最終極道兵器彼女【完】   作:ringosuki

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第1話 最終兵器と極道兵器

 ―――とある終わりかけた星のとある国のとある戦場にて。

 

 銃口が火を噴き、音速を遥かに超えた速度で銃弾が空気を切り裂いていく。

 その破壊力は警察官が携帯するような回転式(リボルバー)拳銃とは比べ物にならず、掠めただけで皮膚や肉を裂いていくだろう。

 

 銃身と口径も大きく、何よりも目を引くのはそれが人の左腕から出ていることである。

 

 小さな樽から銃身が飛び出したような形をしており、何に使うのか側面に4本のクローがついている。

 

 それが人の肘の先から出ているのだが、既に数十発を撃っている。 とても左前腕が銃器の内部にあったとしたら内蔵できる量ではない。

 ギプスのように腕に被せているのではなく、左前腕を丸々兵器と取り換えたようだ。

 

 兵器と左上腕との接合部付近には生々しい傷跡が残っており、そうなった経緯を暗に匂わせている。

 

 だがその男は己の生身の肉体の一部を失った悲しみや怒りの表情どころか、歓喜の表情を浮かべていた。

 兵器と化した自分の腕で人間をハチの巣にしていくことが楽しくて仕方ないといった表情だ。

 

 その凶器と狂喜を向けられているのはたったひとり。

 

 敵か味方か不明だが、周りの人間はみなすでに息絶えている。

 

 このようなウォーモンガー(異常戦争愛者)に標的にされたのならば、ただの一兵卒であれば瞬く間に絶命しかねないが、まだ生きている。

 

 それもそのはず、その標的は地に伏せるでも障害物に隠れるでもなく空を飛ぶことによって銃弾を避けている。いかなるカラクリかプロペラの回転音もジェット音も聞こえない。

 

「便利な羽じゃのう!わしにも取り付けてくれんかのう!!」

 

 男が言う飛行のためと思わしき金属の板のような装置は、()()()()の背を破って人体の背中から生えていた。

 

 また、本来ならその内側に細く柔らかい右腕を収めて覆っているはずのブレザーとブラウスを突き破り、長い銃身を持った兵器が飛び出している。

 

 左腕を兵器に換装した男と対峙しているのは、制服を着た少女だった。

 

 おそらく高校生であろうが、その顔立ちはあどけなく身長も平均より低い。

 

 大柄かつ凶相の成人男性の腕が兵器と化しているのはある意味似合っている。

 しかし、小動物めいた女子高生の腕が兵器と一体化しているというのは非常にアンバランスな感じがする。

 

 しかも男のものは左腕の替わりに兵器を取り付けたもので物騒な義手と言えなくもないが、少女の腕は生身と兵器が一体化している。

 

 それもサイボーグやナノマシンが活躍するフィクションで見られるような肉体と兵器の変換がスムーズに行われるような見栄えのいいものではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()かのように肉を突き破っている羽の部分は出血しており、破れて残ったブラウスの右肩回りも血がにじんでいる。

 

「わしは岩鬼(いわき)将造(しょうぞう)!!嬢ちゃん()極道兵器になったんか!?」

 

 凄惨な笑みを浮かべて問いかけてくる岩鬼将造なる男に対して、対峙する少女は戦場に似つかわしくない少し茫とした困り顔をしていた。

 

「あ、あたしはちせ。最終兵器なの……」

 

 

 

****

 

 

 

 ―――とある試される大地のガラス工業が有名な街にて。

 

 制服を着た一組の男女が坂を登っている。

 

 青年は長い坂にうんざりとした表情をしつつも一定のペースで進んでいるが、少女の方は途中で息をついたりするのでどんどんと距離が離れていく。

 

 青年が振り返り、坂を登る前は数十センチしかなかった二人の距離が今や数十メートルに広がっているのを見て言う。

 

「相変わらずとれーな、ちせ。大丈夫か?」

 

「ごめんなさい。でも大丈夫、シュウちゃん。でもこの坂上るのゆるくない*1ね」

 

 「シュウちゃん」と呼ばれた青年は「ちせ」と呼んだ少女が自分に追いついてくるのを待ち、今度は少しペースを落として坂を上がるのを再開する。

 

 シュウちゃん―――シュウジの頭の中にもカバンを持ってやる、手を引いてやるなどの恋人らしい案がないわけではない。

 しかし勇気が出ず、何より周りの生徒に見られることが恥ずかしい。

 

 クラスメイトが見ていて後にからかわれたりした場合、そいつの鼻骨を折ってしまうかもしれない。

 

 結果、悶々と悩んでいることと「カップルで一緒に登校する」というシチュエーションの気恥ずかしさから、恋人ができる前の、つまり彼女であるちせを置き去りにするペースで進んでしまった。

 

 シュウジもあれこれ考えてはいるが、結果として出力されるのが「恋人への配慮が足りないように見える男」なため、級友たちからも「なんでアイツに彼女が……」と嫉妬と羨望と疑惑の目を向けられている。

 

「今日の小テスト、自信のほどはどうよ?」

 

「えっ……?だ、だいじょぶ……多分

 

「忘れてたなおめー……」

 

 シュウジがちせと恋人になってそれなりに経った。

 

 例え周囲の目がなくとも「愛してる」や「今日も綺麗だね」みたいな歯の浮くような台詞が言えるような男ではないが、日常的な話題ならテレもなく話せるようになった。

 

「それに、今日『お仕事』があったらうやむやにできるかもしれないし……」

 

「アホ。それじゃマラソン大会の雨天中止を祈る運動オンチの小学生じゃねーか」

 

 「お仕事」という言葉に彼は表情にこそ出さなかったものの、何とも言えない気持ちを抱く。

 

 あの日(札幌空襲の日)、シュウジはちせから彼女が最終兵器になったことを知らされた。

 

 おそらく国防のために戦っていることはわかったが、なぜちせなのか、敵国はどこなのか、戦いの理由は何なのか、戦況はどうなっているのかはちせのフィルターを通した情報ではわからなかった。

 

 ただ、怪獣や宇宙人の侵略のようにわかりやすい()を倒してめでたしめでたし、とはならないことはわかってしまった。

 

 ちせから聞いた限りでは、彼女の()()()での扱われ方はそんなに悪いものではないらしい。少なくとも秘密組織の下っ端戦闘員の改造人間のような一山いくらの扱いをされていないことは確かだ。

 

 むしろ液状のニトログリセリンのように暴発を恐れた慎重な扱いをされているともとれる。

 

 それを考えたらちせを通して自衛隊なり政府なりに詳しい説明を求めることは可能に思えた。

 しかし、それをするとちせとの今の関係、下手したらちせ自身を壊してしまうのではないかと行動に移すのはやめた。

 

 その日の午後。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

「ああ、気をつけてな」

 

 結局、「お仕事」でちせは早退した。

 

 

 

****

 

 

 

Covering fire!

 

Fire、fire、fire!

 

 人の流動が緩やかなその町ではあまり聞くことのない言語が飛び交い、あまり見ることのない人種と恰好(軍服)の人間が大勢いた。

 

 彼らの表情は焦燥に駆られており、攻め込む側であるはずなのに四面楚歌の籠城兵のごとくである。

 

 今、また一人銃弾とも光線ともつかないものに撃ち抜かれたものが倒れた。

 

 彼らは銃撃を続ける。その音はこんな状況へ陥ってしまったことへの悲鳴や絶叫のようだった。

 

 銃撃の目標は金属の翼をはやした人間であり、戦場に現れた天使のようにも見えた。

 彼らにとっては、まさか自分が生きているうちには来ないと思っていた終末の日なのかもしれない。

 

「はるばる海を渡ってきたところごめんなさい。これがあたしのお仕事だから……」

 

 その右腕の喇叭(兵器)から放たれたのは黙示録に描かれた雹でも隕石でもなかった。

 

 彼らは全滅した。

 

 

 何もなくなった戦場の跡を悲しげに眺めながら、最終兵器であるちせはたたずんでいた。

 そこに通信で別の戦場への応援の指令が届く。

 

 それを受けて彼女の表情がさらに悲しげになる。

 

 彼女が訪れた戦場は気を抜くと敵も味方もいなくなってしまうため、応援の要請が来たということはその戦場の味方は全滅、もしくはもう助からないものとして切り捨てられたようだ。

 

 音を超えた速度で飛行して指示された場所につくと、妙に静かだ。

 もう慣れてしまったが、いつもなら発砲音や怒号などが飛び交っているはずである。

 

 見ると日本人の兵士(味方)外国人の軍人()の死亡時刻に差があるようだ。こちら側が全滅した後に向こうが殺され始めたような感じがする。

 

 自分の国に劣勢に陥った場所に迅速に援軍を送ることは、自分という例外を除けばそういった余裕はないはずである。

 

 仮に自分の()()がいたとしたら、戦場となった町が町としての形を残しすぎである。

 

 そうして彼女が町を歩いていると何やら声が聞こえた。

 最終兵器となった彼女にはその悲鳴が鮮明に聞こえたものの、学校の英語の成績ですらいまいちな彼女にはどこの国の言葉なのかわからなかった。

 

 声の聞こえた方向へ行くと今まさに悲鳴の発生源が頭を打ち抜かれたところだった。

 

 だが、撃ったほうの男の恰好を見てちせは驚愕し、フリーズしてしまう。

 

 男は日本人であるようだが軍服を着ておらず、ツマミ型帽子に腹巻、サンダルとテレビでやっていた映画で見た男はつらいバナナの叩き売りの人のようだ。

 

 しかもその男の左腕は銃と置換されており、銃口から発砲煙が漂っている。

 

 映画でしか見たことのない格好の人がサイボーグと化していて、彼女はどうしたらいいのかわからずにあわあわすることしかできない。

 

 男はちせの姿を認め、ニヤリと笑って言う。

 

首領(ドン)としてわしの日本(シマ)で好き勝手やっとるやつらをちょいとシメてやったんじゃがのう……」

 

 そう言うと、近くでうめいていた先ほどの兵士とは別の瀕死の兵士を左腕の銃で撃ち抜いてトドメを刺し、彼女と向き合う。

 

「嬢ちゃんはナニモンじゃ!?」

*1
北海道弁できつい、大変だの意味




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