モン娘職人の朝は早い。
この世界の私に体は必要なく、従って排泄や睡眠などの生理現象もない。しかしそれでも、全く変わり映えしない景色が延々と続くのはなんとなく気が滅入るものだ。
なので、12時間ごとに昼と夜が切り替わるように世界を変えた。あらゆる秩序が存在しないこの世界に私の常識を当てはめるのもおかしなものだが、やはり一日とは24時間。これは常識に固執しているというより、その方が私にとってわかりやすいから設定した。
あっ、時間ごとにキッチリ切り替わるので夕焼けとかは実装してません。めんどいし。それより私は新しいモン娘を生み出したいのだ。
「というわけで本日のメニューは“スライム娘”〜!!」
パチパチパチ、と1人きりの拍手が響き渡る。手はないのでわざわざ手を生み出して操って音を出しています。虚しいね。
すでにイメージ図は固まり、あとは具現化するだけの段階。だが正直言って、私はあまりにも変態生物すぎるこの子を本当に生み出していいものか悩んでいた。
スライム娘なんて同義語がセッ○スみたいなもんだし。
だが、やはりスライム娘。モン娘といったらこれは欠かせない。スライム娘のいないモン娘作品なんて、全身開発パートがない催眠音声と同じ。つまり存在価値がない。
そして私が今考案してるこのスラ娘(略称)は単に体がゲル状であるというだけでなく、タコのように触手を操ることができる個体なのだ。そうだね、触手プレイが出来るね。しゃあッッッッ!!
私はスライム娘に全身の穴という穴を犯されるために生まれてきたと言っても過言ではない。いや、そのために生まれたのだと今確信した。絶対にスライムに私を犯させてやる……ッ! 覚悟しろ……ッ!!
「出でよ、スライム娘!」
ぽんっ、と相変わらず無感動に生み出される、私のイメージの具現。
そこには確かに、夢にまで見たスライム娘が……!!
「……ん?」
しかし、いざ生み出してみて……違和感。
「んん〜?」
……なんだろう。
いや、確かに設計通りのイメージ通り。相変わらず、間違いなく私の脳内を完璧に出力してくれていると信頼できるクオリティだ。
淡い水色のスライムが少女の形を成し、透き通るその流動的な肉体を存分に躍動的に動かしたポーズを見せている。
ティンダーと同等、いや特異性という意味ではそれ以上の仕上がりになっているはずだ。なのにどうして何かが足りないと感じるのだろう。
「……あ」
そうか。わかった。
「光だ」
光源がないから、スライムの表面の光の反射を充分に表現できていないんだ。光沢がない。それがどうにも拭いきれない違和感……いや物足りなさの正体だ。
“光”ほど芸術において重要な要素は存在しない。これ一つで色も形も手触りも全てが丸きり変わってしまう。光を知ることは造形を知ることだ。だというのに不覚にも私はこの世界に“光”を実装していなかった。
いやいや、光がないんだったらそもそも何も見えないじゃん。という疑問はその通りだ。しかしそれを言うなら私は目も持っていない。見えないも何も、見るための器官を有していないのだ。
それなのに、なぜ“見る”ことができるのか? これは私なりの解釈だが、恐らく私が見ているのは光の反射ではなく物体そのものなのだ。盲目の剣士が気配だけでどこに人がいるかわかるとか、そういう類の能力。
それがあるから今までは困らなかったが、光そのものが生み出す現象を完璧に再現することは難しい。かと言って、豆電球でも生み出してそれで照らせば解決するのかと言えば……うーん、微妙な所だ。
「どうしたもんかなぁ」
わりと万能めな力を持っているのにぶつかった初めての壁を前に、私はうんうんと頭を悩ませ……。
ボゥッ
「……」
不意に、スラ娘の体が“光”で照らされた。まさしく私が望んだ通りに。
「……なんで」
だが、それはおかしい。決定的におかしい。
だって私は灯りを生み出していない。それなのに灯りが灯ることなんて絶対にあり得ない。私が生み出し、操らない限り……この世界にあるのは永遠の停滞のはずだ。私にとって予想外のことが起こらないというのがこの世界のはずだ。
それならなぜ……“炎”が灯っている? 私の意を汲んだように、スラ娘の体を照らすようにして、どうして炎が浮かんでいるのだ。
ゆっくりと振り向く。
「──」
巨大だ、と感じた。
お台場に行った時、実物大のモビルスーツを見上げたことがある。それと同じ……いや、その“目”はしっかりと意思を持っていて、圧倒感はあの時以上だ。
「……ティンダー」
動かざる女神。祀られているはずの女神。
母神ティンダーが、スラ娘を照らすようにして炎をその手に浮かび上がらせていた。
◆
「……なんで動いてるんだ」
「──」
ティンダーは目をぱちくりと瞬かせながら周囲をキョロキョロと見回していた。表情が薄く、喋らない彼女の意思は図りづらいが少し困惑げに思える。
そして、周りに誰もいないことを確認すると……手元の炎が照らすスラ娘をじっと見つめた。
……もしかして、私の声がどこから聞こえるのか探してるのか?
だとすれば、ティンダーには私の声が聞こえているということになる。どうやら本当に彼女は自分の意思を持っているようだ。
しかし、どうやって私の存在を彼女に説明したものか……と悩んでいると、ティンダーはしばらくスライム娘を見つめ……そして頭を垂れた。
……まさか、私があのスラ娘だと勘違いしてるのか?
あり得ない話じゃない。ティンダーと同じ人型の存在はあのスラ娘だけだ。ティンダーがどれだけ生命や人間について理解しているのかは未知数だが、自分と似た姿をしているものが近くにあれば、普通に考えて対話を試みようとするんじゃないか。
だけど、そうであってもあんな風に頭を下げる必要は……。
「……もしかして、私に作られたって気付いてる?」
スラ娘に傅くその姿は、明らかにそこに対して敬意を持っている様子が窺えた。声の主……つまり私に、彼女があんな風な態度を見せる理由なんて一つしかない。
ティンダーは、私が彼女にとっての親のようなものだと思ってるのだ。
……それが理解できているとすれば、ティンダーの知性はかなりのものだ。どうしていきなり彼女に意思が芽生えたのだろう。
「……確かめてみよう」
私は、意思なき人形であるスライム娘を……まるで意思を持っているかのように操って、立ち上がらせた。
「──」
見下ろすティンダーの視線が驚きに彩られ、次いでぱぁっと花のような笑顔が咲いた。
「……ティンダー」
私が名前を呼び、手を差し向ける。
すると、ティンダーは一瞬どういう意味なのかと差し出された手をしげしげと見つめていたが、やがて自分も同じように手を差し出した。
透き通る手と、巨大な手が重なる。
「おぉ……」
「──」
その光景を見た時……これは月並みで陳腐な言い方だが、そうとしか表現できないからそういうふうに言わせてもらうのだが。
私は感動していた。
だってそうだろう。私の目的はモンスター娘による楽園を築くこと。それを完成させることが私の至上命題だ。
しかし、いくら完璧な造形とはいえ意思のない人形を増産し続けたところで、そこに出来るのは楽園ではなくただの博物館だ。
私という個人が、ただ欲望を満たすためだけに存在する寂しい博覧会。モンスター娘にとってではなく、私にとっての楽園。私はそんなものを望まない。
だからこそ……いつか、今は言葉を操ることなく、動き出すこともない彼女たちが自分の意思を持てるようにしたいと、私は密かに思っていた。
それがまさか、こんな早くに叶うことになるなんて。
これが嬉しくないわけが……。
「縺頑ッ阪&繧」
ヱ??
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