「虹夏、歌って」
「ムリ!」
「…いいから」
「ムーリー!ちっとも良くないよ!」
スタジオでひたすら押し問答。何か、リョウの顔が鬼気迫ってるよ…
「…あたしじゃ無理だよ…とてもじゃないけど、喜多ちゃんの代わりになんないよ…。リョウが歌えばいいじゃん」
「わたし、ボーカルじゃ無いから」
「あたしだってそうだよ!?」
何でこんな事になってるかと言うと…
☆
スターリーの中でまったり(ダラダラとも言う)してた時だった。
「…来た!来た!」
「え?喜多ちゃんがどした?」
「…そのボケ要らないから」
「…何か腹立つ…それで、何が来たのさ。何かの通販?」
リョウがスマホを覗きながらキタキタ騒いでる。
横からヒョイと覗き込む。…ん?何かのデータ?………まさか、またぼっちちゃんからの演奏データ!?
…あれ?こないだ届いたばっかだよね?また凄くなったヤツが。喜多ちゃんもボーカルは無かったけどバッキングは入ってて…二人共息ピッタリ!二人で一つの楽器みたいに、素晴らしいハーモニーだった。
あたし達も負けてらんないなぁって思ったよ。
…じゃあ、今度のデータは何?
「ねぇ、何が来たの?」
「…黙って」
「…腹立つぅ…」
何か夢中になって見てる。いつもあれだけ表情に乏しいリョウがコロコロと表情を変える。そしてポツリとひと言。
「…そっか。ぼっちはそこから始めるのか」
スッゴク嬉しそうに、愛おしそうに。それだけを呟く。
「…ふふ。…はは」
指をスワイプさせたと思ったら、今度は堪えきれないような笑み。こんな楽しそうなリョウ、ここんとこ無かったな。
この間の「楽曲提供」の件から、ちょっと…いや、結構沈んでたから。それが、ぼっちちゃんから「何か」が送られて来たと思ったら…途端にこれかい。
ホント、二人の繋がりは羨ましいくらいだよ。多分、あたしにも喜多ちゃんにも理解出来ないモノで繋がってるんだろう。
見終えたのか、画面から視線を外して「…ふぅ」とひと息吐く。その表情は、感慨に耽っているような。
「ねぇ〜リョウさぁ、いい加減ぼっちちゃんから何が来たのか教えてよ」
ちょっと拗ねながら聞いてみる。あたしだって知りたいんだよ!
「え?なんでぼっちからだと?…」
「自分で言ってたじゃん…」
「………」
何故照れる?何故頬を赤らめる!?…ホントに無意識だったの!?
「…ごほん!」
「…前置きはいーから!」
「………ぼっちから来た。…歌詞が」
「………え!?うそ!?」
「…うそ」
「…な!」
「………じゃ無い」
「………」
無言でコブラツイストを掛ける。懸命にあたしの腕をタップしてるけど、許さん。ついでにスマホを奪う。
リョウを解放してからスマホに表示されてるデータらしきものをタップ。少ししてデータが開かれる。…と。
文字列がワーッと表示される。
「………」
頭から読んで行く。最後まで行って、また頭から。
「…あは、あははは!そっかー。ぼっちちゃんは結局そこからまたスタートするのかー!」
リョウがニヤニヤしながら覗き込んで来る。
「ね?そうでしょ?」
リョウがさっき呟いた言葉、あたしにも解ったよ。
「うん!そだね!」
画面に表示されているのは、無機質な文字列。
でも、送ってきた人と、その心情を鑑みると…その文字列は途端に色と質感を持って心の中に流れ込んで来る。
鼻の奥がツンとする。
目の前が歪む。どんどん滲んでいく。
「ぼっちちゃん…天才じゃ無い…って…。そうか。もう戻れないのか…「無知で無敵なヒーロー」には…。誰かと同じ未来は欲しくないんだね…」
う、う、と息が詰まる。
頬に滔々と温かな感触が伝わる。…あれ?…泣いてるのか、あたし。
「2曲目もさ…ぼっちが「そこからスタート」する決意だよ。「押入れに一人篭っていた自分」から。まるで「再生」じゃなく「新生」。ぼっちは完全に「新しい結束バンド」として考えてる。少なくともぼっちは…今までの自分の中の「ナニか」を突き破った。この2曲は、その決意の表れだ」
送られて来たのは3曲。でも3曲目は「もうちょっと考えさせて下さい」と言う言葉で締め括られている。
「虹夏。帰る」
いきなり立ち上がってスタスタと出口に向かう。
「…うん。わかったよ」
リョウが「心此処にあらず」の時は、音楽の事…作曲の事で頭一杯の時だよね。
「その歌詞」と勝負を挑もうとしてるんだよね。
勝ち負けじゃない。ましてやどっちが上か下かなんてどうでもいいんだろう。
とにかく、歌詞に負けない!と。歌詞に見合うような曲に!と。
「リョウ。…負けるな!」
もう出て行ってしまったリョウに、聞こえないエールを飛ばした。
ーーーーーーーーーー
ぼっちは…何かを突き抜けた。
もう一度最初の自分に立ち返り、そこを足場として思いっ切りジャンプした。
それに翼を付けて飛ばせてやるのは、わたしの仕事。
やっぱり「ぼっちはぼっち」だった。
地の底で、空を羨みながらも俯く姿。
でも、そこから「上」を見上げた。「空」を見上げた。手を伸ばして何かを掴もうとした。
その「伸ばした手」に、何か掴む為の協力が必要なら…幾らでも手を貸してやる。
その叫びを曲に乗せて、皆に…全てに届くようにしてやる。
そうしたら…果たして、何を掴めるかな。何処に届くかな。
ぼっち。わたし達は常に、「何かを掴もう」としてるよね。「何処かに届こう」としてるよね。
わたしもぼっちも、その実態は判らないんだろう。
「ギター」という武器で、「作詞」という道具で何かを掴もうとするぼっち。
「ベース」という武器で、「作曲」という道具で何かに届かせようとするわたし。
お互い、救えないね。
恐らく、この身が肉の一片になるまで、骨の一欠片になるまで繰り返すんだろう。
お互い、マトモじゃ無いよ。
でも、止められない。そうだね、ぼっち。
どっちが先にくたばるか…勝負だ。ぼっち。
どっちが先に狂うか…は、もう二人共狂ってるから勝負にならない。
でもぼっちは、最後に郁代が繋ぎ止めるだろう。
わたしは…そうなったら虹夏を手放す。それがわたしの「最低限の責任」だと思うから。
…なんだ、わたしの負けか。
しょうがない。くたばる迄付き合ってくれ、ぼっち。
それまでは…仲良く狂おうぜ。
ーーーーーーーーーー
「出来た…けど」
あれから2日。最初の歌詞に曲は付けた。
結構ハードに振った。…これ、中々ドラムにパワー必要だよね。自分で作っといて何だけど。
ギターもボーカルもパワーが必要だな…自分で作っといて何だけど。…まあ、あの二人なら大丈夫だろ。泣き言は言わせん。
でもこれが全てハマれば…「新生結束バンド」のスタートに申し分無い。
一気に打って出られる。
ただ…だからこそ…もっと煮詰めたい。
一回は「バンドの音」を再現したい。
ギターは…まぁ…何とかなる…か。
打ち込みをメイチハードに振って…それで何とかギリギリ…。
…メイチハードに振った打ち込みを上回るぼっち。…オカシいぞ、お前。
問題はボーカル。とにかく一旦完成させたモノを聴いて…それから煮詰めたいんだけど。
わたしじゃ完全役不足。機械音声なんて以ての外。
虹夏にも断られた。寧ろヘンに上手いヤツより情感のノリで歌ってくれた方が良いんだけど…断られた。
誰か…誰か誰か誰か………あ
☆
「と言う訳でお願い」
「良く頼めるわね」
「………てへ」
「褒めてるんじゃ無いわよ!」
新宿FOLT。ここに巣食うシデロスのリーダー、大槻ヨヨコ。
…何で常にココ居るの?超メジャーバンドのフロントマンが。
何か弱みでも握られてるの?銀次郎店長に。お金でも借りてるの?
「わたしも少しなら貸せる」
「何言ってるのか解らないけど…インディーズバンドが超メジャーバンドに貸せるモノって、何かあるの?」
ふぐぅ!大ダメージ!
「良いから!いい加減要件を言いなさいよ!私だって暇じゃないの!」
…ヒマだからここに居るんじゃ…まぁいいや。
「じゃ、貸して」
「…だから、何を」
「その声と、腕。大槻さんにしか頼めない。他の人じゃ圧倒的に力が足りない」
「…ば、馬鹿じゃないの!?そ、そんな簡単に貸せる程私の声と腕は安く無いわよ!」
…わたしは知っている。口じゃ否定してるけど、もし尻尾が生えてたらそれはもうブンブン振り回しているという事を。グルグルと。ブルンブルンと。
ほらもう「で、でも…」なんて言ってるよ。
「ほ、他に宛が無いんなら…考えてあげても…良いけど」
チョロ!チョッロ!
「そ、その代わり報酬は貰うわよ!」
「…牛角」
「安っ!そんな安い…」
「わたしと…「友達」と食事出来る。なんなら虹夏も付ける」
「…!………虹夏が一緒じゃ…しょうが無いわね…」
…ホントにチョッロ!大丈夫かこの人。
「よし、吐いた唾呑まんとけよ!」
「…何の台詞よ…良いわよ。意見は覆さないから。その代わりスケジュールは確認させてよ」
「モチ。出来れば早く。明日とか」
「そんなスグには!………分かったわよ。明日ね」
え?…ホントに大丈夫なの?ホントに超メジャーバンドなの?そんなにヒマなの?…まぁ良いや。逃げられないようにしてやろう。
「じゃ、今晩牛角ね」
「そんな早!………わかったわよ」
くっくっく。先に食わせて逃げられなくしてやる。…虹夏の金で。
この時に、内容を聞かなかった事を後悔するが良い。
☆
焼肉店で内容を切り出す。大槻さんは勿論、虹夏も何のこっちゃか判らない。
「実は…新曲が出来て」
「「…え!そうなの!?」」
…頼むから、虹夏も一緒に驚かないで…
「それで…未だぼっちと郁代はロンドン。だからギターと歌の生の音が入れられない。それで…」
よし、こっからが本題!頼むよカモ…いや大槻さん。
「是非歌を入れたい。そして、それを元に更に煮詰めたいんだ。その為には、並の技術のヤツじゃダメなんだ。「最高の技術」を持った人じゃ無いと」
大槻さん。話を聞いて頬が緩んでますぜ。
「…ねぇ山田リョウ。それって、リリース前に外部の人間に明かして良いの?」
ニヤけてると思ってたら、的確な質問が来たね。確かにリリース前に外部に知られるのは、デメリット以外の何物でも無い。…只ね?わたしにはメリットしか無いんだよ。まあ、そんな事考えてる余裕すら無いのが本音なんだけど。でも実際デメリットなんて微々たる物なんだ。何故なら…
「叩き台を作れれば、そこから別物に仕上げられる。その時は、外部に洩れたデータなんて…過去の陳腐な作品になってるさ」
そう。今は唯の叩き台。あくまで元。これから更に研いで研いで…余分な音を削いで、必要な音を膨らませて。…ぼっちを絶対納得させてやる!
「…ねぇ、虹夏。この人、大丈夫なの?」
「うん…多分ダイジョブ、だよ?リョウがオカシイのはいつもの事だし。…こと音楽の事になるとね。…あと、ぼっちちゃんの事だと余計に…かな」
「そう…イカれてるわね。…うらやましい」
「…ん?」
「な、何でも無いわよ!ただそれだけメンバーに思われてる後藤ひとりが羨ま…ホントに何でも無いから!」
大槻さん。心の声がダダ漏れですぜ。虹夏も苦笑するだけで、なんて返して良いか判らないみたい。
「…アンタも「こっち側」の人間ね」
大槻さんがわたしに耳打ちしてくる。
「…自覚してるよ」
「…虹夏は「連れて」来ないでね」
「それも…自覚してる」
つまり…「狂気」の側。やっぱり大槻さんも自覚してるんだね。何たって、貴女は「天才」だから。
懸命に肉をひっくり返していた虹夏は「?」て顔。
「…わかったわよ!データ、寄越しなさい」
通信で大槻さんのスマホにデータを送る。早速イヤホンでその楽曲データをチェックしてる。
「…中々ハードな楽曲ね。…いいわ。ウチのメンバーで仕上げてあげる。このデータは絶対外部に出さないから安心して」
「…え?大槻さんだけ借りられれば良いんだけど」
「私もいつものメンバーの方が演り易いからね。…あと、虹夏にも「カツ」を入れてあげる」
ニヤリと笑う大槻さん。懸命に野菜を頬張っていた虹夏は「?」て顔。
「…それは良い」
わたしもニヤリと。
「…でしょ?」
普段からハードな楽曲を演っているシデロスならうってつけ(メタルバンドだからね)。
会計を(虹夏が)済ませて店を出る(後で虹夏に散々文句言われたけど、バンドの為と言う事で押し通した)。
大槻さんも、明日の夜までには仕上げてくれるらしい。
仕事が早くて助かる。
さて、こっからが勝負だ。
あの天才が率いる「超メジャーバンド」を捨て駒にするんだ。
これが失敗したら、わたしは周りの批判と損害賠償の嵐。
我ながら狂ってるね。ただ、もう立ち止まらない。立ち止まれない。
ーーーーーーーーーー
翌日。夜。
大規さんから、待ち望んだデータが来た。
「練習のついでに入れたわよ」なんてコメント付き。
…うん。流石。…流石に凄い。
ギターもドラムもボーカルも。ピカイチだ。普段からハードな楽曲をやってるだけあって、パワフルさが半端無い。
…いや、普段より気合いが入ってるようにも聴こえる。…ぼっちにどんだけ対抗心持ってるの、大規さん。
よし!最高の叩き台が出来た。
捨て駒にする為に作ってくれたデータを、更に磨き上げる。
これに負けない…更に上回るものを作り上げてやる。
やっぱり生の音と声が入ると想像力が段違いに高まるね。自分が作った曲の、アラが、穴が…見えてくる。
今迄はこんな事、無かったんだけどな…
気が…昂っていく。
息が荒くなる。
身体は疲れてる筈なのに、眠くならない。
ああ、わたしはオカシイさ。でもそんなオカシな人間に見初められたぼっち。
諦めてくれ。
…あいしてるぜ。
その夜から寝ずに作業をして…気が付いたら…え、夜?
まだ2〜3時間しか経ってない?いやいやそんな筈無い。
コーヒーは何杯も飲んでるしトイレだって…
あ、ご飯食べてない…
グゥ………
認識した途端、お腹が鳴く。
身体が重い。動かない。
眠い…お腹空いた…
瞼が落ちる…意識が遠のく…その前に
虹夏にロインでひと言。
…よし。…寝る。
顔に寄せていた腕を、パタリと横に落とす。その手に握られていたスマホの画面には、ひと言の文面
[出来た]
ーーーーーーーーーー
木枯らしが身に染みる。
あれ?わたしいつご飯食べたっけ…
…………………
一昨日の…昼?夜?
今は…朝じゃないか…えーと…昼?
少なくとも2日近く固形物食べて無い…ような。
まあ良いや。もうすぐご飯にありつける…筈。多分。恐らく。
あれ…スターリーの扉、こんなに重かったっけ…
あれ…入口の階段、こんなに長かったっけ…
あれ…虹夏、こんなに老けて…
「目ぇ覚ませ!」
…店長に血の出るようなアイアンクローを食らった。
☆
「ふぅぅ…満足」
虹夏の家で、オムライスを作って貰った。しかも大盛り。
作って貰ってる時この家の食材を喰らい尽くす勢いだったわたしの胃袋も、食べ始めると予想以上に胃が小さくなってたのかどんどんキツくなる。もう最後は意地。
残すと今後ご飯作ってくれなくなりそうだから。
人心地ついてお茶を頂く。
「で、そんな倒れそうになって出来たモノは?」
「…は?」
「………は?じゃないでしょ!?聴かせてよ!その為に来たんでしょ!?」
ああそうだった。虹夏の部屋に常に置いてあるわたしの外部スピーカーにリンクさせる。
「…じゃ、最初はシデロスに演ってもらったヤツから」
「ホント、無茶苦茶だよね。リョウは。ヨヨコちゃんも良く演ってくれたよ」
「その為に焼き肉食べさせた」
「それだけじゃメジャーバンド引っ張り出す理由になんないよ!しかもお手頃店の!」
「そこは「お友達と食事」って言うスパイスがね。…ポチッとな」
スピーカーから流れ出す演奏。うん、流石メタルバンドだね。迫力がある。虹夏は横で口をアングリさせている。
「…うわぁ!…ヤバいね!ドライブ感ハンパ無い!」
「やっぱりシデロス凄いよ。大槻さんが歌うと「彼女達の曲」になってる。カッティングもチョーキングも強い。何より…」
「…ドラムが強い。長谷川さん、あんな華奢なのに…どうしてこんな強い音出せるの…?」
虹夏がとても…悔しそうな顔をする。大槻さんが言っていた「虹夏にカツを入れる」の意味が効いてくる。
横目で虹夏を伺う。さあ、どう転ぶ?
俯いていた虹夏が顔を上げる。その瞳に、炎が宿ったように見えた。
…ヨシ!大丈夫だ。
大槻さん、サンキュー
一通り聴き終わる。虹夏に感想を聞いてみる。
「どう?」
「…いや、もうこれ完成じゃん!?直すトコあんの?後はひたすら練習のヤツじゃん」
「ふふ…凡人はそう言う」
「…腹立つなぁぁ!」
勿体ぶってスマホのデータをタップ…の、前に。
「虹夏」
「…何さ」
「…これが、「新生結束バンド」の、スタートだ」
ポチッとな
…さあ、聴け!
…あれ?虹夏の反応が薄い…と思ってたら
「…あ、ああ…!あはははは!………見える!見えるよ!4人で!全員で!走ってる!全力で!喜多ちゃんがぼっちちゃん見ながら先頭走って、ぼっちちゃんが歯を食い縛りながら付いてって、リョウが前と後ろを確認しながらその後を走って…あたしが…皆を受け止めながら…一緒に…一緒にぃ…走ってるよ!必死で…はしってるんだ!」
虹夏は自分の顔を両手で覆ってしまう。敢えてこのデータにはシデロスの音を使って無い。演奏は打ち込み。声はわたしの歌を、わざと抑揚を減らして入れてある。
だからこそ、見える。みんなの姿が。みんなの音が。皆でステージの上…輝いてる姿が。
「凄い…凄いやリョウ………ありがとう」
両手で受け止め切れない雫が、膝を濡らす。
☆
「でも…変わるもんだねぇ」
やっと落ち着いた虹夏が、ポツリと感想を漏らす。
「最初出来た時は、「これだ」って思ったんだ。でもちょっと経つと、「これはまだベースだな」って。まだ皆用に「チューニング」が済んで無いなって。だから、郁代以外の声で聴いてみたかったんだ。客観的に、この曲を「見て」みたかったの」
「それであたしにも「歌え」って。最終的にヨヨコちゃんか…普通なら有り得ないよねぇ」
そう、普通ならそんな事やらないし出来ない。でも…この曲だけは。
「本来ならこんな事やらないよ。まず出来ないしね。そもそも曲作りのコスパが悪過ぎる。…でも、さ。一発目の「この曲」だけは一切の妥協したく無かったんだ。どれだけ周りに迷惑掛けようと。どれだけ周りに疎まれようと」
「あはは…リョウ。頭オカシイよ。あはは…」
その問いに、満面の笑みで答えてやる。
「…知らなかった?」
新生結束バンドの一発目は、出来上がった。あとはひたすら練習。
ぼっち。こっちの準備は出来たぞ。そっちはどうだ。