もんむす世界の神になる話   作:ぷに凝

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善悪は如何ともしがたく

さて、突然だが“創造魔法”の面白い特性についてご紹介しよう。

 

想像を具現化する創造魔法は、より具体的なイメージができているほど完成品の精度が高まる。すなわち硬いイメージのある物体ならより硬く、切れ味が鋭いならより切りやすく、イメージにより近い形として具現化するわけだ。

私が生み出した大剣は、一見切れ味など皆無のように見える。湾曲した刀身は稲刈りの際には最大の効力を発揮してくれるだろうが、切ろうとしてるのは私と同じ形をした生命だ。それをこんな扱いづらい形状の刃を振り回したところで、避けられるのがオチというもの。

 

そら見ろ。“なんかカッコよく構えてるけど動き見え見えじゃない”みたいな感じで、デモンが余裕の回避行動に移り始めた。もうすでに射程の外だぞ馬鹿め。かっこいいポーズの必殺技が決まるのはアニメの中だけの話なんだ。これならまださっきまでやってた武器を飛ばすだけの単純な攻撃の方がよっぽど手強かったぞ。

 

“舌禍魔法”は相殺され、“文字魔法”は無効化される。ならば残った手札は創造魔法だけ。地形を操るという応用的な運用もできるにはできるがここは空中。操れるものは何もなく、そして新たにモノを生み出すほどの隙を与えるわけもない。

 

……なんて風に考えているに違いない。

 

確かにその通りだ。創造魔法は戦闘には向いてない。複雑な機構のものを生み出すには高い集中と準備がいるし、生み出す動作もノロマだ。それこそ盾を生み出すくらいの用途しか使えそうにないが、そんなのは向こうもお見通し。足元を狙うでも視界が悪くなるのを利用して不意打ちするでも、いくらでもやりようはある。

 

デモンはどうやら私より戦い慣れしてる。“影の世界”とやらがどんな修羅の国かは知らないが、その世界には悪が蔓延っているらしい。戦いもそりゃ多いだろう。日本生まれ日本育ちのメンタリティを引き継いでる私と、実践経験があるデモン。両者の実力が同じであるはずがないのだ。

 

なればこそ、やはり切り札は創造魔法なのだ。

 

私は良い世界を作るため、創造魔法を使い込んできた。立派な建物を作るために。見て楽しい装飾品を作るために。楽しく学べる本や知育器具を作るために。趣味100%で私自身が見たい超造形を生み出すために。好きこそ物の上手なれとはよく言ったもので、何を始めたって長続きした試しがない私が、この創造魔法の習熟に関しては使い込めば使い込んだ分だけさらなる飛躍を見せてくれるのが楽しいったらなんので、それこそ私がこの世界に生み出したものは、1000や2000じゃきかない。数え切れないくらい膨大に存在するのだ。

 

それだけ何度も繰り返し使ってれば、どんなに馬鹿でノロマで要領が悪い私でも慣れる。

 

私はやがて、図面なんて引かなくても脳内の設計図だけで本物の生き物と見分けがつかないレベルの生命の器を作り出せるようになり、人間の目では観測し切れないナノ単位の世界を観測できるようになり、作り出せるものがただのモノだけではないと悟った。

 

この世界に存在する“意思あるもの”は全て、私という個から分裂した子供のようなものだ。クロエも、イセも、ヤマタも、ツキノも、デモンも。そして私自身も。その全ては“同一人物”と言える。

まぁ、別れてから各個に成長を遂げ人格を形成したそれらはもはや別人と言えるのだが。

 

原理は同じなのだ。モン娘たちと。

 

この“天剣アメノハバキリ”は……

 

「“生きた武器”だ」

「……え!?」

 

刹那、振り上げたアメノハバキリの刀身が……伸びる。

 

実に、2倍の長さに。

 

「ちょっ、嘘ぉ!?」

 

目論見が外れたデモンが、慌てて目の前に防御壁を張る。

 

避け切れないと踏んでの防御行動は決して間違った対応ではないだけど、満点解答には程遠い。

 

「言ったでしょ。生きてるって」

「へっ?」

 

知らないわけではないだろう。目の前に壁があったら、生物は迂回するものなのだ。

 

「いやああああああ!?」

 

直撃。

 

展開された防御壁をぐるりと回って背後からアメノハバキリの切先がデモンに襲いかかった。

背後を大きく撫で切りにされたデモンは、刀身が背中から腹まで貫通。上半身と下半身が泣き別れすることになった。

 

「うっ……うぅ……」

「勝負あったね」

 

体が真っ二つになって地面に墜落したデモンの側に私は降り立つ。

 

例によって血が吹き出したり臓物が飛び出したりみたいなスプラッタホラーなことにはならない。しかしデモンの体の綺麗な断面からは緑色の炎のような光が絶えず漏れ出していた。

 

上半身だけで地面を這いずるデモンが、見下ろす私を見上げてため息を吐いた。

 

「……負けたわ。降参。もう戦う気はないし、そんな気力もないわ」

「随分あっさり引き下がるんだね」

「だって私、あなたほど無尽蔵に力を持ってるわけじゃないもの。この体を壊されたらおしまいなの。あーあ、油断したわ」

 

……なるほど。デモンは私ではあるけど、私ほどこの世界に強く干渉する力を持っていないのか。

 

「私、あなたの……アメノハバキリだっけ? アレ。ちゃんと背後まで囲って全方位守ったはずなんだけど? なんで後ろから突かれたのよ」

「これだよ、これ」

「……!」

 

私が手に持ってみせたのは……イセが飛ばした銀の針だった。

 

「なるほどねぇ……防壁の内側に入り込んでたそれを操って、穴を空けさせたってわけね。やってくれるわ、あのワン子」

「ふふん、優秀な生徒でしょ」

「憎たらしいくらいに、ね」

 

身体中から緑の炎を吹き出させながら、デモンが轟々と燃えていく。

 

「……ねぇデモン、一つ聞きたかったんだけど」

「なに?」

「なんで私の生徒を狙わなかったの」

 

炎に包まれながら消えていくデモンに、私は少し疑問に感じてそう問いかけた。すると、デモンはピクリと眉を動かし、表情が固まった。

 

「みんなを……例えば人質に取られれば、私は手も足も出なかった。それこそ私に報告に来る前にイセが攫われてたら……」

「それを考える意味があるの? どうにもならなかった可能性なんか考える意味が。そこまで頭が回らなかった。話はそれで終わりよ」

「生徒を守らなきゃいけない私が考える意味はあるし、デモンがそれに気づかなかったとも思えない」

「……」

 

デモンは頬杖を突いて、ぷいとそっぽを向いてしまった。答えるつもりはないらしい。

 

「君は私の生徒を故意に傷つけようとはしなかった。そのチャンスはあっても、狙っていたのはいつも私だった。なんなら自分の存在をイセを通して私に伝えさせしたよね。自分が不利になるだけなのに」

 

ずっと不思議だったのだ。

 

彼女は……デモンは結局、本当は何がしたかったんだろうと。

 

「君は悪い存在なんかじゃないんじゃないの」

 

わざわざ私の怒りを買うような言動をしていたのも、これ見よがしに悪魔を天界に現れさせて危機感を煽ったのも、全部……。

 

彼女はわざとやっていたんじゃないかって思う。

 

「……教えなーい」

 

だけど彼女は……デモンは私の疑問に一切答えることはなかった。

 

「私は私のやりたいようにやっただけ。役目とか責任とか、くだらない事ばっかり気にしてるあなたとは違ってね。良いとか悪いとか、自分の行動を一々そうやって定義づけたって仕方ないでしょ?」

 

デモンは指をくるくるとさせて言う。

 

「“良い”も“悪い”も、決めるのはあなたよ。あなただけがそれを決める権利を持ってる。あなたが良いと言ったものは、どんなに醜くて非合理な存在でも良いものになるの。それをよく覚えておくことね」

 

デモンを包む炎が徐々に勢いを増していく。

 

私は消えて行くその姿に手を伸ばそうとして……。

 

「あなたの思い通りになんて、死んでもなってやらないんだから」

 

その手はただ、空を切ったのだった。

 

そのまま……緑色の炎が空に消えていくのを、私は見送ることしかできなかった。




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