剛斧令嬢の返り咲き~乾坤一擲、バルディッシュの一撃!~ 作:ツインテスキー
「ところでライラさんのその腕輪って純金製だったりします?」
「いえ、これは合金製ですわ。ですが私の力の源ですわ」
「へえ、そうなんスか」
盗賊団のアジト壊滅から数日後、他の冒険者と共に依頼をこなしたライラは冒険者ギルドへの帰路についていた。
「あら、あれは!」
「ライラさん!」
そんな時、冒険者ギルドの前に見覚えのメイド服姿の黒髪の女性を見かけたライラは急に駆け出した。
「リズ!」
「お帰りなさいませ。ライラお嬢様」
メイド服の女性は丁寧に頭を下げた。彼女の名前はリズベット。執事長の孫娘であり、ライラに使えるメイドであり、そして幼馴染でもあった。
「皆の手配はもう済んだのですか?」
「はい。仰せのままに。執事長は他にやることがあるからと先に私一人戻るようにと命じられました」
「そうですか。爺やがそういうのであれば任せましょう」
ライラは先々代の頃から仕えている執事長のことを深く信頼していた。
「あのライラさん、その人はお知り合いっスか?」
話が一区切りついたところで話の途中で追いついた冒険者がリズベットのことをライラに尋ねた。その瞬間、にこやかだったリズベットの表情が一変した。
「……ライラさん?」
「……うひぃ!」
リズベットの氷のように鋭く冷たい視線に冒険者は悲鳴を上げた。
「こら、リズベット。今の私は一介の新米冒険者。こちらの方々は先達でいらっしゃいますのよ」
「……失礼いたしました」
ライラの言葉にリズベットは謝罪したが、まだ渋々といった雰囲気だった。
この後、ギルドで報酬を受け取ったライラはリズベットと共に屋敷へと帰り、これまでの冒険者生活で起きた出来事を夜遅くまで語った。
「……流石にこれは骨が折れますね」
翌日、リズベットはライラの頼みで屋敷に一人残り、留守の間に伸びてしまった庭の手入れを行っていた。そしてそれを遠目から見つめる集団がいた。
「……情報通り一人みたいだな」
「見た目も悪くないな」
「お前ら、楽しむのはいいけど殺すなよ?」
「もちろんだ」
集団の正体は盗賊団の残党だった。五人の残党たちはライラへの復讐のため、リズベットを誘拐して人質にするつもりだった。
「……そろそろ行くか」
「ああ」
残党たちは改めて周囲を確認し、武器を構える。バルディッシュ家の敷地は広く、現在はライラとリズベットしか住んでいないため今リズベットに何か起こっても気づく者はいなかった。
「行くぞ!」
残党たちはリズベットが背を向けたタイミングで一斉に駆け出した。
「っ!」
そしてその直後、リズベットが振り返った。そして同時にナイフが残党たちへと投げられた。
「うおっ!」
「ちぃ!」
「ぐわっ‼」
残党たちのうち二人は避け、二人はかすり、一人は直撃しその場に倒れた。
「この……⁉」
思わぬ反撃に激昂した残党の一人はリズベットに対して本気で斬りかかった。しかし、その足元で何かが絡み転んでしまった。
「ぐえっ」
倒れた残党に細いワイヤーが巻き付いた。残党を転ばせたのもワイヤーであり、残党たちの存在に気づいていたリズベットは庭の作業をしながら即席の罠を仕掛けていた。
「何者です……っ!」
「このや……⁉」
リズベットの質問に残党の一人は拳で返した。しかし、その拳は多重に重ねたワイヤーによって防がれてしまった。
「ごふっ!」
リズベットはワイヤーで拘束した残党の頭を容赦なく蹴り上げた。
「次はどうなさいますか?」
残党を一蹴したリズベットは、倒した残党をワイヤーで巻き取りながら冷たい声と残りの残党たちを一瞥した。幼いころからライラと鍛錬を共にしていたリズベットだが、ライラに比べて体格・筋力では劣っていた。しかし、リズベットはそれをメイド服に仕込んだナイフとワイヤー、そして容赦のなさで補っていた。
「こうなったら……」
追い詰められた残党の一人はポケットから取り出した紫色の丸薬を飲み込んだ。それは残党たちへの情報提供者が隠し玉として持たせたものだった。
「……うごおおおお!」
丸薬を飲んだ直後、残党は大声で叫んだ。そしてその全身の筋肉が急に隆起し、肌の色が泥のように黒く変化した。
「お、おい。お前大丈夫……ぐえっ!」
人間離れした要望の変化にもう一人の残党が声をかけたが、変貌した残党に肥大化した腕で薙ぎ払われてしまった。
「……ただの薬ではないようですね」
リズベットは迷いなく正中線にナイフを投げた。しかし、首から上は腕によって弾かれ、首から下は命中したものの刺さらず弾かれてしまった。
「ぐわああああ!」
理性が飛んだ残党はリズベットに対して殴りかかる。それは直線的でひどく単純なものだったがその威力はすさまじく地面に小さなクレーターが出来上がった。
「これは骨が折れそうですね」
リズベットはクレーターを見ながらため息をついた。その後もリズベットはナイフやワイヤーを残党に対して使用したが、有効打にはならなかった。
「ぐおわあああ!」
十数分後、防戦一方のリズベットを追い詰めた残党はとどめの一撃のため拳を大きく振りかぶった。
「……そこです!」
「……⁉」
しかし、残党の拳がリズベットに届くことはなかった。残党の体にはリズベットが戦いながら仕込んでいたワイヤーが何重にも絡んでいたからだ。
「……ぐおお」
「これで終わりです!」
残党はワイヤーから抜け出そうと力を振り絞ったがピクリとも動かなかった。そしてそんな残党の頭上へとワイヤーによって巻き上げられた薪の束が落とされた。
「……思ったより散らかしてしまいましたね」
衝撃で何十本もの薪の束がバラバラになり、辺りに散らばった。そして気を失った残党の体はゆっくりと元の大きさへと縮んでいった。
「これが片付いたらお話を伺うので少々お待ちくださいね?」
ワイヤーで縛られた残党たちに対して、リズベットは凍えるような視線を向けた。その少し後、盗賊団の残党たちは五体は満足の状態で近隣の衛兵隊へ引き渡された。
「……いやー、従者まで面白いんスね。あのお嬢様は」
屋敷から遠く離れた場所から一連の騒動を眺めていた一人の男はその結果に不敵な笑みを浮かべた。