『零崎曲識の人間人間』だっただろうか。
この、話が描かれていたのは。
「えーっと?もう一回言ってくれない?直」
『えぇ。ですから、「裏世界」で大戦争が起こってるんですよ。今までにない事です。3つの世界が関わり合うなど』
「大…戦争……」
ダメだ、殆ど記憶が抜けてる。
逆に覚えてたら凄いけど。
「それで?直は私にどうしてほしいわけ?」
『「ロイヤルロイヤリティーホテル」は知ってますか?』
「そりゃあ、随分有名だしね。そこが?」
『行ってくれませんか?』
あれー?
疑問詞ついてるのに、逆らうのは許さない的な雰囲気出てますよ?直さん。
「あー、分かった。丁度冬休み出しね。行ってあげるよ。大事な親友の頼みだし」
『ありがとうございます。では、武運を祈ります』
ブチッと切られた携帯を見て、私はポツリとこぼす。
「え?命に関わるの?」
そんなこんなで、ロイヤルロイヤリティーホテル近くにやって来たんだけど……
「あーあー、曲識くん。やっと会えたよ――本当、今までどこに行っていたんだい。まあきみのことだからね、あんまり心配していなかったけれど、無事で何よりだよ――」
二十歳そこそこの、シルエットが針細工のような男に…
「服はズタボロだけど、怪我――とりあえずないみたいだな」
手に釘バットをぶら下げた……いや、肩に乗せた男。
そして
「何も――悪くない」
燕尾服を着た、私とそんな変わらない少年。
もしかしなくても『零崎三天王』じゃないか。
思わずガックリと肩を落としてしまう。
取り敢えず、このまっまバレないようにしないと殺される可能性大。
今はまだ、『大戦争』の真っただ中だしね。
「双識さん、軋識さん」
立ち去ろうとしたが、零崎曲識の、何か決意したような声に立ち止ってしまう。
「僕はこれから――この戦争を勝ち抜くために、この戦争を生き抜くために、双識さんや軋識さんの身体を操らせてもらおうと思う。僕の音楽があれば――ふたりの力を十二分まで引き出すことができる」
「あ?ああ。そりゃいいな。すぐやってくれ」
何一つ説明をしなかった零崎曲識に、零崎軋識はそう言った。
それに続いて零崎双識も
「俺は曲識くんが自分からそう言い出してくれるのを、ずっと待っていたんだよ」
流石に嘘っぽかったけど、そう言ってのけた。
「それからもうひとつ――僕の決意を聞いてくれるか」
あぁ、そうだ。
思い出した。
「この戦争が終われば、僕は――少女以外は殺さない」
この話は零崎曲識の決意の話だ。
「それは――修羅の道だよ」
零崎双識は言う。
「無駄だと思うから止めないけれど、
・・・・・・・・・・・・・・・
もしも挫折することに失敗すれば――きみは零崎史上、誰も経験したことがないような、塗炭の苦しみを味わうことになる」
「悪くない。まったくもって、悪くない」
きっと、零崎曲識の頭には、あの赤い少女しかいない。
「そういう零崎を始めるのも、悪くない」
零崎唯一の禁欲者(ベジタリアン)、零崎曲識――『少女趣味(ボルトキープ)』の生誕だ。
「ところで、そこで聞き耳立ててる奴は、いつになったら出てくるんだ?」
零崎軋識が突然そう言った。
気付かれてたか。
「出て来い」
ここで出て行かなかったら(いや出て行ってもその可能性はあるが)、殺される。
「……」
「女?」
「いや、女というより少女の方があってないかい?軋識くん」
震えそうになる体を叱咤して、出て行けば、何ともまぁ間抜けな会話。
「それで、お嬢さんはどうしてこんなところにいるんだい?」
ゾワッ
うわぁ…
ヤバいなぁ…
超直感が全力で逃げろって警告してくる。
「ち、近くに知人がいて…」
「こんな夜遅くにか?」
「……」
さて、どうしようか。
「お嬢さん。つかぬ事を聞くけど、『裏世界』という言葉を知っているかな?」
さて、どうしようか。(二回目)
正直に答えたら殺される。
嘘をついてバレたら殺される。
八方塞がりとはこの事かな。
「双識。どっちみち話を聞かれたんだ。殺すぞ」
ブワッと殺気を当てられ、今度こそ本気で命の危険を感じた。
「だからガキは好かん」
「……」
ブチッ
「〝ブチッ〟?」
ダメだ。
イラッときた。
「理不尽すぎる…」
「は?」
「こっちは頼まれたからここに来たってのに、運が悪いからって殺される?ふざけんな!!大体ガキだからって何だ。お前の都合で殺されてたまるか!!」
「なっ」
「それに私はまだ死ねない。家族残して死ねるか。んな親不孝な事はしない」
「チッ!黙れ!」
ブンッと振られる釘バットの軌道を読み、その場から飛び退く。
「!?」
裏世界にはまだまだ(というか一生)及ばないけど、裏社会ではもう通用する位までには力は付けてる。
本気じゃない攻撃なんて、避けれる。
「てめぇ…」
「軋識さんの攻撃を…」
さて、どうしようか。(三回目)
次からは絶対に本気で殺しに来るだろうし、そうなったら確実に死ぬ。
パチパチパチパチ
突然、場違いな拍手が鳴り響いた。
「いやぁ、凄いねお嬢さん」
「どういうつもりだ?双識」
「ん?いや、別にどうこうというつもりはないんだけれど。でも、家族を大事にする心に、俺は心を打たれた訳だよ。つまり、俺が言いたいのは――『合格』って事かな?」
「合格?」
10年前の零崎双識は、もう人間試験を始めてたの?
「意味の分からねー事言うな」
「まあまあ軋識くん。俺たちもお嬢さんと同じじゃないか。家賊を思う気持ちは」
家族ではなく家賊。
殺人鬼一賊の、家賊か…
「ねぇ、お兄さん達」
「何だい?」
「私の事、見逃してくれるなら質問に答えてあげてもいいよ?」
先程の『裏世界』を知っているかどうかについて。
そう言うと、零崎双識は零崎軋識の方を向いた。
零崎軋識はそんな零崎双識を見て、まるで勝手にしろとばかりにそっぽを向く。
「なら、答えてもらおうかな」
「答えは知っている。『裏世界』が3つに分かれている事も。お兄さん達が『暴力の世界』に属していることも」
「ふむ。見たところ、お嬢さんは『裏世界』の人間ではないと思うんだけど…。違うかい?」
「そうだよ。私は裏〝社会〟であっても、裏〝世界〟ではないから」
「裏社会?あぁ、裏世界を真似ている奴らの事かい?」
「そうだね。そういう認識で間違ってないと思う」
「……お前は、僕とそんなに変わらないだろう」
「うん。多分。でも、〝血〟のせいで私は将来必ず裏社会に属する事になる」
「血?」
コクリと頷いて、諦めたように微笑む。
「「「!」」」
「私がどれだけ拒んでも、これだけは変えられない運命だから」
あー、しまった。
余計な事まで言っちゃった。
「じゃ、そういう事だから!」
無理矢理笑顔を作ってロイヤルロイヤリティーホテルに向かって走り出そうとすると、零崎曲識に腕を掴まれた。
「待て。どこに行くつもりだ?」
「え?あそこだけど?」
ロイヤルロイヤリティーホテルを指さすと、何故か表情を硬くする3人。
「あー、お嬢さん。あそこには行かない事をお勧めするよ。今は…大変みたいだし」
「そう言われてもね、お兄さん。私は私の親友に頼まれてここまで来たから今更帰れないんだよ」
「……そこに行ってどうする?」
どうする?
「どうもしないけど?」
「「「は?」」」
「?いや、私は行ってくれと頼まれただけだし」
まぁ、行って原因を確かめて来いって事なんだろうけど。
「行っても何もないだろうけど」
ボソリと呟いた言葉は、零崎曲識には聞こえていたようで、彼だけ目を丸くさせていた。
「早く、戦争が終わるといいね。そしたらまた…」
会いたい
その言葉は飲みこんで、ロイヤルロイヤリティーホテルに向かった。
ロイヤルロイヤリティーホテルに着いて分かった事は、やはりあの親子達がココにいた事ぐらい。
あぁ、後…
「由比ヶ浜ぷに子、だっけ名前」
頭部のない機械が、駐車場内を歩いていた。
「逝ってらっしゃいませ、ご主人様」
「!?」
手のひらから銃弾をいきなり撃ちだされた。
「い゛!?」
全ての弾は避ける事が出来ず、何発かは掠ったり当たったりした。
「あ゛ー、くそっ。どこでこんなん治療してもらえば……いや、いたね。闇医者」
知り合いにそう言えなばいたのを思い出し、苦笑する。
「ふぅー。じゃ、ぷに子ちゃん。私直々に、壊して分解(バラ)して崩して溶かしてめちゃめちゃにしてあげるよ」
少々あの殺人鬼少年の決めゼリフをパクッたけど、別にいいよね。
さて、ああいう手の込んだアンドロイドは大抵心臓部分となる部品を壊せば止まる。
頭部にはないって事は、本当に心臓部分にあったりして。
「取り敢えず、終わったら森厳さんとこ行かないと…」
でもあの人変人だから嫌なんだよね。
新羅にでもやってもらおうかな。
そんな事を思いながら、ダッと一歩を踏み出した。
結果的に言えば、私が勝った。
ボロボロだけど。
流れ出る血を止血して、ホテルから出ると、何故かまだあの3人がいた。
「……」
思わず回れ右をしてホテル内に入ろうとすると、今度は零崎軋識に腕を掴まれた。
って、そこ痛い!
モロ銃弾当たったとこ!!
「……」
無言で睨んでやると、何故か無視された。
「お嬢さん」
「何」
「どうしてそんなに血だらけ何だい?」
「さーね」
「真面目に答えろ」
ギュッと力を込められて、痛みに耐えるために顔をしかめる。
「軋識さん。とりあえず治療が先だ」
「チッ」
舌打ちする位なら放せよ。
そして連れて来られた京都の一軒家。
どうやらこの人達の家らしい。
「はい、終わったよ」
零崎双識に怪我の治療をしてもらう事に何故かなった。
タダでやってもらえるのは嬉しいけど。
「………何でまだいたの?私、結構な時間あそこにいたと思うけど」
ぷに子ちゃんを分解(バラ)すのに苦労したから、本当に長い間あそこにいたと思うんだけど。
「ちょっと気になってね」
「?」
「お嬢さん。きみは……………スカートの中にスパッツを穿いているかい?」
「……………は?」
いきなり言われた事が理解出来なくて、間抜けな声を出してしまった。
え、零崎双識ってこの頃から変態だったの?
グシャッ
「ぐふっ!!」
呆然としていると、零崎軋識があの釘バットで零崎双識を殴っていた。
「悪い」
「いや、大丈夫、です」
あれ、生きてるの?
釘バットで殴られた事で、飛んで行った零崎双識を見る。
「気にするな。で、お前は何故そこまで傷だらけになっている?何があった」
「……………えーっと、何で?」
「何で、とはどういう事だ?」
「え?だって……今さっき知り合ったばかりの人間を気にするほど、貴方達は優しくないでしょ?」
相手が誰であろうとも情けなんてかけずに殺す。
それが殺人鬼。
それが零崎。
「お嬢さんは、どこまで俺たちの事を知っているのかな?」
「復活早っ」
思わずツッコミを入れてしまった。
「えーっと、で、何だっけ」
「俺たちの事をどこまで知ってるのかだ」
「どこまで…」
さて、どうしようか。(四回目)
「『殺し名』と『呪い名』の名前は全て知ってるけど…」
貴方たちが何なのかは知らない。
そう言うと、疑惑の眼差しを向けられた。
これは信じられてないな。
「本当に?」
「……」
「俺たちが何なのかを知っているからこそ、さっきの台詞が出てきたんじゃないのかな?もし、お嬢さんが俺たち…家賊に仇なすなら、ここで殺さないといけない。正直に話してくれないかい?」
正直に話しても殺される気しかしない。
特に釘バットを持ったお兄さんにね!
「……正直に話したとして、私に利益がないような気が…。むしろ不利益しかない……っ!」
やはり釘バットを持ったお兄さんに殴られそうになった。
頭を下げて避けたが。
「お前、今の状況分かってるか?」
「勿論、分かってるつもりだけどさ…」
「だったら全て話した方がいい事も分かってるよな?」
「っ、分かった」
もう嫌だ、この人達。常識人誰一人としていない。
「お兄さん達は零崎、だよね」
「うん、そうだよ」
あっさりと肯定する零崎双識に少し拍子抜けだが、空気を壊さないため何も言わない。
「零崎は家賊を大事にしていて、零崎に仇なした者は、一族郎党老若男女問わず皆殺し」
「うん」
「そして零崎は、意味もなく人を殺す。まるで呼吸をするかのように」
パチパチパチパチ
「全て正解だよ、お嬢さん」
ニコリと目が全く笑っていない状態で零崎双識は言った。
ははは…
恐い
コクリと唾を飲みこむ。
「あぁ!そう言えば自己紹介がまだだったね!俺は零崎双識と言うんだ。お嬢さんの名前は?」
ガクッ
「………」
「何も言うな」
零崎双識…双識さんでいいか。
双識さんの空気を壊す発言に、残りの2人を見るが、疲れたようにそう言われた。
「ほら!軋識くんと曲識くんも自己紹介して!」
「はぁ…。零崎軋識だ」
「零崎曲識」
「………沢田柚希」
「〝沢田〟は『殺し名』にも『呪い名』にもなかったね」
「私は表世界の人間だよ、双識さん」
「表世界の人間が、僕ら裏世界の事を知っているのはおかしい」
「曲識の言う通りだ」
確かに。
てか、もうそろそろ帰してくれ。
ピリリリリ
ピリリリリ
タイミング良く?携帯が鳴ってくれた。
「出ても?」
「いいよ」
ピッ
「もしも『お前今どこにいる!?』………チッ」
「「「(舌打ち?)」」」
何でお父さんがかけてくるんだよ。
『どこにいるのか聞いている!』
「私がどこにいようがお父さんには関係ないでしょ。一々干渉してくるのやめてよ」
『だったら何故奈々に連絡しないんだ!!』
「……」
ミシッ
あー、ヤバい。
苛々する。
「……ちゃんと、帰るから」
まだギャーギャー言っているお父さんを無視して切った。
「今のは?」
「父親」
「仲悪いのかい?」
「悪い…ってより……お父さん、本当に私の事心配してるか分からないし」
カチカチとお母さんにメールを打ちながら言う。
「……聞いてもいいかい?」
「お父さんは私に流れてる血の方が大事っぽいし。そんなに大事なのかな、仕事」
メールを送信して、席を立つ。
「?どこに行くんだい?」
「え?適当にホテル」
「帰らないのか!?」
「帰りたくないし」
あー、友達の家に泊まるのもありかなぁ。
なんてこぼすと、双識さんにガシッと腕を掴まれた。
「柚希ちゃん、家に泊まりなよ!!」
「何でそんなに目がキラキラしてるの、双識さん」
「嫌だなぁ、柚希ちゃん。お兄ちゃんと呼んで……ぶべらっ!」
「……悪い」
「いや、はい」
軋識さんはどうやら苦労人らしい。
「だが、今から行っても入れてくれるホテルなんてないぞ」
「だったら野宿でもする」
「そんなにここが嫌か」
「命の保証があるなら泊まらせてほしいよ。でもないもん」
「「「……」」」
ここで否定しない辺りが怖いんだよ、貴方たち。
「適当に友人に連絡するし、大丈夫」
まぁ、今の時間帯(AM0:20)だし、連絡できないけど。
うーん、あの人に連絡するか。
「縁はもう合わないと思うけど、〝また〟」
そう言って、私は零崎家を出た。