王の帰還   作:サマネ

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エピローグーー王と者共ーー

「なっ、やっ、まっ!」

わたしは今、とても追い詰められていた。

 

「…ほら、観念しなさいひとりちゃん!」

「で、でででででもっ!」

「今更恥ずかしがらなくでも良いじゃない!私はもう、ひとりちゃんのホクロの位置とかも全部知ってるくらいなんだから!」

「いや、そうじゃ無く!………え、ホントですか?」

「ホントよ〜?お尻の下のちっちゃくて可愛い2つのホクロとか。お胸の下にあるホクロとか…」

 

その時扉の外から声がする。

「お〜い!いい加減にしろ〜!そこをホテルの一室にするな〜!」

「今の音声データを売り出すから…もっとヤレ!」

「商売すんな!」

外で、何かしちゃいけない音が木霊している。…何かこう…グリッとかゴキッとか…

そして静かになり…

 

 

「…ぼっち…わたしの命が保たないから…早くして…」

 

 

リョウさんが、命が尽きそうな弱々しい声を上げる。あわわわわ…

「…ね?早くしないとぉ〜、「誰か」の人生が終わるかも…」

郁ちゃんが妖艶な笑みで迫って来る。その…ワキワキしてる手は!?

そして誰かって…それ、リョウさんですよね!?わたしのせい!?リョウさんが録音してるせいじゃ!?

 

外に意識を取られている隙に、気が付けば目前に郁ちゃんの顔が!

「つ〜かまえた!」

ガッ!と肩を掴まれる。力が強い!

「にゃあぁぁぁ!?」

郁ちゃん!目が!郁ちゃんの目が怖い!場所が場所なら凌辱する気マンマンのその目が!

「さ、剥いちゃうわよ〜!」

「アッーーー!」

 

 

…もう、お嫁に行けない…グスン

全てひん剥かれて、もうパンツ一丁。

「…もう、こうなったら諦めなよ。俺が貰ってやるから」

郁ちゃんもショーツ一丁で、近くの椅子に座り足を組んで煙草を吸うマネをして何かほざいている。…誰キャラ?

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

何故こんな事をしているのか。

事の始まりは…司馬さんだった。

 

「…ジャケ写が欲しいですね」

「…ジャケ写かぁ…」

虹夏ちゃんがポツリと零す。

今日は4人でストレイビートの事務所に来ていた。

今度出すフルアルバムについての相談だとか。

 

「はい。今度のフルアルバム、なるべく良いものにしたいです。その為にジャケットも気合いを入れたいのですが…」

司馬さんと虹夏ちゃんの話し合いに、リョウさんが横槍を入れる。

「よし!…ぼっち、郁代………脱げ!…ぐおぅっ!」

リョウさんに虹夏ちゃんのシャイニングウィザードが炸裂!

 

「…はぁ、はぁ…この、バカリョウ!」

「…リョウさん?」

リョウさんは床にぐったり横たわり、まるで息をしてないかのように静かで。声を掛けても反応せず。

 

ーーへんじがない ただのしかばねのようだーー

 

リョウさん!リョウさーーーん!

 

「でさ、ぼっちちゃん」

「あ、はい」

「何かアイデアある?」

虹夏ちゃんに振られ、答えを探すように郁ちゃんを見る、と。

「…うーん、脱ぐ………裸………」

…郁ちゃんは、さっきから何か良からぬ事を考えているようだ。そっと視線を外す。

「あ、また…何処かにロケハンでも行きますか?」

「うーん…今度のアルバムは世間に「打って出る」ってヤツだから…ねえ。できれば人物をメインにしたいかなぁ」

腕組みをしながら目を瞑る虹夏ちゃん。

…人物…かぁ。

少なくともわたしは入れない方が良いよね。途端に絵が締まらなくなる。

「あ、じゃ、じゃあ…3人で組体操とか。虹夏ちゃんが真ん中で、両隣にリョウさんと郁ちゃん。扇形に」

「…何で組体操?何で扇形?…そもそもぼっちちゃんは?」

「わ、わたしは後ろで木の役でも。あ、扇形がダメならピラミッド…」

「そうじゃ無いよ!形の問題じゃ無いから!どっちかって言うとぼっちちゃんをメインに据えたいくらいだから!」

何を言ってるんだこの人。わたしをメイン!?そんなの、ラッセンの神秘的な絵のど真ん中に黒光りするGの絵をデカデカと描くようなモンじゃないか!

「わたしがメインなんて、批判殺到して!…」

「入れない方が批判殺到だよ!…全く、ウチの格好良いリードギターは、いつ自覚してくれるのか…」

「か、格好良い?………うへへ…」

 

「虹夏さん!」

 

ずい!と郁ちゃんが割り込んで来る。わたしが誰かから褒められてると、無意識で割り込んで来る。…最早「Jアラート」並だ。本人には一切自覚が無いらしい。

 

「裸!良いですね!」

「良いんかい!」

「郁代…やっと「インパクト」の意味を理解したね」

 

いつの間にかリョウさんが復活していた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「いやですねぇ…裸と言っても、全裸を晒す訳じゃ無いですよ?」

「…そのココロは?」

「…コレですよ!コ•レ!」

郁ちゃんが自分の身体の「ある一部」を、トントンと指差す。

「…ああ、ソレか。…でも郁代、良いの?」

リョウさんが眉間に皺を寄せて郁ちゃんに問う。郁ちゃんはそれを受けても動じず、むしろ笑顔を湛えて。

「…インパクト重視…ですよね」

それを聞いたリョウさん、ニヤリとニヒルな笑いをひとつ。

「…フフ。違い無い。…良いインパクトだね」

 

 

その後、大まかな事を決め、解散となった。

司馬さんは「それじゃあ、スタジオ押さえておきます」と言っていた。

 

途中で虹夏ちゃん達と別れて、帰り道。

 

「…ひとりちゃんは…イヤ?…今更聞くのもズルいけど」

郁ちゃんが眉尻を下げて聞いてくる。確かに今更感は半端無い。…でも、イヤって言うより…ただ恥ずかしいだけで。それでも、郁ちゃんと一緒なら…

「わたしだけだったら抵抗があるかも知れないですけど…郁ちゃんと二人なら」

下手くそな笑顔を郁ちゃんに向ける。郁ちゃんは正に「花が咲いた」ような笑みを浮かべて。

「ひとりちゃん。…だいすき」

頬にひとつ、キスをくれた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

そして、冒頭に戻る。

 

「…ひとりちゃん。コレ取って」

何故か冷たい瞳で、わたしの胸を指差す。

「と、取れません!無理言わないで!?」

「いえ!取れる筈!何故なら私には付いてないから!これか!これがえ〜のんか!?」

「あ!ダメ!………あう!?……………あっ…」

最近、郁ちゃんのオヤヂ化が半端無い。

 

ドカン!

 

外から派手な音が聞こえる…

「…さ、ひとりちゃん。さっさと準備済ますわよ」

「あ、はい…」

 

外の気配にビクビクしながら準備をするのでした。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

部屋の外に出ると、飛び散った木材と(木製の椅子がバラバラに!)…スマホを握り締めて絶命してるリョウさん。

…これ、どんな世紀末!?

 

スタジオまで向かうと、汗を垂らしながらもニコヤカな虹夏ちゃん。そしてひと言。

「…遅かったね」

 

「す、スミマセンでしたー!」

スライディング土下座。

「ああ…ぼっちちゃんのせいじゃ無いから…ぼっちちゃんの」

笑顔を崩さず、郁ちゃんを見る。

「…ゴ、ゴメンナサイ…」

郁ちゃんは、その無言の迫力にヤラれていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ここは写真スタジオ。

奮発して、司馬さんが予約してくれた。

完全シャットアウト。カメラマンも女性。スタッフも女性。

わたしと郁ちゃんは白いガウン姿で、撮影ポイントに立つ。

バックにはドラム•ベース•ギター2本が画角の真ん中に来るように配置されて。

その前に二人して立つ。

 

「やっぱり緊張するわね」

「…そうですね」

 

これから「晒す」んだ。

世間には、どう映るんだろう。

一般の人から見れば、「ただのハミ出し者」としか見られないのかな。

トッドさんもアルさんも、堂々と晒してたなぁ。やっぱり文化の違いなのかなぁ。それとも、覚悟の違い?

 

いや、わたしだってもう「覚悟」は出来てる。このまま生きて、このまま死ぬ覚悟。

 

郁ちゃんを見る。

堂々としている。やっぱり君は、格好良い。

 

どちらとも無くガウンを脱ぐ。

下は、わたしがいつものワークパンツ。郁ちゃんもいつものレザーミニ。

…さっき、何で下まで剥かれたんだろう。

 

そして上半身は

わざわざちょっと汚れた包帯を、ぐるぐる巻きに。わたしは左側、郁ちゃんは右側だけ晒して。

包帯はわざと崩れてたり端が垂れてたり。

それでも二人の「翼」だけは見えていて。

 

「…この方が良いかな」

リョウさんが近寄って来て、わたしと郁ちゃんの髪をグシャグシャに掻き混ぜる。

まるで二人して墜落してしまった後のようだ。

…でも、ここからまた飛び立つ。

 

「はい!最後のアイテム」

虹夏ちゃんが手渡してくれる。

郁ちゃんには、黄色いスティック。わたしには、青いピック。

 

当初は考えて無かったアイテム。

ただ、わたしと郁ちゃんが「絶対入れたい」と我儘を通した。

その黄色いスティックを右手に持った郁ちゃんは、左肩の上にかざす。

わたしは逆。青いピックを左の指に挟んで、右肩の上にかざす。

カメラマンさんは背中側から撮影するので、わたし達がどんな表情しているか知らない。

 

「…郁ちゃん」

「…なぁに?」

「格好良い」

「フフ…ひとりちゃんも、格好良い」

 

 

パシャリ!

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

そのアルバム(KSB-1と言う凄くシンプルなタイトル)は、ジャケットのインパクトもさる事ながら、楽曲の良さ、惹き込まれる歌で…インディーズとしては異例の

週間配信ランキングトップ

週間CD売り上げトップ

を記録した。

売り上げ自体はすぐシデロスに抜かれちゃったけど、長い間ランキングに留まっていた。

 

そしてライブも徐々に大きい所で演るようになり…

いつの間にか

 

下北沢最強のライブバンド

 

と、呼ばれるようになっていた。

変わったパフォーマンスをやってる訳じゃ無いんだけど、ファンからすると

 

喜多の生歌とボッチの生音はヤバい!

 

と言う事らしい。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

革張りのソファーに横たわり、ブランデーグラスに入った琥珀色の液体を眺める。

そんなわたしは、ドレスを身に纏い、アンニュイな表情を浮かべ…神から授かった聖水を受け取るようにグラスを差し上げた。

 

「ひとりちゃん、メアから貰ったドレスで遊ばない!その麦茶垂らしたら、染み抜き大変なんだから!ソファーは合皮だから大丈夫だけど」

ジャッとカーテンを開けられ、陽の光が部屋に飛び込んで来る。

「その手首のチェーン、何処から持って来たの?………あ、それ!お風呂の栓のヤツじゃない!もー!」

 

…わたしのパートナーは洒落が解らない。

 

「なんのコスプレよ!それ!」

いつかわたしが幻視した、成功体験後のプライベート姿…って言っても解らないよね…

「罰としてお風呂掃除ね、ひとりちゃん!」

 

 

 

…世界は今日も、平和だ。

 

 

 

 




これにてシリーズ終了となります。

不慣れながら、とても楽しんで書けたシリーズでした。
色々と説明し足りなかったり情景描写が拙かったりと、上手く書けた実感は余り掴めませんでしたが…でも、楽しかったです。

ここまで付き合って頂いた皆様、どうもありがとうございました!
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