王の帰還   作:サマネ

7 / 40
閑話1

「ねえ、本当に良かったの?まぁ今更言う話でもないんだけどさ」

ポチポチとノートPCのキーを叩きながら呟く。

バイト先で、本業であるライターの仕事をこなすという暴挙をしているこの女性。

佐藤愛子。見た目ハタチそこそこに見えるがもう立派なアラサー。

「ぽいずん♡やみ」というライターネームを辞めてからはや数年。有名音楽雑誌に寄稿するようになってからか、ただ単に恥ずかしくなったからかは…最早覚えていない。というか思い出したく無い。

歯に衣着せぬ物言いが受けてか、ギタマガ他2誌程連載コラムをほぼ毎月綴っている。他にも単発で月数本。

それだけでもある程度生活は出来るのだが、いまだに此処「ストレイビート」のバイトを続けているのは今この場に居る話し相手の事を放っておけないから。あと自宅よりエアコンの効きが良い。

二年程前より事務所を移転して、すっかり近代的(前事務所比)になった事務所で、その愛子の話し相手になっているのはきっちりとしたスーツに身を包んだ女性。

司馬都。年齢は秘す。

ストレイビートのこの事務所の事務所長。

こちらもノートPCをタタタと軽快に叩きながら愛子の問に答える。

「短期的に見れば不利になるでしょうが、長期的に考えるとメリットが大きいかと。上も同じ判断です」

「上のヤツラは「ちょっとでも不味ければクビ切りゃ良いや」ってトコでしょ?あんたも同じなの?」

その言葉に、都はピクリと肩を上げる。その勢いでモニターから顔を上げ、横に居る愛子を睨む。

「私が上と同じ意見な訳無いと知っていますよね」

あくまで冷静に、しかし言葉の端々には熱が籠もっている。

「ゴメンゴメン、ただ確認したくってさ。だって虹夏ちゃん怪我しちゃったし。それだけでも活動出来ないのに、ほかのメンバーも武者修行中。幾らメジャーどこよりも幾らか緩いって言っても、限度があるかな?ってさ」

愛子が天井を何気なく見上げながら呟く。

普通なら特に理由無く活動休止したら、事務所に見限られても不思議では無い。

例えメンバーの怪我があったとしても。

それぞれのバンドの契約条件によっても変わってくるだろうが、およそ1年はバンド活動休止。その間、バンドどころか事務所にも実入り無し。

まあサポート代が出て行かないのは唯一のメリットか。

「私は…結束バンドを諦める積もりは毛頭ありません」

相変わらず態度は冷静。しかし言葉には熱が増していく。

「わかってるよ。都さんが結束バンドに入れ込んでるのは。…でも、どうしてそこまで入れ込んでるの?」

愛子の純粋な疑問だった。あの夏のフェスでバンドメンバーと顔を合わせてからずっと、変わらない熱。

「佐藤さんだってそうですよね?最初はギターヒーローだけだったでしょうけど、結局「結束バンド」そのものに入れ込むようになりましたよね」

そうなのだ。愛子も都と同じ熱を共有している。

愛子は、自分を顧みてその原因を探ってみた。なんとなく人差し指をくるくる回す。

「そうねぇ、ホントに最初は「ギターヒーロー」さんだけだった。それこそ何で「こんなバンドに居るの?」って思ってる位。でもね…そう、覚えてる。あの時の「未確認ライオット」の最終予選を新宿でやった時。自分の中を通り抜ける熱風を感じたの!。その熱は、自分の中に留まって…溜まってしまったの」

愛子の瞳はその「熱風」を思い出すかのように。熱くて、熱くて…燃えるような…燃やされるような。

「その熱はね。彼女達を見る度に上がってくの。音楽ライターなんてやってれば、その「熱」は一旦リセットしなけりゃいけないの。ほかのバンドを見る度にそのバンドの「熱」を感じなけりゃいけないの。でもね、わたしの中で「他のバンド」の熱が行き着く先に…「結束バンド」が居るの。わたしの中の熱を全部掻っ攫ってしまうの」

何処か夢見心地で愛子が答える。「何か恥ずかしい話なんだけどね」と付け加えるが本人は堂々と答える。

都にしてみれば、我が意を得たり!という気持ちだった。当然愛子と性格は異なるし、ライターと音楽事務所という立場の違いもある。しかし、熱を感じながらもその熱に振り回されないように気を付ける、という意識の持って行き方には頷ける。そして、それでもどうにもならない気持ちを持たされてしまう存在がある、というのは更に同意出来る。

「つまり、二人共結束バンドに「ヤラレてしまった」という事ですね」

「まぁそうなんだけどさ。でも、珍しく砕けた物言いするじゃない」

「まあ…「熱にヤラレてしまった」から…ですかね?」

「は…あははは!」

二人して声を上げて笑う。二人共、その熱に、その熱の行き先に…その熱の行方に引っ張られて行っている。

「それはそうと、仕事して下さい。貴女の「今の仕事」はストレイビートの事務です」

「はいはい…」

言いながらモニターに顔を向ける都は、しかしまたぼんやり考え事をする。

 

(休止期間を経て、更に大きくなって帰ってきて下さい。それまで何としても貴女達を守りますから)

 

溜まった熱は、「感動」や「快感」だ。一度それに絆されれば、そう簡単には逃れられない。その行く末を見届けてみたい。出来れば…自らのこの目で。

 

静かな笑みを浮かべながら、再びモニターに目を落とした。

 




今回はちょつとした幕間のお話です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。