「あ〜、モンスター娘だけの楽園作りてぇ〜」
そんなことを、暗闇に覆われた虚無の世界で宣う一人のTS概念系変態美少女がいた。
状況を説明しよう。
……。
どこにでもいる人外美少女性転換願望持ちの大学生だった私は、いつも通り触手に全身を改造させられる系の催眠音声を聞いて安眠についた。
しかし、度重なる調教により明晰夢すら自由に操れるようになったはずなのにその日はどうも調子が悪く、何にも見えない真っ暗闇の空間がずっと映し出されるという虚無の夢に囚われてしまったのだ。
これでは、足ピン腰浮きガクガク痙攣絶頂などできるはずもなく。
とりあえず夢から覚めるまで人外モンスター娘のオリキャラでも脳内キャラメイクして暇つぶしするか……と思考放棄したところ。
その頭に描いた通りの存在が目の前に現れたのだ。
うおっ……それは流石にデカすぎ……。
目の前に現れた妄想の産物を前に、最初に抱いた感想がそれだったというだけでどんな姿を想像しているかは察して欲しい。というか、詳細に語るとR-18指定入っちゃうから許して。
……む。だけどこのR-18、ちょっとディティールに難ありだ。趣味でガレキ塗装などもやったことある知見から言わせてもらうと、細部の造形が甘い。特に髪などは酷くて、こんにゃくみたいにのっぺりとした質感になってしまっている。
これではワンコインで買える激安プライズフィギュア以下のクオリティ……いや、でもその割には足や胸の存在感というか、圧迫感の再現は凄まじいものがあるな。ここだけ超造形レベルだ。なんでこんなピンポイントに私の性癖だけが……。
……や、そうか。これは多分私の妄想を“具現化”したんだ。
いくら私でも脳内設計図だけで完璧なディティールを構成することはできない。その曖昧さがそのまま、このR-18に反映されているのだ。
むむ、そう考えるとなんだか途端に恥ずかしくなってきたな。いや、キャラ造形自体に恥じることなど何一つないのだが、脳内設計とはいえこんな中途半端な状態で創作を表現してしまったのが恥ずかしい。
やるなら徹底的に。“好き”なら妥協は許さない。
それは、今までの人生で何一つ上手くやれることなんかなかった私に残された、最後の絶対に譲れない“矜持”だ。
これさえ捨てたなら私は私の存在理由を失う。
だから脳内で詳細にイメージを詰める。全体的なシルエットバランス。“美”を追求した、指先まで余すことなく芸術品の完璧な人体。神は細部に宿る。見えない部分こそこだわり抜け。
例え誰にも見られないとしても、誰に褒められることがないとしても関係ない。私が納得できる最善を尽くさなければ気が済まない。
時間はいくらかけてもいい。かけた時間の分だけ、出来上がりの完成度を高められるなら私の人生全てを捧げられる。
……待てよ。望むものを生み出せるなら、紙やペンすら生み出せるんじゃないか?
そう疑問に感じ、“紙とペン、現れろ”と私は念じた。
ポンっ、と何の前兆もなく見慣れたボールペンとルーズリーフが目の前に現れた。
……だが、どうやら困ったことに今の私に腕はなかった。
構わない。超能力だろうがなんだろうが、ペンを走らせることができるなら。
一人でに動き始めた筆先が、髪の上に線を引く。良し、見せかけだけじゃなくちゃんとこれは書けるらしい。
良かった。私の足りない能力を補って、最大限のパフォーマンスをこの場所は発揮させてくれるらしい。
この暗闇の世界には私の他に誰もいない。あるのは私の意識と私が生み出したものだけ。なんて素晴らしいことだろう。
こんなに幸せだった時間が今までの人生で一度たりともあっただろうか。
私はそれから、ただひたすらに没頭した。
常に24時間という枷に縛られていた前世と比べ、その時間はあまりに雄大で、満ち足りていて、ひたすらに果てがなかった。ただ自分が追求したいことだけに、時間という本来何にも変え難い財産を浪費し続けることができる消費の暴力。
線が1ミリでも完璧からズレればその時点でやり直していい。完璧であっても遠くから見直して納得行かなければ白紙に戻していい。私の思う完璧という、実像すら掴めないそれを実現するためだけにひたすら労力を捧げていい。
誰もいない暗闇で、ペン先が狂気的に紙の上を走る音だけが続くその時間は……間違いなく私の人生で最良の時だった。このまま永遠にこの一瞬が終わってほしくないと思うほどに。
だけど“完成”というゴールを目指して歩き続けたのだから、必ずいつかは辿り着く。
「……出来た」
総枚数1836枚。リテイク数562回。ちゃぶ台返し112回。
完成図案、一枚。
「完璧」
たった一枚の紙。そこに記された、完璧なる人体造形。
盛期ルネサンスの彫刻ですら、きっとこれほどの境地には至らないだろうと思わせる奇跡の作品。
そこに描かれていたのは、悪魔の特徴を讃えた女神だ。
「生まれろ」
何度も何度も脳に刻みつけて、もはや紙など要らなくなるほど凝視した。形に起こしたのは、ある種の意地だ。
だから私はただ願った。願わくばこの極地の芸術が……完璧な形でこの世に生み出されんことを。
「……」
果たして。
「……あぁ」
女神は舞い降りた。
目の前に鎮座する横座りの女性は見上げるほどに巨大で、その豊満な肢体に薄手のキトンを纏っただけの無防備な出立ちだ。額からは山羊のそれに似た白磁の輝きを持つ角が伸び、その上から金製の装飾が垂れ下がっている。
背徳的であってもそこに淫靡さはない。あるのはただ雄大な自然を前にしたかのような感動と美しさだけだ。
「……それは流石にデカすぎ……」
そう言って私は、背中から大の字になって寝転がったのだった。
体、ないんだけどね。
◆
「あ〜、モンスター娘だけの楽園作りてぇ〜」
かくして、冒頭の戯言が出力されるに至った。
……状況の説明になってないな、これ。
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