王の帰還   作:サマネ

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離陸の時

「うーん…」

都内某所の映画館。

 

「うーん………」

都内某所の海岸。

 

「う〜~~ん……………」

都内某所の音楽ショップ。

 

「うぁぁぁぁぁ……………」

都内某所………いや下北沢スターリー内。

 

 

「…うるさいっ!」

虹夏に怒られた。…解せぬ。

 

「なに唸ってんのさ?」

虹夏から些か冷たい目を向けられる。

「…うん」

隠していてもしょうが無いので、今の心持ちを打ち明けてみる。

「今ね、自分の為にもバンドの為にも曲のストックを貯めとこうと思ってたんだけど…なかなか」

そう伝えると、虹夏はちょっと苦笑する。

「…そっか。だからここんとこ、色んな場所行ってたんだ」

 

そうなのだ。いざ活動再開した時に、ぼっちに「わたしはこんだけ曲のストック出来たけど…ぼっちは詞の方はどう?(フフン)」と、やりたかった…んだけど、これが中々イメージが湧いてこない。何故なのか…

確かに大体はぼっちの詞が出来てからの「詞先」だったから…ってのもあるけど。でも今迄も、自分の中には「曲のイメージ」のストックがかなりあった筈なんだ。

それが、各自トレーニングを始めてからかな…特にわたし自身のトレーニングを始めてから、頭の中のリソースを「自分自身の向上」に取られていたのか、すっかりストックが無くなって…いや、自分の技術•メンタルの向上に合わせて今迄の「頭の中のストック」が何か…陳腐なものに感じられて。

自分の中が「リセット」されてしまったような。

だから最近色々な物を見たり聞いたりしてイメージを膨らませようとしていたんだけど、これが、まあ…取り敢えず上手くは行ってない。

…わたしの感性が落ちたのか…それとも何か…?

 

「…それってさ…今迄、リョウが作曲する時ってさ、その時の「ぼっちちゃんのギター」、「喜多ちゃんのギタボ」、「あたしのドラム」、あと「リョウ自身のベース」を基準として、その音達をベースに創って来たんじゃない?」

「うん…まあ、そうだね」

確かに、その時の「皆の音」を基準として、そのイメージに沿ってそれから「ちょっとだけ難しい曲」を書いたり、「ちょっとだけ難しい掛け合い」を加えたりして作曲していた…筈。

「でもね、それにしたって「作曲のベースとなるイメージ」はストックで幾らでも持ってた筈なんだ」

 

何かここまで素直に「自分の心持ち」を他人に説明するのは初めてかもしれない。…どんだけ捻くれてたんだ、わたし。

…でも、もうそんな段階じゃない位バンドメンバー全員で「高み」を目指そうとしている。何より虹夏には、わたしの「考え」「心持ち」「目指すもの」を知っておいて欲しい。

虹夏にわたしの心の負担をちょっと背負わせちゃうかもしれないけど、わたしもようやく腹を括れた、ってトコかな。今更だけどね。

 

「うん、リョウが素直に気持ちを言ってくれるの、凄く嬉しい。あたしにも少しは背負わせて?」

はにかんだ様な笑顔を向けられる。…何故わたしの考えバレバレなんだ?エスパーか?

「…リョウの考えなんて解るよ」

マヂ、エスパー。虹夏エスパー。略して虹パー。

 

「あたしを「頭がパー」みたいに言うな!」

 

チョークスリーパーを掛けられる。…どうやら考えが口から出ていたようだ。

 

そう、チョークスリーパーを掛けられる位(基準がソレなのは置いといて)虹夏は回復してきた。

後は左手足のちょっとした「動き」。脳の指令伝達を完全にこなせるか。微細な伝達を動きとしてフィードバックできるか。

そのリハビリの為、時間があればスティックを左の指でクルクルしている。…偶に飛んできてわたしに当る。痛いんだよ、アレ。まさかわざとやってないよね?…よね?わたしが何か言った時だけ飛んでくる回数多いような…気の所為だよね?

 

「…で、リョウさ?「今までの皆のベース」で考えてたでしょ」

「………!あ」

「でもさ、「皆は絶対レベルアップしてる」って…気持ちでは解ってるよね?」

「うん…確かに」

 

そっか。そりゃあ「今までのストック」が役に立たないのは当たり前だ。

基本的な音の出し方、歌い方はそうは変わらない…だろう。でも。

「これは…確認しなくちゃだね」

 

ぼっちの音は定期的にデータとして届けてくれる。それすら今迄より格段に技術、情感がアップしている。

それを確認しながら、自分の中の「感覚のズレ」を修正してこなかった。何の為に送って貰ってたんだ。

それに「郁代の今の状態」を合わせれば、果たしてわたしはどんな感情を抱く?どんな感覚を得られる?

 

楽しくて、嬉しくて…背中がゾクゾクする。

 

それこそが「新生結束バンド」のスタートになる。

 

 

わたしは、ぼっち達が旅立ってから初めて…自分から連絡した。

 

ーーーーーーーーーー

 

「こんなメールが今リョウさんから来たんですけど」

 

今はわたしの寝室。ベッドの上で郁代ちゃんと話し合っていた。リョウさんから来たメールを郁代ちゃんに見せる。

「リョウ先輩から連絡来るのって、こっち来てから初めてよね?。でも…「ぼっちおはよう」って書き出し、どうなの?」

「多分…時差、忘れてます」

今は夜11時。そろそろ寝ようかという時間。

「確か…日本って、ここの8時間差…だっけ?」

指を折って、計算する。

「…そうですね。今サマータイムだから、日本は8時間早い筈…ですね」

え?…ちょっと待って?

「ちょっと待って?朝の7時からリョウ先輩…何してるの!?」

郁代ちゃんも気が付いたみたい。そうだよね。朝まで何かやってた…とかならわかるけど、それにしては時間が半端に遅い。それに徹夜明けのメールにしては、テンションがマトモなような。…なんか失礼だけど。

 

「まぁいいわ。えーと…「何も聞かずにデータ送って。ぼっちと郁代の「今の全力を」聴かせて」…かぁ」

 

リョウさんには大体ふた月に一度位のペースでわたしの演奏データを送っている。それに関しての評価は、来ない。ちょっとだけ不安。

自分では腕が上がっている実感はあるけど、客観的に見て(聴いて)どうなんだろ。リョウさんの事だからマトモに褒めてくれる想像が付かない。だ、大丈夫かな…

 

「分かった!」

取り敢えず「了承」の旨を返信。すると突然郁代ちゃんが声を上げる。び、びっくりした!顔のパーツが散乱するトコだった!…今はわたしも「大人の女」になったのでそんな取り乱さないけどね…へへ。あ…片目、片目がどっか行った!

郁代ちゃんが落ちた片目を貼り付けて答える。

 

「私達…ひとりちゃんと私を恐れてるんだわ!どれだけ上達したか、恐れ慄いてるに違いないわね!」

 

…郁代ちゃん。違うと思います。

 

「…冗談よ。」

わ、わたしの考えを読まれてる!エスパー!?エスパーなの!?略してエス代!

「私をサディストみたいに呼ばないで!」

…考えが口から出てたみたいです。頬を膨らませた郁代ちゃん、かわいい。

ほっこり。

 

 

「多分ね?そろそろ作曲の準備にでも入りたいんじゃ無い?それで、「今の私達の状態を知りたい」とか?」

…なるほど。それなら納得できる。てっきり何か心配されてるのかと…

「何か心配されてるのかも…とか思ってる顔ね」

郁代ちゃんにジト目を向けられる。なんでわかるの!?

「何で解るのって顔ね。もう…えい!」

郁代ちゃんにベッドに押し倒される。郁代ちゃんには全てお見透しらしい。

 

「ひとりちゃんは凄いの。自分で分かって?」

上からキスを落とされる。

うん、わかってるよ。そして…

「郁代ちゃんも…凄いよ」

背中に腕を回し、気持ちを伝えるようにしっかりと抱き締める。

「…うん」

 

ここからは二人だけの時間。

 

ーーーーーーーーーー

 

「お…返信来た」

 

今は、日課の朝のウォーキング。虹夏とすっかり冷えてきた街並みを歩く。朝の爽やかなテンションでぼっちにメール送ったらレスが早かった。もう起きてたのかな?

貰ったメールを開く。

 

「わかりました。ちなみにこっちは今、真夜中です」

 

…ごめん。時差忘れてた。

 

暗に文句を言われた。反省。…ちょっとだけ。

「リョウー?どした?」

虹夏が自販機から戻って来る。

「もう寒くなって来たねー。はい、これ」

ホットのミルクティーを渡される。

「ありがと。ぼっちにメールしたら返信来た」

「え!?何て!?」

ワクワクが抑えきれないような表情で聞いてくる。虹夏も、大概ぼっち欠乏症だね。

「二人の演奏データを送って?って頼んだ。勿論郁代の歌付きで」

虹夏は目を見開いた後、満面の笑みで話す。

「ええ!そうなの!? じゃ、今の二人の実力を聴けるんだ!」

ホントに嬉しそう。わたしまで嬉しくなる。

「うん。明日位には送ってくれるんじゃないかな?」

「そっかー!楽しみ!ね、ね、またぼっちちゃんの演奏聴かせて!」

苦笑しながらイヤホンを渡し、スマホをタップ。ぼっちの演奏が流れてる筈。

「…ふふ、あはは!」

演奏を聴きながら空き缶をゴミ箱に放ると、スキップでもしそうな位の軽い足取りで歩き出す虹夏。

 

もう、しょうが無いなぁ…

 

虹夏の後を追い掛けた。

 

 

そしてその日の夜。待ち望んでいた物が、届く。

ちょうどオッサンとのレッスン中。今日ずっと気にしていたスマホの着信に、敏感に反応する。

 

「おおいリョウ。スマホは後に…」

「ごめんオッサン。これだけは確認させて」

 

いつもと様子が違うのに気が付いたのか、「…休憩するか」と許してくれた。

気が急いてスマホをチェック。やっぱりぼっちからだ!

「御査収下さい」と変に畏まった文章は相変わらず。そんな事より、データ!データ!

添付されていたデータ。MP4ファイル。イヤホン!イヤホンは!えーと!

 

「おいリョウ。何でそんな焦って…」

「黙って!」

「…おおう」

 

オッサンを黙らせ、イヤホンを耳に挿す。

手が震えている。

口の中が乾く。

震える指で、データをタップ。

………!

 

そのイヤホンから流れて来た音。

目の前に見える筈の無い風景が広がって。

ロンドン郊外の…草原?

その中、ぼっちのギターが唸りを上げる!

 

風!風だ!疾風だ!暴風だ!

抗う事の出来ない、でも…委ねて居たい!とんでもない質量と色を持った、暴力的な風!

わたしが攫われてしまうような、私を包み込んでくれるような、わたしに話し掛けてくれるような、わたしを睥睨してくるような。

その中、雷鳴が轟く!落雷が落ちる!これは嵐だ!人間が対抗出来ない圧倒的な嵐!

こんなもの、人には抗えない!

 

そこに

 

郁代のバッキングが入る

 

なんだこれ!圧倒的な優しさ!

まるでぼっちに語り掛けるような。ぼっちを抱き締めるような。

この音は絶対、ぼっちを一人にさせない。寄り添い、手を引いて、皆の元に連れて来る!

 

そして

 

郁代のボーカルが乗る

 

うおお!声量と表現力が桁違いに上がってるのは確か。だけど、それ以上に…これは、誰の口から出てる!?

郁代か!?ぼっちか!?

いや、声は間違い無く郁代だ。でも、ぼっちの心から出力されてるような…!

 

曲は「光の中へ」

 

元々バンド曲だから、二人だけだと少々寂しく聴こえる筈、筈…なんだ、けど。

 

ぼっちめ!やりやがったな!

アレンジされてる。編曲して、「二人の曲」にしてしまってる!

 

そうか!最初に見えたイメージ、郁代の静かなバッキングから始まってたからだ!

憎らしい事やるなぁ!

 

 

「あはは!あっはっはっはっは!」

 

こんなにバカ笑いしたの、いつ位だ?

 

 

アウトロが終わって、静寂が戻る。

 

「…ふぅ」

ひとつ溜息。

「…リョウって、そんなバカ笑い出来たんだな」

呆れたような声音。フン、これを聴いてみな!

「…オッサン。ちょっとこれ聴いて」

「お、おぅ」

渡されたイヤフォンを耳に挿す。

 

わざとボリュームを上げ、再生

 

行け!

ポチッとな

 

「うお!…お?………ん、お!おお!…ほぉー!」

曲が進む度に「おぅ!」とか「うぉっ!」とか言ってる。

くっくっく

 

どうだ!

これがウチのリードギターとギタボだ!

 

 

聴き終えたのか、イヤフォンを外して「ふぅ」と一息。

 

「どう?」

ニヤニヤしながら聞いてみる。

「いや、これおまえんトコのギターだよな?音の出し方が同じだから。…でも、前…ここまでじゃ無かったよな!?」

もうわたし、ドヤ顔を隠し切れない。

「そ。正真正銘ウチのリードギター。そして…」

「これバッキングとボーカル、現地のプロにでもやらせたのか?かなり良いぞ。これ」

もう笑いが止まらない!

「あははは!…それもウチのギタボ!」

オッサン、唖然。

「ウソだろ!?前聴いた時、まあまあ及第点の出来くらいだったぞ!…マジかよ………」

「マヂ」

どうだいオッサン。多分、帰って来る時はこれからまだ1段も2段も上がるぞ。

「リードの方は、まあ納得だ。何か一つ掴めりゃ、ここまでは行く想像は出来る…しかし、な。ギタボの方…」

腕を組んで考え始めてしまうオッサン。

 

「…!そうか!「ナイト・メア」に弟子入りしたんだよな!」

は!と気が付いたような表情を見せる。

「ナイト・メア?」

「そうか。お前くらいの歳だと、余り馴染みが無いのか。特に日本は…殆ど来て無いからな」

 

オッサン曰く、日本には余り馴染みが無いけど、ヨーロッパの方じゃ絶大な人気らしい。アリーナを簡単に埋められる位、とか。バックのメンバーも超一流。バックメンバーだけでワールトツアー回れる位、だとか。

「兎に角凄ぇ歌い手さ。普通じゃ顔を見る事さえ叶わないような。…そういや、小耳に挟んだんだよ。あの、弟子を取るなんざ想像も付かない「ナイト・メア」に最近弟子が出来たって。その名も「セイレーン」。随分イカレた…イカシたニックネームだが。…でも、それが「その子」か!」

 

…ちょっと待ってちょっと待って!話が…話が大きくなり過ぎてる!郁代、どこでそんな凄い人と知り合ったの!

 

(郁代談「パン屋です」)

 

そんで、どうやってそんな人の弟子になったの!?

 

(郁代談「妹になりました」)

 

バッキングは誰に習ったの!?

 

(郁代談「メアのメンバーのパートナーです。ちなみにそのパートナーはひとりちゃんの大ファンです」)

 

 

「いやー、リョウ。これ、お前相当気張らないとヤバいぞ」

オッサン苦い顔。わたしを教えてる「自分」の責任に思い至ったらしい。

 

「…わかってるよ。…いや、今わかった」

 

ふぅ…何かエライ事になって来た。二人が…郁代が、ここまで行くとは。そんで、帰って来るまでの伸び代を考えると…。いや、ビビるな山田リョウ!自分も伸びる!…自分も伸ばす!

取り敢えず今出来る事。

 

「オッサン。今日聴いて貰って良かった。練習も大事だけど、それと同時にやっておかなくちゃならない事があるんだ」

思い至らない顔のオッサン。わたしの腕…ある意味、それよりも大事な事。

 

「皆のレベルがダンチで上がる。それに合わせて、自分の中に曲のストック貯めとかないとならないんだ」

「あぁ………そうか、作曲お前だったよな。今迄より技術も表現力も上がって、今迄のイメージが追い付かなくなってきたのか」

さすがオッサン、話が早い。正しくそうなんだ。だから「二人の現状」を聴いておきたかった。前のバンドで編曲も手掛けた事があるオッサンに聴いて貰って、アドバイスを貰いたかった。

 

「…よし、リョウ。今日はもう練習終わり。居酒屋行くぞ」

自分の中の「ナニか」を触発されたのか、意外なくらいオッサンが乗り気になる。

「いいの?」

「もう今日は弦ハジいてる場合じゃねえ。…お前が俺に火をつけたんだからな。責任取れよ」

「はは…分かったよ。今夜はわたしの奢り」

「よし、行くぞ。…お前、紙とペン持ってる?」

「いつの時代?その手のはスマホのアプリに全部入ってる」

 

「…ちきしょう!俺が書くんだよ!…行くぞ!」

 

 

オッサン。「ギフテッド」の力貸してくれ。

「持たざる者」のわたしが「持てる者」に対抗する為、どんな力でも使ってやる。

 

ーーーーーーーーーー

 

翌日

 

この送られて来たデータを虹夏に聴かせるのは、ちょっと…いやかなり…怖かった。

 

わたしも折れそうになったんだ。でもわたしはまだ「客観的」に分析できる冷静さがある。

虹夏は「主観」でモノを考える癖がある。良くも…悪くも。

でも…聴かせなければ始まらない。なにより目の前でワクワク顔で待ってられれば、聴かせない、という選択肢が無いよ。

 

「さ!早く早く! ぼっちちゃんから来たんでしょ?データ」

 

息を吸って、ゆっくり吐く。なるようになれ!

 

スマホを外部スピーカーに繋ぐ。決意して、タップ…の前に

「虹夏。いい?…はっきり言って、驚くよ」

「え?そんな!?…でも、わかった。覚悟して聴く」

表情を引き締める虹夏。でも、その「覚悟」したものの上を行くよ。特に…

「ぼっちもだけど、郁代がね」

「え?…どういう?…」

言い切る前にタップ。程無く、雷鳴が響き渡る。

「うお…!え…え?………!」

そこにバッキング。その後続けてボーカルが乗る。

「!…うそ…、え!?え、誰?………きた、ちゃん!?」

 

虹夏の表情に、もう喜びや驚きの色が乗っていない。

無色

唖然

困惑

驚愕

曲が進むごとに、表情に変化が表れる。そして…曲が終わる。

……………

俯いたまま、何も喋らない虹夏。正直、予想はしていた。

顔を上げられなくなるような状態になってしまうのを。

それでも…聴かせたかった。聴いて欲しかった。

静かな時間が何分にも、何十分にも感じる。

程無くして。

 

「リョウ」

「…なに」

答えを聞くのが…怖い。

「…データ、あたしのスマホに送って」

「…え?」

予想外の答え。おもむろに顔を上げた虹夏の瞳に、炎が宿っている…ように、見えた。

「ちょっと繰り返し聴いてみる。…モチベ上げる為に」

 

ふ、あはは…虹夏。強くなったね。

 

「あ、それから」

「ん、何?」

虹夏は目を瞑りフゥとひと息。そして…キ、と目を見開いて。

「リョウ。もう自分ちに帰って。ちょっと暫く、リョウの相手してらんない」

「…ん。わかった。」

 

どうやら危惧してた事は杞憂だったようだ。これなら大丈夫だろう。

そのまま虹夏の部屋を出る。…と、その前に

 

「虹夏」

「ん?なに?」

「たまにはご飯、食べさせて」

「…ふは!………わかったよ。…リョウ、ありがとね」

「ん」

 

大事な約束を取り付けて、わたしは自分の家に帰った。

 

ーーーーーーーーーー

 

聴いている。

 

繰り返し聴いている。

 

何回も何回も、聴いている。

 

目を瞑って。神経を研ぎ澄ませて。

 

自分のドラムが「そこ」に入り込むイメージを無理くり作り出し。

 

…この連中を、包み込まなけりゃならないんだ。

 

これは挑戦状だ。しかも極上の。

 

誰にも渡せない。渡さない。この子達の後ろを守るのは、あたしだけの役目だ。

 

あたしだけの、ご褒美だ。

 

ぼっちちゃん。凄いや!君は…やっぱり凄い。

君を初めて見掛けた時、初めてギター弾いて貰った時。ここまで来るとは…ここまであたしを引き上げてくれるとは、想像も出来なかったよ。

初の4人ライブの頃からずっと、君には驚かされっ放しだ。

そしてまた、とても大きな存在になった。

だいすきだよ。ギターヒーロー。

 

そして喜多ちゃん。君は想像の「遥か上」を行ったね。

最初に見た時、「何かフワフワした子だな」って思ったの、許して。

君は自ら殻を破ったんだね。

ヤゴが力強い蜻蛉になるように。

芋虫が、蛹から…美しい蝶になるように。

見事に美しく、逞しく成長したね。

まだまだ成長を続けるんだろう。あたしの前で、見届けさせて。

だいすきだよ。きたちゃん。

 

リョウ。多分あたし、苦労させたね。

君が居てくれなかったら、このバンドは成り立たなかったよ。

ぼっちちゃんの背中を押してくれて、ありがとう。

何も無かったあたしへの「最大のプレゼント」だよ。リョウは。

リョウから始まったんだよ。リョウが居なければ、始める事さえ出来なかった。

そして自らも登って行こうとして。結構苦しんだんだよね。知ってるよ。

リョウ。だいすき。

 

皆、大好き。愛してる。あたしの大事な大事な…宝物。

 

 

聴く。

聴く。

聴いて聴いて。更に、聴く。

頭の中で、リョウの音を加える。

イメージ。イメージ。

3人の音の中に、「あたしの音」をイメージ。

飽きるまで、イメージする。強く、イメージする。

 

気が付けば、もう日が暮れている。

ふぅ

スマホを持ち、電話を掛ける。

…出てくれるかな?

 

程なくして、声が聞こえる。

『もしもし?虹夏ちゃん?…どうしたの?』

息を大きく吸い込む。吐き出す。

 

「リナさん。これから本格的に叩きます。お時間ある時に…」

『これから行ってあげるよ。でも、身体は大丈夫なの?』

声を被せるようにリナさんは言ってくれる。ありがとうございます。

あたしは顔が見えないのを良い事に、ニヤリと大袈裟な位、笑む。

そして

 

「もう、大丈夫。大丈夫にします。だから…正式に、弟子にして下さい!」

 

『…わかった。もう身体の事は一切聞かない。…容赦しないからね、虹夏』

「…はい!お願いします!」

 

電話を切る。

 

これからだ。やっと、やっとあたしも始められる。

 

皆よりかなり遅れた。でも、皆よりは気持ちだけでも上回ってやる。

 

ぼっちちゃん。喜多ちゃん。そして、リョウ。皆のお陰で心に全開火が付いてるよ。

あたしがコケたらもうバンドは終わり。それ位の気持ちを持ってやる。

 

お姉ちゃんが後で教えてくれた。

入院当初にぼっちちゃんが言ってくれたらしい。

「ぼっちちゃんな、「虹夏ちゃんが居ない結束バンドなんて、結束バンドじゃ無い」って言ってたぞ。必要とされてるな、お前」

 

涙が出る程嬉しかった。

 

そっか。

 

リョウもたまにそれらしい事を言ってくれる。

 

そっか。

 

喜多ちゃんも、ことバンドに関して、あたしを尊敬してくれている。

 

そっか。

 

じゃあ、「あたしが結束バンド」なのか。

 

皆、あたし自惚れちゃうよ?

自信持っちゃうよ?

責任…感じちゃうよ?

 

なんとしてもあたしが責任…取っちゃうよ!

 

「あたしの庭」で、皆自由になれ!

「あたしの結束バンド」で、皆暴れろ!

「あたしの皆」!皆で羽ばたいて!

 

 

あたしと、羽ばたいて!

あいするみんな!みんなではばたこう!

どこまでも!いつまでも!

 

 

遠く、高く!

 

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