最終極道兵器彼女【完】   作:ringosuki

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第2話 極道、刻を渡る

「嬢ちゃんはナニモンじゃ!?」

 

 岩鬼将造(いわきしょうぞう)なる男は、己の問いかけにちせが返答できずもじもじしているのをどう捉えたか、呵々大笑する。

 

「がはは!!すまんかったのう!!」

 

「え?」

 

 そんな彼女の困惑をものともせず彼は告げる。

 

「わしもあんたも兵器!兵器と兵器の間に言葉での語り合いなぞ無粋じゃ!語り合うなら……」

 

 と、左腕と置換された兵器の銃口を彼女に向ける。

 

コイツ(兵器)殺り合おう(語り合おう)や!!」

 

 

 ドガガガ!と銃口から弾が吐き出される。

 

 ちせはすいと宙に浮くと、どうしていいかわからず困惑した頭のまま周囲を旋回して銃弾を避ける。

 

「あ?」

 

 将造は女子高生がいきなり宙に浮いて空を飛び始めたのを見て驚いた顔になるが、すぐに新しい玩具を見つけた子どものような笑みを浮かべて銃撃を続ける。

 

「便利な羽じゃのう!わしにも取り付けてくれんかのう!!」

 

 一方、ちせはようやくショックから立ち直り始め、この状況について考え始めた。

 

 よかった。あの人が()()()()()()

 

 あの人があたしの劣化コピー以上の強さだったら、自分の意識は兵器としてのものに塗りつぶされてこの辺り一帯が無くなってた。

 彼が誰で、どこから何のためにこの戦場に来て、なぜあんな身体になったのか分からないまま。

 

 彼女は飛行しながら己の兵器としての部分で相手のスペックの詳細を測りつつ、人間の部分で観察をする。

 

 言語、容姿からして明らかに日本人。知覚や思考能力はおそらく正常。

 

 ただ、「シマ」や「首領(ドン)」といった発言が気になる。

 

 この情勢(戦時)下で、ヤクザが外国軍に突っかかっていくものだろうか。

 

 日本のヤクザが彼のような自分の肉体を改造してまで外敵に向かっていくような人間ばかりなら、日本の人口の減少(侵攻による戦死と戦災死)はもう少し緩やかだったはずだ。

 

 彼の肉体をスキャンしたが、あくまで人体の欠損部分を義肢兼兵器に置き換えたもののようだ。

 

 自分のような自己修復、自己進化、■■■■などの機能は無いらしい。自分に施されたようなこの国の研究所由来の技術*1は使われていない。

 

 自分(最終兵器)に触発されたのか、外国(派兵先)で怪しげな薬剤を投与されていたり、妙な機械を身体に埋め込んだ兵士を見たことはある。しかし、そのどれもが目の前の彼に当てはまらない。

 

 現在判明している情報で推定すると、誇大妄想の気がある愛国サイボーグヤクザ?という結論になってしまう。

 

 自分に発砲こそしているものの、自分を終わらせられる(殺せる)可能性が低いからこそ対応に悩む。

 

 自衛隊の人たちも、サイボーグ極道が義勇軍として戦っていると報告しても困惑するばかりだろう。

 

 それに、最初から気になっていることがある。このひとには他のみんなにはあるものがない。

 

 何故シュウちゃんやクラスメイト、町の人たち、自衛隊の人に外国の人(敵)にも存在する―――

 

「わしは岩鬼(いわき)将造(しょうぞう)!!嬢ちゃんも極道兵器になったんか!?」

 

 と、岩鬼が大声で問いかける。

 

 ちせは「兵器」という単語にピクリと反応し、とりあえず返答する。

 

「あ、あたしはちせ。最終兵器なの……」

 

 将造はその答えに対し、兵器としての同族意識か嬉しそうな表情で問いかける。

 

「ほう!何に対しての最終兵器なんじゃ?」

 

 彼女はそこで、自分もその問いに対する明確な答えを持っていなかったことに気づいた。

 

 あの白衣を着た博士っぽい人たちの説明は、物理・生物共にボロボロ*2な成績の自分には正直ちんぷんかんだった。

 

 次に説明してくれた自衛隊の人の話は分かりやすかったが、軍人というフィルターを通しているためか話の結論が全て「国を守るために戦って欲しい」につながっていた。

 

 それに最終兵器となった自分に癇癪を起こさせず、何とか戦ってほしいと懇願するようでもあった。

 自分は状況についていけず、はいともいいえとも言えずにもじもじしていただけなのだが、それをどう解釈したのか後半は泣き落としに近くなっていた。

 

 そこまで考えたとき、あちこちの戦場で見てきた他の国の人たち()の最期の顔が次々と浮かんできた。そして、世界を巡る(派兵される)中で見たこの惑星(地球)の状態も。

 

 そう考えて、言葉が漏れた。

 

「この戦争?……とこの星?」

 

 後半の言葉は聞こえなかったようで、彼はいったん銃撃を止めたまま会話を続けようとする。

 

「ああ?抗争じゃのうて戦争?ついにデス・ドロップ・マフィアのゴミカスどもが堂々と国の軍隊を動かせるようになったんか?」

 

「デス・ドロップ・マフィアって何ですか……?」

 

 ちせにもデス・ドロップ・マフィアなるものがマフィア、つまり反社会的勢力であり、目の前のおそらくヤクザであろう男と敵対的関係なのは察せた。

 だってマフィアって名前についてるし。

 

 ただそのような名前は聞いたことがない。

 

 現在の世界情勢に対して、各国のマフィアやギャング、暴力団など反社会的勢力の動向は二極化された。

 

 追い詰められた国の軍隊に自国の生き残りのため、もしくは少しでも滅びの瞬間を伸ばすために徹底的に叩かれて残った資金や物資、人員を徴収されたか、殺られる前に殺る精神で国を乗っ取ることに成功したかの2つである。

 

 ちなみに日本の極道は、侵略してくる外国とちせ(最終兵器)の板挟みにあって早々にすり潰された。

 

 ちせもその辺りの情勢をすべて詳細に教えてもらったわけでは無いが、それでも犯罪組織に乗っ取られた国が有るのは知っていたし、実際にそういった国でも戦った。

 

 だがデス・ドロップ・マフィアの名はとんと聞いたことがない。

 

「原子力空母すら持っとる時計仕掛けのクソ外道どもじゃ。知らんか?」

 

「いえ……」

 

「XXXX年のXX月に■■ビルが倒壊したじゃろ?アレはあいつらが原因じゃ」

 

「?」

 

 実際には、ビルに爆薬を仕掛けて倒壊させたのは岩鬼の一味である。

 デス・ドロップ・マフィアが日本制覇を企み、そのビルの主と手を組んでいたのが遠因と言えなくもないが。

 

「ふーむ。さすがに言葉での情報収集が必要じゃな。嬢ちゃんもあいつら(マフィア)の実験体とかじゃなさそうだしな」

 

「それにアンタとやり合うにはちと喧嘩道具が物足りねぇ。殺るなら最高の舞台でやりたいしな」

 

 将造はのしのしと着地したちせに近付いてくる。先ほどまで狂気的な笑みを浮かべて銃を撃ちまくっていたとは思えない切り替えっぷりだ。

 

 ちせも周囲に2人以外の生命反応が無く、毒気を抜かれたためか精神が人間寄りになり、兵器となった右腕が生身に戻っている。

 

「嬢ちゃん。今の総理大臣は?」

 

「■■■■さんです。あと、さっきアメリカ軍とか言ってたけどアメリカは―――」

 

 彼女は自分が見てきた元同盟国の現状を伝える。

 

 その間岩鬼は話を聞きつつ兵士の死体を漁り、首尾よくタバコとライターを手に入れて美味そうに煙を吸い込んでいた。

 

「なるほど。わしの認識じゃ総理大臣(そいつ)をやっとるのは■■■■■じゃな。ちなみに今XXXX年XX月XX日のはずじゃ」

 

「え?つまり……」

 

「次はわしから話してやろう。結果的に嬢ちゃんの獲物を横取りしちまった理由もな」

 

 岩鬼将造がタバコを吹かし、追加で死体から剥ぎ取ったスキットルの酒をやりながら話した内容は以下のものである。

 

 

 わしは極道連合初代会長岩鬼将造(いわきしょうぞう)。さっき言うたデス・ドロップ・マフィアの連中とやり合っておってな。

 

 なに?理由?

 日本国をあずかる首領(ドン)してのつとめだからじゃ。

 

 あ?さっき言った総理大臣についてはどう思ってるか?

 アイツにはわしがやるのが煩わしい雑事を任せてやっとるんじゃ。

 

 そんでマフィアに話を戻すが、そいつらの手先に倉脇重介ってのがおってのう。何度かブチのめしてやっとるんじゃが、まだくたばりよらんしつこい奴よ。

 

 そいつが「次元断層爆弾」とかいう、ドクトル・タルコフスキーっちゅうウォッカ中毒天才宇宙工学博士が、若い頃戯れで作った試作品を元にマフィアのイカレポンチどもが開発した時間だか空間やらをぶっ壊す爆弾を持って邪魔者を消すついでに実地試験をやろうとしとったんじゃ。

 

 爆弾を使われる前に重介は改造された手足吹き飛ばしてダルマにできたんで、今度こそスクラップにしてやろうとしたんじゃがのう。

 

 アイツが持っとった爆弾が遠隔操作で起爆しそうになってな。

 とりあえず爆弾を人の少ない遠くに飛ばそうとしたんじゃ。んで爆発の余波に待ち込まれちまったわけよ。

 

 気づいたらここからそう離れておらん原っぱに立っとった。

 

 どうしたもんかと見渡しとったら銃声がしてな。そんでそっちに行ったら毛唐の軍隊が明らかに侵攻目的で来とったからな。

 一応ブッ放す前に俺の日本(シマ)で何してるんだと一声かけたが、答えは銃弾の嵐よ。そこからはまあアンタの見たとおりだな。

 

 

 そこまで話すと、将造はスキットルの酒を飲み干した。

 

「いきなり知らないところに飛ばされたのに軍隊にケンカを売ったんですか?」

 

 ちせは所在なさげにその辺に腰掛けて彼の話を聞いていた。

 

 彼女が感知したとある情報から彼が別の世界から来たことはあまり疑っていない。しかし彼の「日本の首領(ドン)」発言が本気で言っているらしきことがノイズになっている。

 

 彼女の頭の中で岩鬼の暴れっぷりと、世界史の一部やニュース、創作物で学んだ裏社会のイメージが激しく衝突している。

 もしや彼の世界の暴力団組長、ギャングのボス、マフィアのゴッドファーザーはみんなこんな感じなのだろうか。

 

「次元断層爆弾ちゅう名前は知っとたし、こっちの日本の風景と変わらんかったからワープの類だと思っとったんじゃがのう……」

 

「でもホントは時空も時間も超越していた、と……」

 

 そもそもヤクザが軍人にケンカ売るのがおかしいのだが、ここにいるのが自称日本の首領と女子高生兼最終兵器なため疑問の声は出てこない。

 

「逆に嬢ちゃんはよう察せたな。ぼーっとしとるように見えるが」

 

「ウッ」

 

 己の彼氏(シュウちゃん)の口の悪さを遥かに超えたノンデリカシー発言が突き刺さる。

 

「そ、それは……」

 

 自分が彼の発言*3をあっさりと受け入れた理由を言って良いものか悩む。しかし彼は別世界の人間で()()が無い。

 

 それに自分の身体を全く恐れずにいて、日本の首領(ドン)を自称するような人間だ。こちらが言いにくいことを抱えていて、言うかどうか迷っているのも感づいていそうな雰囲気がある。

 

 その証拠にこちらに銃口を向けていたときのような狂気が滲んだ笑顔を浮かべてこちらを見ている。あのときのような満面の笑みではなくニヤニヤ笑いの範疇ではあるが。

 

「あなたにみんなには見える()()が見えなかったからです」

 

「あん?死相?」

 

 そこで彼女は話した。彼女が世界中の戦場を見て感じたこの星の状態を。

 彼女が死相と解釈したこの星の生き物すべてに定められた()()のようなものを。

 

 自衛隊の人たちには信じてもらえそうにないうえ、無駄に悩ませたくなかったので言っていなかった。

 博士っぽい人たちは全てとは言わずも何かしら分かっていそうだったが、藪蛇になるのを恐れて言わない暗黙の了解のようなものがあった。

 

 だがこの日本の首領には言ってみようと思った。

 

「ふぅん。死相が見えないって言うことは帰れる可能性がありそうじゃな。まあ、確かに心当たりはあるが……」

 

 そう言って懐から何かの部品のようなものを取り出す。

 

「それは?」

 

「次元断層爆弾の一部じゃ。普通の爆弾じゃねえからボカンとやった後に部品が残っていても不思議じゃねえ。他のパーツもこっちに来てるかもな」

 

 普通に考えてそれを利用して元の世界に帰還するのは困難が山積みだ。パーツ探し、そのなんとかという天才技術者に匹敵する人間の確保や資材調達。

 だが、この男は絶対にあきらめないだろう。

 

「それよりいいのか」

 

「何がですか?」

 

 岩鬼はタバコを美味そうに吸いながら言う。

 

「アンタの言うことがホントならもうすぐ星ごとお陀仏だろ?それを何とかする手がかりが目の前にあるんじゃないんか?国なり自衛隊なり、あんたの上司に報告したほうがええんじゃないか?」

 

 将造はニヤニヤとした狂笑のまま、手の中の次元断層爆弾の一部を見せつけるように弄ぶ。

 

爆弾(これ)をわしから奪って国で研究して、別世界に逃げ込むとかな……」

 

「いいえ。それはしないべさ」

 

「お?ええのか?」

 

 ちせの返答に将造は少しだけ驚いた顔をしたが、あくまで彼は楽しげな煽るような笑顔ををやめない。

 

「あたしは難しいことはわかんないけど、みんなでってなると絶対間に合わない。それに、あんたはあたしが奪おうとするなり、国に報告するなりして血みどろの奪い合いになってほしいんでしょや?」

 

「おう!よう分かったのう!」

 

 ちせは気づいていた。

 彼がいつでも戦闘に移れるようにしていたことも。比喩ではなく右脚に爆発物を抱えていることも。

 兵器として気づいていた。

 

 例えそれが無かったとしても、彼の発言がこの世界の人間のことを思ってのものでないのは一目瞭然だ。

 

 今までの言動と血に飢えた目が何よりも饒舌に語っている。

 

 軍人(兵器)としての面を見せたちせを見てなお将造はひるまない。兵器としてのスペックはケタ違いなのを薄々理解していてもだ。

 

「じゃあ、残念じゃがわしは行く。こっちに飛ばされた部下もいるかもしれんしな」

 

 そう言って去ろうとして立ち上がった将造だが、思いついたように言う。

 

「アンタはいよいよとなったら人類そのものの介錯(ケジメ)つけてやるつもりだろう。わしが代わってやろうか?」

 

「だめ。それはあたしの役目だ、責任なんだ」

 

 彼女にしては珍しいはっきりとした拒絶の意思の表明だった。

 

「一応聞くけど、あんたが代わってくれる理由ってなんだい?」

 

 その問いかけに、将造はニタリと笑って答える。

 

「人間が死ぬ時の……悲鳴が、わしの耳から身体中をかけめぐるんじゃ……」

 

「やっぱりね……自己満足かもしれんけど、あたしは慈しみを持って長く苦しめることなく終わらせてやりたいんだべさ……」

 

「ほうか、がんばれよ。まあ人類もわしみたいな極道よりは、かわいい女学生に滅ぼされるほうがええか」

 

 彼は先ほど人殺しが好きと心底楽しそうに言った割には、あっさりとちせの邪魔はしないと言った。

 

「まあダメだったとしても、地球脱出なり最後まであがきにあがくんで、そんでも無理だったらやりあおうぜ」

 

 そういうと、岩鬼は去っていった。

 

 ちせは、しばらく小さくなっていく背をぼんやりと眺めていた。

 

 なんだか、シュウちゃんに会いたくなった。

*1
消滅済み

*2
地学は多少マシ

*3
日本の首領を除く




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