また、作者は東方初心者ですので、設定おかしいよ!という点があるかもしれません。コイツの中の幻想郷はこうなってるんだな、ということで大目に見ていただけると助かります。
Loss oneself
夢を見る。
己が異形と戦う夢。
内なる人格の鎧を纏い、悲しみを斬り裂く剣となる。
そこにはいつも、守りたい人達がいて……
同時に自分もまた、守られていた。
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目が覚める。
長い間昏睡していたかのような、ぼんやりとした意識のまま視線を周りにやると、何処か家屋の一室にいるのだと分かった。畳や襖があるので和室だろう。物が雑多に置かれていてあまり整理整頓された部屋とは言えないが、その部屋の中心で自分は布団に寝ている。窓からは暖かな光が差し込んでおり、正確な時間は不明だが今が昼時なのだと分かった。
起き上がり自分の体を見ると、服を着たままだった。寝巻きではなく普段着にするような黒いハイネックを着ている。
はて、なぜ自分は普段着のまま布団で寝ているのだろう。というかここはどこだ。
とりあえず動こうと思い立ち上がると、急に立ったせいかふらついた。慌てて壁に手をつき、ひとつ深呼吸をして意識をハッキリさせた後、おそるおそる襖を開けた。
襖を開けた先には横幅の狭い廊下があり、今自分が開けたものと同じデザインの襖がいくつか見えた。すん、と息を吸うと古臭い匂いがして、今いるのは築年数の長い建物なのだと分かった。
やはりこの場所には見覚えがない。自分は拉致でもされたのかと不安になりながら木造の廊下を進むと、居間と思われる場所に出た。これまた雑多に、所狭しと床や棚に物が置かれている。大きな壺、古時計、蓄音機、古臭いランプ、液体の入った小瓶……置かれている物には統一性がなく、人の居住スペースにはあまり似つかわしくない空間だと感じる。
もしや雑貨屋かと思い、店主がいないかと辺りを見渡すと、カウンターと思われる場所に一人の男性がいることに気づいた。
「おや、お目覚めか。体の調子はどうだい?」
自分の存在に気がついた白髪の男性は読んでいた本を閉じ、こちらに顔を向けた。男性の容姿を見ると、楕円形の眼鏡をかけた顔立ちのいい偉丈夫であることが分かった。瞳は黄金色で、鋭い目つきをしている。服装は黒と藍色を基調とした和装。初対面で思うのは失礼なことかもしれないが、奇抜な格好をしているな、と思った。
現代日本ではまず見ることの無い格好に、自分は少し驚く。
「あ、はい大丈夫です……あの、ここどこですか?」
「ここは僕の店だよ。見ての通り古道具屋だ」
古道具屋……あまり耳慣れない言葉だ。つまりリサイクルショップか。
「あぁ、申し遅れたね……僕は
「俺の名前は……」
名乗ろうとしたが、意識せずとも直ぐに頭に浮かんでくるはずの名前が出てこない。それだけでなく、自身の存在や目的、目覚める前の記憶……全てが分からない。
俺は……誰なんだ?
「わ……分からない。分からない、です」
発した声が震えているのが自分で分かった。心が空っぽになったかのような、存在が無になったかのような、言葉では言い表せられない気持ち悪さが胸の内を支配する。
「分からない? それはつまり……記憶喪失というやつかい?」
霖之助と名乗った男性は驚きの表情を浮かべたのち、顎に手を当て、何かを思案し始める。
「君は無縁塚で倒れていたんだが、それについては何か覚えているか?」
「無縁塚……? いえ、何も」
「無縁塚は共同墓地なんだが、外の世界の物が落ちてくる場所だ。境界が曖昧で危険な場所だから、まず普通の人間は近寄らない。君を見つけた時は死体か、貴重な道具につられた無謀な人間かと思ったんだが……まだ息があると分かった時は驚いたよ」
「外の世界? ちょっと言ってる意味がよく……というか、森近さんも人間じゃあ……」
「僕は半妖だからね。普通の人間より少しばかり体が丈夫なのさ」
「…………?」
ハンヨウ? 何言ってんだこの人? なにかのジョークか。
「本当に何も覚えていないようだね。その様子だと、この世界がどういう場所なのかすら分かっていないだろう」
「ええ、まぁ」
「そうだな……流石にその状態で放り出すのは忍びないから、イチから説明するよ。そこに座るといい」
脳に入ってくる情報を処理できず混乱していると、森近さんはふぅ、と息を吐き、自分に近くの椅子に座るよう促してから説明を開始した。
森近さんが語ったのは正に奇想天外、意味不明というべき内容だった。ここは『幻想郷』という名の世界であり、人と妖怪、そして神々が共存する、外の世界で忘れられた者達の楽園だという。共存と言っても、普通の人間は妖怪を恐れ、対峙すれば取って喰われてしまう存在であるため、幻想郷での立場は弱いようだ。つまり、自分も不用意に外に出ると襲われかねない。幻想郷と外の世界は『博麗神社』の大結界で隔てられており、たまに外から迷い込む者もいるそうだが、通常、人間が外の世界から入り込むことはない。
ちなみに、森近さんは人間と妖怪のハーフらしい。
情報の濁流に呑まれつつ必死に聞いていると、ふと思った。自分は幻想郷の人間なんじゃないか、と。
人里に住んでいたが、妖怪に襲われて何かの拍子に記憶を失くし、無縁塚で倒れていた、という可能性はないか。その考えを森近さんに話すと……
「その可能性は低いと思う。その格好、人里ではあまり見ない服装だ。君は外の世界から幻想入りした外来人ではないかと僕は思う」
「幻想入りした、外来人……」
なんだかあまりピンと来ない。何となく自分が日本人だとか、歳は若いなど実感はあるのだが、それ以外のことはてんで分からない。
自分はこれからどうすればいいんだろう。外に帰るべきなのか。
だが、帰ってどうする。外で自分を待っている人がいるのかもしれないが、会ったところで、その人は自分からすれば初めて会った赤の他人だ。
「外来人なら大抵は霊夢に言って外に帰させるんだが……記憶を失ってるんじゃ仕方ないか?」
森近さんも困惑しているようだった。それもそうだ。幻想郷は規模の大きい天変地異のような事象がいとも容易く起きるそうだが、自分は唐突に目の前に湧いて出た小さな異変のようなものだ。つまり、対処に困る。口には出さないが、得体の知れない存在だと思っていることだろう。
そこでふと思う。そんな怪しさ満載の自分をこの人は何故助けてくれたのだろうと。無縁塚は縁者のいない者達の共同墓地らしいので、放置しておいてもそのまま無縁仏の仲間入りするだけだし、そんな死はこの世界においてありふれたことだろう。
「あの、森近さんはなんで俺を助けてくれたんですか? 放っておくことも出来たはずですよね」
「ん? まぁ……僕は自分のことを善人だなんて言うつもりはないがね。目の前に生きている命があって、僕が助けないといずれ息絶えるなら手を差し伸べるさ。見て見ぬ振りをしたら寝覚めが悪くなりそうだし」
森近さんは自身の手を見つめながら淡々と語った。
「それに……」
そこで一度言葉を切ったかと思うと、森近さんはこちらをジッと見つめてきた。鋭い双眸でまっすぐ見つめられて、少したじろぐ。
「何故か君のことが気になった。外来人だからだろうか……」
「別に面白い格好はしてないと思いますけど……」
「いやそういう意味ではないんだが……うーん」
また森近さんは考え込み始めた。本人も明確な理由は分からないようだが、善意で助けてくれたのは確かだった。
「……ありがとう、ございます」
また声が震えてしまった。自身の存在意義や、名前すら分からないというのに、誰かが自分を助けてくれたという事実が嬉しかった。
「いやなに、気にしないでくれ。もしかすると外来人だから貴重な外の道具を持っているかも、あわよくば譲ってくれないだろうか……と無意識に考えただけかもしれない」
「えぇ……なんか打算的ですね……」
古道具屋『香霖堂』の店主である森近霖之助に助けられ、興味を持たれたようだ……
パリン
「!?」
何かが弾けるような音が頭に響いた。
我は汝…汝は我…
汝、新たなる絆を見出したり…
絆は即ち、まことを知る一歩なり。
汝、『隠者』のペルソナを生み出せし時、
我ら、更なる力の祝福を与えん…
…………
なんだ、今の声は……?
声は頭の中に直接響いてくるようだった。
『ペルソナ』ってなんだ? 生み出すって?
訳が分からない……
「おいキミ、大丈夫か? 呆けているようだが」
呆然としていると、森近さんに声をかけられ我に返った。
「だ、大丈夫です。でもなんか、知らない誰かの声が聞こえて……」
「声が? 空耳……じゃないよな。うーん、ますます不思議だな君は」
もっと困惑させてしまったようだ。自分でもこんな事を言う奴がいたら、まずソイツの正気を疑う。
「まぁ、まずは外の空気でも吸ってきたらどうだい? 今日は天気がいいから、目覚めたばかりの脳を覚醒させるには丁度いい」
「そう、ですね……ちょっと出てきます」
モヤモヤとした気持ちが晴れず不安な面持ちのまま、香霖堂の出入口の扉を開けた。
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かくして、記憶を失った青年は、全てを受け入れる楽園『幻想郷』の大地に一歩踏み出した。
1話を読んでいただきありがとうございました。
今回霖之助さんのコミュが解放されたように、主人公は原作ペルソナと同じく幻想郷各地で住人とコミュニティを結んで成長していきます。
↓原作ペルソナのコミュニティシステムと同じく、進行度を数値化して後書きで明記していきます
●解放されたコミュ
『隠者』森近 霖之助:ランク1
ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は
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全話視聴済
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途中まで視聴
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未視聴
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存在を知らない