「静かだ……」
幻想の大地を照らした太陽が地平線の彼方へ沈み、夜の帳が降りると、普段そこに息づく人々の声が絶えない人里は嘘のように静まり返る。夜は妖怪の闊歩する時間帯であり、人間は日没と同時に自宅に戻る者が大半だ。
カンザトは借家の八畳ある一室で一人、何をするでもなく、宙を見つめ物思いに耽っていた。
日常で孤独を感じているわけではないが、どことなく侘しさを覚えるのは、意外にも自分が寂しがりであることの証左か。昼間は常にそこにある、道行く人々が生む喧騒が少々恋しくなる。今耳に入ってくるのは、秋虫達の大合唱のみだ。
記憶を失う前の自分は、こんな夜を誰と過ごしたのだろう。親愛なる両親か、兄弟か、はたまた恋人か。もし、記憶喪失以前の自分もひとりぼっちだったら悲しいな、とカンザトはぼんやり思った。
それにしても、夜の間は家事が終わってしまえばやることもなく暇である。里に住み始めた頃は生活に慣れるのに手一杯で時間が余ることはなかったが、1ヶ月以上経った今、夜は暇を持て余し、特に趣味もないカンザトは、早々に床に就くのみであった。
筋力トレーニングなどで体を鍛えて、地底への遠征に備えるのも手かと考えながら、カンザトは時間があるうちに、一度現在の状況を整理することにした。
まず、当初の目的であった、「記憶を取り戻す手段を持つ人妖を訪ねる」について。
霊夢があげた候補の一人、聖徳太子……「豊聡耳神子」とはコンタクトを取れた。結果として記憶は戻らなかったが、彼女の協力により自分が外の人間であることと、兄弟の存在が明確になった。
それにより、この地にいるであろう、血を分けた兄弟の捜索が目的に追加された。
自分と同じように人里に住んでいて、いつの間にかすれ違っている可能性を考えたが、赤蛮奇が言うには、ここ1ヶ月カンザト以外の外から来た移住者はいないらしい。
では人里の外にいるのか?
この世界にはどれほどの広さがあり、里以外に人が住める環境があるのかは不明だが、もし里の外にいるのなら、あちこちに妖怪が跋扈しているため、かなり安否が心配である。すぐにでも捜索に向かいたいところだが、今の実力では誰かを助けるどころでは無く、己の身さえ守れない。ゾンビ少女「宮古芳香」との戦闘でそれを実感した。とても歯がゆいが、自分が死んでしまっては元も子もないので、引き続き人里周辺から徐々に探索範囲を広げつつ、地底に行けるほどの力をつけるしかないだろう。
幸いにも、段々動けるようになっている実感はある。
つい最近気づいたことだが、ペルソナも己の実力と比例して、数が増え、強くなっているようだ。己の体を鍛えれば鍛えるほど、ペルソナも強力になる。なんとも分かりやすいことだ。指標があるわけではないので、どれほど鍛えればいいのか見通しは立たないが、せめて1人で地上を歩き回れるぐらいにはなった方がいいだろう。
もしくは、実力のある同行者がいればいいのだが……
(赤蛮奇さんとか全力でお願いしたらついてきてくれないかな)
先日茶屋で会った時の反応を見る限り、ほぼ間違いなく断られる。説得の成功率は10%といったところか。口元を歪ませ、心底迷惑そうな表情をする赤蛮奇の姿が目に浮かぶようだった。
残念ながら、今の自分の「説得力」では、上手く頼めなさそうだ……
正体を暴露するぞと脅せば、成功率は60%ほどに跳ね上がるかもしれないが、(実際あるのかはさておき)信頼関係にヒビが入ることは確実だろうし、流石に人道に反するので、理性が勝ったカンザトは頭に浮かんだ邪な考えを振り払った。
あとは、数多の妖怪を相手取り、奇々怪々な異変を解決に導いてきた、疑いようもなくかなりの実力者であろう博麗霊夢に同行願うか。彼女は日々多忙だろうが、ダメ元で頼んでみてもいいかもしれない。
次は「記憶を失った原因」について。
欲望を読み取ることが出来る豊聡耳神子は、この地に訪れた直後、目的意識が突然途切れていると言った。
おそらく、カンザトはこの地に訪れたその時までは記憶を維持していた。しかし、何かしらの外的要因により記憶は欠落し、明確だった自己は元の姿を忘却した。その「外的要因」が何かは不明だが、もしそれが何者かの
やはり犯人は妖怪か。それとも人間では遠く及ばない上位の存在か。だが、どちらにしろ幻想郷に来たばかりのカンザトが狙われる理由が分からない。外の世界で誰かから恨みでも買ったのだろうか。その線で考えると、犯人は外の世界の人間か。元いた世界で誰かに追われ幻想郷に逃げ込んだが、途中で襲われてしまい、結果記憶を奪われた。神子が外でもペルソナ能力を使えたのではないか、と予想した点からも、ありえない話ではない。だがそうなると、犯人もカンザトと同様に幻想入りしているかもしれない。状況としてはかなり危険だ。そもそも犯人の目的は「記憶の奪取」なのか、よもや命を奪うことが目的なのか……
そこまで考えて、カンザトは自分が出口のない思考の迷宮に迷い込んでいることに気づいた。不明点が多い現状で、ことの真相を推理するのは困難だ。全てが憶測の域を出ない。そも、神々が住む幻想郷という環境は、言ってしまえば「なんでもアリ」なのだ。何が起きてもおかしくないこの世界は、推理の論理性を乱す。
また、あまり考えたくないことだが、自分が悪事を働き、罰として記憶を奪われた可能性も消えたわけではない。
しかし、神子は「己を信じなさい」と教示した。
散々考察したが、結局のところこの推論は「分からない」に帰結する。未来は未確定なのだから、まずは自分を信じようとカンザトは気を引き締めた。
まとめると、現状の目的としては、
「同行者を募りつつ、着実に力をつけて地底を目指す。それと同時に、兄弟の行方を追う」となる。
その過程で、記憶を奪った「何か」と相対することになるかもしれない。そういう意味でも、実力をつけることは無駄にならないだろう。
まずは目的達成の一歩として、明日は博麗神社を訪ねることに決めた。
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目的も定まったところで明日に備えて休もうとしたが、何故かカンザトは寝付けずにいた。
直前に頭を使ったせいか、考え事が泡のように浮かんでは消え、また浮かんでは消えていく。
月明かりに照らされた部屋で、何か気のまぎれる物はないかと部屋の中を見回すと、視線がある1点に注がれた。
そこには、無縁塚で拾った紺色のボストンバッグがあった。記憶を失う前の自分が持っていたと思われる物だ。中身は衣服と財布、その他もろもろ。日用品が大半を占めるが、その中に1つ気になる物があった。
それは、『くじらのはね』というタイトルの本。
全てのページに大きな挿絵があり、小さく文章が書かれているため、おそらく種類は絵本に該当する。
そういえばしっかり中を見ていなかったと、カンザトは部屋に明かりを灯し、バックからその本を取り出した。
夜空のような紺色の背景に、クジラの尾びれと光る羽根が描かれた表紙を眺めて、著者を確認する。
そこには、『
「神郷……」
意外にも、それほど驚きはなかった。
記憶喪失前の所持品であるバッグ。その中に収められている絵本は自分に由来するものだと予想していたからだ。単純に好きな本だから入れていた、という可能性もあるが、旅行カバンにかさばる絵本が入っているのは少し違和感がある。
この本の著者は誰なのだろう。連名で書かれていることから、両親か兄弟か。それとも……片方は自分自身か。
答えは出ないが、何はともかく、絵本の内容を確認してみることにした。
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何度か繰り返し読んだが……カンザトの率直な感想としては、「よく分からない」であった。特別難解なストーリーというわけではないが、読者によって解釈が分かれそうな内容だ。
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遥か昔の事かもしれないし、遠い明日の出来事かもしれない。
見知らぬ土地かもしれないし、住み慣れた場所かもしれない。
そんなあるところのお話です。
争いの絶えない村から、一人の少年が村人達や家族の荒んだ心を救うため、旅に出ました。
旅先にて海の底から歌声を聞いた少年は、導かれるように光る羽根を身にまとった少女と出会います。
少年が「どうしてあなたはそんなにやさしく、おだやかなのですか」と尋ねると、少女は「わたしにはうたがきこえるからです」と答えました。
続けて、少年が「どうすればそのうたがきこえるのですか」と聞くと、少女は「みみをすますことです」と言いました。
少年が耳を澄ますと、海の底から声が聞こえてくることに気づきます。
少年は全身に羽根をまとい、故郷の村へと戻りました。
まばゆい羽根を与えられた村人達はとめどなく涙を流し、自分たちが幸せであったことを思い出しました。
やがて、村のみんなは一人、また一人とどこかへ行ってしまいました。
少年が大好きだった人達は誰もいなくなってしまいましたが、少年は幸せな気持ちで満たされていました。
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なんというか、これで終わりかと聞きたくなる内容だ。
少年が幸せなのでハッピーエンド、という意見もあれば、孤独になってしまったのだからバッドエンド、もしくはビターエンドという意見もありそうだ。実に考察が捗りそうな内容で、とても児童向け書籍とは思えなかった。
カンザトはというと、一人になった少年と今の自分を重ねてしまい、わずかに気が沈んでしまっていた。神子からアドバイスを受けて奮起したわりに、こういった些細な事で落ち込むあたり、カンザトの心は未だ脆弱だ。
救われた村人達はどこへ行ったのか。どうして少年は一人になってしまったにも関わらず幸せを感じているのか。答えなどなく、人によって違う見方を楽しむ作品なのかもしれない。だが、カンザトは多くの人達を救った末に孤独になった少年を、哀れに思ってしまった。高潔な自己犠牲の精神による行動なのかもしれないが、その結果当人が救われなければ悲劇ではないか。
この作品は読者に何を伝えたいのか。それは著者に尋ねるしか知るすべは無い。
(……明日ついでに聞いてみようかな)
絵本の中の不思議な世界と、そこに生きる少年に思いを馳せていると、じわじわと眠気が増してきた。
「くじらのはね」は、理解し難い内容ではあったが、どうしてか心に残った。孤独感がまぎれることはなかったが、なぜだろう、先ほどよりも幾らか心中は穏やかであった。
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朝目覚めたカンザトは、支度をすると早々に家を出た。鍛錬のおかげか、初めて訪れた時より時間がかからず博麗神社に到着した。
境内をぐるりと見回すと、眠そうに欠伸をしながら、竹箒を片手に落ち葉をはく霊夢を見つけた。
「霊夢、おはよう。今大丈夫?」
「ふわ〜ぁ……あら、カンザトじゃない。どうかした?」
「ちょっと聞きたいことがあって……里で外の世界の本を扱ってる店ってない?」
「外の本?」
「無縁塚で拾ったバックの中に本が入ってたんだ。もしかしたら外の本かもしれないから、詳しい人に聞きたくて」
問われた霊夢は少しの間考えていたが、返答はすぐに返ってきた。
「それなら……品揃えがいいのは『鈴奈庵』かな」
「鈴奈庵?」
「外来本をメインに取り扱ってる貸本屋。そこの店番の娘に聞けば、何か分かるかも」
「そんな店があるのか……ありがとう。行ってみる」
「……変な本には触らないようにね」
「え?」
「あーいや、なんでもないわ」
霊夢は何か都合の悪いことを誤魔化すかのように視線を逸らした。カンザトはその振る舞いが少し気になったが、深くは追求しなかった。
「あ、そうだ。針妙丸いる?」
「針妙丸? 中にいるけど……」
「しばらく会ってないから顔見せておこうかなって。迷惑かな」
「あーいいわ、あがって」
霊夢はスタスタと住居スペースに向けて歩き出した。カンザトも後を追う。
「……そういえばこの前、針妙丸から里に行ったって聞いたわよ。外に出るのは構わないけど、針妙丸から目を離さないようにね」
「ん? あぁ、分かった」
たしかに針妙丸の小さな体では、目を離した隙にいなくなりでもしたら見つけるのが大変そうだ、とカンザトは思った。
霊夢の後をついて行くと、カンザトは霊夢が普段生活している住居部分の一室に招かれた。煌びやかな装飾や神的な設備を期待していたわけではないが、内装は思っていたよりも普通だった。四畳半の中心にちゃぶ台があり、その上には針妙丸との初対面時にも見かけた、籠のような物が置いてあった。
「起きなさい針妙丸。あんたにお客さんよ」
霊夢が声をかけると籠は小刻みにカタカタと震動し、やがて側面の扉になっている部分が開いた。中から顔を出したのは寝ぼけ顔の針妙丸。寝起きのようで、寝巻きを着たままだった。
「何よーまだ眠いんだけどぉ……んぇ? カンザト?」
「寝てるとこごめん。ちょっと用があったから来たんだけど、針妙丸にも一声かけておこうかと思って」
「ありゃ、これは失敬。すぐ着替えるわ」
「いや、長居しないしそのままでいいよ」
「いやいやすぐ終わるから! このまま話すのは誇り高き小人族の姫として、矜恃が許さないわ」
それだけ言うと、針妙丸はまた籠の中に引っ込んでしまった。姫と自称しているが、もしや彼女は一国のお姫様なのだろうかと驚愕混じりに疑問が湧いた。
5分ほど霊夢と雑談しながら待っていると、再び扉が開いて、中から朱色の着物を着こなした針妙丸が姿を現した。
「ごめんごめん、お待たせー」
「いや、突然おしかけてごめん。特に用はないんだけど……里で買い物した時から会ってなかったから」
「たしかに久しぶりかもね。会いに来てくれて嬉しいわ!」
そう言って朗らかに笑う針妙丸。社交辞令かもしれないが、自分との交流を嬉しいとまで言ってくれる彼女の来る者拒まずな姿勢に、カンザトは心が洗われるようだった。
「じゃあ、会ってなかった間の話を聞かせて!」
「私もご一緒させてもらっていいかしら」
「あぁ、いいよ。えっと、1週間ぐらい前なんだけど、命蓮寺の裏にある墓地で──」
カンザトは、神子と会い相談に乗ってもらうまでの一連の出来事を針妙丸と霊夢に話した。
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「──というわけで、今は兄弟を探しながら地底を目指してる」
「はぁ、なかなか苦労してるねぇ……」
「アンタ、あの厄介極まりない邪仙のキョンシーと戦ってよく生きてたわね。ペルソナ能力、侮れないわ」
「自業自得だけど、正直死ぬかと思った……」
「もっと自分を大切にしなさい。死にかけるぐらいなら、私でもいいけど誰かを頼って」
「返す言葉もない……」
針妙丸と霊夢は、記憶を取り戻すためとはいえ、進んで茨の道を歩むカンザトに同情した。ちなみに、針妙丸にはペルソナ能力について既に明かしている。
「それで、2人は俺以外に外から人が来たって話は聞いてないか?」
「……残念ながら、ここ最近はカンザト以外誰も来てないわね」
「右に同じく。まぁ、私は外に出られないから、そもそも知りようがないけど」
「だよなぁ。やっぱり地道に聞いて回るしかないか」
「……でも、その地底への旅、私がついて行ってあげてもいいわよ! どこも行けなくて退屈してたところだし!」
「え、ホント!?」
地底への同行を申し出るということは、それなりに実力があるということだ。その体躯で戦えるのかと気がかりはあったが、思いがけない協力者の登場に、カンザトは喜色を帯びた声をあげた。
「いや、何言ってんのよ。アンタは無理でしょ。逆にカンザトに守られることになるでしょうが」
が、霊夢がそれを制するように不可能だと言い放った。
「えーいいじゃないのよー! 霊夢もくれば大丈夫でしょ!」
「いや、私は……」
霊夢は、痛いところをつかれた、と言わんばかりに顔を歪ませた。カンザトも霊夢には後で頼もうと思っていたが、この反応を見る限りあまり感触は良くなさそうだ。
「そう簡単に承諾出来ないわ。アンタは気楽に言うけどねぇ、人一人を守りながら動くって結構大変なのよ。しかもアンタも一緒にいちゃ守る対象増えてんじゃないのよ!」
霊夢は針妙丸を指さしながら、早口にまくし立てる。
「えぇ〜……あの最強無敵、完全無欠の博麗の巫女様が無理なんて言っちゃうの〜?」
「うるっさいわねぇ……煽ってるつもりなら出直してきなさい。あと、そうじゃなくても私は日々忙しいのよ。カンザトには悪いけど、地底まで行ってる暇は無いわ」
「いや、俺も自分の身は自分で守れるぐらいにはならなきゃと思ってたからいいんだ。芳香ってキョンシーと戦って、なおさらそう思った」
「うぅ、カンザトがそう言うなら仕方ないけど〜……」
まだ微妙に納得いかないのか、針妙丸は口を尖らせながら言った。小さい見た目に反して芯の通った自我を持つ彼女だが、こういった仕草は見た目相応である。一応、自分のために同行を提案してくれた彼女に思うのも失礼かもしれないが、カンザトは子供のように頬を膨らませて不満を露わにする針妙丸を、微笑ましく思ってしまった。
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霊夢が境内の掃除に戻ったため、現在はカンザトと針妙丸の2人で話している。手伝おうかと声をかけたが、今回は簡単な掃除で終わらせるようで、手を借りるほどではないとのことだった。
「そういえば、針妙丸以外に小人って見ないけど、他にいないのか?」
「いるわよ。でも、こっちの世界にはいないの」
「こっちの世界って、幻想郷のこと?」
「うん。だから幻想郷にいる小人は多分、私だけかな」
それを聞いてカンザトは、身につまされる思いだった。別の世界から幻想郷にやってきて、同族の仲間はいない。境遇としてはカンザトと似ているのかもしれない。本人がどう思っているか分からないが、幼く見える針妙丸には酷な環境である気がした。
「……針妙丸は、一人だと寂しいか?」
不躾な質問かと思ったが、カンザトは聞かずにはいられなかった。自分と同じような境遇にも関わらず、針妙丸は微塵も寂しそうな素振りを見せない。表に出していないだけかもしれないが、家族や親しい人達の記憶がある分、彼女はむしろ自分よりも辛い身の上である気がした。
「う──ん…………」
問われた針妙丸は、両腕を胸の前で組み目をつむり、頭をフラフラと左右に揺らしながら長考している。なんとも分かりやすい、返答に頭を悩ませている仕草だ。
「小人のみんなに会えないのは寂しいかもしれないけど……」
やがてパッと顔を上げ、陰りのない強い意志を感じさせる面持ちでカンザトを見つめた。
「今は霊夢たちがいるから、そんなにひとりぼっちって感じじゃないわ。誰かが自分を想ってくれてる。それだけで、私は案外大丈夫!」
一つ思い違いをしていた。針妙丸の境遇は辛いものではなかった。それは他人が勝手に推し量ったものであり、彼女自身は辛いと思っていない。彼女には今大切に想う人達がいて、その存在が心を強くしているのだろう。
「……そっか」
それを聞いたカンザトは神子に告げられたことを思い出していた。
「兄弟の魂が貴方を守り、常に傍にいる。貴方は孤独ではない」
事実としてカンザトは一人でいることが多い。だが、常に兄弟の想いがカンザトを守り、そばにいる。己が孤独だと思うのは、ある意味カンザトの心の弱さだ。
カンザトは思った。やはり自分は、針妙丸と同じだと。
小人の少女は言う。大切な人の想いが自分自身を強くさせると。
孤独な夜も、そのことを思えば乗り越えられるかもしれない。
「もしかして、能天気だって思った?」
手応えのない反応を悪くとらえたのか、針妙丸は先ほどと同じ、ムッとした不満そうな表情を浮かべた。
「あ、いやごめん。違うんだ」
「ならどうしたってのよ」
「…………ちょっと、最近一人だと心細くて。だから、針妙丸に共感したというか……」
自分は知り合って日の浅い少女に、何を言っているのだろう。心の内を吐露していると、カンザトは徐々に自分の顔が熱くなっていくのを感じた。
「なるほど、そういうことね。それじゃあ、寂しい時は私のことを思い出すといいわ!」
それを聞いた針妙丸は、ドンと胸に握りこぶしを当てて、快活な笑顔で自信たっぷりに答えた。
「ど、どういうこと?」
「さっき言ったじゃない。誰かが自分を想ってくれるだけでいいって。だからカンザトも寂しい時は、小人の友人、少名針妙丸が自分のことを想ってるって考えればいいの! そうしたら、自分は一人じゃないんだーって、思えるでしょ!」
針妙丸は迷いのない顔で一切のよどみなく言い切った。ついこの間出会ったカンザトのことを、友人とまで言って。
彼女の小さな体に宿る高潔な精神は、弱った心を照らす、魂の輝きのように思えた。
「友人……友だちか……」
「も、もしかして嫌だった? 友達だと思ってたの私だけ?」
「いや、嬉しい。ありがとう、針妙丸。なんか……救われた気がする」
「いやぁ、そんな大それたことしてないわよ」
ふにゃりと頬を緩ませ、照れくさそうに頭をかく針妙丸。彼女は裏表のない性格で、思ったことがそのまま仕草に出る。そんな彼女に救われる人は多いのだろう。カンザトも、そのうちの一人だった。
針妙丸の自分に似た境遇と、それに負けない気概を感じた……
「まさか友達ができるなんて……ハハ、なんか凄い嬉しいや」
「そんなに? 霊夢もいるじゃない」
「霊夢は……友達? 友達なのか?」
「違うの? まぁ、霊夢って気難しいとこあるからねぇ」
「ただの知り合い程度じゃないかな」
「いやでもたしかに、霊夢って知り合いは多いけど、友達いるのかしら。私は友達だと思ってるけど……なんか不安になってきた」
2人で霊夢の交友関係について話していると、襖を開けて、話題の人物、博麗霊夢がお盆を持って部屋に入ってきた。
「アンタらいつまで話してんのよ。もう昼よ。お昼ご飯食べるから、よければカンザトも食べてったら?」
「いいの? じゃあお言葉に甘えて……」
思っていたよりも話し込んでいたようで、時刻は既に正午を過ぎていた。昼時だと告げられて空腹を覚えたカンザトは、昼食のお誘いに乗ることにした。
「れっ、霊夢! 同居してるぐらいだし、私たちって友達よね!」
さきの話題がよほど気がかりだったのか、針妙丸は必死の形相で尋ねる。
「どうしたのいきなり……友達? 何言ってんのよ」
霊夢は優しい笑みを浮かべ、慈愛に満ちた表情を針妙丸に向けた。
「霊夢……!」
その顔を見た針妙丸は安心したのか、ホッとしたような表情で霊夢を見つめる。
「アンタはペットよ」
「ガ──ン!」
だが、針妙丸の望んだ答えは得られなかった。
どうやら孤高の紅白巫女にとって、同居人の小人はペットと同じ扱いらしい。
そのやり取りを見ていたカンザトは、針妙丸の言う「想い想われ」の関係は針妙丸からの一方通行かもしれないと思い、苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
今回、霊夢が地底に行かない理由に一番悩みました。
人守りながらは大変と言ってますが、なんだかんだ霊夢さんならなんとかしそうだし…そもそも博麗の巫女と一緒にいる人間に手出しする妖怪がいるのか、とか…
色々考えましたが、結局「忙しいから」という無難な理由になりましたとさ。
次回は小鈴ちゃん登場です。
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