最終極道兵器彼女【完】   作:ringosuki

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最終話 最終兵器は恋していく・極道兵器は抗していく

 突如、とある国の軍事施設が乗っ取られて核ミサイルが発射された。

 

 乗っ取られたといってもハッキングなどの電子的なものではなく、武装した少数の人間が施設の防衛戦力を壊滅させるという非常に直接的で暴力的なものだった。

 

 まだミサイルを観測できるだけの設備を残していた各国に緊張が走るが、日本近海の上空で爆発し、直接の死者は1人も出なかった。

 

 爆発の場所と爆発高度の絶妙な調整により、核爆発で発生した電磁パルスが、まだ生きている日本の住民の生活に影響を及ぼすことはなかった。

 

 主謀者いわく、「あんとき見たかったもの(海座の一件)がようやく見れた。わしなりの別れの挨拶じゃ」とのこと。

 

 

 

****

 

 

 

 日本におけるデス・ドロップ・マフィアと極道の抗争最前線にて。

 

「ぐわははは!!我、勝利せり!!」 

 

 一人の大柄なサイボーグが心底嬉しそうに笑いながら暴れていた。

 

 その男は宿敵だった岩鬼将造をはるかに超える機械化率で、まさに全身凶器だ。

 

 この男こそデス・ドロップ・マフィアの尖兵で、次元断層爆弾で岩鬼をこの世界から消した倉脇重介である。

 

 つい今しがた爆発が頭部を襲ったが、おお、見よ!焼け落ちた人工皮膚の下はメタリックな装甲と人工筋肉と金属骨格のハイブリッドだ!ほとんど意に介していない!

 

「クソ!ここんところ押されっぱなしだ!」

 

「弱音吐くんじゃねえ(まさ)!若は絶対帰ってくる!」

 

「わかっとるわい拓三(たくぞう)!あんなもんで若が死ぬか!」

 

 対するは極道連合の岩鬼たちの部下である。

 

 デス・ドロップ・マフィアという巨大勢力を相手取るには、岩鬼将造のもつカリスマ―――というより狂気と侠気は大きな柱だった。

 

 実際、極道連合の中には岩鬼の行方不明に対して一時的に抗争を停止し、様子見に入った者もいる。

 

 それを感じ取ったデス・ドロップ・マフィア、特に倉脇重介と若手幹部のシャルロは大きく攻勢に出ている。

 岩鬼が行方不明になってから1ヶ月以上が経ち、極道連合は押されていた。

 

「サイコーの気分じゃ!将造のヤツをこの手で直接八つ裂きにできんかったのが唯一の心残りだが、それはきさまらで我慢してやるわ!」

 

 倉脇は念願だった岩鬼の抹殺を成し遂げ、この上ない幸福感を感じていた。

 

 こんなにうれしさを感じたことは今までの人生でなかった。

 それこそデス・ドロップ・マフィアと手を組んで邪魔な旧極道を片付け、ビルの最高階に新世代の極道のトップとして居を構えた時よりもだ。

 

 やはり、絶望から希望への相転移、ギャップこそが多大な幸福感を生み出すのだ。

 

「もっと、もっと抗え!お前たちがもがいてもがいて歯向かってくれるほど、仕留めた時の達成感が増すんじゃ!」

 

 そういうと重介は近接用極道兵器「超合金撲殺用バット」を取り出す。野球用とは違い、中身も金属がたっぷりと詰まっている。

 

 本来は火器がすべて弾切れになったときなどに使うものだが、この手で撲殺した感触を直接味わうため、自分のタフさに任せて殴り込んでいった。

 

 銃弾を浴びつつも敵の陣地に殴り込み、大上段に構えたバットを振り下ろす。

 

 拓三はとっさに手持ちの銃器を盾にするものの、あっさりとひしゃげて殴り飛ばされる。腕の骨も折れたかもしれない。

 

「きさまがこのバットの記念すべき1人目の犠牲者だ!」

 

 周りの極道連合の仲間が止めるべく倉脇に向けて撃ちまくるが、ろくにダメージがない。

 自陣で大火力の爆発物を使うわけにもいかず、機能停止に追い込むには時間が足りなかった。

 

 重介は、今度は野球のバッティングの構えをし、拓三の頭をあの世へホームランすべく渾身の力で振り向く。

 

 が、確かにバットを振り切ったものの、拓三は無事だった。

 

「なんじゃあ!」

 

 あまりの手ごたえのなさに倉脇がバットを見ると、手元の部分からいくらか上ですっぱりと断ち切られていた。

 

「あ、ありえん!そこらの工具ではキズひとつ付かんのだぞ!?わしが核ミサイルで消し飛ぼうともこのバットは残るレベルなのに!」

 

「よう、重介。帰ってきたぜ。お土産のうちの一つ、超振動ドスじゃ」

 

 その声に倉脇は総金属製になった背骨が凍る気がした。

 

「そ、その声は……」

 

「若!」

 

「おかえりなさい!思ったより時間がかかりやしたね!」

 

 いつの間にか現れた男、岩鬼将造は叫ぶ。

 

「わしを誰やと思うとる!極道兵器やど~!!」

 

 

 

****

 

 

 

 岩鬼という極道に股間をわしづかみにされ、男としてボロクソに罵られてから10日以上経った。

 

 あれからなにか大きく変わったというわけではない。ぼくはちせの彼氏としてどうしたらいいかいまだに決めれていない。

 

 ただ、二度とあのようなこと(拉致未遂)がないようにできる限りで身辺に気を付けるようになった。

 

 あと体力づくりのため、部活をやめて以来ろくに足を通さなくなったランニングシューズを履いて、人目につくところで走ることが増えた。

 クラスメイトには、たるんだ体をちせちゃんに見せたくないんだろやら、割れた腹筋を触らせたいんだろやら言われている。

 

 余計な心配をかけたくなかったので、三太郎に助けてもらった一件に関しては彼女に言っていないし、彼女も戦場で会ったらしい岩鬼のことは言わない。

 

 ただ、休日にぼくの部屋で岩鬼のようなフーテンスタイルの男が出てくる渡世人の映画のビデオを見ようと誘ったところ、特に疑問を挟むことなく了承してくれた。

 

 それ自体は時代の変化についていけず、失恋を繰り返す男の不器用さをやいのやいの言い合いながら鑑賞するだけのものだった。けど、なにかお互いに衝撃的な出会いがあったことは伝わったと思う。

 

「よーちせ。おはよう」

 

「おはよう、シュウちゃん」

 

 ちせは、あいかわらず坂を上るのが遅かった。

 

 とろくて、ドジで、背が低いがかわいいぼくの彼女だった。

 

「今日はいつにもましてのれーな。ちゃんと朝メシ食ったか?」

 

「ごめんなさい。朝ごはんは食べたけど、昨日の夜のお仕事がね……

 

「アホ。自分が悪くないことで謝んなや。ホラ」

 

 そういって彼女のカバンをひったくるように持つ。

 

「ええ!?わ、悪いよ……」

 

 ちせが顔を赤くしてカバンを取り返そうとするが、上に持ち上げたので彼女の身長では届かない。

 

「いいから。寝不足は美容と成長の敵だぞー。これ以上小さくなってコロポックルみてーになったらどうすんだ」

 

 そんなたわいもない会話をしながら歩いていると、急に大きな音が聞こえた。

 

 音のした方角を見ると、はるか遠くの上空で何かが爆発したようだ。

 

 ハッとしてちせの様子を確認すると、時折見た何かに支配されているような、兵器としての表情ではなかった。

 さすがに距離が離れすぎて脅威とは認識しなかったようだ、この様子だと国土に影響はないだろう。

 

「おいちせ。だいじょうぶか?すげー音だったな」

 

「発射位置は……爆発位置と高度は……影響は……これは?」

 

「オイ!」

 

「わ!ご、ごめんね。ついクセで。大丈夫だから」

 

「行こうぜ。ぶっちゃけこのくらいじゃ今の学校は休みになんねーぞ。多分」

 

 そうして再び歩き出した彼女の表情はどこか嬉しそうだった。

 

 日本の土地で爆発するよりははるかにマシとはいえ、彼女の仕事が増えるかもしれないのに。

 

「フフ。派手な花火だったべや」

 

「うん?アレは愉快犯みて―なもんだって言いたいのか?あんまデケー声で言うなよ、不謹慎って言われんぞ……」

 

……あんたは帰れそうなんだね。よかったべさ

 

「ん?なんだって?」

 

「ううん。こっちの話」

 

 彼女がなにかつぶやいたようだが、先ほどの音に興奮する周りの声でよく聞こえなかった。

 

 すると、ちせが今まで僕が見たことのないような蠱惑的な表情で話しかけてきた。

 

「ねぇ、シュウちゃん。今日遊びに行ってもいいかい?」

 

「お?いいぞ。せっかくだから晩メシも食ってけよ。ちせは大して食わねーし親もイヤな顔しねーよ」

 

 そう返すと、彼女は今まで僕が感じていた小動物的かわいさとは別種の何かを醸し出して小声で言う。

 

ねえ、ショウちゃん。エッチな下着って興味ある?

 

 周りががやがやとうるさいため、ぼくにしか聞こえていないと理解しつつもとっさにあたりを見回してしまう。

 

「バッ……そ、そんな……」

 

 しどろもどろとなり、とっさに否定の言葉や「花の女子高生がそんなこと言うんでない」みたいな真面目くさった生活指導の教師のような言葉が出そうになる。

 

 しかし、あの極道の顔が浮かんだ。

 

「……ないと言ったらウソになる」

 

「ふふ。じゃあ、決まりだね」

 

 ()()()とは、彼女は言わなかった。

 

 彼女はいつも通りの小動物のようなかわいい笑みを浮かべ、行った。

 

「わしは、最終兵器で恋の道を極める極道兵器でもあるんじゃ!」

 

「ブフッ。なんだよそのヘッタクソな広島弁。ヤクザ映画でも見たのか?」

 

 

 ぼくたちは、恋していく。




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