猫又のクロエ。ホワイトウルフのイセ。メデューサのヤマタ。アルミラージのツキノ。
皆、それぞれが異なる姿と性格を持った個性的な子達だ。
全員を別種のモンスターにしたのには私なりに狙いがあってのことで、それは“多様性”を肌感覚で理解できるようにするためだ。
これが同じ種族3匹に対して別種1匹のような比率にしてしまえば、そこに格差が生まれかねない。私はこの子達が、他人と違うことが当たり前と受け取れる子達であってほしいと思っている。
どうせモンスター娘の楽園を作るなら、いろんな種族が交わっている光景を見たいものだからね。
だけどそういう価値観を子供に説いたところで、なかなか理解して貰いづらいだろう。子供というのは親の影響や環境の影響をモロに受けて、時に残酷なまでに“異物”を排除する傾向にある。どれだけ対策したところで学校でのいじめがなくならない理由だ。だから最初から皆の姿を全く違うようにすればそういうことが起きる確率も減らせるのではないかと思ったのだ。
「先生、なぜ私たちは姿が違うんですか?」
だけど、そんな風に取り計らったところで、子供というのは存外賢いもので。
「イセ。皆が違うのが気になるの?」
「はい」
4人で一緒に暮らしていたある日、イセがそんなことを聞いてきた。
イセはとても賢い子だ。勉強の理解も一番早いし、私が与えた本なんかも童話よりも少し難しい大人向けの小説なんかを好んで愛読する傾向にある。理系女子ってやつだ。正直、賢すぎてもう教えられそうなことがあまり無くなってきたのが辛いところ。
図書館が……図書館が欲しい……。それかスマホ……。
「先生が教えてくれる物語は、全部好きです。面白いですし、楽しいですし、ためになりますから」
「おー、それはよかった」
間接的に日本のサブカルが褒められたのは悪い気しないな。私の好きなものを好きと言ってもらえるのは嬉しいものだ。
「けど、流石に体がゴム人間の海賊は無理があると思います」
……実際にあった話なんだけどな。
結局最終回を見届けずにこの世界に来てしまったのが心残りだ。
「私たちは、先生が生み出した存在なんですよね」
「……そうだね」
私は首肯する。
事実だし。隠しようもないし、隠す必要もないと思うからだ。
「どうして、私たちをこんな姿で生み出したんですか?」
それはイセにしてみれば単純な疑問だったのだと思う。
「あの物語の主人公達のように、私たちを人間として生み出すのではいけなかったんですか?」
しかしそれは私にしてみればかなり答えづらい質問だった。
たしかに……イセたちに読み聞かせる物語の大半は、主人公が人間だ。彼女達に読み聞かせる用に主人公をモン娘に変えるという手法も考えたには考えたのだが……。
原作改変……ッ! その罪深さを私はよく知っている……ッッ!!
特に少年漫画の主人公を女の子に変えるなんて改変をかましたときには、とんでもない大炎上で京都大火編が勃発すること請け合いだ。まぁ元のオリジナルを知ってるのはこの世界に私だけなのだが、その私自身が許せなかった。
だから、あまり大胆な設定変更などはせずそのまま素材の味をお出ししたのだが……そうなれば当然、こういう疑問は出てくるよな。
「イセは、自分のことが嫌い?」
「いえ……」
「良かった。私はね、イセのことが大好きなんだ」
なぜ私が人間ではなく、モン娘を生み出そうと思ったのか。
その答えはやはり“好きだから”だ。これ以外にない。
「この白いもふもふの毛とか……尻尾とか……あっ、もちろん耳もね……ふふっ、かわいいね……」
「怖いです、先生」
おっと、まずい。正気を失っていた。
「色んな特徴を持った子がたくさんいた方が楽しいでしょ? 私はね、みんなが全然違う姿をしている世界が作りたいんだ」
「……みんなが違う姿、ですか」
「そう」
イセはまだ、あまりピンときてないみたいだ。
“同じ姿してる方が楽だと思うんですけど”とか思ってそうな顔をしている。
「ヤマタみたいに普通の椅子に座れない子が増えると思うと気が滅入りますね」
もっと酷いこと考えてた。
「私は好きだけどなぁ。あの穴空いてる椅子」
「ヤマタ以外誰も座れないじゃないですか」
ヤマタは下半身が蛇のメデューサだ。普通の椅子じゃ座りにくかろうということで、私が彼女専用の椅子を作って用意したのだが……これが私自身、会心の出来だと思ったのだけどみんなの中で評判が悪い。
おまるだの浮き輪だの赤ちゃん用だのと言われ、ヤマタが拗ねてしまったのだ。それからは彼女にも同じ椅子を与えたのだが、やはり座りづらそうにしている。蛇の下半身というのは、そもそも座りづらいのだ。
……もしかしたら、イセがこんな質問をしてきたのは、そういう苦労をしているヤマタを見たからかもしれないな。
肌の色や体格、言語はともかく。おおよそ二本腕、二本足に直立歩行という共通の特徴を持った人間達の社会でさえ、いじめや貧困、格差は絶えなかった。全員姿が違うモン娘たちに於いてはよりそういう問題は顕著だろう。
これも、私が対応しなきゃいけない問題だ。
「イセ、ありがとね。ヤマタのために私に言ってくれたんだね」
「! ……別に」
私がそう言うと、イセは図星だったのかくるくると恥ずかしそうに指先で髪を弄んでいた。
「ちょっとヤマタとお話ししてくるよ」
どうやら、少しヤマタと話す必要がありそうだった。
◆
「ヤマター、いるー?」
「! せ、先生!?」
教室に入ると、ヤマタは何かを書いていたようだったノートをばっと懐に仕舞い込んだ。
何を隠したんだろう。気になるけど、まぁ今はいいか。
「ヤマタ。ちょっとお話ししたいことがあるんだけど、いいかな」
「……」
ヤマタの机を挟んだ対面側に椅子を作り出して座りながら、そう話を切り出す。
ヤマタはどこか緊張している様子だ。
「……わかってます」
そして、私が何かを言う前にヤマタは机に視線を落としながら言った。
「私の勉強が、遅れてるから……ですよね……」
「? 全然違うけど」
「えぇ!?」
そして口火を切った内容に全く心当たりがなく、私は首を傾げる。
「えっ、ってか遅れてたの? 全然そんな風に感じなかったけど」
「だ、だって……イセはもう、教科書の先の方までどんどん行っちゃってて……私は、授業についていくので精一杯で……」
「あぁ……」
そして何故そんな話が出てくるのかと思えば、どうやらイセと自分を比べていたらしい。
「いや、全然いいんだよ。イセは好きで先の方まで予習してるだけだから。授業について来れてるなら充分。……というか、それで言うならむしろツキノの方が心配なんだよなぁ……」
イセとヤマタの2人は問題ない。イセは要領が良く、ヤマタは真面目だ。だから2人の心配はそこまでしていない。
一番不安なのは、やはり授業中寝てばかりのツキノだ。ツキノはかなりおっとりしているというか、マイペースな所がある。外に出て遊ぶこともあまりせず、寝るのが大好き。
私たちには睡眠は必要ないが、睡眠と似たような感覚を味わうことができる。それが堪らないらしいのだ。
「べ、勉強のことじゃないなら、なんで……?」
「いやまぁ、単純に今座ってる椅子、座りづらいんじゃないかと思ってさ」
「い、椅子ですか?」
ヤマタは目をパチクリと瞬かせながら自分が腰掛ける椅子を見た。
……やはり、ずっと座っているとズリズリとずり落ちてしまっている。
「あっ、えっと……大丈夫です! 私はこのままでも……」
また彼女専用の椅子に戻される可能性に瞬時に思い至ったのか、ヤマタは手をわたわたと振って大丈夫だと言った。
「いや、椅子ごと変えるんじゃなくて。少し試したいことがあるんだよね」
「?」
私がそう言うと、ヤマタが首を傾げた。
……こういう時、日本の学校って理に適ってたんだなぁって思うよ。
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