王の帰還   作:サマネ

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名を売る事とギターのヒーロー

「じゃ、そういう訳で、皆ガンバロー!」

 

「わかりましたっ!」

「…え〜」

「あ…はぃ!…はい?」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

【山田リョウの場合】

 

「…と、言う訳なんたけど…どうかな」

「いや…どう、と言われても…」

 

リョウさんが、とち狂った…

 

 

この間、ミュージックショップに行く為御茶ノ水を歩いてたらしい。

目的の物を買い求め(インドミュージックって…)、ホクホクで帰ろうとしていた所、

「おねーさん、美人だねぇー!ちょっとお話良いかな?」

何やらチャラいダブルのスーツを着たチャラい髪型のチャラいオニーサンに声を掛けられたらしい。

今時こんなヤツ居るんだ…とその時思ったとか。

 

「そこのカフェでお茶でもどう?勿論奢るよ?」

その言葉に「ビビッと来た!」というリョウさん。…単に奢りが嬉しかっただけですよね。

そのカフェでカレーとケーキセットを堪能し、しょうが無く話だけでも聞いてやるかと耳を傾けると、そのチャラ男はスカウトだと言う。しかも、アイドル事務所の。

そこでリョウさんは思った。

「虹夏の面倒臭い依頼をこなす、これはチャンスでは無いのか」と。

虹夏ちゃんの依頼、それは…

 

 

ーー各個人の知名度を上げてこー!作戦ーー

 

 

各人の知名度を上げ、より集客を集める作戦。

そんな事が集客に影響するのかはともかく、虹夏ちゃんは思った事に猪突猛進な所がある。

面倒臭いと思いながらも虹夏ちゃんのお願いに対して断り切れない所があるリョウさん。

すなわちこれはチャンスと。…後先考えないなぁ…

 

「詳しく聞かせて。あ、あとコーヒーお代わり」と乗り気な態度を見せると、相手も凄く食い付いてくる。

「現在上り調子のアイドルグループがある。後の事を考えて、そのセカンドグループを作りたい。ファン投票等でファーストグループとの入れ替えも考えており、そのセカンドグループ自体も固定メンバーにせず更に下の候補生との入れ替えがある。取り敢えずセカンドメンバープラスアルファを集め、そこでファン投票を実施。そんな画期的なシステム!今それなりの人数が集まっているが、キャラ的に「クール美人タイプ」が居ない。そこで君だ!君ならあっと言う間にセカンドグループに入れる!何ならファン投票で直ぐにもファーストに!」

…等と捲し立てたらしい。…えーと、何処かで聞いたようなシステムなんですけど。

「ぼっちも一緒にやる?」とか言われたけど…わたしの性分解って言ってます?

あと、現在のバンド活動を鑑みて…本末転倒になりませんか?

そのアイドルグループの名前を聞いたら

 

「えーとね、ピンピンおねだりリトルシスターズ…だったかな」

 

………正気ですか?

どう考えても地下系とかの、「あ!パンツ見えちゃった!やだ、お兄ちゃんのエッチ!」とかやってるようなグループじゃないですか?

 

…リョウさん、お兄ちゃん欲しいんですか?

「何言ってるのぼっち?お兄ちゃんもお姉ちゃんも要らないよ」

…そうですか。

 

まあ、リョウさんがやりたいなら止めませんが。でもちゃんと曲作ってベース弾いて下さいね。あと一応、虹夏ちゃんに報告しときます。

 

 

「リョウー!何考えてんだ!」

 

怒られてました。こっぴどく。

そしてそのスカウト?さん、この間警察に捕まってたみたいです。未成年者略取・誘拐罪とかで。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

【喜多郁代の場合】

 

「ね、ひとりちゃん。どお?似合う?」

その上目遣いでそのポーズを、その格好でやるのはある意味犯罪です。

 

現在、わたしの目の前には愛しの郁ちゃんが「メイド服を来て両腕で胸を寄せるようなポーズをして、更に上目遣い」をしている…という小悪魔的、というより人を「課金」と言う底なし沼に引き摺り込みそうな悪魔的フォームを披露している。

 

何故そんな格好をしているのか。

それはまたまた虹夏ちゃんの提案

 

 

ーー各個人の知名度を上げてこー!作戦ーー

 

 

の影響な訳で。

この行動力の権化がすぐに動かない訳が無く、メイドカフェの体験入店にすぐ申し込んだ。

そのお店にはステージがあり、メイドが歌を歌って客が人気投票するのだとか。…また人気投票かよ。

 

メイドの中には歌唱力では無く、セクシーさとチラ見せで人気を獲得する輩も居るらしく(ドロワーズをチラ見せして何が嬉しいんだろう。男の人って)、そんなモノ私の歌で駆逐してやる!と言った勢いで、鼻息荒くしている。

「私があの店のナンバーワンになる!」

 

…郁ちゃん。手段と目的が違っていませんか。

 

「それで、ひとりちゃんを悩殺出来るか衣装を借りて来たの」

 

…郁ちゃん。目的が雲隠れしてますよ。

 

ここはラブホの一室。

この部屋でその格好。まるでわたしがイカガワしい出張サービスを呼んだようなシチュエーション。

幸い(幸いか?)なのは、今風のミニスカメイドでは無くオールドスタイルのメイド服な事。

 

オールドスタイルのメイドを連れてラブホを利用するどう見ても社会不適応者な格好の女。

…だって、郁ちゃん…ずっとこの格好なんだもの!

 

「ね、どう?どう?…ちょっと興奮しちゃった?」

 

…シチュエーションが交通渋滞を起こしてます。

 

そんな郁ちゃん、人差し指を唇に当てて、迫ってきました。

「ねぇ、ご主人さま?こんなイケナイ私をお仕置き…して?」

 

…どんなプレイなんですか…あの…徐々に迫って来るのは…しかも捕食者の目で。お仕置きって…わたしがされる方なの?

 

わたしの腕を取り、ベッドに押し倒され…え、くるりと反転して郁ちゃんが先にベッドに倒れ込む。その上から腕を取られたわたしが…これって、わたしが押し倒したような格好に…

 

「キャーッ!、ご主人さまに食べられちゃう!」

 

…郁ちゃん。なし崩しな気もするけど…煽ったのは郁ちゃんですからね。覚悟して。

 

堪らず郁ちゃんの首筋に齧り付く。

 

「…あっ、ひとりちゃん…」

 

ええ、全部毟ってやりましたとも。こんな衣装。

何か…新たな目覚めを感じました。

ちなみに、メイド衣装はちょっと切ってしまいました。

更にちょっと汚してしまいました。

 

…弁償はわたしがしました。

 

 

ついでに、そのバイトは辞めて貰いました。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

【伊地知虹夏の場合】

 

「あたしって…何が出来るんだろ…」

 

…提案者は虹夏ちゃんですよね?

 

 

ーー各個人の知名度を上げてこー!作戦ーー

 

 

各人皆失敗してますが、それはどうお考えで。

 

「ドラム…ドラム…はっ!」

最早わたしが突っ込む未来しか見えません。

 

「タムとシンバル担いで、街を練り歩くとか!」

…それは昔懐かしい「チンドン屋」では?それを叩かなければ、ただの迷子になったローディーですね。

 

「ぼっちちゃん手厳しいねぇ…う〜ん、あたしのアドバンテージかぁ…大学出とか」

腕を組んで悩み出す虹夏ちゃん。確かに虹夏ちゃんは頭が良い。…でも、「頭の良さ」と「バンド」を結び付けるものが見付からない。更に知名度とか。

 

「バンド相手に経営戦略とか語るか…「アナタ達の収支と実力、知名度を鑑みたチャートを作成します、とか」

…それって、只の「経営セミナー」ですよね。ちょっとでも間違うと、警察に目を付けられるような。そもそも、「虹夏ちゃんの知名度」は何処に行きました?迷子ですか?名うての経営コンサルとして売り出したいんですか?あのドラムセットは、多角経営の具現化なんですか?

 

「じょ、冗談だってばぁ〜!ぼっちちゃんの突っ込みが手厳しいねぇ。…あたしに対して辛辣じゃない?」

ここの所、皆のしょうもない話を連続で聞かされていたのでこの位は勘弁して下さい。

「ほ、ほら!皆も頑張った結果だから!チャレンジする事に意義がある!…みたいな」

そのチャレンジが皆迷子なんですがそれは。「五里霧中」どころか「ゴリラに夢中」くらいの迷子さですけど。

そもそも、各人の知名度って、そんなにすぐ上げられるモノでしょうか?更に遡れば、各人の知名度って、必要ですか?第一、地元で知名度上げてもスターリーのライブ以降はツアーがほぼ地元じゃ無いんですがそれはどうしましょう。

 

「誰だキサマ!ぼっちちゃんはそんな聡明じゃ無い!」

 

…フフフ

…いや、わたしなんですけど。皆が余りにもアホウなんで、相対的にわたしがマトモに見えるだけで。…虹夏ちゃんまあまあわたしに酷い事言ってますよね。

 

「う〜ん、サイドテール…黄色…」

 

 

うちのリーダーは、今日も迷走中。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

【1号2号の場合】

 

「1号、ちょっと小耳に挟んだんだけど」

「ジカちゃん経由ね。2号も気になるわよね」

 

 

ーー結束バンド、バンドメンバー知名度大作戦ーー

 

 

「1号はどうすれば良いと思う?」

「そうねぇ…リョウちゃんは「アイドルグループ」にでも入れば、それだけで知名度ダンチね!」

「それ良いかも!ルックス良いし!じゃあさ、喜多ちゃんは「歌って踊れるメイド」とかやれば良くない?」

「良い、良いよ2号!知名度爆アゲ!あの歌声も活きるね!」

「あと…ジカちゃんは頭の良さを活かして「経営コンサル」的な何か!バンド相手にする、とか!」

「おお!勝間◯代みたいな!」

「そうそう!皆持ってるぅ〜!」

「あとは…ひとりちゃんね」

「…ひとりちゃんはさ…」

 

 

「「アレしか無いよね〜!」」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

【ぽいずん♡やみの場合】

 

 

 

…自主規制中

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

【後藤ひとりの場合】

 

…皆に散々突っ込んで来ましたが、さて…わたしは何が出来る?

この際、各人の知名度が必要か否か…なんて根本的な問題は置いといて。

 

わたしのオールドスタイルの戦闘服であるピンクジャージに身を包んで、正座に腕組みして押入れの中で思案してます。

 

わたし、かぁ…

…溶ける?…崩れる?…散らばる?…どんな人外だ、それ。

少々人と掛け離れた所はあるかもしれないけど…でも、この身は健全な21歳女性のソレ。

いっその事、モヒカンにでもしてみるか。…世紀末感バリバリ。…わたしが死ぬ。

 

…ダメ、ゼッタイ

 

まず、格好がどうのじゃ無いんだよ。その存在を…存在感を…皆に植え付ける必要がある。

 

…ツチノコ?…メンダコ?…誰、それ。

 

…そう言えば、昔は良く「売れた後の事」を夢想してたなぁ。…なんでその中のわたし、「女優のプライベート姿」みたいな格好してたんだろ。しかも、「誰かが想像した女優のプライベート姿」みたいなヤツ。

現在はバンド6年目(7年目だけど1年サボってたからなぁ)。まだ知名度は高く無い。

 

色々なバンドのギターをコピーして思った事がある。

伸びるバンドは突然伸びる。

3年目くらいで武道館行った人も居る。

インディーズなのに、テレビの帯番組に呼ばれた人だって。

当然、何かの裏付けはあるだろう。

「技術」「運」「個性」………

ただ、上手いバンドならそこら中に居るし、突然運を掴んだバンドだって居る。個性的なバンドなら、星の数程。

その全部が売れている訳じゃ無い。売れ続けている訳じゃ無い。

…わたし自身、売れる事とバンドの実力を混同していないだろうか。

そもそも、「売れる」って、何だろ。

知名度?それはあるだろう。

惹き付ける音作り?要素として必要だ。

唯一無二?勝手に身に付けば世話無いよ。

 

アンダーグラウンドでも、素晴らしい音を聴かせるバンドだって居る。

それより実力が劣っても、売れ続けているバンドもある。

 

…ダメだな。今居るこの「環境」は、わたしに馴染み過ぎる。ダークサイドから、また抜け出せなくなる。

 

…郁ちゃんに電話しよ。

トゥルル、トゥルル、トゥル…

「もしもし…郁ちゃん?」

『…すぐに行く』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「何でわたしの心の揺らぎを直ぐに解るんです?」

「それは、「私が私」で、「ひとりちゃんがひとりちゃん」だからよ」

 

いつかのように、また押し入れで抱き締められています。

やっぱり郁ちゃんは、わたし専用のエスパーだと思う。

 

「…つい、益体も無い事考えてしまって。落ち込む前に郁ちゃんに電話しよ…って」

郁ちゃんは、わたしをヨシヨシしながら答えてくれる。

「ひとりちゃん、それは正解。私はね、幾らでも貴女のネガティブを吸い取って上げる。世の中に何十億人居ようが二人しか居なかろうが、それを出来るのは私だけ。…そうありたいの」

 

郁ちゃん。貴女はわたしにとって、春の陽だ。

例え凍える様な寒さでも、打ちのめされるような暑さでも…郁ちゃんが居てくれるなら…そこは穏やかな春の陽気。

 

「…それで、何で「落ちかけて」たの?」

自分でも答えがあるような、無いような…

「「…売れる」って、何かな…って。知名度が上がれば良いのかな…って」

「虹夏さんの「作戦」の話?」

「それもあるんですけど…もっと根源の問題ですかね」

郁ちゃんは、う〜んとひと唸り。

「…結局、なってみなければ解らないかも、ね」

言葉だけなら問題の放棄。でも、この人はそうじゃない。

 

「私もね、メア達に「売れるって、どう言う事?」って聞いてみた事があるの」

「…それで、どう言う答えをくれたんですか?」

郁ちゃんは「フフ…」と笑って答えてくれる。

「「解らないわ!」って!ウフフフ!あんな凄い人達が「解らない」って。それじゃ、私達が解るわけ無いな!って」

「…そう…ですか」

結局答えの出ない問題なのか。

「…ただね、ひとつだけ解った事があるの」

郁ちゃんはイタズラっ子のような表情で。

「それはね?…只の「言葉」なの。その言葉に囚われている人は絶対に「売れない」。勿論客観的な事象として「売れてる」っていうのはあると思う。けど、それは只の結果論。…ああ、そう…メアが言ってたのは「人に届くかどうか」だって。「届かせられる」のは、それを想い続けられるかどうか…って」

 

届かせるのを、続けられるか…

 

「聴いてる方もバカじゃ無いって。「届けよう」とするのを辞めたら…自分達の中だけで気持ちの循環を始めちゃったら…その人達の作る音楽は「終わり」だって…そう、言ってた」

 

…そうか。難しい事は評論家にでもさせておけ。わたし達は「届ける」人だ。詞を、音楽をその人の心の中まで「届かせる」存在だ。それで良い。それだけで良い。

 

「うん、ありがとう。…郁ちゃん」

「なぁに?」

「…あいしてます」

「…うん!私もあいしてる」

 

 

「そう言えばひとりちゃん」

「何ですか?」

「もう、あれ…いいんじゃないかな」

「…?」

 

「ギター…ヒーロー…」

 

………あ

 

「もう、「後藤ひとり」と一緒になっても、いいんじゃないかな。もう「後藤ひとり」に入れてあげても…良いと思う」

わたしの胸に手を当て、優しく呟く。

 

今迄、自分なのに自分じゃ無かった存在。

ギターヒーロー。

まるで多重人格者や夢遊病患者のように、「それ」だけ乖離させて来た。

希望のように。

逃げ道のように。

わたしが唯一「許される」「許して貰える」存在。

 

「きっと「人に届ける」って、まずは自分の準備が必要だと思うの」

 

「…うん。そうですね」

そのアカウントを取り込む為では無く、「ギターヒーロー」を自分の中に戻す為。一緒に歩む為。

 

「郁ちゃん。協力してくれる?」

「…喜んで!」

 

 

翌日、司馬さんの元へ出掛けた。郁ちゃんの車で。…郁ちゃん?…勿論泊まりましたとも。

 

 

「そうですか。仕事的な話をすると、タイミングは良いですが…良いんですか?後藤さんはそれで」

仕事の事だけで無く気を使ってくれる司馬さん。佐藤さんもずっと気に掛けてくれていた。だから、それに報いる為にも…

「はい!明かすのは大晦日を予定してます」

 

司馬さんは俯いた後、優しい笑顔をくれて。

「解りました。事後の対応は任せて下さい。…頑張って。ギターヒーロー」

今日は事務所に居た佐藤さんに顔を向けると、サムズアップをくれる。

 

「………っはい!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「き、緊張で吐きそう…郁ちゃtgなa@らたW'm」

「キャーひとりちゃん!戻って来て!」

「…相変らずだねぇ、ぼっちちゃんは」

「ぼっちをぼっち足らしめるのが、コレ」

 

時は大晦日。あと3時間程で年が明ける。

とうとう…「ギターヒーロー」と「後藤ひとり」を融合させる。

場所は「始まりの場所」、わたしの押し入れ。

皆には部屋で待機して貰う。

 

お父さん。お母さん。ふたり。大晦日にちょっとうるさくしちゃうけど、許してね。

…ふたり、さっきから郁ちゃんにベッタリなのはどうかと思うよ。それはわたしの。

両親は「自分のお家でライブを聴けるなんてお得ね〜」「ひとり…ロックだ!」とか。

 

先日、告知を打っておいた。

今夜はライブ配信だと。

約1年ぶりの配信。登録者は前より三万人程減ってたけど…それでも二十万人以上待っていてくれた。

ごめんね。ありがとう。

 

 

さあ…予定の9時だ。

配信…スタート!

 

まずは他のバンドのコピー。何曲か弾き続ける。

シデロスなんかも入れて。

チャットがザァーっと流れる。

 

ーーおお!ギタヒ久々だけど、腕上がってね?ーー

ーー初めてのライブ配信!…何かある!?ーー

ーー何か音が深いぞ!ヤヴァいクスリでも食った?ーー

 

ひと通り弾いて、ひと休み。カメラを掴み、わたしの胸元だけ見えるようにして…押し入れを出る。

 

ーーあれ?明るくなった!ーー

ーーおいおい!ハプニングかよ!?ーー

ーーだから言った!何かあるって!ーー

 

カメラを固定。画角的には押し入れから部屋を望むような画。

そしてカメラの前でまた弾き始める。

 

ーーお、また始まった!ーー

ーーなんで移動した?ーー

ーーおい、何か後ろに人居ね?ーー

ーー遂にギタヒの正体か!ーー

 

ギターを弾きながら、後ろに下がる。そして、とうとう顔が映る位置に。

 

ーーうおおおお!ギターヒーローの正体解禁!ーー

ーーえ、後ろの人…メンバーなの?ーー

ーーおいおい!これ、結束バンドじゃね!?ーー

ーーやっぱりギターヒーロー=ボッチか!?ーー

ーーあれは都市伝説じゃ無かったんだ!ーー

 

コピーはここで終わり。これからは「バンドの時間」だ!

郁ちゃんが前面に出て来る。

 

 

「今晩は!結束バンドです!皆さん年越しライブ楽しんで下さいね!」

 

部屋はぐるりと毛布やら布団やらを吊るして、更にホームセンターで買ってきた樹脂段ボール板を置いて、仮の防音をしている…けど、多分かなり音が漏れている。ご近所の皆さん…ごめんなさい。

 

虹夏ちゃんのカウントでいよいよ演奏スタート!

最初は「ギターと孤独と蒼い惑星」

 

ーー結束バンドファンのワイ、勝ち組!ーー

ーーライブ観に行った事あるけど、前よりスキルアップが半端無ぇ!ーー

ーーえ!マジかよ!?ーー

 

次は「あのバンド」

 

ーーうおぉぉぉ!かっけぇー!ーー

ーーうむ、知ってたーー

ーーバカ!俺らエラいモノ目にしてるぞ!ーー

 

そして「忘れてやらない」

 

ーー喜多ちゃんかわええー!ーー

ーーリョウ、超イキってるwwwーー

ーー虹夏、その部屋でどんだけ音圧上げれるの!?ーー

 

最後は「星座になれたら」

 

ーー俺、この曲スゲー好きーー

ーーあーいー曲だわーーー

ーー最高の年越しだぞ!ーー

 

おまけで「光の中へ」

 

ーーやべえ、涙出そうーー

ーー俺なんか既に海作ってるーー

ーー改めて、ボッチ凄え良い歌詞書くよなーー

ーー作曲の山田もスゲーよーー

 

 

アウトロを弾き終わって…静まり返る。

改めてカメラに向かって、最後の挨拶。す、凄く緊張する!でも…皆に伝えないと!今までわたしを支えて来てくれた顔の見えない皆に!

 

「あ、あの!…今迄黙っててごめんなさい!事情と、踏ん切りが付くまで言い出せなかったんです。聴いてくれた皆さん…ただバンドのコピーリフを弾くだけのサイトを応援し続けてくれて、本当にありが…と………う」

 

決して泣いちゃダメだと思ってたけど…最初にわたしを応援してくれていたのは、この…顔も知らない皆なんだ。

ぼろぼろと、滔々と…涙が零れる。

郁ちゃんが背中を擦ってくれる。…暖かい。

 

ーーギターヒーロー!ヒーローは泣かないぜ!ーー

ーー俺等にとって、いつまでもアンタはヒーローだ!ーー

ーーサンキューヒーロー!ーー

ーーヒーローは遅れてやって来るーー

ーーヲイーー

 

皆、皆…暖かいよ。

 

「こっ、これからも…わたしたちの音楽を楽しんでくれれば…嬉しいですっ!」

 

ーー今までイチオシはシデロスだったけど、これからは結束バンドにするわーー

ーーサイコーなライブ、アリガトー!ーー

ーー結束バンド最初からのファンわい、勝ち組ーー

ーーこれ、結束バンド…クルぞ!ーー

ーーふぉっふぉっふぉ、ワシには解っておったよーー

ーー音楽仙人、突然登場ーー

 

嬉しくて、嬉しくて…

「ウォ!」

 

ーーウォ?ーー

ーーウォ?ーー

ーーウォ?ーー

 

 

ウォウエロエロ※※※※※………

 

ーー放送事故発生!ーー

ーーうわぁぁ、マジか!ーー

ーー只今お見苦しい映像を…以下略ーー

ーーダム映像インサート!ーー

ーーマーライオンじゃね?ーー

 

 

 

 

そんなこんなで、激動の一年が終わった。

 

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