王の帰還   作:サマネ

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We're good to go!(準備完了!)

ーー全てが…回り始めるーー

 

ーーぐるぐると。ギリギリとーー

 

ーー錆びついた歯車は、痛みと血を吐き出し、吐き出し切り………己の歯を研ぎ、磨いて………また合わさるーー

 

ーーそれは傍目からは噛み合って居ないように見え、どう考えても連動しないようにデコボコでーー

 

ーーしかし、「本人達」にとっては完璧な調和でーー

 

ーー一旦回り出したソレはーー

 

ーー目にも留まらぬ速さで回り始めーー

 

ーーそしてーー

 

ーー光輝きーー

 

 

ーーーーーー再び星座が生まれるーーーーーー

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「…で、出来ました…」

 

ここはいつもぼっちの歌詞をチェックしていたカフェ。

ぼっちがソレを持って来たのはストレイビートの事務所に行ってから、5日が経った頃。

何か、疲労困憊の満身創痍って感じだね。

 

「…その姿見るのも久し振りだね」

 

目が落ち窪み、全体にやつれた感じのぼっち。…その身を包むのは、ピンクジャージ。

「それ…もう2年前位に辞めたんじゃ無かったっけ?…郁代にさんざ怒られて」

確かぼっち達が高校を卒業して…結構すぐ位じゃ無かったかな。

郁代に『ひとりちゃん!ジャージは没収します!美智代さんにも承諾済みだから!』とか言われて。

ぼっちも泣き叫びながら交渉してたな。

『き、喜多ちゃん!?お願いだから、2着だけ!2着だけ残して下さい!配信の為に!それを着て配信しないとアカBANされる!他の服着てて見てる人から調子に乗ったで賞で叩かれる!不幸の手紙とか、脅迫状とか…一家離散!ホントの意味でお星様になっちゃう!』

そんな事を号泣しながら言われて(郁代はかなり引いてたな)、2着だけ所持を許されてたな。

ただ…交換条件で外に出る時はなるべく普通の格好をさせられてたけど。

郁代プロデュースで。…苦労してたけど。

 

…ピンクジャージ、何着持ってたんだろう…

 

「へ、へへ…「原点に帰る」ってヤツですね。パッションをリターンしたって所ですよ」

自慢気に言ってるけど…ぼっちよ、ホントに英語圏行ってたのか?タイとかじゃ無いよね。

「…そ。まあお座り」

対面に座らせ、注文を取る。何か温かいもの………あれ?ぼっち…

「何でコート着てないの?寒くなかった?」

ぼっちは自慢気な顔を一転、俯きながらボソボソと話し始める。

「普段着は全部お母さんに洗われてしまって。…コートも。それで、着る物が無くって…」

…おい、パッションがリターンはどうしたんだよ…

 

気になってぼっちの足元を覗く。…靴だけはいつものタクティカルブーツ…

「…ぶ、くふふ…うっくくく…」

「リョウさん?…何笑ってるんです?」

 

笑わでいられるか!バランス…バランスが!………

これだから「ぼっち」はやめられない!

 

 

やっとわたしの心が落ち着いた頃、注文を取る。

わたしはブラック。ぼっちはホットミルクティー。

…イギリスかぶれめ。

 

「…で?、出来たって…2曲?」

「あ、はい。約束が2曲だったので。…見て下さい」

…本気のぼっちの眼差し。やつれてはいるんだけど…良い顔になったね。

「拝見致す」

手刀を切り、ノートを開く…と。

 

ブワリ、と。

 

熱風を受ける感覚。幻覚の筈なのに、実際顔に熱を受けているような…そんなぼっちの熱量が、わたしを…わたしの心を!

…一旦ノートから目線を外し、目を瞑りながら顔を上に向ける。

 

「…ど、どうしました?何か拙かったですか?」

オドオドしながら聞いてくる。…そうじゃ無い…そうじゃ無いんだ。

人は不意に殴られると、実際より何倍もダメージを負ってしまう。心もそう。

気合いを入れろ。ぼっちに負けるな…山田リョウ!

「準備しただけ。見させて貰うよ」

「…?」

 

ノートに再び目を向ける。

…それは、その世界は…ぼっちの、「後藤ひとり」だけの世界で。

その世界が更に深く、激しく、鋭くなって。

以前より言葉の棘は優しくなったかもしれない。

でも…「後藤ひとり」が超然とそこに立っている。

だれも許されぬぼっちの世界。

向こうに居る時に送られて来た歌詞とも相まって…「後藤ひとり」は荒れ野に1人、悠然と立ち…周りを睥睨して。

そうかと思うと昏い洞窟で唸り声を上げ続けて…

深い穴蔵で青空を羨んで…

涙が出そうだ。

凄いよ。…これが「後藤ひとり」だ。

 

「うん…良いんじゃないかな」

わざと軽く伝える。自分の心を平穏に保つ為。気持ちを守る為。

 

「…よ、良かった…です」

胸を撫で下ろすぼっち。ぼっちにしてみれば、心持ちは以前の歌詞作りの延長線上なんだろう。

でも、明らかに以前とは違う。深く、激しい。

以前がつむじ風だったら、これはハリケーンだ。

歳を重ねた…と言うのもあるだろう。経験を積んだ…と言うのもあるかもしれない。

しかし…人間が短い期間でここまで「深く」なれるのか。…それはどんな修羅場だよ。

良い経験してきたんだね。

 

「この歌詞…ノエル・ギャラガーにでも見せてやりたいね」

「え、何です?」

「…何でも無いよ」

 

とにかく詞は出来た。あとはわたしの出番だ。

「じゃあこれ、預かって良いかな?…あと、粗方曲が出来たらリフの相談させて」

「あ、解りました」

「…どうする?ご飯でも行く?」

ぼっちは少し考えた後、あっと声を上げる。

「この後郁ちゃんに会うんです」

そうか…邪魔しちゃ悪いから……待てよ。

 

「…その格好で?」

わたしに指を指されて自分の格好を見下ろす。

「………ぁ」

「怒られるよ?」

途端にプルプルと震え出し、わたしに捨て犬の目を向ける。

 

「ど、どど、どうしましょう!?」

「…怒られろ」

ゲラゲラと笑いながらレシートを掴み、会計をして店を出る。

ぼっちを置き去りにして。

 

やっぱり「ぼっち」はやめられない。

 

ーーーーーーーーーー

 

「…後藤さん。…私、言ったわよね」

 

いきなり後藤さん呼び!?何かこめかみ揉んでるし!目も合わせてくれないし!

「わ、わたしが悪い訳じゃ!………わたしが悪い…です…」

 

発言途中でジロリと睨まれ、まともに喋れなくなるわたし…後藤ひとり21歳。

ああ…成長して無いなぁ…

ハタチ過ぎるとすっかり大人って…誰が言ったのか…少なくともわたしはその一般論の中に含まれて無いよね。

 

「もう!」

郁ちゃんに腕を取られ、頰に手を当てられる。

「こんなに隈作って!お肌も荒れてるし!髪もボサボサで!ウラ若き乙女が!…もう!」

「21って、乙女って言って良いんですか、ね」

「屁理屈言わない!」

「ひゃい!」

 

不毛な遣り取りをしているその後ろで、ゲラゲラと笑う声。

「はぁ〜、やっぱ後藤オモロ」

「…御期待に添えて、何よりです」

「ひとりちゃん!?」

「はいっ!」

…わたしは喜多郁代怒られマシーンです…

 

「取り敢えず、服を買いに行くわよ!」

「…はぃぃ」

「へいへい」

3人で歩き出す。

 

3人…そう、今日はさささ…佐々木さんも一緒なんだ。

郁ちゃんが帰国後連絡したみたいで、

「それなら呑み行くべ」

ってなりました。で、約束の日が今日。

 

郁ちゃんの格好は、今日は一転してとてもガーリーなスタイル。久々のピンクのPコート姿が可愛い。

佐々木さんはジーンズに上はボマージャケット。格好良いな。髪は高校の時よりちょっとロングにしてる。

わたしは…言うまでも無い。

 

「そう言えば、さっつーは就職どうするの?」

右横を歩く佐々木さんに尋ねる。左にわたし。ちなみに逃げられないように恋人繋ぎで捕獲されています。

「…まーフツーの会社に入ってフツーのOLかな。幾つか内々定貰ってるしね」

そう、もう年が明けて春になれば卒業。郁ちゃんは休学してたからまだ先だけど。

「そっか。さっつーは輝かしい普通の道を歩むのね」

「…皮肉?」

郁ちゃんの問いに対して、佐々木さんはちょっと意地悪そうな笑みで返す。

「ううん。ホントにそう思ってる。私は普通になれなかったから…もうハミ出してしまって、元の道には帰れない」

「後悔してんの?」

「後悔は…最初はちょっとしてたかも。…でもね、その「ちょっとした後悔」が…覚悟になったのかも。後悔しないままこの道に来たら、覚悟さえ出来なかったかもね」

そう言いながらわたしの手をキュッと強く掴む。

大丈夫だよ。わかってるよ。

その想いを込めて、わたしも強く握り直す。

 

 

古着屋に辿り着き、郁ちゃんに着せ替え人形にされる。

佐々木さんはそれを見ながらまたゲラゲラ笑って。

でも、「やっぱり後藤、美人だよな」なんて言ってくれて。

郁ちゃんは「渡さないわよ」なんて睨んで。

佐々木さんも「取らねぇよ!」なんて返して。

「仲間」って、「友達」って、はっきりそんな気がして。楽しくて。

 

 

いつもの居酒屋。

皆で乾杯。

郁ちゃんはハイボール。

佐々木さんは生中。

わたしは…梅ハイ。…極薄。

 

「それじゃ、久々の再会を祝してぇ〜、乾杯!」

佐々木さんの音頭でグラスをぶつけ合う。

 

「あ〜、知多のハイボール美味し!やっぱり向こうのシングルモルトはちょっと癖があるのよねー」

「出たね、ツウな意見が」

「ホントなの!試しにこの…メニューのグレンリベット飲んでみて!そしてこの知多と比べて!日本のウイスキーが如何に素直な味か!更にこのボウモアとか!すンごいピート香で!…」

 

何かお酒談義に熱が入ってる…これはメアリさん達によっぽど仕込まれたな。

 

「なぁ後藤…」

ニコニコ顔でハイボールを干している郁ちゃんの横、わたしに向かいの佐々木さんがコソリと問い掛ける。

「…はい?」

「喜多…凄ぇ酒豪になってねえ?」

「…おっしゃる通りでございます…」

 

「次はニッカで攻めてみようかしら!」

「「……………」」

 

ーーーーーーーーーー

 

お酒も料理も進み…

「郁ちゃ…いくちゃ………わらしを捨てないれ…」

「…何でハイボール4杯飲み干した喜多より梅ハイ4口の後藤がベロベロになってんの?」

「そこがぁ〜ひとりちゃんの可愛いトコ!」

私の腰にしがみついて懇願してるひとりちゃん…かわい!

よしよししてあげる。

私のお腹に顔をウニウニさせてる内に、ひとりちゃんのブラウスの左肩がちょっと(はだ)けて…チラリと翼が見える。

「え!………喜多、それって…」

…まあ、別に隠しとくつもりでも無いしね。

私も着ていたセーターを脱ぎ、ブラウスだけになって右肩を晒す。

「そっか…そう言う事か…喜多、それはあんた達の…覚悟、なんだね」

「…うん、そうよ。私とひとりちゃんの…覚悟」

「…ロックだな」

「そう、ロック!」

二人してニヤリと笑う。

 

「そっか…よし!…愚かで最高な二人に、カンパイ!」

「ありがと!」

ガチリとグラスを合わせる。

 

 

「…喜多。ダイジョブなの?」

「ダイジョーブよ!」

ひとりちゃんを支え(最早持ってるわね、これ)て、タクシーに乗り込む。

さっつーは歩いて帰るみたい。

乗り込んでから、窓を開ける。

「じゃ、さっつー…」

またね…と言おうとしたら、ニュッと拳が突き出される。

さっつーは微笑んでて。

私も微笑みながら、拳を突き出す。

 

ゴツリ

 

「じゃ、またな!」

すぐに振り向き、後ろ手に手を振って去っていくさっつー。

随分格好良い事してくれるじゃない。

ひとりちゃんを見ると、私に凭れ掛かって何やらムニャムニャ口を動かしてる。

ふふ…可愛い。

 

さて。

 

運転手さんに向かい。行き先を告げる。

 

「近くのラブホテルまで」

 

車が動き出す。…あ、そうだ。

バッグからスマホを取り出し、ロインを起動。

[ひとりちゃんが酔い潰れてしまったので、こちらで泊まらせます。] [心配しないで下さい]

っと。

美智代さんにはこれでオッケー。

ふたりちゃん、ごめんね。帰った時のエピソードは聞いたけど…やっぱりふたりちゃんはお姉ちゃんっ子ね。

今晩だけ借りるね。

 

…だって、ひとりちゃんが悪いんだもの。

私を一週間も放って置くんだもの。

覚悟しなさい。ひとりちゃん。

その安らかな寝顔を歪ませてあげる。

「もっと!」って、言わせてあげる。

ふふ…楽しみ。

 

 

欲望を乗せた車両は、繁華街を滑るように走って行く。

 

ーーーーーーーーーー

 

ぼっち、無事だったかなぁ。

 

ぼっちと別れてすぐ、自分の家に帰って来た。

帰って来る時も、頭の中で音が鳴り止まない。

「いつもの」だ。

しかも、今回のはより強烈。あれだけ鮮烈な歌詞を貰えば…むべなるかな。

すぐさま一曲のメロディーラインのラフを作り、一旦頭を休ませる。

一回クールダウンしてから、少し経ってまた見直して見る。そうすると気付かなかったアラが見えて来たりする。

 

ベランダに出てアメスピを一服。

そう言えば…何でこの煙草(アメリカンスピリット)にしたんだっけ。…確か…名前の語感が格好良かったから、だっけ。

 

一休みする時、他愛も無い事を考えるのは頭を休めるルーティン。

 

外はもう暗くなっている。見回しても、ロクに周りが見えない。

庭に生えてるオシャレなランプだけが光源。

 

ぼっちはもう郁代に攫われて、何処かにしけ込んでるだろうか。

二人には帰って来て直ぐに「背中の羽根」を見せて貰った。

それが「二人の覚悟」だと。

…いいじゃん、覚悟。どんどん真っ当な道から外れてくね、二人して。

未だにタトゥーは「マイノリティー」の象徴だ。

ファッションで認知されつつあっても、公共の場では忌避される。例えばスーパー銭湯などはお断りされる。

それを自らの意志で己の身体に刻み込む。まるでプリミティブな願いのように。

…元々は呪術的な意味だっけか。古代文明とか、ネイティブアメリカンやミクロネシアとかの。

もしわたしがタトゥー入れたら、両親は悲しむかな。

悲しむだろうな。

…良いね。

良いな。

 

…そう言えば、お腹空いた。

…一旦作業を切り上げて、帰るか…「我が家」に。

 

 

「それがどうしてウチなのかなあ…リョウ、説明して」

 

何でお怒りなのか解らない。

怒りながらご飯作ってくれてるのが、なお解らない。

 

「…だって、お腹空いたから」

「説明になってないよ!」

何か微妙にバツが悪かったので、お皿だけは並べる。

 

二人でモグモグタイム。店長はまだお店。

 

「だからリョウ。なんで「自分ん家」から出て来て「自分ん家」に帰るの。理屈に合わないんだけど。しかもここ、リョウん家じゃ無いし」

「…え!?」

「ナンデオドロクー。…いつからリョウのウチになってたのさ」

「え、生まれた時から?」

「お前はいつからあたしと姉妹になった?」

「同い年だから、双子かな?」

「「かな?」じゃないわ!そもそも生まれ月を跨いだ双子なんて居るか!」

「イッツ•ミラクル!」

「やかましい!」

 

 

食後、お茶を頂く。郁代から貰った紅茶の茶葉で淹れてみる。

何か「ゴールデンルールがうんたら」とか言われたけど、ガン無視。

ようはエキスが出ればいんでしょ?

 

「…リョウ。多分これ、淹れ方違う」

おまえもかー!

 

 

「そう言えば、さ」

お茶を飲みながら唐突に話を振ってみる。

「…何さ」

「…ぼっちと郁代…タトゥー入れてたよね…」

「うん。…それが?」

虹夏は、何が言いたいか解らない顔。察してよ。

「…ロックだね」

「…そだねー。未だに日本だと嫌がられる事があるからねー」

「…それでさ」

「だから何さ」

カップを両手で包み、冷たくなっていく指先をなんとか温める。

「…あの………」

俯きながらさんざっぱら言い淀んでいると、テーブルの向かいで「プフっ」と吹き出す音。

顔を上げると、何故か訳知り顔の虹夏。

 

「あー解った解った!皆まで言うな!」

そ、そうか…解ってくれたのか…

 

「リョウはさ…自分で入れたいんでしょ?あたしは良いよ?リョウが入れても別に嫌がらないし」

…そっちだったかー!

がっくりと肩を落とすと

「あ、あれ?違った?」

と不安げな声。

 

「…ごちそうさま…」

項垂れつつ自室(虹夏の部屋)に戻ろうとするわたしを

「ちょちょ…待ってよ」

と引き留められる。

…もう、言う勇気が出ない…

無理矢理笑顔を作り、虹夏に振り向く。

「なにかな?」

「…不自然過ぎだろ…。リョウ、何か言いたいんだよね?あたしが察し悪いのがいけないんだけど、教えてよ。…お願い」

とても真剣な顔で食らい付いてくる。その瞳には、「話してくれるまで解放しない」という色が乗っていて。

 

…はぁ…

 

観念してテーブルに座り直す。両手を組んで顎を乗せる。…手汗が凄い。

「…さっきのタトゥーの話。…あのお揃いの羽根。虹夏はどう思う?」

「どう…って、「格好良いなぁ」とか「お揃いで仲良いね」とか「度胸あるなぁ」とか。…リョウはそう言う事聞きたいんじゃ、な……………え?、いや、うそ…ええ!?」

…気が…付いちゃったか。そうだよ。そんな事思ってたんだよ。

虹夏の顔が途端に真っ赤になっていく。首筋から耳まで…

「いちお確認させて。…つまり…あたしとお揃いで…入れたいって………事なんだよね」

 

もう目を開けてられない。眉間に皺が寄る位目を閉じ、ゆっくりと首肯する。

「…そう。あの二人の覚悟に(ほだ)されたって訳じゃ…いやそうなんだけど…。わたしも多分…いや間違い無く「この世界」じゃ無いと生きられない。他の世界なんか想像つかない。だから…後ろ向きな覚悟なんだけど、ね」

 

ひと息で言い切る。怖い。目が開けられない。

少なくとも虹夏にそんな「おかしな覚悟」を求めちゃいけないんだ…けど。

わたしが臆病過ぎるんだろうか。「そんなの、ファッションで皆でやってるよ」なんて思うんだろうか。…そう思うなら、この提案は無かった事にしよう。それ程虹夏の身体に傷を付けるのは…わたしにとって、重い。

 

…反応が、無い。

 

こわごわと目を開き、顔を上げる…と。そこには虹夏の慈しむような表情。

「…そっか。リョウはそう想っててくれたんだね。ありがと。あたしと覚悟を共にしてくれて」

泣き笑いの顔で。嬉しそうに。

そして人差し指をわたしの右肩に伸ばし、ちょんと一突き。

「あの2人位大きいと恥ずかしいから…「ココ」ね。それともう一つ」

「…な、なに?」

「…入れるのは、あの二人には暫く内緒。当然他の人にも。何せ「あたし達だけの決意」だから」

はにかむような笑顔を見せる。

 

…うん。そうだね。わたし達だけが「解って」いれば良い。

 

「虹夏………宜しくお願いします」

「何だよそのプロポーズみたいの!…恥ずかしいじゃん!」

 

 

「…それで、何を入れんの?」

「………けつばんちゃん?」

「ぜっっったい、イヤ!」

「……………じゃ、羽根で」

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「…知らない天井だ」

目が覚めると、何やらやけにモダンな部屋。

郁ちゃんの部屋でも無い。余り覚えて無いけど。

意識が徐々に覚醒してくると、裸の背中に当たる、柔らかい感触。…え、裸!?

そろりと布団を捲り、自分の状態を確かめる…うん、裸だ。そして、背中の感触。

 

…状況は把握した。

 

お腹に絡みつく腕をちょっと持ち上げ、180度回転。

果たしてそこには…天使が居た。

…いや、もう「女神」だな。布団から覗く素肌が眩しい。流れるような赤髪。

この「美の具現」を創造したのは誰だろう。

ミューズの頰に軽く口づける。

 

「………ん」

起こしちゃったかな。若草色を隠している瞼ががピクピクして、桜色の唇がムニムニと動いている。

そして…わたしの大好きな若草色が徐々に現れて…

「…おはよ」

ちょっと掠れた声で、朝の挨拶を告げる。

 

「おはよう…ございます」

 

 

「ねえひとりちゃん。ちょっと不動産屋回らない?」

チェックアウトすると、郁ちゃんから提案される。

そうだ、どうせぃ…同居するって言ったんだよね。

「あ、はい。…そう言えば郁ちゃんのお家、許可は出るんですか?」

郁ちゃんは眉尻を下げて、あはは…と乾いた笑い。

「ひとりちゃんとお付き合いするのは認めて貰ったの。同居は…やったもん勝ちね!」

「…えぇ…」

後で事実が発覚して、乗り込まれないだろうか。郁ちゃんのお母さん…かなり激しい人なんだよなぁ。

わたしの不安げな顔が解ってしまったのだろうか、郁ちゃんはわたしの肩をポン、と叩き

「大丈夫!私が守るから!」

そんな事を宣言してくれる。

…いや、問題が違うような気がするのは気の…せいですねそうですね!だから上目遣いでじいっと見詰めないで!ホテルにトンボ返りしたくなるから!

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

2日後。

わたし達が「決意」を刻んでから、1日。

わたしの右肩と、虹夏の左肩。

 

それを入れる時、わたしが気を失ってしまったのは…内緒。

 

その日のスタ連。

 

…何か心が軽い。なんでだろ。

自らに決意を課すって…覚悟を決めるって…そんなに精神に影響を及ぼすのか。

「リョウさん、何か調子良さそうですね!虹夏さんも!」

…郁代にバレる位。

 

「リョウさん…右肩、調子悪いとか…ないんですか?」

ギクリとする。

「虹夏ちゃんも…左のスティック、若干リズム崩れる時が…」

虹夏を見遣る。二人顔を合わせてこっそりと苦笑い。

皮膚の違和感って、結構影響出るもんだね。…しかしぼっちよ…気付くか?普通。

「私気が付かなかったなぁ。…そう言えば、私達が「羽根」を入れた時はそんな事、あったわね。…そんな感じに見えるの?」

「あ、はい。まさにそんな感じの動きに見えます」

 

ギクゥッ

 

ぼっちぃ〜!お前は何か特別なセンサーでも付いてるのか!?

「な、何でも無い!何でも無いから!」

虹夏が必死に何でも無い!とアピール。

 

「さ、行くよぉー!」

「郁代、行くよ」

「リ、リョウさん、それはダメです!」

…最近はこのネタぼっちが怒るんだよなぁ…

郁代は…ぼっちを見ながら顔を赤らめちゃってまあ…

 

 

でも…気持ち良い。4人の演奏。4人のグルーヴ。

皆のスキルが上がった。

皆がそれぞれの音をしっかり意識している。

アイコンタクトで各々のやりたい事が解る。

何より…

 

この、ピースがバチリと嵌ったこの感じ。

これがわたし達だ。

これが…結束バンドだ!

 

 

さあ、最高の音を皆に届けてやる!

 

ーーーーーーーーーー

 

「でも虹夏ちゃん。凄くバックの安心感があります。全て受け止めて貰える感じで…」

「そう!まさしくひとりちゃんの言う通り!受け止めて貰える感が半端無いです!」

「そ、そうかなぁ〜。あたしも成長したって事だねぇー!左肩の覚悟は違うねぇー………あ!何でも、何でも無いからぼっちちゃん!」

「あ、はい……………?」

「………!」

 

ほらぁーバカ虹夏!郁代が何か気付いちゃった!

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