王の帰還   作:サマネ

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今回、ぽいずん♡やみ こと佐藤愛子さんが動きます。


あるライターの夢

「…と、言う訳でそろそろ帰って来ます」

 

あるオフィスビルの一角。ストレイビートの事務所。

 

何故か箒とちりとり、ゴミ袋を抱え、フロアをうろうろ。…あっという間にゴミ屋敷と化すこの事務所。エントロピーが増大し過ぎ!

 

「お掃除済みません…それでは、復活ライブは…年明けのいつか…くらいですね。帰国次第お教えください。こちらも動き出しますので」

 

クールな態度でパソコンに向き合うゴミ屋敷の主、司馬都さん。見た目は凄く「出来る人」なんだけど…如何せんこの事務所の惨状。「出来る」方向が、単方向過ぎる。

でも、あたし達を未だに見捨てないで居てくれた事には凄く感謝している。こんな、1年以上も活動してないバンドを。

 

今日は報告と感謝を兼ねて、掃除中。ぽいず…佐藤愛子さんは、今日は居ないんだね。

ぼっちちゃんと喜多ちゃんは、あとちょっとで帰って来るらしい。リョウの所に連絡が入ってた。

それを見た時のリョウの表情…満面の笑みなんて、初めて見たよ、リョウ。

 

 

「皆さん…良い準備は出来ましたか?」

問われ、は、と司馬さんを見る…と、司馬さんもこちらを見ていて。その顔には…期待…と不安?

そうだね。かなり不安にさせている自覚はある。怪我をして、二人ロンドンに旅立ち、メンバーはそれぞれ活動を余り詳らかにせず。

傍から見ると…不安しかねぇ!良くこんなバンド、見捨てないでくれたよ!感謝しか無いよ!

でもね?その表情に乗る幾らかの期待。それを100パーにする自信は…ある!

 

「司馬さん。待たせてご免なさい。…でも、待たせた分、最高のモノをお見せ出来ると思い…いえ、お見せします!」

敢えて言い切る。そうじゃ無ければ失礼だ。

「…そうですか」

司馬さんは、ちょっと嬉しそうに微笑む。そんな可愛い笑顔出来たんですね。

でも、その笑顔を仕舞い込み表情を引き締める。

「結束バンドの音楽が良いのは…更に良くなったのは良い事です。只…それだけで売れないのは、虹夏さんも解ってると思います」

「…は、い」

 

そうなのだ。幾ら良い演奏、良い歌だって、それがそのまま皆の耳に届いてくれるかは判らない。

更に言うなら、耳に届いても手に取ってくれるか。自分のスマホに取り込んでくれるか。その人の心に、響いてくれるか。

何か…切っ掛けになる何かが…

そんなあたしの不安が表情に乗っていたのか、司馬さんが言葉をくれる。

 

「…只、皆の目をこちらに向かせるのは私達レーベルの仕事です。皆の注目を集める、皆の耳を傾けさせるのは、事務所の仕事。その為に今動いてます。佐藤さんもそれで最近事務所に顔を出していません」

「え…佐藤さんも?」

司馬さんはあたしの問いに…ふ、と柔らかな笑みを零す。

「あの人も、「只のライター」や「只の事務所バイト」じゃ無いんですよ?私と同じ、結束バンドに惚れてしまった同士なんです。貴女達の為に、動かずには居られないんです」

 

それを聞いて、目の前が潤んでくる。

…ああ…最近、泣かされる事が多い気がするなぁ。

あたし達の周りの、厳しくも優しい人達。こんな人達に囲まれて、自分達の力不足なんて絶対に嘆け無い。それどころか、皆の優しさを力に変え、燃料として燃やし、ジェット推進で何処までも進んでやる!

 

 

「…でも、お掃除だけはして下さいね」

鼻声で問い掛ける。

「…善処します。…最近佐藤さん、来ないので…」

「それは司馬さんの仕事」

「…はい…」

 

この分だとまた来週にも掃除に来なくちゃならないだろう。でも、それがほんの少しでも恩返しになるなら…良いか。

 

ーーーーーーーーーー

 

良し!…良し!良し!

 

次号のギタマガ、私が毎回担当してるコラムページの方向性を説明して来た。

何故「内容」で無く「方向性」か…

具体的に説明すると、ハジかれる恐れがあるからだ。

まだ有名に成り切ってないインディーズバンド、その記事を丸々1本だなんて、雑誌側にしてみれぱ「何で?」だ。

只…絶対に興味を引かせる記事にする自信はある!

少しだけ、ほんの少しだけ…大袈裟には書くかもしれないけど、嘘は書かないわ。

その為に山田リョウに情報を貰う。出来るだけ詳細に。

今の所、日本で一番「あの二人」の情報を掴んでいるのは、山田リョウ。

そして、向こうのライターからも情報を貰う。伊達にライター生活それなりに長くないわ。ロンドンの音楽雑誌に寄稿してるライターのツテはある。今、漏れ聞こえるだけでもまぁまぁ耳を疑うような噂ばかり。その真意を聞き出す。

噂よりもトーンダウンするか、噂なんて目じゃない位の情報が出て来るか。

期待か…不安か…。

…でもね、あの「ギターヒーロー」さんよ!聞き齧った噂を、更に超えてくる筈!

あー、現地に行けないのがもどかしい!誰か取材費出してくれれば…

 

まあ、とにかく「書く」条件は整えた。

 

 

コラム記事の方向性。

「若手女性バンド。そのギタリスト達」

編集部の頭にまず浮かんだのは「シデロス」だろう。その他も有名バンドは幾つか居る。

 

…悪いけど…周りのバンド、ダシになって貰う。

大槻さん。ごめんね。

でも、貴女達もう売れてるから。少しばかり力を貸して貰うわ。

そうだ、大槻さんにも取材しないと。自身の事と、「後藤ひとり」について。

…あの子、何かとギターヒーローさんに対抗意識持ってるからね。

本物は本物を知る…ってヤツかしら。

 

ギターヒーローさん。結束バンド。貴女達に「ストーリー」を付けてあげる。

良い歌、良い演奏でも…燻っているバンドは幾らでもある。

それに目を向けさせるのは、目を留めさせるのは…私達の仕事。

只の「運」なんて、許さない。たまたま…なんて許せない。

私と司馬さんで、無理矢理にでも貴女達に目を向けさせてやる。

だから、貴女達はその皆の「目」を、「耳」を…虜にさせなさい。

それが出来ると思ってる。「運」と言うなら、その「運」を引き寄せてやるから。

だから…

 

私がここまで固執したバンド。その責任を取って。

 

 

ポケットからスマホを取り出し、電話を掛ける。

「…ああ、山田リョウ?…私、佐藤…佐藤愛子。…え?誰だって…ふざけないでよ!え…知らない…って、…ぽいずん!ぽいずん♡やみ!…判ってやってるでしょ!?そう、それ!…あの企画、通ったわ。うん。だから、これから取材を本格化させるから…まず貴女からね。洗いざらい喋りなさい。うん、これから…あの、前に行った喫茶店でどう?…判ってる。奢ってあげるわよ。何たって貴女は「取材対象」だからね。じゃあ…1時間後に」

 

…よし。…次は…

「………あ、もしもし?私、佐藤…貴女もそうなの!?…ぽいずんです!…そう!大槻さん、時間ある?…え、今日はダメ?…じゃあ、明日の午前は?…ああ、はい。それじゃ明日の10時に。…お願いします」

 

…未だに「佐藤愛子」の名前が通ってないような気もするけど…まあ、よし!

これでオッケー。

 

後は…ロンドンのライターの彼、ね。

えぇと…時差は…向こうはまだ朝か。…良いや、掛けちゃえ。「Time won't Wait」よね。

 

「………あ、モーニン。私、アイコ•サトウ。久しぶり。半年振りかな。」

『やあ、アイコ。モーニン…ってそっちはもう夕方か』

「うん。朝からゴメンね。それでね?いきなりなんだけど…聞きたい事があって」

『アイコの聞きたい事なんて…何だい?君はかなりの情報通だからね。僕に答えられる事があるかな』

 

…謙遜したいけど、欧米人相手に謙遜すると逆に失礼だからね。

 

「ありがと。えーと…今、ロンドンで話題の女性ギタ…」

『ヒトリか!そうか、ヒトリの取材か!それなら納得だ。もうすぐ日本に帰ってしまうらしいが、皆して何とか引き留めようとしてるんだけど…本人の意思が堅いらしくてね。アイコも勿論知ってるだろ?「あのギター」を渡した彼。アイツが率先して国に掛け合うって。ヒトリをイギリス人にしちまおうって。イクヨも一緒に。なんたってメアリの…』

「ま、待って待って!」

 

被せ気味に答えてくれたと思ったら、怒涛のコメント。…これは、噂以上の話が出てくるわね。

 

「ねえ、その話、一通り文書で貰えないかな。勿論報酬は出すわ。そして、その話をこちらの雑誌で掲載する許可を欲しいの」

『…ああ、良いだろう。その代わり、アイコの書いた記事もこちらで転載させてくれ。それが条件だ。そうすれば、報酬はチャラだ』

「ええ、願ってもないわ。それじゃ、ファックスでお願い。番号は…」

ストレイビートのファックス番号を伝える。…凄くドキドキして来たな。

 

「…でも、ヒトリ•ゴトウは凄く愛されてるのね」

『当たり前だよ!あれだけキュートで、しかもギターを構えると神掛かったプレイをする。愛されない訳が無い!そしてイクヨだ。彼女も、あれだけ可愛らしい見た目で、聴かずにはいられない歌を紡ぐ。あの「ナイト・メア」が惚れ込んだだけあるよ!とにかく、二人は素晴らしいんだ!』

「わ、わかった!わかったから!これ以上時間を取らせちゃ悪いから、後はファックスでね。ありがとう。有意義な事が聞けたわ」

『まだまだ全然言い足りないんだが…解った。思いの丈を紙にブツケてやるよ。覚悟してくれ、アイコ』

 

 

電話を切る。

ふぅ…思った以上の事になりそうね。彼があれだけアツくなるの、初めて聞いたわ。

 

よし、よしよし。

良い記事が書けそう。

 

まずは…山田リョウね。

さて、待ち合わせ場所に向かわなくちゃ。

 

ーーーーーーーーーー

 

下北沢駅に程近い、一軒の喫茶店。

前に、楽曲提供の際のトラブルの時、山田リョウに謝罪をする為に訪れた場所。

あの時は…私、余り関係無かったんだけど…まあ、事務所のバイトだしね。あと、私も背中を押したようなモンだし。

 

 

店の前まで来ると、ガラス窓の際の4人掛けテーブルに座っている山田リョウが見えた。

相変わらず絵になる子ね。

片肘を付き、アンニュイな表情でスマホを眺めている。

外を通り過ぎる男性が…いや、女性も、チラリとそれを見遣っている。

最初に見た時から、かなり伸びた青髪。以前はもうちょいサイケなデザインの服を着てた筈だけど…最近はシックな感じで纒めているらしい。

流石に今日は伊地知さんは一緒じゃ無いのね。…そう言えば、都さんが「会いに来る」って言ってたか。

 

カウベルを鳴らしながら店内へ。

その音に気付いたか、山田リョウはこちらを向いて軽く手を挙げる。

…いちいち絵になる子ね。

 

「こんにちは。…あれ?何も頼んで無いの?」

「うん。飲み物だけ頼んで、その後食事にでも行かない?」

「…解った。そっちも奢るわよ」

テーブルの下で小さくガッツポーズしてる。…見えてるわよ。もしかして、まだ金欠なの?

 

お互いコーヒーを頼んで軽く雑談。自身の近況とか伊地知さんの事とか。…この子、本当に伊地知さんの事、好きね。何で自分以外の人間のスケジュール、分単位で把握してるの!?

 

良い時間になったので、場所を移る。…居酒屋で良いかな。人間、お酒が入ると本音が出て来るし。

 

 

いつもバンドの打ち上げで使っているという居酒屋。ああ、ここね。確かにリーズナブルで料理も美味しい所。

 

お互いのグラスをぶつけ合う。

「乾杯。それじゃ、色々聞かせて貰うわ。まず…」

「ちょっと待って。その前に、まずこれ聴いて」

質問しようとして止められる。…何、イヤフォン?何を聴けって?…

怪訝そうな顔をしたのが判ったのか、「まあ良いから」とイヤフォンを差し出して来る。

それを受け取ると、本人がニヤリ。

「まず、ソレを聴いて貰うのが手っ取り早い。…最新のぼっちの達の、音」

え!?ギ、ギターヒーローさんの!?願ってもない!

すかさずイヤフォンを耳に挿す。それを待ち構えていたように、スマホをタップ。

 

「ポチッとな」

 

あ…始ま………!え!うゎ!ちょ、ちょっと!これ…!これが…「今のギターヒーロー」!

流れるような演奏は以前のまま、より表現が深く…鋭く…激しく…そして、優しく…なって!

前と比べたら、同一人物だと思われなくても不思議じゃ無い!根底に流れるものは同じ…でも、より深く、高く、遠くへと…敢えて表現するなら、「真髄に近付いている」音。

あの「世界的なギタリスト」の彼が惚れるのも、判る!

これが「後藤ひとり」の音!唯一にして無二。他にこんなプレイするギタリスト知らない!

そして…喜多郁代!こちらも凄い!バッキングが完璧。後藤ひとりを引き立たせる、素晴らしい調味料になっている。…それと…歌!何、この表現力!最早以前と同じ人間じゃ無い!向こうのトップアーティストが歌を入れてるって言っても違和感無いくらい。もう、声量とか、安定感とか…そんな次元じゃ無い!

 

……………………………………

 

「ふぅ………」

演奏が終わって、イヤフォンを外す。耳の中に…頭の中に………心の中に、音か残り続けている。

心が…「もっと聴かせろ!」と叫んでいる。

心が…その「音」に囚われ続けている。

 

「山田さん。…これ、バンドとして纏められるの?」

率直な感想を洩らす。これ、ホントにバンドとして成立させられるの!?

 

「…最初は悩んだよ。でもね、それをやらなきゃダメなんだ。そうじゃ無いと、「新生結束バンド」として打って出られない。それを出来ないと、ぼっちを…本当に「独りぼっち」にさせてしまう」

どこか茫洋とした表情。…多分、散々悩んだんでしょうね。

「それにさ。わたしがぼっちを引き留めてられないと、「向こう」に連れてかれちゃうからね」

言いながらスマホの写真を見せる。

「…!え、これ…本当にそうなんだ!」

「…佐藤さんなら判るよね。…これ、「本物」だって。…こっちも」

もう一枚、写真をスライド。…え!?これも…本物?

 

スマホを奪うように借り、写真をじっくりと眺める。

ーーヒトリと俺は最強だーー

…間違い無い。下のこのサインは本物。昔、伝手で無理矢理サインを貰った事がある。…同じ字体。

…「伝説の野外ライブ」でも使用していた、メイン機の1本。

何で…手放したの!?これ、凄い価値よ!?あのライブは、それこそDVDで何度も見た。シーンを全て覚える位、何度も。

その本物が、ギターヒーローさんへ。サイン入りで。…しかも、只のサインじゃ無い。

 

ーーヒトリと俺は最強だーー

 

どんだけ見初められたの!?

「なんか、親友になったって言ってた」

 

…嘘でしょ!?あの、他のギタリストの誰ともつるまない、孤高のギターが!?とてもじゃないけど信じられない。…でも、ギターヒーローさんが嘘を言う筈無い。なら、それは本当だという訳で…

そして、喜多郁代のギター。こっちも多分、間違い無く本物。何せ、ナイト・メアのパートナーのギター。二人がパートナーだって、もう公然の事実。そして喜多郁代はそのナイト・メアに師事していた。中々評価され難いバッキング。彼女のそのバッキング技術は世界のトップテンに入ると聞く。

イギリスの雑誌の記事で「このギターはあたしの墓標にする」って言っていた、そのギターそのもの。

何で…手放したの!?

「妹になったんだって」

写真を食い入る様に見詰めていた私に、山田リョウがとんでも無い事を言い出す。

 

「…い…いもうと!?」

「そ」

 

平然とツマミに箸を伸ばす。

いや、そんな落ち着いてる場合じゃ無いでしょ!?

その声にならない非難を受け取ったのか、「もう驚き疲れたから」とホッケをつつく。

 

はは…あはは………

 

…もう、これだけでお腹イッパイ…

ニンゲン、余りに信じられない事が立て続けに起こると、冷静になるみたい。

 

グラスのレモンハイをグィと一口。すっかり炭酸が抜けていた。

「それで…そっちはどうなの?」

つまり、山田リョウと伊地知虹夏。二人はどうなのか、と。さっきは伊地知さんのタイスケしか語って無かったし。

「わたしは、デブのオッサンに教えて貰ってた。虹夏はスタジオドラマーのリナさん」

「…あ、あの「リナ」か…彼女、凄く評判良いのよね。音を受け止める力が半端無いって」

「うん。その人に基礎をみっちりやって貰ったみたい」

「…基礎、を?」

…え、今更?…少なくとも、結束バンドは休止前まで一定の評価は受けていた。それこそドラムだって…それが今、基礎?

「そう。こんな時じゃ無ければ見詰め直せないって。そして、その先の「自分らしさ」はバンドと共に探して行け、って」

「そう…そうなのね」

敢えて…敢えて「染めなかった」んだ。…それを出来る指導者が、どれだけ居る事か。

まず、教えてる自分が怖くなる筈。弟子に「自分は進歩してない」って思われるかもしれないから。「この人は技術を持ってない」って勘繰られる恐れがあるから。

それを怖がらず、ひたすら基礎を叩き込んでいく。勿論信頼関係が無いと出来ない。…けど、教える方も相当怖いだろうに。聞いたら、それを1年以上だって。普通じゃ無い…

「…良い師匠ね」

「うん…わたしもそう思う」

 

二人してグラスを傾ける。

 

「で、貴女の方は?」

「…だから、デブのオッサン…」

「誰よ!?」

「本人は「ベースのオッサン」で通ってるって…」

………え、もしかして…彼!?

 

「もしかしてさ…あのバンドでスタジオ撮りだけ弾いてた人?」

バンドの名前を出す。誰でも知ってる、超有名なバンド。

「…そう、それ。バンドクビになったから、暇だって。FOLTの銀次郎店長に紹介して貰った」

あのバンド抜けてたのか…道理で最新のアルバム、ちょっと気の抜けたベース音だと思った。

しかし…しかしよ?彼、弟子はもう嫌だって昔言ってたような。

「…彼、良く教える気になったわね。確か…まともな弟子は廣井きくりが最後じゃ無かった?。それから誰かに教えるのを嫌がってた…って聞いたけど」

山田リョウは少し目をトロンとさせて答える。

「まあ、わたし天才だし」

…自分で良く言えるわね。確かに上手いけど…でも、悪いけど「そこまで」だったような。

でも、彼を惹き付けた「何か」があったんだろう。

 

「天才だし…何でも出来るし…でも、ホントの天才は他に居て…わたしは…わたしは?何?あれ?何でお酒あんの?…天才のわたしの酒…ぼっちが、呑んでくれない…郁代、ぼっちが呑んでくれないよ…どんな教育してんの?…郁代は天才だから解んないか…そう、郁代は天才なんだよ…わたし以上に…ぼっち以上に…わら、わらしを置いてかないで…虹夏、虹夏だけが居てくれる。え…?虹夏も行っちゃうの?…うそでしょ?…わらし、ひとり…ぼっちじゃん、わらし、ぼっちじゃんか…」

 

…うそでしょ!?まだグラス、三分の一も減ってないわよ!?なんでもう泥酔したみたいになってるの!?

 

堪らず伊地知さんに電話を掛ける。

『はい!…ぽいず…佐藤さん!どうしました?』

…どいつもこいつも…もうぽいずんは居ないの!コラムの題の中に居るだけ!

「あ、伊地知さん?今ね、山田さんに居酒屋で取材してたんだけど…何か少量で凄く酔っちゃって。…体調悪かったのかな…それで自分じゃ帰れそうに無いんで、迎えに来て貰えると助かるんだけど」

『あ、あはは…ごめんなさい佐藤さん。今行きます。…場所は何処ですか?』

「いつもここで打ち上げやってるんでしょ?「かおみせ」ってとこ」

『あーあーはいはい、判りました、直ぐに行きます。ご迷惑掛けて済みません』

 

電話を切ると、山田リョウがテーブルに突っ伏しながらボソボソと喋っている。

「ぼっちぃ、わらし…ダイジョブかなぁ…いくよ、わらし…すてられないかなぁ…」

 

この子も、相当な心の負担を抱えてたんだろう。思わず、酔って本音を吐露してしまう位。

 

これは本音だ。山田リョウが抱えた、本音。

どれだけ「凄い二人」に追い詰められてたんだろう。

 

途端に、私の目に山田リョウが物凄く可愛く写る。

そうか、今迄周りの凄い人達に翻弄されて来たんだね。

そこで「自分は天才だ」と奮い立たせて頑張って来たんだね。

凄いよ。

凄いよ、君。

その劣等感をエネルギーにして、進んで来たんだね。

誰も褒めてくれない道を、歩んて来たんだね。

 

じゃあ、私が褒めてあげるよ。

 

その突っ伏した頭を、ヨシヨシしてあげる。

優しく、撫でてあげる。

 

 

「ご免なさい、佐藤さん!」

 

間もなく迎えに来た伊地知さん。

「いいわよ。良い話聞けたしね。ごめんね、呼んじゃって」

「いえいえ、呼んでくれてありがとうございます!こちらこそ迷惑掛けちゃって」

ホントに良い子ね、この子。「あの店長」と血が繋がってるとは思えない。

 

「…リョウは、頑張り過ぎなんです。…で、頑張ってるトコを人に知られたくない。だから、あたしが気付いてあげないとならないんです」

 

…なんだ、ちゃんと解ってる人が居るんだね。良かった。

 

「そう言えば伊地知さん。調子は…どう?」

「…あたしの?…バンドの?」

「…両方かな」

んー、とひとしきり考えた後、私に向かって笑顔を見せる。太陽の笑顔。

 

「どっちも大丈夫です!客観的に見ると判んないけど…皆揃ったら、とにかく音を聴いて下さい!それで判断して下さい。皆に守って貰った分、返せるだけの音は出せる…と思います。とにかく、周りの人を納得させる所から、ですよね!」

 

「そう。期待してる」

 

 

笑顔で手を振って別れる。山田さんに肩を貸して。…ほぼ伊地知さんが担いて持ってるようなもんね。

…体力あるなぁ、彼女。

 

 

ほろ酔いで帰路に着く。

ん、良い記事が書けそう。

 

私が持てる限りの力を総動員して、記事をブチ上げてやるわ。

編集部になんと言われても構わない。

「私見が過ぎる」と言われようと。「感情的過ぎる」と言われようと。

絶対に通してやる。

 

人間は感情の生き物だ。

感情がゆえ、音を聴き、音を楽しみ、音に人生を託す。

感情が音を産み出す。音が感情を揺さぶる。

 

ミュージックオブライフ。ライフオブミュージック。

 

後藤ひとり。結束バンド。

どこまでも突き抜けて。

皆を睥睨するような。皆を包み込むような。

 

そんな音を奏でて。

私に「音楽」を、再確認させて。

 

ーーーーーーーーーー

 

「時間を取って頂いてありがとうございます。大槻さん」

 

「べつに良いわよ。それで?何なの?」

「実は…こういう特集を次のコラムで考えてて…」

 

趣旨を説明する。

ーー若手女性バンド、そのギタリスト達ーー

 

「…ギタマガか…以前のランキングも、佐藤さん?」

「あー、あれは集計に関わっただけで…コメントは書いて無いんです」

 

嘘だ。上位数名のコメントだけは私が書いた。

編集部から「何で後藤ひとりのコメントだけ、妙にアツいの?」って言われて書き直した。

大槻さんに知られると何か突っ込まれるような気がして、伏せてしまった。大槻さん…修正後のコメントでも、熱量の差は気が付いてる筈。

 

「…そう、…まぁ良いわ。それで?何が聞きたいの?」

…ほっとひと息。

 

「ええと…取り敢えず最新のアルバムから…」

「…それを聞かれたら答えるけど…本当に聞きたいのはソレじゃないわよね」

 

ギクリと。

 

「い、いえー、やっぱりシデロスの考えと動向を掴んでおかないと…何たって、大人気バンドですからね」

 

吊り目がちな瞳が、私を捉える。

 

「ライターとしてはそうなんだろうけど…個人としては、聞きたいのはソレじゃ無いでしょ」

 

足を組み、腕を組み…まるで自分を護るように。それでも、その瞳だけは私を「攻撃」してくる。

 

…解った。私の負け。

 

「シデロスの動向を知りたいのは本当です。私もライターの端くれなので。でも、本当に聞きたいのは…「後藤ひとり」の事」

ピクリ、と大槻さんが一瞬震える。予想していたような、そんな表情。

「…やっぱりね。そうだと思ったわ。…そろそろ帰ってくるんでしょ?」

「ええ…だから、「後藤ひとり」を絡めて、若手女性バンドの…」

「逆でしょ?…私達がダシでしょ?「後藤ひとり」が…結束バンドがメインでしょ?」

 

即断言される。

…そこまで理解されちゃってるか…

 

「敢えて否定はしません。ただ、先頭を走っているシデロスに興味があるのも本当。対比…って訳じゃ無いけど、注目株を並べたいので」

「…物は言いようね。まぁ良いわ。若手のトップランナーの自負はあるからね。そう言う立場で答えてあげる。…後藤ひとりの事はね…大っ嫌い!」

「…え?」

「嫌いよ!大っ嫌い!寝ても覚めても思い出す位、大っ嫌い!」

 

…それって、突き詰めると「大好き」って事じゃ…言うとムキになりそうだから、言わないけど。

 

「嫌い!とにかく音が気になる位嫌い!どんな音を出すのか、気になって気になってしょうが無い位、嫌いよ!」

 

大槻さん。気持ちがダダ漏れ。何ならちょっと笑ってるし。

 

「まだ音…聴いてないの?山田さんが、新曲作るのに大槻さんに手伝って貰ったって言ってたけど…」

「山田リョウに「聴いてみる?」って言われたけど、断ったの」

横を向いてぶっきらぼうに答える大槻さん。

 

あ、これ…物凄い「ツンデレ」の類だ。

気になって仕様が無いから、敢えて拒否する。

タチ悪いけど…でも、凄く可愛いね。どれだけ後藤さんの事気になってるの。

「でも、ね。正直…ちょっと怖い…」

不意に真剣な顔を見せる。

「…怖い?」

「そう、後藤ひとりが何処まで「高み」に行くのか。それにどう「結束バンド」が答えるのか。それが噛み合った姿を想像するのが…怖い」

 

物憂げな表情を見せる大槻さん。…そうなのか。

 

「怖い、って…意外ね。大槻さん程の、シデロス程のバンドが」

「…ウチのバンドは、結局私が決めて、私が動いているバンドよ。言い方は悪いけど、メンバーの「相乗効果」を余り考えて無いの。そこへ行くと「結束バンド」は…皆で決めて、皆で動いてるように見える。皆が同じ方向を向いてるの。…だから、怖い。それが。そのエネルギーが」

 

そうか。大槻さんは一人で何でもこなせるから、「皆で高め合う」経験をしてないんだ。だから…未知のモノだから…怖い。

天才って…大変ね。

「成る程。でも、大槻さんは自分の中で「シナジー効果」を生み出せるんじゃない?」

「…でも、何処まで行っても「自分」よ。結局、予想範囲からは外れない」

 

ホント…天才って、大変。

 

 

その後、ちゃんとシデロスの事に関しても取材した。

大槻さんに「オマケみたい」って言われながら。

 

 

大槻さんと別れ、ストレイビートの事務所に行く。バイトだから、たまには働かないと。

 

「ただいま」

微妙に違和感がある、帰着の挨拶をする。…と。

「ああ、お帰りなさい。…久々ですね」

…嫌味を言われる。

 

自分の席に着き、パソコンを開くと司馬さんに声を掛けられた。

 

「そう言えば佐藤さん。貴女宛にファックス来てますけど」

 

…え、来た!?来た来た来た!!!

返事もそこそこ、ファックスを受け取る。3枚程。

そこには英語文がビッチリ書いてある。

こんなに書いてきたの!?これ全部載せたら、それだけで記事が、終わっちゃう!

 

取り敢えず、頭から読んで行く。

………

……………

 

…ふう、また随分「熱い」文章ね。

掻い摘んで掲載するのが苦労する位。

 

「何処からのファックスですか?」

司馬さんに聞かれる。これはね?秘密兵器よ。

「ロンドンのライターからの文章。…まぁ、司馬さんも読んで。英語、出来たわよね」

「まぁ、はい。それでは…」

 

いつもの冷静な態度で目を通し始める。…その内、表情に変化が表れて。

 

「…これは、随分熱い文章ですね。そうですか。…後藤さん、喜多さん、ここまで…」

思わず…といった感じで笑顔を浮かべる。

「それで…司馬さん。お願いがあるんだけど」

「…何でしょうか」

「その文章ね。日本語に訳して欲しいの。私だと語彙間違いがあるかもしれなくて。司馬さんのほうが正確に訳せるだろうから」

 

司馬さんに手を合わせてお願いする。学がある司馬さんの方が、正しく訳せるだろう。…こんな長文だと思わなかったけど。

「…特に専門語彙はそれ程入って無かったので…解りました。承ります。今日、これ持って帰って構わないですか」

「ああ、それならコピー取るわね。私もコラムの構想を練りたいから」

 

ファックスを持ってコピーに向かう。

コピー機が紙を吐き出す間、「向こうの生活」に想いを馳せる。

ギターヒーローさん。向こうで更に凄くなっているのね。

帰るのを惜しまれる位。

 

貴女はどれだけ高みに登れるの?

どれだけ周りを魅了するの?

 

どれだけ…夢を、見させてくれるの?

 

 

楽しみで、怖くて…やっぱり楽しみで。

 

とにかく、会ってみたい。

 

 

その音を、聴いてみたい。

 

直ぐに…直ぐ!

 

 

 

待ち遠しい!

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