無い考えが浮かび、フルフルと頭を降る。

 

全ては結束バンドが悪い!

後藤ひとりが…悪い!

あいつ等のホームでライブをするのも、あいつ等のファンを喰い荒らしてやるつもりで。

そう!決して「今の内から私の方が格上だとスターリーのファン達に分からせてやる」為にわざわざあんな小さいトコでライブする訳じゃ無い!

あいつは、丸木舟に載せたパワーボートのエンジンだ。

一旦火を吹いたら、どんな荒波だって乗り越えて行きそうな。…そんな恐ろしささえ感じる。

でも、そんなバランスの悪い船では転覆まっしぐらだ。

 

しかし…

 

その船が強固な造りだったら?

優れた航海士が乗っていたら?

抜群の舵取りが乗っていたら?

見る者を感動させる外観なら?

 

 

そんなモノは妄想だ。

妄想だ。が。その妄想を実現させてしまうような努力を、彼女らはしている。実現出来るかはともかく。

 

ヨヨコは身震いする。

自分の足元から、何かが這い上がってくるような錯覚を覚える。

 

「…フン!」

 

自分を鼓舞する為か、鼻息を荒くする。

そして前を向き、歩き出そうとしたその時。

「あ!」

通りの反対を歩いている青髪を発見する。

 

「ま、待ちなさい!山田リョウ!」

声を掛けた瞬間、何故か早足になるリョウ。

逃がしてなるものかと、先回りして横断歩道を渡る。

 

「だから、待ちなさいって!」

「…どちら様でしょうか?」

あからさまに嫌がられている。顔を背けて「どちら様」も無いだろうに!

「私よ!大槻ヨヨコよ!」

「…オーケンと知り合いになった覚えは無いけど…」

「大槻"ヨ•ヨ•コ•!"ふざけないで!」

「…ああ、大槻さんか」

 

この女は!

何処までが本気で何処からが冗談か未だに判らない。

顔に割れ線でも書いてやろうか!

「…で?なんの用?」

やっと目を合わせたと思ったら、随分素っ気ない態度だ。

「…別に。あ、アンタが最近FOLTに出入りしてるから、声掛けただけよ」

「そ。それじゃ」

会話をものの見事にブチ切って去ろうとする。

「ま、待ちなさいよ!」

「まだ何?」

ヨヨコは思案する。えーと。…会話を始めてから会話内容を思案するのは大概失礼だが、それでも聞きたい事は確かにあるのだ。

「あ、そう。虹夏は今どう?」

今思い付いたのが丸分かりの聞き方。

「リハビリも順調だけど…聞きたいのはそれじゃ無いよね?」

「…虹夏が心配だったのよ!」

「あ、そう。それじゃ」

「待ちなさいよ!」

肩を掴んで引き留める。逃してなるものか!…自分でも理由付け出来ないけど。

「ほら、親睦の為にご飯一緒に食べましょう!」

「…奢ってくれるなら」

「い、良いわよ!何食べたいの?」

「…叙々苑」

「………牛角ね」

「ケチ。稼いでるくせに」

「うるさいわね!その代わり、他のメンバーの愚痴とか聞いてあげても良いわよ!ほら!…後藤ひとり…とかの!」

「…叙々苑」

「分かったわよ!その代わり聞かせなさいよ!」

「本音が出てる。ププ…」

 

二人して夜の街に消えて行く。

 

 

とにかく、まだ大槻ヨヨコの焦燥感は消えそうに無い。

そして、山田リョウの性格の悪さも気が付いていない。

 

 




…ヨヨコ、好き。

独りぼっち強者で、それゆえに多少ネジ曲がってるとことか。

解釈違いと思った方、どうか御容赦を。
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